霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
いよいよルーファスとマグメルの成長を見せる時です。
いくつもの戦局が終わりを告げ、このカチコミも中盤に差し掛かりそうになっていた頃、スイート四将星のクラッカーとマグメルの戦闘は熾烈を極めていた。
「ふーん、ええ、そうですか。貴方のそれ、鎧なんですか」
「ああ。お前がやっとこさ壊したこの鎧もいくらでも作れる。お前に勝機はあるか?」
マグメルが魚人空手や竜爪拳などを使い、クラッカーを倒した思ったその時、中から倒したクラッカーとは全く別のクラッカーが出てきた。そして、マグメルは苦労して倒したと思ったクラッカーが鎧だったと知り、余裕を出すための笑みを浮かべる。
「私、火力にはこれでも自信があるので、そう簡単にはくたばりませんよ?」
「くたばるまでやるまでだ。幸い、兵はいくらでもいるからな」
クラッカーが手を叩くごとに何体も何体もマグメルが苦労して倒した同じ鎧が量産されていく。その鎧と同じビスケット兵はそれぞれが独立した攻撃を仕掛け、人獣型ではその全てを受け切るのにはクラッカーの攻撃は弱く無く、獣型では避けきることは出来ず、対策を色々しても、劣勢だった。その内に追い詰められたマグメルはおかしの家の壁まで追い込まれる。
「認めます。貴方が私の人生で一番の強敵だと」
「そうだ。それが成長だルーキー」
「……でも、勝てないと諦めるほどの相手ではありません」
ニヤッと笑ったマグメルは近づいてきていたクラッカーの懐へと入り込み、その拳を構える。人型でのその拳の握り方はいつもとは違っていた。
「八衝拳
十年近くの前に見ただけの技をマグメルは放つ。その拳によってクラッカーは吹っ飛ばされ、その隙にマグメルは周りにいたビスケット兵も同じ技を使って内部から壊していく。
「ふぅー。昔見た時は理論がよく分かりませんでしたが、今ならよく分かります。こんなところで役に立つと思ってませんでしたが」
とりあえず、ビスケット兵を全滅させたマグメルは改めてクラッカーが吹っ飛んでいった方角を見る。そちらからはもう復活してきたクラッカーが迫ってきていた。
「まさか、ここまで使いこなせるとはな。末恐ろしいぜ全くよ」
その吹っ飛んだ距離とは違い、クラッカー本人にはあまりダメージが入っていないようで、ケロッとした様子でまたもビスケット兵を量産していた。何のデメリットもなく、ビスケット兵が同じように復活する様子にマグメルは冷や汗をかく。
「さぁ、その力でいつまで耐えられるか?」
同時に迫ってきたビスケット兵を避けながら、八衝拳を叩き込む。しかし、その叩き終わった隙を狙うようにクラッカーの名刀がマグメルの体に刺さる。
「はぁーこのままだと持久戦負けですかね。まさか、私が持久戦で負けるとは思いませんでしたけど」
自身の能力が動物系だということもあり、持久戦も視野に入れていたマグメルだったが、こうなってはジリ貧。自分の方向性を変え、勝ちをとりに行くことを決意する。
「何だその構えは」
「私の決意の証みたいなものです。これをすることで自分を保つんですよ」
「
マグメルの身体そのものが変化していく。全体的に虎のビジュアルを残しつつ、足の形は四つ足へと成り、背中には羽根が生えていく。その姿はまるでケンタロスのようなもので黒い羽衣のようなものも身体に纏われていた。
「お前、その姿はまさか……」
「ええ、覚醒ですよ。何処までも強さを求めた姿です。自分の意識を保つのも精一杯ですが、これなら貴方にも勝てます」
マグメルが動き出したとクラッカーが認識した時には、既にマグメルはクラッカーの直ぐ側に迫ってきており、そのいつも以上に研ぎ澄まされた目は辺りのビスケット兵に狙いをすまして、その爪と拳で一気に殲滅する。
「ここまでか!?」
「ハァ、ハァ、ほんと疲れますよ」
ビスケット兵を破壊したのはマグメルが密かにヴィレムに習っていた指銃であり、普通ならばビスケット兵を壊すことは出来ないものだったが、その強力となった腕周りと核を上手く見抜いたことでいとも簡単にビスケット兵を壊してしまう。しかし、そのエネルギー消費量はマグメルの予想以上だった。
「あともって20分ってところですかね」
早めに決着をつけようとしているマグメルに飛び込んできたクラッカーがその名刀を突き刺す。その突き刺す深さは相当のものだったが、マグメルの表情は苦悶なものでは無かった。
「絶対に離しませんよ」
その痛みに耐えながら、マグメルはその刀を抜かさないようにする。それにクラッカーが気づいた時にはもう遅く、マグメルはこれまでと違う構えを取っていた。
「
これまでの覇気や武術、それら全てを統合したかのような拳。それはマグメルがこれまで出してきた技のどれよりも強力な技であり、その技は離れようとしたクラッカーのお腹に寸分違わずに放たれた。その威力は前述した通りの威力であり、クラッカーの意識を刈り取るには充分なものだった。
「まぁ……こんなものですかね。他のみんなもやってくれてると良いんですけど」
自身の戦いが終わり、人型へとまた変身し直したマグメルはその消耗の激しさから一度寝転び、体力を回復する為に身体を少し休めるのだった。
★ ★ ★
