霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
奇妙な同盟
時間と場所は大きく変わり、麦わらのルフィの復活の数日前。いつの間にか定例会議となっていた幹部会で、ルーファスは傘下の海賊としてビッグマムから命じられた任務をこの場で他のみんなに伝えていた。
「今回の任務はゆくゆくのことを考えて、少人数で行ってもらいたんだ」
「……あのことですね。とりあえず、その話は置いておいて、さっさと本題に入りましょうよルー」
数日後に離反を決行する予定であるミスト海賊団にしてみれば、この任務で人数を割きすぎて、万が一があった時に対処する人間が少なくなるのは避けたい。その事は分かっていても、ルーファスはこの任務の危険性から少ない人数で行かせることがどれだけ危険なことは分かっていた。
「今回の任務はギルド・テゾーロが仕切るグラン・テゾーロの乗っ取り、もしくはギルド・テゾーロの抹殺」
全員が言葉を失った。まさか、こんな無茶振りの任務をビッグマムが課してくることに。ギルド・テゾーロは黄金の支配者と呼ばれるゴルゴルの実の能力者。その力を使い、彼はグラン・テゾーロを独立国家としていた。そのテゾーロを倒すということは世界のバランスを大きく変えることと同じだった。
「不可能だろ。こんな任務は不可能だとビッグマムに言ってこればいい」
「テゾーロさんはその力で裏の世界で幅を利かせてる。それがビッグマムさんには邪魔らしくて、もう止まることは出来ないよ」
「……それを私たちに振ってくるなんて、ひどいですね」
そんな危険な任務だからこそ、ルーファスは誰かを指名はしなかった。艦長である彼が指名すれば、それは拒否することが難しくなる。だからこそ、任務内容を説明する以上は何も言えなかった。
「……あたしが行きます。あの場所には盗みがいのあるものがあるんで」
カリーナが立候補した。そのカリーナが盗みたがっているものは誰もよく知らなかったが、あのカリーナがここまで進んでやりたがること自体が珍しく、驚きでほとんど全員がカリーナの方を向いていた。
「カリーナ。本当にいいの? 外部から助けに行ける保証は無いよ」
「心配し過ぎですよルーファス。あそこに行かなきゃ後悔する。あたしの本能がそう言っているんです」
「ハッ、てめぇが本能なんて言葉を使うなんてな。おい! 俺も連れて行けよ」
カリーナの覚悟の籠った目にルーファスはゆっくりと頷く。そして、エレカも立候補したことで後一人ぐらいの人数だとルーファスが確信したところで、ユーシスが声をあげる。
「ちょっと待ってくれ。エレカはここにいてくれ、俺が行く」
「あ? ユーシス、てめぇが俺より強いって言いたいのか? ここでやってやってもいいんだぞ」
「エレカ。お前は潜入に向いていない。俺が行くのが適任だ」
エレカとユーシスはお互いに譲らないように睨み合うが、ユーシスのこの任務にかける信念のような重い感情を読み取り、エレカは舌打ちをしながら顔を逸らす。
「次はこれまでで一番の戦いに連れて行ってくれるんだろうなルーファス」
「約束するよ。エレカを世界で一番盛り上がっている戦いの場に連れて行く」
この一年にも満たない期間、エレカはホールケーキアイランドで誰よりも無謀で効率性の無い日々を送っていた。それを通して得られた力をエレカはまだ試せておらず、ここ最近ずっと燻っていた。
「シハハハ、破ったらてめぇを殺すからな」
圧倒的な眼光。金獅子のシキの娘に恥じないそれは、ルーファスに本気でやらなければエレカを返り討ちにすることが出来ないと悟らせるには充分だった。
「それじゃあ、この任務はカリーナとユーシスの二人に行ってもらう。二人とも無理だけはせずに連絡してくれれば応援に行くから」
「期待して待ってて下さいね」
「黄金なんてぶっ壊してやる」
★ ★ ★
会議から数日後、カリーナとユーシスの姿は既にグラン・テゾーロにあった。実際には島ではなく、船であるこの場所に辿り着くのは手間と予算がかかるが、そこはビッグマム海賊団の伝手で何とかなっていた。二人はミスト海賊団の標である刺青を曝け出しながらも、顔を隠し、周りにあった格好をした形だけの変装をしていた。
「黄金ばかりで夢のようだと思いません? ユーシス」
「この黄金も誰かの犠牲の上に成り立ってるんだろうな」
「夢が無さすぎじゃない? もう少しは楽しめばいいのに」
四皇傘下の海賊ということで、資金も余裕もたっぷりある二人は他の世界中から来ている大富豪たちに見劣りすること無く、堂々した歩みで施設内を闊歩して行く。そして、その足は中心部にあるカジノの近くに向かっていたが、その途中で必死な形相をしながらカジノの方角から走ってくる男が居た。
「どけ!! こんな場所で惨めに死んでたまるかよ!!」
なり振り構っていられない彼が丁度ユーシスとカリーナとすぐ近くまで来たところで、どこからか銀色の紐のような物が伸びてきて、彼を拘束していく。
「カカカ、わしから逃げられると思うなよ。ここにおるわ最強の傭兵ぞ」
その口調と似合わない少女にカリーナとユーシスは見覚えがあった。2年前、ユーシスと共にエンドルフの元に居て、ルッカとヴィレムと戦った彼女、シャルバードのことを。
