霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
ユーシスの勝負がついたことを横目に、カリーナはまだ勝負を粘っていた。ビッグマム海賊団の称号ビショップを与えられた始末屋ボビン。タマゴ男爵やペコムズには実力は届かないものの、その懸賞金は1億550万ベリー。並前後の敵の相手しかしてこなかったカリーナには荷が重かった。
「ハァ、ハァ。終わったらこっちを助けて欲しいもんですけどね」
戦い疲れて動くことが出来ないユーシスを見るカリーナ。しかし、その目は本気で助けて欲しいと思っている訳では無く、遊び疲れた弟を見ている姉のようなそんな目だった。
「あたし……海賊を始めてから、そこそこ経ってるんですよね」
「あん? だから、何だ?」
「絶対に勝つってことですよ!」
仲間たちが勝っていく気配がし、自身も勝たなければならないというプレッシャーにかられる中でもカリーナは笑顔を崩すようなことはしなかった。そこには笑顔を絶やしてしまえば、本当にダメになってしまうかもという恐怖が根本的にあったからに他ならない。
「よえーよな、お前。おれがしっかり始末してやんよ」
薙刀を何度も振るっていくも、その軌道はほぼ全て相手のサーベルによって受け止められており、ボビンの残虐的な性格もあって、少しずつ少しずつ確実に反撃を受けていた。
「あきらめた方がいいぜ」
「あたしは第二席ですよ? ここで降伏したら、顔が立たないですよ」
「なら、死ぬか」
ボビンが殺す気で放ったその攻撃の振りをカリーナはボロボロながらも薙刀で受け止める。しかし、その薙刀は折れ、致命傷では無いまでも大きな切り傷を身体につけた。
「乙女の体に傷をつけるんですね。これだから、品ない海賊は」
全身が血だらけになり、その可憐で妖美な身体とは似つかわしくない外見へと今のカリーナはなっていた。しかし、それでも、勝ちは諦めることはしないカリーナは足に仕込んだナイフを蹴り上げる。しかし、それすらも分かっていたようにボビンにその蹴りは擦りしかしなかった。
「仕掛けはそれで終わりか?」
「万事休すですね」
締めの言葉と共に首を刎ねるような軌道でボビンはサーベルを振るう。カリーナはもう無抵抗のまま死ぬかとボビンが確信したその時、薙刀の折れて短くなった先端でそのサーベルを弾く。そのままカリーナはズボンの後ろポケットにしまっていたと思われる一発限りのピストルをボビンの胸目掛けて打つ。その弾はしっかりと狙った場所へと当たる。当たった場所が良かったのだろう。ボビンは息をしながらも動けないようで倒れ込んでいった。
「あたしも伊達にあの人たちと一緒にいるわけじゃないんですよ。ここまで追い詰められるとは思ってませんでしたけど」
やっと勝利の笑みを浮かべることが出来たカリーナはその足の向かう方向を自身の船の方へと向ける。それは船が残っている面々が心配になったからに他ならない。どちらかと言えば、非戦闘船員しか残っていないのだから。
★ ★ ★
「おい! お前らの指揮官は捕えた! 大人しく降伏した方がいいぞ!?」
ヴィレムを本によって捕えたモンドールからの降伏勧告がオエステアルマダ号に向かって放たれる。そのモンドールの声には焦りが含まれており、それはあんなにもあっさりと自分の姉たちを仕留めたヴィレムの恐怖が残っており、早めに勝負を終わらせたいと思ってしまっていたことが大きい。
「そんなものに乗るわけないじゃないですかー」
降伏勧告を遮るように響く大きな声。その声の持ち主は甲板へと堂々と立ち、自信満々にモンドールの方を見ていた。
「てめぇも海賊団の一員だな!?」
「私、ミスト海賊団第一席アデル・バスクードですよ? 情報持ってるですよね、どうせ」
「ああ、確かにそんな小娘の情報があったぜ。非常に希少な悪魔の実の能力者だってな。お前も本に閉じ込めてやるよ」
やる気を出してきたモンドールに対して、ニヤニヤした笑みをし、それを隠そうともしないアデル。アデル自身として元からモンドールを倒す覚悟があったからに他ならない。
「知ってます? 本って割と壊れやすいんですよ? 水か火か切るか。どれですかね?」
少しずつうろうろと動きながら、アデルはモンドールの能力を分析する。その分析や見解に合っているものがあったのか、モンドールは顔色を少し変えてしまった。
「何をやろうが、小娘にはやられることなどありえねぇな!!」
またヴィレムを捕えた時のように宙に多くの本が舞う。それら全てはモンドールの意思のままにアデルを捕えようとする。しかし、いくつもの本をアデルはスイスイっと避けていく。時には捕まりそうになるも、それらを増やしたナイフなどで裂くことで難を逃れる。そして、また捕まりそうになると、懐にあったライターを増やして、本を燃やしていく。
「壊れやすさ的に燃やすのが正解かなー。だったら、全部燃やせば、おっちゃんも出てくるでしょ」
