霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
麦わらのルフィがドフラミンゴの元へと辿り着きかけた頃、サボとの大技のぶつけ合いによって右目の辺りを傷跡が残るほどに火傷したマグメルはその辺りをぶらついていた。
「またしても引き分けなんてやりますねサボ。私のライバルと言っていいんじゃないんですか?」
その独り言を聞いている人間は居なかったが、マグメルは少し遠い距離で戦っているのが自分の見知った人であると気づき、戦場であるにも関わらず、周りに注意力を向けないまま向かっていく。
「丁度いいところに来た!! あんたのところの船員がグラディウスとデリンジャーを倒したんだけど?!」
「まぁいいじゃないですか。どうせ、仲は良くなかったんですし、ここまで持っただけ良い方です。それより、私が用があるのは貴方たち2人ですよ」
そうしてマグメルが指を指すのは八宝水軍のドン・チンジャオとサイ。彼らはマグメルが花の国から悪魔の実を盗んだ時に因縁が出来ており、再会するのは10年ほどぶりだった。その時は大きく開いていた力の差も今では……。
「お前のことは覚えているやい! あの時の敗北ほど俺を強くしたものはない!」
「あの時の小童か? ひやはや立派になりおって。生き残っておって良かったみたいだな」
「貴方たちには感謝してるんですよ? 覇気というものを知ったのは貴方たちのお陰ですし、強くなれる高みを知れたのも貴方たちのお陰です。ありがとうございます」
自分たち八宝水軍の失態の一つの元凶とも言えるマグメルが目の前に現れたことでマグメルへと狙いを向けたチンジャオとサイの2人だったが、当のマグメルはお礼を言い、2人と積極的にやりたがらなかった。
「今の私の実力は貴方たちよりも何倍も上回っています。それでも本当にやるんですか?」
煽りとも言える行動を取るマグメルだが、その行動は複雑な思いの上に成り立っており、自分たちの最初の壁とも言える2人を倒すことは嬉しさよりも寂しさや何とも言えない虚しさを感じてしまうからだった。そんなことを露とも知らないサイは構えを取るが、周りの状況を見たチンジャオが止めに入る。
「この童はわしに任せておけ。お前は周りにいくらでも敵がいるだろう」
「こいつはオレとの再戦を望んでるんじゃねぇのか?!」
「どっちでも良いですよ。でも、チンジャオとは前回やってないので、楽しみですね!」
勝負することが決まると腹を括ったのか、マグメルは早めに決着をつけるべく、鳩尾に対して強烈な蹴りを喰らわしていく。それはしっかりと鳩尾に入ったはずだが、黒くなったチンジャオには致命傷にならなかった。
「流石ですね。強くなったことでちょっと侮ってましたよ」
「あの時の頭とは違うぞ童!!」
「錐龍錐釘!!」
昔ルーファスが戦った時には頭が尖っていなかったが、何故か今のチンジャオの頭は尖っており、そこから繰り出される大技は昔の時とは比べものにならないほどのものだった。だが、昔と違うのはマグメルも同じ。サイより少し劣っていた昔のままでは無かった。
「指銃
手の構えを竜爪拳のものと似たようなものにしつつも指を全てチンジャオに対して向ける。その自身の生まれ持った性質のこともあって、マグメルは自分のオリジナル技はそこまで多くない。しかし、この先も生きるなら必要だと思っていた開発中の技をチンジャオの大技に合わせる。
「うーん、流石に弾き返すほどでは無理ですか」
「このわしの釘を防ぐとは……」
「とっとと、終わらせましょう。あまり長くやっても悲しい気持ちになるだけですから」
「魚人空手 六千枚瓦正拳!!」
チンジャオが想定している早いスピードで叩き込まれた打撃はチンジャオの意識を刈り取り、戦闘不能になるほどものだった。そんな目の前の光景にマグメルはやはり、自分たちはここまで強くなったという快感と共にあの時の自分たちはもう遠い昔なのだという感傷に襲われた。
「ジジイ!!」
「……もうここでやりたいことも無いですね。私はこの辺りで」
海賊狩りのゾロ、革命軍参謀サボ、八宝水軍元棟梁チンジャオなどの名だたる面子と事を構えたマグメルは少しの疲れを癒すようにある場所に降り立つ。そこは不慮の事故により気絶してしまったシュガーがまたも気絶させられた場所で、今も飛び抜けた顔をしながら気絶していた。
「ほんといい顔してますよ。これから先、貴方と会う事が無いのが、少し寂しいですね」
姉であるモネはマグメルの目の前で満足して死んでしまったが、マグメルとて死んで欲しかった訳では無い。数少ない血を分けた姉妹であるシュガーには生きていて欲しいと思っていた。そんな心配も杞憂であり、この戦いでシュガーは気絶しただけだった。
「この戦いは麦わらが勝つと確信してます。そうなったら、貴方はインペルダウン。つまらないですが、死にはしない場所です。大人しくしてて下さいね」
これまでの人生でほとんど見せた事が無い姉としての顔を見せるマグメル。その顔がいつもの自分と違っていると分かっているが故に、シュガーの様子をジョーラが見に来た時、既にそこにマグメルは居なかった。
★ ★ ★
ロビンやレベッカをスムーズに花畑に送り届けるためにシオンとルッカの相手をすることにしたキャベンディシュとバルトロメオとの対決は少し劣勢のまま進んでいた。