「楽勝、楽勝じゃ。帰ってあの警備主任に報告じゃな」
シャルバードが逃走していた男を捕え、他の警備員に引き渡したところで、わざとユーシスはシャルバードに当たって行く。他の警備員はその叫んでいる男に夢中でそのことに気づいていなかった。
「おっと、すまねぇな。……俺のこと覚えてるよな?」
「ん、んん? あ、何でここにい、いるんじゃ? も、もしかして、わしに?」
「ウエストサイドホテルの405号室だ。話がある」
急な再会に戸惑い慌てふためくシャルバードを置いて、ユーシスはホテルの道のりをカリーナと共に歩いて行く。その足はいつもよりも少し早かった。
「あの子、ユーシスの元仲間だったよね? なんて言ったの?」
「ホテルに呼び出した。あいつは信用出来る奴だからな。戦力は多い方が良い」
「本当にそう? 今はこの船で雇われているみたいだったけど?」
「親父がそんな奴を俺たちの仲間に入れると思うか? あいつはあいつなりに信用し、信頼出来る部分があるんだ」
何年も彼女と旅をした印象からユーシスはもう決意したようだった。その頑固さをもうそろそろ分かるようになってきたカリーナも戦力が増えるなら良しと捉え直し、ユーシスの背を追って行く。そんな二人を見つめる目に見聞色が得意では無い二人は気づかなかった。
★ ★ ★
ウエストサイドホテル。グラン・テゾーロにある五つのホテルの内、西側に位置しているホテルで、価格帯は五つの中で真ん中というものだが、泊まる人間が闇に通じた者ばかりで、どちらかと言えばそういった人たちに配慮されていたホテルだった。そんなホテルの405号室に二人は夕食を食べながら、シャルバードが来るのを待っていた。
「警備員を引き連れたりしてきません?」
「心配し過ぎだ。あいつを信じろ。約束と義理は果たしてくれる奴だからな」
「信じるほどあの人のこと知らないけどね」
いつもの食事よりも何倍も豪華な食事という最高の待ち時間の中、二人がその食事を食べ終わる頃、部屋の扉がノックされる。それに二人は目を合わせ、ユーシスがドアを開ける。
「わしじゃ、わし。ユーシス元気にしとったか? 会いたかったぞー」
「俺もだシャルバード。入ってくれ、話したいことがある」
久しぶりに会ったとは思えないほどスムーズに会話を始め、まるでその歳特有の乙女の顔をしたシャルバードはそのまま部屋に入ってくる。そんな空気感になるとは思ってもいなかったのか、カリーナは少し引き気味でその光景を見つめていた。
「もしかして、恋……してるの?」
「わ、わしが? してる訳ないじゃろ!! わしはそんなものを望んじゃおらんよ!!」
言い訳もたどたどしく、表情も安定しないシャルバードに比べて、ユーシスは特に表情が変わる事が無く、首を傾げるばかりだった。その二人の態度から大体の事情を察したカリーナは呆れ顔で物も言おうとしなかった。
「いい加減、根拠を教えて欲しいもんですけど」
「シャルバードを信じる根拠か? シャルバードは純粋だ。自分の赴くまま好きなように行動する。だから、ある意味信用出来る」
「それ、根拠になってるの?」
ユーシスの心の底から信じているような態度にカリーナは諦め、シャルバードと共に戦うことを受け入れていく。その様子を感じ取ったユーシスはシャルバードに自分たちの目的と協力して欲しい旨を話す。
「わし的に協力したいのはやまやまなんじゃが、もう少し人が欲しいんじゃ。ユーシスがいるとは言え、こんな人数ではテゾーロに勝つことは不可能じゃ」
「やっぱりそうか。仕方ない、ルーファスたちに連絡しよう」
想定していたプランが無理だとすれば、直ぐに新しいプランを建て直す。それは彼が遊撃隊長を任されている由縁でもあり、理想だけで行動せずに現実を見ながら行動する人間でもあることにあった。
「ちょっと待ってくれ。その話、俺も乗せてくれ」
ユーシスが電伝虫をかけようとするのを遮るように部屋の中に誰でも無い声が響く。声の在り処を探してカリーナが窓を開けたところで、人影が飛び込んで来た。
「よぉ、久しぶりだなユーシス。元気だったか?」
「……サボ!! どうしてここに」
その飛び込んで来た男は現革命軍参謀のサボ。ユーシスとはほとんど同期で革命軍に入った仲であり、コアラも含めた三人で革命軍の若い世代を背負っていた。ユーシスとサボはドラゴンとエンドルフが喧嘩別れをしたっきりであり、実に10年ぶりの再会だった。
「俺たちもここを潰さなきゃならない。協力し合えると思うんだが、どうだ?」
「……そうだな。サボ、お前の力は俺が一番知っている。こんなにも心強いことは無いよ。協力しよう」
ドラゴンとエンドルフの関係や、辞めた自分の関係などを考え、葛藤するユーシスだったが、そんなプライドなどを考えていたら、成功するものも成功しないと思い直し、サボに手を差し出す。
「頼りにしてるぞユーシス」
手を取り、ここに海賊2人、革命軍1人、傭兵1人の新たな奇妙な同盟が作られた。そんな光景を傍観者としてずっと見ていたカリーナは何故だか分からないが、ため息をつき、気合を入れ直すのだった。
映画の話は何処に入れるか迷うのでこんな感じになりました。
新しく活動報告も書きました。お暇でしたら読んでください。