霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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 後日談です。異名とか懸賞金を考えるのが時間がかかりました。

 多分、大体懸賞金は妥当なはず。

 戦人さん誤字報告ありがとうございます。


嵐が去った後の凪は少し冷たい

 

『報告だ。聞こえてんだろ?』

 

『そう何度も言わんでも聞こえちょるわ。やってくれのぉヴィレム』

 

 ホールケーキアイランド襲撃事件から一週間が経ち、ルーファスを除くミスト海賊団の面々の怪我も大体治ってきた頃、世間の情勢をやっと知ることが出来たヴィレムは戦艦の地下で元帥サカズキに連絡をしていた。

 

『俺たちだけのせいじゃないだろ? 黒ひげや死の外科医、世界の破壊者のせいだ。まぁ、ここまで世界が荒れるなんて思っても見なかったがな』

 

『その事件に関わった奴らは軒並み懸賞金を上げちゃるわ。ヴィレム。お前も覚悟しちょれよ』

 

『おお、怖い怖い。だが、新世界は海賊の格ってもんが大事になる。良い機会さ』

 

 自身も怪我を負い、仲間のほとんども重傷なのにも関わらず、ヴィレムは嬉しさを隠し切れないというようにテンションの高い声を出す。それは前回と同じように全滅してしまうかもしれないという不安が完全に無くなったことに対する裏返しだった。

 

『それで、報告はどうなっちょるんじゃ』

 

『世間に公表されていることの詳細の話だ。あんまり新情報は無いけどな』

 

 ヴィレムは今回に関することを詳細にサカズキに報告する。サカズキは黙って聞いていたが、ヴィレムは内容を嬉々として語っており、その空気感は電々虫越しとは言え全く違っていた。

 

『結局、そこまでの情報は無かったちゅうことか。……ヴィレム、あの娘が三つ目族と何故報告せんかったんじゃ』

 

『何でって、あんたに報告しようがしまいが、シオンは海賊だ。結局は殺すだろ? 意味が無いことは報告しない主義なんだ』

 

 ヴィレムの飄々として掴ませない会話を昔から分かっているのか、サカズキはヴィレムが報告しなかったことに対するある程度の意図は読んだものの、それを指摘するようなことはしなかった。

 

『それにだ。俺が戦前に報告した時点で、あんたはこっちの痛み分けを狙っていただろ? こっちが壊滅して、ビッグマムが大ダメージ受けたら充分って感じでな。あんたはそういう人間だ。海賊は絶対に生かさない』

 

『分かってるなら一々言わんでもええじゃろうが。お前と会話するのは疲れるんじゃ』

 

『それは長い付き合いだからだろ? まぁ良い。ビッグマムの傘下になったから、これからは報告少なくなるからな。あいつらは容赦が無い』

 

『じゃあ、はよぅ切らんかい。懸賞金覚悟しちょれよ』

 

 一方的に切られながらもヴィレムは嬉しそうな顔を隠せては居なかった。ヴィレムにとって海賊でいる時の自分も自分であり、海軍でいる時の自分も紛れもなく自分であった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 身体が引きちぎられる感覚。その感覚を延々と味わっていく。僕は一体何処にいるのか、何をしているのか、それすらも分からない。いや、この意識は何なんだろう。僕であって僕じゃ無い何かが耳元にずっといるこの感覚。そんな気持ち悪いまま僕の景色は明るい物になった。

 

「……ここは何処」

 

「やっと起きやがったか。何か違和感とかあるか?」

 

 その光を遮るように現れたのはヴィレムさんだった。ヴィレムさんが現れたおかけで段々と思い出してきた。僕は確かビッグマムさんに負けたんだってことが。でも、それ以上先の記憶はいくら探しても出てこない。あれから、何日経ったんだろう。

 

「……特にありません。何があったんですか?」

 

「お前の目論見通り、うちには犠牲も無く傘下に入れたぜ。あれから一週間ほど経ったが何の問題も起きてないからな」

 

「それは……良かったです」

 

