霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
ルッカとシオンの距離、約100m地点。ルッカはオーブンと戦い、シオンはダイフクと戦っていた。二人とも格上の相手であったが、ルッカもシオンも善戦をし、必死さが滲み出るような表情を出していた。
「どいてください。私はここを通らなければならないのです」
「大人しくしておけ! お前らの種族は大人しくしとくべきだ」
その三つ目族を軽んじるようなダイフクの言葉に滅多に自分のことでは怒ることなく、流すシオンでさえ、冷たく軽蔑を含んだ目をダイフクに向ける。
「私はあなたには負けません。あなたような人に」
「鳶掛り!」
シオンが姿が獣型へと変わっていく。巨大で漆黒の身体を持ち、三つ目の鳥へ。その姿は到底普通の生物とは思えず、数多の海賊を相手にしてきたダイフクでさえ、呼吸が荒くなる。その隙をついたかのようなシオンの攻撃を何とかダイフクの魔人がガードしたものの、ダイフクごと後へと押される。
「化け物だな。だが、貴様なんぞに負けることは無い!」
覇気を大きく上げ、魔人ともども体が黒く染まったダイフクは積極的にシオンに切って掛かる。しかし、空を飛び、そのスピードを活かした戦い方をするシオンにはほとんど当たることは無かった。
「私はみんなに恥じる戦いはしたくない」
シオンのような機動力を持ってすればこの場から離脱することも容易いだろう。しかし、自分を助ける為に仲間たちが多くの力を注いでいる。そんな中で自分だけで全力を出さない。そんなことをシオンは出来なかった。いや、出来るはずが無かった。
「あんまりちょこちょこすんじゃねぇ!」
図らずもダイフクもシオンに対する殺意を増す。それに応えるようにダイフクの魔人も空を翔けるスピードが増し、シオンを追いかける。それにより、攻撃同士が撃ち合う回数が増えていき、シオンは人型へと変身し、地上に降りる。
「埒があきませんね。空中の私では決め手に欠けます」
「俺のフィールドで勝てると思わないことだな」
ダイフクが勝ちへの導線を想像している中、シオンは髪を避けて、三つ目を露出させる。そのままシオンは走り出す。自らダイフクの攻撃範囲の中へと。
「今更お前などに!!」
巨大化する魔人に断ち切られそうになるも見聞色と三つ目を活かし、ダイフクと魔人の攻撃を避けていく。そうしてる内にダイフクの懐近くへと迫る。
「兄さんは私の心の在りどころです」
「兄様はいつまでも私の目標です」
「そして、あの船は私の居場所です」
自分の人生を思い返すように言葉を紡ぎながら、ダイフク本人へと二刀流の乱撃を放っていく。その効率的に動いている様は非常に美しく、そして、強かった。
「
二刀流を使ったシオンの大技。それはルーファスから直々に奥義として譲り受けた思い出も強い技だった。そんな技をダイフクが防げるはずも無く、ダイフクは破れ去る。
★ ★ ★
灼熱のような暑さに包まれ、汗が滝のように出るルッカとオーブンの戦闘の場。ルッカは上半身の服を脱ぎ捨て、その全ての力をオーブンを倒すことに捧げていた。
「お前らには分からない! 俺が、俺が、シオンのことをどれだけ大切に思ってるか」
「ッ! そんなことは今どうでも良い!」
がむしゃらに自身の縄を回しながら、オーブンにダメージを与えていく。その攻撃をものともせずにオーブンは縄を通じ、睨みつけルッカの体を段々と発火させていく。
「熱い。熱い。でも、そんなのこれまでの人生に比べたら大したことは無い!」
段々と体中に火傷を負っていきながらもルッカは攻撃の手を緩めることはしない。その燃えるような体でありながらも必死で喰らいついてくるルッカにいくら大海賊の幹部とも言えるオーブンと言えども引いてしまう。