「この僕よりも優雅なんて中々やるな!!」
「いえ、私の刀はあまり刃こぼれしていません。苦労しています」
シオンはこれまでの人生でそこまで多くの刀使いと戦ってこなかった。目立つのはゾロぐらいで、そのゾロとも全く違う剣筋を使うキャベンディシュの技巧には苦労していた。
「美剣 青い鳥!!」
「
力強いキャベンディシュの一突きに対して、小刀を重ねるように構えてそれを弾く。しかし、キャベンディシュの体は思うように崩れず、受けた攻撃がシオンの思っている以上だったことを示していた。
「やりますね。これ以上人型でやることは無理ですか」
思っていた以上のキャベンディシュの手強さにシオンは獣型に姿を変身させ、飛びながらの攻撃に切り替える。それはキャベンディシュとの攻防においては先ほどよりも有効なようで、一方的な攻撃をすることに成功していた。
「やる……じゃ…ないか」
不自然に言葉が切れながらシオンの攻撃を間一髪のところで避けていくキャベンディシュ。それを不審に思いつつも攻撃を続けるシオンの視界からキャベンディシュの姿が消えた。
「いつの間に!」
その姿はシオンの背後にあり、獣型では見えない死角だった。その位置をシオンが見聞色で気づいた時にはもう既に遅く。シオンの背中に大きく刺し傷が出来る。
「先ほどまでとは全く考えられないスピードですね」
「オレハアイツトハ違ウカラナ」
「本当に奇妙な人です」
シオンは知る由も無いが、キャベンディシュは夢遊病を患っており、今はその夢遊病の別人格が表に出ている状態だった。その人格、ハクバの実力は単純にキャベンディシュの倍であり、シオンでも危険な状態だった。
「……マグメルさん以上のスピードですね」
見聞色を使って何とか致命傷にならない程度に渡り合っているが、そのハクバのスピードはシオンの集中力をどんどんと削っていく。技巧はキャベンディシュよりも劣るハクバの剣戟に搦手を利用しようとしていたシオンだったが、そのスピードに思うように搦手的な攻撃を出来ていなかった。
一度ハクバにも視認出来ないほどの上空へ退避するシオンは人獣形態のまま回転するように地面へと急降下していく。普通の相手であれば、その攻撃は当たることは無いだろう。しかし、見聞色による類稀なる気配察知能力とハクバの交戦的過ぎる性格も相まって攻撃の命中は避けようのないところまで来ていた。
「
刹那、すれ違いざまに繰り出されたお互いの攻撃。シオンの大技により馬鹿にならない傷を負い、眠ってしまいながらキャベンディシュの人格へと戻っていくハクバと、ハクバによって寸分違わず致命傷を狙われ、人型へと戻っていくシオン。この勝負はお互いに再起不能となり、決着を迎えた。
★ ★ ★
シオンとキャベンディシュが戦いを始めたのと同じ頃、ルッカもバルトロメオと闘い始めたのだが、その戦いは膠着状態と言ってもいい状態となっていた。
「お前……卑怯だろ」
「バリアに卑怯もないべ! 破れるもんなら、破ってみやがれ!」
自身の能力のバリアに囲われたバルトロメオに一切の攻撃が通る事は無く、ルッカがどれだけ縄の打撃を与えようが、そのバリアは壊れることは無かった。
「俺は早くシオンの元へ行きたいんだ。解除してくれ」
「そんなこと言われて解除するバカはいないべ」
本人であるバルトロメオも懸念していることだが、これでは延々に決着が付くことは無く、時間だけが消費されていくことは明らかだった。しかし、バルトロメオが正面からルッカと戦っても勝てる可能性はそう多くなく、バルトロメオはバリアを解くに解けない状況にいた。
「いや……こうすればいいのか」
「おいおい、何をしようとしてんだべ!?!
「これでお前も外に出れるだろ」
縄をバリアに何重にも括り付け持ち上げ、そのままバリアの塊を縄によって振り回していく。バリアの中にいるバルトロメオはその攻撃に直接的なダメージは受けていないものの、何重にも渡る回転で吐いていた。その状況打開すべく空中でバリアを解いたバルトロメオはそのままバリアを床のようにして、ルッカの頭上へと落ちていく。
「それぐらいは予期してるんだよ」
元々避ける準備はしていたのか、バルトロメオのバリア床を避けたルッカ。しかし、そこから畳み掛けるようにバルトロメオのバリアが勢いよくルッカの方に飛んできて、避けきれずに吹き飛ばされる。
「バリアが守る為だけだと思わないことだべ!!」
「足止めにもなってねぇんだよ」
少しキレながらもバルトロメオを倒すための算段を練るルッカ。その思考時間はあまり長くないものだったが、満足いくものが出来たのか、あまり見せることはしないぎこちない笑みを見せた。
「お前を倒して、とっととシオンのところに行かせてもらう」
「ルフィ先輩の為にも負けらんねぇべ!!」
「バリアクラッシュ!!」
侮れないスピードで向かってくるバリアの壁。その壁をルッカは大きくせり立つ岩の壁に縄を引っ掛けることで、上から避けていく。それに対抗するようにすぐさま新たなバリアの壁が迫ってくるが、それも器用に周囲にある物に縄を引っ掛けることで避けていく。
「黒縄
空中から一直線に落ちる黒い縄。その速さにバルトロメオのバリアは間に合わず、その顔面に突き刺さる。その一撃でバルトロメオをノックアウトしたと直感したルッカは大怪我を負いながらも動けないシオンの元へと急いでいく。
次の話でこの章は終わります