 本当は勝ちたかった。こんなことを艦長が思ってちゃいけないとは思うけど、本当は勝ちたかったんだ。でも、そんなことをしたら、僕たちの海賊団は崩壊寸前までいく。これで良かったんだ。これが最善。僕の無いにも等しいプライドよりもみんなの方が大事だ。それに……戦ってみて分かったけれど、ビッグマムさんには今の僕は勝てない。それだけは何にも変えれない事実だった。

 

「そういや、お前に会いたいって奴が来てんだ。会うだろ?」

 

「ええ、会わせて下さい。僕は知らなきゃいけないことが多い」

 

 ヴィレムさんが船室の扉を開けると同時に、堂々とした態度と服装を崩さなずに一年と少しぶりに会うベッジさんがそこには居た。ベッジさんが新世界に入っていることも意外だけど、ビッグマムさんの縄張りであるここにいるのはもっとびっくりする。

 

「久しぶりだなルーファス。随分とボロボロだな」

 

 ベッジさんが入ってきて、ヴィレムさんに目を合わせると、ヴィレムさんはやれやれって感じを出しながら、この部屋から出て行ってしまった。これでこの部屋には僕とベッジさんの二人。もちろん、ベッジさんが僕を殺すなんて思ってないけれど、人払いをするほどのことはあるんだろうな。

 

「ちょっと無理をしました。ベッジさんは何でここにいるんですか? まさか……」

 

「お前の思っている通りだ。オレもビッグマムの傘下に入った。だが、お前はオレの性格は分かっているだろう?」

 

 ベッジさんは西の海に居た頃から人の下に着く時はその人の首を取る時と決まっていた。それをやろうとしているとベッジさんは僕に暗に示してるんだ。ビッグマムさん相手にそんなことをやろうなんて凄いな。

 

「やっぱり、ベッジさんは凄いですね。僕はそんなスマートには行けませんでした。おかげでこんな風になっちゃいましたよ」

 

「仲間のためにそこまで命張れるお前は立派だけどな。オレにはそう出来ない」

 

 僕を褒めるように笑ったベッジさんはそのままベッド横の椅子に座ると、懐から新聞と何枚かの手配書を取り出す。ここに来てからのベッジさんはずっと笑顔だから、自分の計画が成功してるってことなんだろうな。

 

「お前らみたいな同期が暴れるとオレまで警戒されたって仕方ない。ほら、お前らの活躍と手配書だ」

 

 ベッジさんが見せてくれた手配書にはロッキーポート事件と呼ばれる事件のこととか、キッドさんやドレークさんのこと、僕たちの事件のことまで書いてあった。そして、僕の手配書を見せてくる。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ビッグマムに警戒され、現在では肩身が狭く、雑用を与えられることの多いミスト海賊団の面々。その中でもマグメルとアデルの2人は他のサボっている人と違い、修復作業に従事していた。

 

「えー何で私がこんなに上がって無いんですか!? あんなに頑張って船を守ったのに」

 

 ミスト海賊団第一席操舵手

 複製者 アデル 

 懸賞金1億8000万ベリー

 

「アデルも頑張ってましたよ。私が保証します」

 

 ミスト海賊団副艦長兼艦長代理

 悪運を招く者 マグメル 

 懸賞金9億7000万ベリー

 

「私はこんな長い異名の方が嫌ですけどね」

 

 二人が居るのはホールケーキアイランドの広い広い森の近くの草原。そこはつい先日、ビッグマムとルーファスが最後に戦った場所であり、損傷がこの島で一番大きかった場所だった。

 

「これ、いつまでやらされるですかー」

 

「いつまでかは分かりませんけど、情報が手に入るだけマシですね。ルーも目が覚めたようですし」

 

 

★ ★ ★

 

 

「お前じゃ俺には勝てないと言っただろう」

 

 歯を剥き出しにし、カタクリに特攻していくエレカ。その姿は島の端っこにあり、ひどくボロボロな姿だった。その周りには民間人やビッグマム海賊団の関係者達がゆったりした態度で見学しており、空気感はまさにエレカだけが違っていた。