「悪惡縄
それまでのどんな技よりも最上級のスピードと重さのある縄がオーブンの体に刺さる。ここまでの威力のものが来ると思っていなかったオーブンの体は吹き飛ばされる。
「お前を生かす必要は無い。覚悟するんだな!」
まだまだ生命力のあるオーブンの燃え上がるようなパンチが反撃としてルッカを襲うが、ルッカの体は動じなかった。そして、ルッカの頭にはこれまでのシオンとの思い出、自分の人生が駆け巡る。
「何も信じれなくなった俺を救ってくれたのはシオンだ。こんな誰も信じられなくなったこんなクソみたいな世界にも純情で守り抜きたいシオンがいる。俺はそれだけの為に生きている。あの船に導いてくれたのもシオンだ」
「だから、お前みたいな自らの海賊団を最優先に考える奴とは違う。俺はシオンの為だけにここにいる!」
ルッカの縄が伸び、伸び続ける。その縄はいつもの縄と違い、黒く染まっていく。オーブンもその縄を危険性をいち早く察知し、構えを取る。ここで負けてはルッカの信念に負けたような気がするようで。
「
引き戻された縄は一直線にオーブンの体に刺さろうとする。それを防ごうとしたオーブンのパンチすらもその縄は押しのけ、オーブンの体に突き刺さる。その力によってオーブンの意識は失われ、ルッカの体の熱は治っていく。
「シオン。今……行くからな」
シオンの元に一歩一歩近づいていく。決してその歩みを止めるような素振りはルッカにはなかった。いや、あるはずなかった。
★ ★ ★
ルッカとシオンの距離20m。お互いにお互いの姿を確認し、歩みが早くなっていく。そして、もう触れられるという距離。強大な覇気が二人を襲う。
「ハ~ハハママママ。まさか、お前一人を連れて来ただけでこんなことになるなんてな。驚きだよ」
ホールケーキアイランドの支配者シャーロット・リンリン。ビッグマムが二人の再会を邪魔するように降り立つ。その凶悪な笑みを携え、剣をルッカに向かって振るう。しかし、その攻撃は一本の刀によって防がれた。
「無粋だと思いませんか? 人の出会いを邪魔するなんて」
「スムージーに勝ったぐらいでおれに勝てると思ってるのか、おい。あんまり四皇をなめるんじゃないよ?」
余裕を崩さずにその手を緩めないビッグマム。その重い重い剣を受けきるにはルーファスの体はあまりにも小さすぎた。
「ルッカ、シオンを連れて船へ。シオンさえ逃げ切ればこの戦は勝ったも同然です」
「兄様! 兄様はどうなさるんですか」
「僕はこの怪物を倒してから行くよ。いつもいつも逃げるのは得意だから」
名残惜しそうにルーファスの方を見るシオンだったが、手を引っ張るルッカに連れられて行く。そして、その場に残されたのは四皇シャーロット・リンリンと王下七武海エルドリッチ・ルーファスだけだった。
「僕は本気で貴方に勝てると思ってはいません。キャリアが圧倒的に違いますから」
「分かってるじゃないか。なら、大人しく死んでくれるよな?」
既に二人の間には話し合いで解決するものなどなく、お互いに殺す気で目の前の人を見ていた。そこにある違いは相手を侮っているか、いないか、ただその違いだけだった。
「いいえ、死にません。僕たちは絶対に生き残る。その為にここに来たんですから」
「なら、死ぬと言わせるまで叩き潰すだけだよ!!」
「雷霆!!」
ビッグマムの自身の魂から生み出されたホーミーズを使い、雷がルーファスの元に降ってくる。しかし、その攻撃を受けるのは並大抵の海賊のみ。幾多の修羅場を乗り越え、白ひげという四皇を間近に見たルーファスにはその初見殺しは当たらない。
「霧細工 長篠大嵐」
何千もの銃弾のような霧がビッグマムに命中するが、当のビッグマムはニコニコ笑うばかりで、効いている素振りなど全く無かった。