「本の多さに勝てるものか!! 燃やせるものなら、燃やしてみろ!」
さっきの10倍。一個の学校の図書館レベルの本が船の上を舞う。その光景は圧巻とも言えるもので、敵味方ともにその量に目を取られていた。
「さぁ、挟まれろ小娘!!」
そのモンドールの号令によって、また本たちがアデルに襲いかかる。全てがアデルの逃げ道を塞ぐように円形にアデルに迫って来ており、一つの本にでも触れればアウトなアデルにとっては絶対絶命だった。
「私は死ねない。みんなの夢を見届けられるまでは!!」
ライターをまた手に掴むアデルはそのライターを上に投げる。その自分が触れる絶妙な高さに上げられたライターにアデルは触る。そして、増えたライターにまた触れて、もう一つのライターを増やす。その要領で幾多ものライターを増やすアデル。その量は本の数に劣らないほどだった。
「アデルさん! 船が燃えかけてますよ!!」
「大丈夫、大丈夫! すぐに終わるからさー」
多く増えていったライターによって、本も船の甲板もどんどんと燃えていく。その中央にいるアデルも周りが燃えていることもあって、汗が絶えず絶えずに流れ続けていたが、平気そうな顔を崩すようなことはしなかった。
「馬鹿かお前! お前も死ぬぞ!!」
「みんなの役に立てる形で死ねるなら、死んでも良いって思ってるからね。それに、ルー兄もマグー姐も死ぬ気でやるだろうし」
本に燃え移っていき、あっという間に空中に浮いていた本は全て燃え尽きた。そのことに呆気に取られていたモンドールは近づいて来ていたアデルの存在に気づくのが少し遅れた。
「ヴィレムが居るのはここだよね? 燃やしちゃっても良いよね?」
その言葉を言い切る前にアデルは火を移したナイフをその本へ刺す。アデルが離れた後もその本は変わる事無く燃え続け、遂には本が燃え尽き、そこからヴィレムが落ちてきた。
「本の中っていうのも悪く無いが、いかんせん酔うもんだな」
「その前に言うことないんですかー?」
「助かったぜ。ご苦労だったな」
素直な感謝を20歳も年下のアデルに出来ないのか、ヴィレムは回りくどい感謝しかしなかった。しかし、それでも満足だったのか、アデルはニコッと笑うことで返事とした。
「代わりにこいつはやっといてやるよ」
「あ、じゃあお願いしますー。私、ただでさえ、体力無いので」
能力の使い過ぎによって、既に疲れが溜まっていたアデルは進んでヴィレムに選手交代する。その様を見ていたモンドールは先ほどのヴィレムとの強者ぶりにまたもビビりながらも、後ろで控えている兄弟姉妹の為、戦うことを決意する。
「本の中は自由自在だ! てめぇに見せてやるよ御伽話を!」
幾多の本の中から水や雷、突風が噴き出してくる。それら全てを擦りながらも避けると月歩で本で浮いているモンドールの背後に回り込み、サーベルを腕に刺す。
「今回は無事に帰らせてもらうぜ」
「嵐脚」
サーベルで身動きの取れないモンドールに零距離で放たれる嵐脚。それはモンドールの体を地面へと叩きつけ、戦闘不能へと追い込む。
「まだまだ来るんだろ? ほら、来いよ」
モンドールが戦闘不能になってもビッグマム海賊団の攻めの手は少ししか緩むことは無く、5男のシャーロット・オペラ、18女のシャーロット・ガレットを筆頭とする軍勢が攻めてきた。そんな中でもヴィレムは余裕を崩すこと無く、アデルも半分寝たままでも応戦する気満々だった。
★ ★ ★
場所は変わり、新世界にある海軍本部。その元帥部屋ではまたもサカズキが部下からの報告を受けていた。その内容や続け様に来る多くの報告からサカズキの堪忍袋は弾けるのも寸前だった。
「その報告本当なんじゃろな?」
「え、ええ! 現在七武海に討伐をかけているバーンディ・ワールドを七武海道化のバギーが発見したと連絡してきました!!」
「遠慮は無しじゃ。大艦隊を向かわせろ!!」
様々な問題が多く起こっていく中、収拾がつきやすい今回の報告に関してはサカズキは積極的に部隊を投入していく。自身の手腕を見せつけるように。
「ですが……四皇や新星のルーキーどもの警戒はどうしましょう?」
「ビッグマムは霧隠れと戦争中、黒ひげもハチノスで忙しい。他の四皇どもは動きが少ないやつらじゃ。最低限の警戒で構わん。他のルーキーどもも新世界の波で生きるので精一杯じゃ。これに事を注がな意味が無いじゃろ」
大将が未だに揃っていないのにも関わらず、元帥は強気な攻めを崩すようなことをしない。そこにはこれから来るであろう荒波のような、今以上に世界が荒れ狂う世界をサカズキ自身が予感しているからなのかもしれない。
こちらの戦闘力の指標です。相性などもあるので、一概には言えません。
ルーファス=マグメル〉エレカ〉ユーシス〉〉ルッカ=シオン〉〉アデル=カリーナ
ヴィレムはジョーカー的な立ち位置にしているので、実力は色々と変わります。