霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
マグーがパンクハザードに向かって直ぐ、船の電伝虫が鳴る。いつもは電伝虫の近くにいるルッカもお風呂にいて、電伝虫の近くに居たのは僕とアデルの二人だけ。出るしかないか。海軍とかからの罠の通信じゃなければ良いんだけど。
『はい、どちら様ですか?』
『アッパッパ。オラッチのこと覚えているか? 同期の顔だぜ?』
聞き覚えのあるようで、無いような声。確か、偉大なる航路出身のスクラッチメン・アプーさんだった気がする。その程度の知り合いだし、顔も手配書でしか知らない。罠を疑わないのは無理があるかも。
『アプーさんですよね? 僕と貴方はこんな連絡をし合うような仲じゃないと思うんですが』
『そらそうだ。連絡したのも初めてだしな! お前に良い話があるんだ。同盟興味無いか?!』
アプーさんから予想外もしなかった言葉が飛び出す。同盟か。現実味が無くて考えてみなかったな。ビッグマムから抜けるとベッジさんに伝えた時にいつかしたいと言っていたような気がする。でも、良いチャンスかもしれない。
『今の僕の立場をよく分かってるみたいですね。確かに、新世界で生き残るにはそうした方が有利ですよね。考えさせてもらえますか』
『アッパッパ、それは難しいな。今すぐだ。そうじゃないとこの話は無しだ』
「ルー兄。信用出来るの?」
アデルの言うことももっともだ。アプーさんからはそんな信用出来ない感じが大いにする。でも、これから先、レベルアップしたとは言え、僕たちだけで四皇に勝てるとは思えない。ビッグマムさんからも追われるだろうし。
『……分かりました。その同盟了承します。で、僕はどうすれば良いんですか?』
『指定する島に来てくれ。そこに他の同盟組む予定のやつもいるからよ』
アプーさんは島の座標だけを言うと、電伝虫を切った。さて、ここからどうしよう。同盟を組むとは言え、アプーさんを完全に信用する訳にはいかない。何か対策しないとな。
「アデル。話は僕だけでつけてくるよ。マグーや他のみんなには後から伝えるから」
「それは無理ー! 最近はルー兄と一緒にいること少ないもん。これくらいダメ?」
アデルの甘えるような瞳に見つめられる。本当は最年少を危険な場所に連れて行くのは気が引ける。でも、アデルの言うことも分からないことはないし、あっちで何かありそうなことは間違いないし、経験の為に連れていこうかな。
「……分かった。二人だけで行こう。他のみんなには話がまとまってから話そう。みんなも何かしらの危機感も抱いていると思うから」
僕とアデルはそのまま甲板の後ろの方に行き、僕が抱えて飛んでいこうとしたら、そこに船首で眠っていたはずのエレカがいつの間にかすぐそこまで来ていた。
「どこ行くんだよ。俺に行き先ぐらい言っていけよ」
「同盟を組みに行くんです。罠の可能性もあるので僕とアデルだけで行きます」
その言葉を言い残すように僕とアデルは他のみんなにもバレないように空へと飛び立つ。後ろを振り向くと、エレカは少しだけ悔しそうな顔のまま飛ぶ斬撃を何度も放ってくる。
「チッ、俺も連れて行きやがれ!! こんなところに居てもつまんねぇんだよ!!」
「船のみんなは任せたから」
結局、エレカを怒らせただけになっちゃたな。話をして帰って来るだけだろうし、帰って来てから謝ろう。船はヴィレムさんがいるから大丈夫か。
★ ★ ★
指定された島に着くやいなや、僕とアデルは呼ばれたはずなのに、何故か敵意の視線を持って囲まれてしまった。どうして、こんなことになってるんだろう。やっぱり罠だったのかな。
「僕はアプーさんに呼ばれて来たんですけど。貴方たちはアプーさんの船員の人ですか?」
「いや、俺たちはキッド海賊団だ。本当にアプーに呼ばれたのか?」
何でキッド海賊団の人達がここに? いや、アプーさんが集めた他の人がキッドさんってことなのかな。その割にはキッド海賊団の人達が仕切っているようには見えるけど。その後直ぐに、建物の中から確かキッドさんの右腕のキラーさんが出てきた。
「アプーに呼ばれて来たのか? エルドリッチ」
「そうです。もしかして、アプーさんの冗談だったんですか?」
「……いや、お前も呼べたら、呼びたかったんだ。着いてこい」
キラーさんに案内されるように建物を進んで行く。整備されたような感じは全くなく、キッドさんたちが勝手に占拠しているんだろうなとは思った。しかも、この周りの人たちの感じからして、今回のメンバーを集めたのはキッドさんたちなんだ。そこにアプーさんも居て、僕を勝手に呼んだというのが真相だとは思う。今まで激動の人生を送ってきたけれど、こんないたたまれない思いになったのは初めてだ。
「おい、キラー!! なんで政府の犬になって、四皇に降ったこいつがいるんだよ!?」
「俺が聞きたい。説明してもらおうかアプー」
「アッパッパ。こいつはもうビッグマムの傘下じゃないぜ? 良い戦力になると思うぜ?」