マグメルの戦場から少し離れた場所。その場所には霧が広く、濃くなっており、湿気は他の場所よりも何倍も高くなっていた。そんな場所でルーファスはいくつもの切り傷を負いながらもスムージーと鍔迫り合いを繰り広げていた。
「お前の能力は私の能力と相性が悪いことは分かっているだろ」
「ええ。そんなことは分かっています。でも、やらなきゃいけないんです。本気で」
ここまでの戦いの中で相性の悪さを痛感したルーファスは気合いと覚悟を決めるように上半身の服を脱ぎ捨てる。その胸に刻まれた剣豪ミホークによる傷跡とミスト海賊団の証である入れ墨はスムージー相手ではより輝いていた。
「僕は僕なりの本気の出し方ってものがあるんです」
「霧細工
前よりも何倍にもなった大きな槍がスムージーに向かって放たれる。それを防ぐようにスムージーは自身の能力で剣と体を巨大化させ、その全てを微少なダメージに済ませる。それを分かっていたかのようにルーファスは既にスムージーの近くに寄っていた。
「霧細工 燕返し」
素早く放ったおかげでスムージーの防御は間に合わなく、しっかりとダメージが当たったが、その巨体のおかげでそこまで致命的なダメージにはならなかった。
「やるな。伊達にここまで来ていないということか」
「そうです。僕は負ける訳にはいきませんから」
ルーファスの覚悟を見たというようにスムージーは水分が纏われた飛ぶ斬撃を放つ。その飛ぶ斬撃はルーファスが出来る何倍もの大きさも質量があり、それを刀で受け止めたルーファスを防ぎ切ることが出来ずに押し出される。その痛みを受けながらもルーファスは立ち上がり、巨大化していて巨人族並みの身長になっているスムージーを見上げる。
「随分な傷を負ったな」
「でも、まだまだいけます。これまでの僕とは違いますから」
「霧隠れ 黄霧四塞
これまでルーファスの身体から常時放出していた霧の色が黄金色に変わる。それに伴って、霧から水分を搾り取っていたスムージーはその黄金色の霧から搾り取れなくなる。直にその霧は形を成すようにルーファスの周りに鎮座する。それはまるで意思を持っているかのようだった。
「なんだその霧は……普通の霧じゃないな」
「僕にとっての対抗策です。そして、最高の技です」
「驚異だな!! 早めに対処する!」
先ほどと同じように飛ぶ斬撃を繰り出してきたスムージーだったが、その斬撃は勝手に動き出した霧によってガードされる。その事実にスムージーは戦いに身を投じてから久方ぶりに動揺してしまう。
「
爪のように尖った霧がスムージーの身体に刺さる。その痛みに苦悶の表情を浮かべるスムージーだったが、それを振り切るように巨大になった剣でルーファスを押しつぶす。しかし、その攻撃からルーファスを守るように黄金の霧が自動で受け止める。
「僕の腕は二つじゃありませんよ」
「こちらとてそれは変わらん!!」
巨大な水の泡のようなものがルーファス目掛け落ちて来る。それはその脅威を見せないような外見に比べて、大きな力を包んでいた。近くで見ていたルーファスももちろんその事は理解していた。
「この霧は絶対的な守りです。攻めの霧とは違う」
霧がルーファスを守るように包み込む。それは限りなく固体に近いものであったが、まだまだ気体の範囲内であった。その繊細な守りによって水の泡がルーファス本人に当たることは無かった。
「これ以上、好きにやらせるか!!」
「ここで決めます!」
これ以上の霧の放出は危ないというようにルーファスは勝負を決めにかかる。それをお互いに分かっているからこそ、二人とも最後の技にかかる。その気迫はこれまでの比にならないものだった。
「
スムージーの水分が大きく纏われて、何層になっている剣とルーファスのクチバシのように変形した霧がぶつかり合う。それは拮抗しており、下にいるルーファスの方が不利かに思われたが、ルーファスの技はこれで終わらなかった。
「僕の刀はもう一本あります!!」
「
ルーファスから真っ直ぐな斬撃がスムージーに目掛けて放たれる。拮抗しており、手が空いていなかったスムージーはその飛ぶ斬撃に直撃する。それによって、スムージーは膝を着く。しかし、それでもまだ立ちあがろうとしたスムージーに追い打ちをかけるようにルーファスは飛び、近づく。
「鷺落とし
スムージーの巨体に縦一線の大きな傷をつけ、この勝負に決着が付く。そして、スムージーの体は水分を出していくように元の大きさへと戻っていった。
「僕の強さが確かめられました。ありがとうございます」
ルーファスは行く。その道はシオンとルッカの再会に邪魔が入らないようにする為の道だった。
★ ★ ★
「ママ」
「分かってるよ! まさか、四将星の内、3人がやられるなんてな」
ルーファスとマグメルがスムージーとクラッカーを撃破したのと同時刻頃、海の上ではウルージが残りの四将星のスナックを撃破しており、いよいよ後が無くなったというようにビッグマムが立ち上がり、カタクリが歩き出す。
「カタクリ! あいつにも連絡したんだろうね」
「もちろんだママ。ここでしっかりと役に立ってもらわないとな」
いよいよビッグマム海賊団の最高戦力の二人がその強大な覇気を撒き散らしながら城から出撃しようとしているところ、連絡を受け、海から義理を通すようにあの海峡のジンベエも上陸してきた。ここからよりこの島での戦闘は激しさを増していくことになる。
この章の残り話数も数えるほどとなってきましたが、まだまだ戦います。