「あんまりガッカリさせるんじゃないぞ!」
「皇帝剣 破々刃!!」
大きな剣に炎を纏わせ振り下ろす。その簡単な動作のみにも関わらず、覇気が凄まじく、直撃すれば生き残れないとルーファスに本能で察せさせるようなものだった。
「啄木鳥溜め 重解放 極」
しかし、避けることをルーファスはしなかった。そのビッグマムの攻撃を受け止めるように刀を突き出す。二つの攻撃がぶつかり合い、周囲に大きな突風と衝撃波を巻き起こす。
「おれの攻撃を受け止めるなんてやるじゃないか。どうだ、おれの部下になるか?」
「遠慮させてもらいますよ。死にそうになったら考えますけど」
「おれの怖さを教えなきゃいけないみたいだね!」
決して楽では無い戦い。残り少なく、勝てる見込みが無いままにルーファスは刀をしっかりと構える。その目は簡単に負けるとは思わせるものは無かった。
★ ★ ★
マグメルも自分が居た地点をシオンとルッカが超えたと察すると、その護衛に行ける距離で、ルーファスの助けにも行ける場所で待機する。しかし、そこに目新しい影が見える。
「お前さんか。ビッグマムに喧嘩を売った大馬鹿もんは」
「ええ、私たちです。そういう貴方は元王下七武海のジンベエですね? 今はビッグマムの傘下ですか……喧嘩を売られても仕方ないですよね」
あまり好戦的では無いジンベエに向かっていき、人型でその拳を力いっぱい振るう。しかし、体力を使っていたこともあり、人型なこともあってジンベエには軽く掴まれてしまう。
「わしはお前さんらに恨みは無い。じゃが、ビッグマムへの義理は通さなならん」
本気でくる様子はジンベエには無い。しかし、それでも構わないというようにマグメルは応戦を続ける。ビッグマムと戦っているルーファスのような成長をしたいというように。
「「魚人空手」」
「「五千枚瓦正拳!!」」
同じ技がぶつかり合う。その威力にそこまでの違いは無かったものの、ジンベエそのものの体格、その本家本元と言えるジンベエと独学で使ってきたマグメル。吹き飛ばされるのはマグメルだった。しかし、直ぐに体勢を立て直すとまた蹴りをお見舞いする。
「やりおる。独学とは思えん」
「いやー一度見た技は絶対に忘れないんで。真似するのは容易いですよ。でも、やっぱり練度は敵いませんか」
自分が素の格闘能力で劣る。そんな真新しい体験にマグメルが笑顔を隠すことなど出来るはずが無かった。その喜びを体現するかのように幾多の自身の技をジンベエにぶつけるが、そのほとんどはジンベエにダメージが通らなかった。
「人型でやってるのありますけど、まさかここまで通じませんとは。でも、まだまだ手はありますから、安心して下さい」
マグメルが人獣型へと変身し、ジンベエとの本気の戦闘へと移行しようとしている中、こちらへと段々と近づいてくる影があった。その影は歩幅が小さく、あまり万全では無いようだった。
「ユーシスじゃないですか? 何してるんですか?」
「お前らの誰かは助けがいるかもしれないと思って来たんだ。あんたは大丈夫だろ?」
その影はタマゴ男爵とペコムズを倒し、休むことで体力を回復していたユーシスで、無茶をするだろう人たちの救援にわざわざ駆けつけていた。
「ええ。私は問題ありません。ルーも死ぬことは無いので、エレカの方に行って下さいよ。あの人は限界が分かっていませんから」
「了解だ。あんたもほどほどにしておけよ。ジンベエは強敵なんだから」
ユーシスの心配も適当に相槌することで返したマグメルはそのままジンベエへとまたその動物系のパワーをふんだんに使った攻撃を仕掛けに行った。
あと1話か2話でこの章は終わります。どういう結末になるかはもう決めています。