霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
ピーカが地形を変え、鳥かごが展開されたことでバスティーユとの戦闘を中断したヴィレムは鳥かごの中で特にマグメルやドフラミンゴからの指示があったわけではない、彼の独断で一番外側に来ていた。
「おい、これ……動いてねぇか?」
そんなヴィレムの目の前で少しずつ本当に少しずつだが、鳥かごは内側に迫っていた。それはこの鳥かごがいつかは閉じてしまうという意味であり、この島にいるほとんどの人間に生き残る術は無い事を示していた。その事実を共有しようと電伝虫で伝えようとしたヴィレムだったが、急な殺気をその身に感じる。
「……こんなところで奇遇だなSWORD。何をしている?」
ヴィレムの背後に立っていたのは白い仮面をし、白のスーツに身を包んだ男。その男のことを認識するや否や、ヴィレムが冷や汗をかくほどの人物。世界貴族直属の諜報機関CP0の1人がそこに居た。
「冗談だろ? こんなところでCP0を見るなんてよ。俺のことなんて気にせず、何処か行ってくれよ」
努めて冷静にしているが、ヴィレムは珍しく焦っており、ここからどう逃げたものかということを考えていた。CP0に自分が勝てるとは思うことも出来ずに。
「ドフラミンゴの経過観察をしていたら、巻き込まれてな。こちらも困っているのだ。だが、お前と会えたのは幸運だったな。赤犬と近しいお前と会えたのはな!」
既に臨戦体制に入っていたCP0ゲルニカと比べてヴィレムはまだ臨戦体制に入れておらず、そこに隙が生まれ、肩に指銃が撃ち込まれる。
「おいおい、俺を消したらそちらさんにも不都合があるんじゃないのか?」
「ないな。政府に対して反骨心がある赤犬の反骨心を折るのにお前の死は充分だ」
「海賊でも言わねぇぞそんなことをよ」
やるしかないと腹を括ったヴィレムは片手にボウガン、片手にサーベルのスタイルでゲルニカに対して抗戦する。肩をやられたこともあり、元々の戦闘力にも差があることもあって絶望的なこの戦い。
「よく張り合うものだ。ここまで有能な准将もいないぞ」
「鍛えて育ってるものでね。そう簡単には死なないさ」
口では達者なことを言っているヴィレムだったが、実際には押され気味なことに変わりなかった。どれだけヴィレムが優秀でも、相手は世界政府で重宝される戦力。そう簡単に勝てることなど無かった。
「お前に質問をしておこう。お前の海賊団は何を目指してこの海にいる? ワンピースか?」
「ワンピースでも何でもないらしいぜ。お前らの心配してるようなことは目指してないさ。ロックスのようにな」
自身が生まれていない時代のことにも関わらず、ヴィレムはあのロックスについて口にする。しかし、ロックスの名を聞いてもゲルニカは動揺することなく、淡々とヴィレムを追い詰めていく。
「なら、スパイのお前を消したところで変わらないだろうな」
「そうあって欲しくはないもんだな」
戦っていくうちにヴィレムは追い詰められ、大きな岩の前で膝をつく。これまで見せたことが無いような荒い息を何度も吐きながら、ゲルニカはじっと見るヴィレム。彼の正義はまだ死んでいなかったが、ゲルニカから見ればその体はもう限界に近かった。
「私も政府の人間を殺すのは忍びないんだがな」
ヴィレムとゲルニカの目が交差する中、ゲルニカの指銃が放たれた。
★ ★ ★
舞台は王宮へと続くピーカの能力によって新しく作られた2段目。そこでは麦わらのルフィを中心としたドフラミンゴへ敵対する人間とドンキホーテファミリーたちとの熾烈な戦いになっており、そんな場所につい先ほど来たシオンとルッカはその光景を高みの見物をしていた。
「火傷さえしなければ、もう少し早く来れましたね」
「そうだな。だけど、そのおかげで危険は少ない」
「何言ってるのー? あんたらにはやれるだけやってもらわないと」
シオンとルッカに近づいてきたのはドンキホーテファミリー幹部最年少のデリンジャー。彼は2人を見下すような嘲笑した顔をしながら煽ってくる。
「黙れ。俺とシオンが何をするかはこっちで決める」
「キレちゃったー。ほんと我慢強くないよねー!」
短いとも長いとも言えない期間、ミスト海賊団の面々とドンキホーテファミリーは一つの屋根の下にいたが、その仲は全くもって良くなく、良い関係性の方が稀と言えるほどだった。だが、二つの海賊団が同じ場所にいて殺し合いをしなかったという分だけそれはましと言えるのかもしれない。
「……分かりました。私たちにも考えがあります」
あの期間、二つの海賊団でトラブルが少なかったのは近くに自分たちのトップであるルーファスとドフラミンゴが居たことに他ならない。しかし、この近くに2人は居ない。トラブルを止まる為の抑止力はもう無かった。
「兄さんを馬鹿にした貴方から倒すことにします」