通された大きい部屋にはキッドさんにホーキンスさん、アプーさんの三人が揃っていた。一悶着あったみたいに部屋の中はボロボロだったけれど、本当にこの人たちと同盟を組めるのかな。
「本当に同盟を組むんですよね?」
「そのつもりになるだろうな。この同盟の成功確率はそれなりに高い」
「チッ、エルドリッチは信用出来ないんだよ。海賊らしくもねぇ」
本当に大丈夫なのかな。僕はこれからの海を生きる為にも同盟は組んでおきたい。でも、明らかにこの四人で組むのは同盟としての大切な何かが欠けているような気がしないでも無い。
「僕は同盟を組みたいです。どういった目的の同盟でも、戦力は高まりますから」
「全員落ち着け。この四人で組むということで構わないだろ!?」
キラーさんの静止で全員の動きが止まる。キラーさんが居ないと本当になりたたないなこの同盟は。でも、この先どうなるか楽しみに思えてきた。
★ ★ ★
パンクハザードから戻って来たマグメルが甲板へと降り立つ。急いで戻ってきたようで、汗も疲れもいつも以上に出ていた。そのマグメルを囲むようにヴィレムやシオン、ルッカが来る。
「あっちの方はどうなったんだ?」
「適当に終わらせてきましたよ。目的は達していませんが」
「それで大丈夫なのか? 俺らが受け入れて貰うために必要なんだろ」
依頼を達成しなかったことに対して出る心配の声。ビッグマムから逃げたことで新世界で生きていくことが困難になっており、誰かしらとの繋がりを持っておくことはミスト海賊団にとって急務だった。
「いえ、大丈夫だと思いますよ。ドフラミンゴにはピンチが訪れると思いますから」
マグメルはパンクハザードで会ったローとルフィのことを思い出していた。彼らはドフラミンゴがマグメルに頼むほどのことをしており、今の時期に王下七武海になるほどのローが何の考えも無しにドフラミンゴに喧嘩を売るとは考えられなかった。そして、マグメルの予想通り、電伝虫が鳴る。
『はい。どうしました?』
『フフフフ、ドレスローザに来い。今すぐだ』
『分かりました。ちなみに怒ってますか?』
予想していた電伝虫からの連絡に軽く了承するが、ルーファスのことがあったとは言え、パンクハザードから任務を投げ出してきたマグメル。ドフラミンゴが怒ると怖いと分かっていたので、その機嫌を伺う。
『ここから何とでもなる。怒る必要は無い』
『そうですか。じゃあ、早めに向かいます』
ドフラミンゴからの電伝虫が切れた後、マグメルはこの場にいるエレカ以外の幹部から話を聞くが、ルーファスとアデルが何処に行ったかは分からなかった。エレカにも話を聞きに行こうと彼女の船室に向かう直前、またも電伝虫が鳴る。
『はい。どちら様ですか?』
『僕だよマグー。もう戻って来たの?』
『ええ、ルーが居なくなったと連絡を受けましたから』
急にかかってきたルーファスからの連絡。その連絡に軽く嫌みな言葉を返しつつも声色は浮かれているようであり、無事が分かってホッとしていた。
『それで、しっかり説明してくれますよね?』
『うん。実は同盟の誘いを受けたから、それの返答をしに行ってたんだ。罠だったら、危険だから二人で』
『それでも、一言ぐらいは言っておくべきじゃ無いんですか?』
『ごめん。すぐ帰って来られると思ってたから』
ルーファスの心からの謝罪にマグメルもいつまでも引きずっているわけにいかないと、空気を入れ換えるようにため息を1度入れて、改めてこれからの為の話をする。
『それで、同盟はどうなったんですか?』
『問題なく組めたよ。繋がりは多い方が良いからね』
『その点は同意です。私たちはこれからドレスローザに向かいますけど、ルーはどうします?』
『僕とアデルはもう少しこっちにいるよ。戻る時になったらまた連絡するよ』
『分かりました。無事に帰って来て下さいね』
ルーファスとの通信を終え、安心感が大きく勝り、自身のサイクル的に眠くなったマグメルはヴィレムに船のことを託して自室に眠りに行く。今の彼女には何の心配事も気にするような事も無く、肩の荷が下りたようにすっきりとした表情で眠りについた。
★ ★ ★
翌朝。世界中で新聞が売れに売れた。その内容には大々的な目玉としてドフラミンゴの王下七武海脱退。それに加え、モンキー・D・ルフィとトラファルガー・ローの海賊同盟。ユースタス・キッドとバジル・ホーキンス、スクラッチメン・アプー、エルドリッチ・ルーファスの海賊同盟。今日の新聞はここ最近の中で荒れに荒れていた。
「あーそういうことですか。ドフラミンゴもルーももう少し世間を騒がせないようにして欲しいですよ」
「しかも、よりによってこの人たちと同盟ですか」
ドフラミンゴが何故自分たちをドレスローザに招集したのかを悟り、ルーファスが何故少ない人数で行ったかを理解したマグメルは色々なことが立て続けに起こったにも関わらず、余裕で楽しそうな笑顔を浮かべる。自分たちが時代のうねりに飲み込まれつつあると実感し。
次回からは色々変わってまた新しい章になります。