霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
新世界の強者共
新世界に浮かび、二年ほどの時を使い完成された海軍本部。その会議室では重々しい様子の中、ブランニュー准将を中心とし、元帥のサカズキや多くの海軍将校達が揃っていた。
「先日、一年半ほど消息が不明だった麦わらのルフィがシャボンディ諸島で確認され、この海軍本部が立つ新世界へと出航したことが分かりました」
「麦わらのルフィは二年前、旧海軍本部で行われた火拳のエースの戦争に救出に現れ、結果的に逃げ延びました。この先、嵐の目となることは確実です! 今回はそれに加え、新世界で警戒すべき海賊を改めて確認しておきます。最悪の世代と呼ばれる海賊達を」
麦わらのルフィ復活に息を呑む海兵達、いきなりこの場所に攻めてくるかもしれないそんな最悪の海賊たちに海兵達は緊張の面持ちのままブランニューの話に真剣に耳を傾ける。
「まずは、件の海賊。王下七武海サー・クロコダイルを倒し、エニエス・ロビーを崩壊に追いやり、インペルダウン、海軍本部へと乗り込んできた前代未聞のルーキー!!」
『麦わらの一味船長 麦わらのルフィ 懸賞金4億ベリー』
「そして、麦わらのルフィの右腕であり、海賊狩りの異名を持つ三刀流の剣士。その実力は侮れません!!」
『麦わらの一味戦闘員 海賊狩りのゾロ 懸賞金1億4000万ベリー』
ここ数年の話題の中心になっている海賊の紹介。紹介されたのは一番初めだが、その警戒度は天竜人を殴った件からも最悪の世代の中で一番で、順番なんて関係なく、これから紹介する全員に注目の目がいく。
「元ギャングの頭であり、その性格は残忍極まりなく、計算高く海を渡ってきた男。現在はビッグ・マム海賊団の傘下であり、称号城の持ち主。この男を警戒しない理由は無い!」
『ファイアタンク海賊団頭目 カポネ・ギャング・ベッジ 懸賞金3億ベリー』
「政府から逃亡した王下七武海バーソロミュー・くまの娘。その危険性は世界政府から伝達されている通り。捕えることは最優先事項のこの海賊!!」
『ボニー海賊団船長 大喰らいジュエリー・ボニー 懸賞金3億2000万ベリー』
ボニーの名前を聞いた時の反応はそれぞれだった。その中でも眉をピクりと動かし、何か思うような表情をとる元帥サカズキ。それに気づくような人間はこの場でも僅かだった。
「北の海から堅実な航海を続け、その占いが外れることは無い。能力も未知数なところが多く、まともに戦うことすら難しい!!」
『ホーキンス海賊団船長 魔術師バジル・ホーキンス 懸賞金3億2000万ベリー』
「南の海で大暴れをし、その気性は最悪の世代一番の危険性。新世界に入ってからも赤髪のシャンクスに喧嘩を売り、片腕を失いながらも生き残った男!」
『キッド海賊団船長 ユースタス・キャプテン・キッド 懸賞金4億7000万ベリー』
キッドの名前を聞いた途端、震え出す海兵。その海兵はキッドにより崩壊させられた船の生き残りであり、未だにキッドへの恐怖というものを克服出来ていなかった。
「海賊相手にビビっとるようじゃ、この先やっていけん。出て行かんかい」
静かに睨みつけるサカズキの恐怖の方が今、この瞬間は勝ったのか、その海兵は急ぎ退出していってしまった。その凍った空気感でもブランニューは先払いをし、続けていく。
「続けます。ユースタス・キッドの強さはこの男あってこそ。冷静で名実ともにキッドの片腕として戦ってきた船のNo.2」
『キッド海賊団戦闘員 殺戮武人キラー 懸賞金2億ベリー』
「その行動は読めないものの、その危機察知能力には目を見張るものがある動向不明のこの海賊!!」
『オンエア海賊団船長 海鳴りスクラッチメン・アプー 懸賞金3億5000万ベリー』
アプーが今は百獣海賊団の情報屋をやっているということを知っている人間は世界中を見てもその数は多くない。海軍もまだそのことを掴んでおらず、掴んでいれば防げた悲劇もこの先にはあった。
「元海兵という異例の経歴を持ちながら、その戦闘能力は折り紙付き。現在は百獣海賊団の飛び六砲となっている男」
『ドレーク海賊団船長 赤旗X・ドレーク 懸賞金2億2200万ベリー』
ドレークの話題に関して言えば、海軍内の空気は微妙なものとなっていた。大多数の海兵にとってみれば裏切りの対象のドレークだが、一部の海兵にとって見れば複雑な表情でその手配書を見つめていた。
「危険性は一番低いものの、その実力は最悪の世代の中でも上位にくる。現在は動向不明だが、油断は出来ないこの男」
『破壊僧海賊団 僧正ウルージ 懸賞金4億5000万ベリー』
「ロッキーポート事件の黒幕と目され、海軍本部へ心臓100個を届けたことで王下七武海へと加盟したこの男。その危険性は味方と言えども警戒せずにはいられない」
『ハートの海賊団船長 死の外科医トラファルガー・ロー 懸賞金元5億ベリー』
「数多の強敵たちと渡り合ったという話は聞くものの、その実態や勝敗は分からないことが多い。だが、確かな実力は備えており、未だにNo.2とは思えない!」