 

「おいおい、もっとかかってこいよ!!」

 

 ミスト海賊団第六席突撃隊長

 獅子帝 エレカ

 懸賞金7億9900万ベリー

 

 カタクリは疲労を隠すのもやっとな態度でエレカの相手をする。それはカリーナ含め見学しているしている全員が知っているだけで5回は挑んでいたからであった。

 

「ウシシ、その辺にしとけば良いのに」

 

 ミスト海賊団第二席参謀

 女狐 カリーナ

 懸賞金1億1500万ベリー

 

「勝てるまでやるんだよ! てめぇには赤髪ほど勝てねぇとは思わねぇからよ」

 

「……傘下には傘下の口の聞き方を教えてやる」

 

 傷がまだ完全には治りきっておらず、身体が充分では無いにも関わらずエレカは全力で笑いながら闘う。それに対して、カリーナは何処か上の空で天高くを見ていた。

 

「あたしもあそこまで馬鹿になれたら、強くなれるんでしょうか」

 

 

★ ★ ★

 

 

「あいつを一人にしていいのか?」

 

「いいさ。ベッジもこんな場所で何かをしようとするほど馬鹿じゃないしな」

 

 ベッジをルーファスが目覚めたばかりの部屋へと残してきたヴィレムは部屋を出たところに居たユーシスに睨みをきかされる。その何かを疑うようかユーシスの目を受け流し、ヴィレムは進む。

 

「俺はあんたの正体を大体分かってる。だから、変なことはするなよ」

 

 ミスト海賊団第七席遊撃隊長

 革命呼び フレデリック・ユーシス

 懸賞金7億3300万ベリー

 

「俺の正体? そんなもんは無いね。俺は俺という人間のまま道化でいるだけさ」

 

 ミスト海賊団第五席船医

 隠し手 ヴィレム

 懸賞金4億6200万ベリー

 

 何もせずならそれで良しとするように、ユーシスはヴィレムの元を離れていき、ルーファスの居る部屋の前で待機する。どんな時でも自分だけはあらゆる警戒をしておこうとするように。

 

 

★ ★ ★

 

 

「ねぇ、外のあいつは何とかならないの? 邪魔なんだけど」

 

 結局、連れ戻され、プリンの部屋にまた暮らしているシオン。二人のある意味穏やかな日々が繰り返しそうとしているところに窓の近くでずっと見張っているルッカが居た。

 

「聞こえてる。いつお前らがシオンに手を出すか分からないからな。いくら、三つ目族でも見張らせてもらう」

 

 ミスト海賊団第四席左大将

 黒縄 ルッカ

 懸賞金3億ベリー

 

「兄さん、ほどほどにして下さいね。プリンさんの生活もありますから」

 

 ミスト海賊団第三席右大将

 凶鳥 シオン

 懸賞金5億ベリー

 

「……ああ、分かってる」

 

 シオンの言葉にも空返事をするルッカは何処か怠惰な面持ちをしていた。それは自身のすべきことなのに、こんなことをしていていいのかという迷いが出ていたからだった。こんな心をルッカは生まれて初めて経験していた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「……これが僕の懸賞金。思ってた以上です」

 

「だろうな。お前は最悪の世代の中でも随一だ」

 

 寝転んだままのルーファスに対して手配書を見せに行くベッジ。しかし、ルーファスはそのベッジの最悪の世代という言葉に引っかかったのか、その言葉を投げかけながらベッジに意味を問う。

 

「今、世間を騒がしている海賊達につけられたのが最悪の世代。お前はその中では悪名高いな」

 

「ちょっとは嬉しいです。やっぱり注目されて嫌な人はいませんから」

 

 ミスト海賊団艦長

 霧の支配者 エルドリッチ・ルーファス

 懸賞金10億3000万ベリー




 次回から原作で言うところの二年後編まで飛びます。

 シオンが妙に懸賞金が高いのは三つ目族のせいです。
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