「ああ、マグメルの許可も要らない。その後で他の奴を殺せばいいんだから」
「ほんっとウザい。反吐が出る兄妹愛」
「俺も手を貸そうデリンジャー。こいつらの態度には躾が必要だ」
シオンとルッカに対峙するデリンジャーとグラディウス。デリンジャーとグラディウスが攻撃を仕掛けようとした時には既にルッカとシオンの攻撃は終わっており、それを受けた2人は容易く倒れさる。四皇の幹部とも渡り合った2人に今更デリンジャーとグラディウスが勝てることは無く、呆気なく勝負は終わった。
「これで終わりですね……いえ、もう来ましたか」
「思ったより早かったな」
続々と上がってくるコロシアムに参加していた戦士たち。その中から目についた相手に勝負を挑み、勝利していく2人。その敗者の中にはスレイマンやイデオ、ブルーギリーなどがいたが、2人はさして気にすることなく撃破していた。
「こんなもんですかね。どうしますか兄さん」
「あれとかどうだ? 上にも行きたいしな」
ルッカが見つけたのは上空で何かによって飛んでる3人の姿。それが誰なのかは分からなかったが、誰であっても仲間で無かったら同じというように獣型へと変身したシオンとその背に乗ったルッカは目の前に現れる。
「な、なんだべ〜!!」
「貴方たちは!?」
そのままシオンによって弾き落とされたレベッカ、バルトロメオ、ロビンの三人だったが、奇しくも落ちた場所はちょうどルフィやロー、キャベンディシュがいる場所だった。そんなこともロビンが自分たちの海賊団にとってどんな存在か知らない2人はそのまま落ちた場所に降り立つ。
「お相手お願います」
「誰でもいいからな」
その強者の佇まいを感じさせる立ち振る舞いにビビることすらせずに交戦的な意思を見せるルフィたちだったが、冷静な意見を出すロビンやローの言葉やキャベンディシュとバルトロメオが名乗り出たことで2人の相手は決まった。
「君たちの相手はこの僕キャベンディシュが相手しよう!!」
「ルフィ先輩に道を開けるだべ!!」
この戦場にそこまでの脅威を感じていなかったシオンとルッカだったが、相手を確認すると、少しだけ体に力を入れる。それはバルトロメオとキャベンディシュも同じで相手がそこらへんで倒してきた相手と違っていることを理解しているからこそ、冷や汗の流れる速さよりも強く手を握った。お互いに一歩も譲りたくない勝負がここに始まった。
★ ★ ★
「少し手でも抜いてんじゃねぇのか!?」
「これがあっしの実力なもんで」
エレカと藤虎の戦いは未だに続いていた。その苛烈な戦いは中将であるバスティーユをも近づけさせないほどのもので、周囲の地面などは大きく削れたりもしていた。
「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。てめぇが本気なら俺は死んでんだよ。それぐらい分からねぇアホじゃねぇ」
「それは何とも申し訳ねぇことをしやしたね。しかし、市民のみなさまへの迷惑を考えるとこんくらいでねぇと」
藤虎と自分の実力差を分かっていないエレカでは無く、本気を出すと言って出さなかった藤虎ことにも気づいていた。それについて怒る訳でもないエレカは本気を引き出せなかった自分の悔しさに少し顔を滲ませて、唾を吐き出す。
「殺す気でやってやろうじゃねぇか」
「獅子演舞刃!!」
武装色と覇王色を纏った二つの刃を何度も振り払っていくエレカ。それを的確に仕込み刀で受けて、返していく藤虎はエレカの動きが先ほど違っていることに気づき、構えをとる。
「重力刀 猛虎!!」
藤虎が刀を振り払った先の建物が壊れるほどの強力な重力が発生する。エレカを狙った攻撃だったが、肝心のエレカには危機一髪のところで回避されてしまう。そのギリギリところで避けてくる動きについて藤虎は自身の見解を語る。
「……見えてやすね」
「気づきやがったか。ああ、今の俺には見えんだよ未来がよ」
あのホールケーキアイランドで暮らしていた一年。エレカはほぼ毎日シャーロット・カタクリに挑んでいた。カタクリからエレカに対してアドバイスなどを送ることは一度も無かったが、その戦闘の中でエレカは独自にカタクリのことを理解し、カタクリが得意する未来視を会得していた。
「つっても、これを使いながら刀振るうのは疲れんだけどな!!」
「だから、最後にこれで殺してやるよ」
「
四方八方から斬撃が藤虎に向かっていく中、後のことは考えないというようにその身で出せる最高速を出してエレカは突っ込んでいく。
「あっしは怪物。そう簡単に破られちゃあいけない人間ですので」
エレカと藤虎の刀がぶつかり、周囲に強力な重力の重みがかかる。それと煙によって勝負の結果は直ぐには見えなかったが、少なくともどちらも無事だとは海軍でさえ思えなかった。
これでユーシスの覚醒に続いてエレカも未来視を会得しました