『ミスト海賊団副艦長兼艦長代理 悪運を招く者マグメル 懸賞金9億7000万ベリー』
「世渡り上手。いや、生き残ることに関してこの男の右に出る者は居ないでしょう。四皇への殴り込みも記憶に新しく、あの天夜叉との親交も確認されている元王下七武海であり、現ビッグ・マム海賊団傘下、称号象の持ち主」
『ミスト海賊団艦長 霧の支配者エルドリッチ・ルーファス 懸賞金10億3000万ベリー』
これまでの最悪の世代とは桁が違う懸賞金。その四皇幹部にも迫っている懸賞金にこの部屋の空気がさっきよりも重くなる。それに加え、サカズキも何かしらの警戒をルーファスに対して向けるように手配書を睨む。
「そして、最後にこの男も紹介しておきましょう。元王下七武海にして、この2年の間に一番名をあげたと言っても過言ではない男。あの王直をも下した、最悪の世代にして、四皇にも名を連ねている」
『黒ひげ海賊団提督 黒ひげマーシャル・D・ティーチ 懸賞金22億4760万ベリー』
全ての最悪の世代の名がこの場に呼ばれた。四皇ほどの実力を持つ者、七武海ほどの実力を持つ者。実力も様々なこのメンツだが、この先、嵐の目となることは明らかであり、海軍としても絶対的な正義の元に倒す必要があると改めて決意した。
★ ★ ★
二年。頂上戦争からのその期間はこれから起こる時代の唸りのほんの前座に過ぎなかった。麦わらのルフィが動き出したことを機に、新世界で息を潜めていた連中は少しずつ動き始めていた。
それはホールケーキアイランドでビッグマムの信用を一年かけて勝ち取り、安泰の地位を築いていたルーファスにも当てはまることだった。
「いよいよってことですね」
「うん。僕たちが学べることはもう学び切ったから」
自分たちの戦艦の上でルーファスはマグメルを側に置き、電伝虫を片手に持ちながらある種、決別とも言える決意の言葉を口にする。
「カリーナとユーシスには連絡します? あの任務はビッグマムからの指令でしたけど」
「もう連絡はしたよ。2人には引き続きそっちの仕事をしてもらう。ビッグマムの加護が無くなった僕たちにはあれが必要だ」
『フフフ、お前らは強かなだな。他のやつらとは違う』
電伝虫の相手は裏社会を牛耳る男ジョーカー。彼はビッグマム海賊団から離れたルーファス含めた全員を一時的に匿うことになっていた。しかし、彼も彼で不穏な足音が迫ってきていた。
「それで、先ほど言っていた条件は何ですか?」
『お前らの幹部を一人、パンクハザードに寄越してくれ。それが条件だ』
パンクハザード。その名にルーファスもマグメルも聞き覚えは無く、他の仲間たちもその名前に聞き覚えは無いようだったが、ヴィレムだけは覚えがあるようで嫌そうな顔をする。
「パンクハザードは危険な場所だろ? そんな場所に向かわせるのか? あんたは俺たちに死ねと言ってるのか?」
『そうは言ってない。だが、手が足りなさそうでな。なに、お前らに苦労はかけない。フフフフ』
「分かりました。その条件を呑みます。行くのは……マグーに行ってもらいます」
マグメルのすんなりとした了承とドフラミンゴの承諾の後、電伝虫は切れる。これによって、一つの課題が終わったが、まだやるべきことはあるというようにルーファスは甲板に中央に拘束された彼女を見る。
「僕たちは行きます。貴方はどうしますかシナモンさん」
シャーロット家16女のシナモン。彼女は弱った体調のまま、辺りの人間を力いっぱい睨んでいたが、ルーファスにだけは少しだけ泣きそうな顔のまま見つめる。
「どうして、どうして、ママを裏切るんだ!?」
「僕たちは元々生き残る為に傘下に降りました。だから、タイミングが来たら、抜けるつもりでした。シナモンさんには本当に申し訳ないと思っています」
「改めて聞きます。僕たちと一緒に来ませんか?」
ビッグマム海賊団の傘下はビッグマムの子どもと婚約することが義務づけられている。その例に漏れず、ルーファスもシナモンと婚約していた。初めはルーファスがスムージーに勝ったことから、険悪な関係だったが、徐々に徐々に仲良くなっていた。
「……無理だ。ママにも、兄さんにも姉さんにも顔向けが出来ない。私にはやっぱり無理だ」
その気高き性格を持つシナモンだったが、この場においては本当に迷いながらもビッグマム海賊団に残る決断をなくなくしていた。ルーファスも申し訳なさが上回っていたのか、頭を何度も下げていた。
「僕は短い付き合いですけど、シナモンさんに情はあります。これを受け取ってください。本当に申し訳ないです」
ルーファスはポケットの中から先日作ったばかりのビブルカードを取り出し、それを破りシナモンへと渡す。ビブルカードはルーファスの位置を示す危険なものではあったが、ルーファスはシナモンへ躊躇すること無く渡す。
「行こう。マグーはそっちも頼むよ」
「分かってますよ。心配しなくても大丈夫ですよ」
シナモンをホールケーキアイランドへと置いていき、オエステアルマダ号は出航する。その進み具合は迷いも後悔も何一つとして感じられなかった。
ビッグマム海賊団での日常はカットです。