霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
キッドさん、ホーキンスさん、アプーさんと同盟を組めた僕は安全安心では無いけれど、ある程度は安定した航海を出来ると思っていたんだ。ビッグマムさんに加えて、赤髪のシャンクスさんを敵に回すのは危険だと分かっているけれど、孤軍で四皇と渡り合うよりはマシだったはずなのに、どうして、僕の前に四皇のカイドウさんが居るのだろう。
「クソ! ジョーカーの野郎やられやがって。俺との計画はどうなりやがるんだよ!!」
「ルー兄。これ、ヤバいよね?」
「うん。生きて帰れる保証は出来ない」
この勝負はビッグマムさんと戦った時よりも圧倒的に勝てる見込みが無いかもしれない。でも、こっちには僕と実力の変わらない人たちが何人もいる。少しは可能性があるかもしれない。
「アッパッパ、何戦おうとしてるんだよ。カイドウさんに勝つ? 無理無理さっさと諦めちまえ」
「アプー。てめぇのその態度。まさか、やりやがったのか!?」
「今更気づいたのか。そっ、オラッチは既に百獣海賊団の傘下だ。同盟に参加したのもてめぇらを生贄にする為なんだよ!」
アプーさんの裏切り。いや、既にあっち側だったから、裏切りですら無いのか。海賊同士だし、こんな世の中だ。僕にはあれこれ言う権利は無いし、人を裏切った経験ならいくらでもある。
「オレの傘下になりてぇなら歓迎してやる!! ならねぇなら容赦はしねぇぞ!」
「勝利確率0%、逃走成功率20%、服従生存率40%。これは無謀だな」
「ホーキンスてめぇ!! こんな野郎に同盟が潰されんのかよ!!」
カイドウさんからの服従の勧告にホーキンスさんを自分を占って、何かを悟り、剣を下す。そうか、やっぱりここで服従した方が簡単なんだろうな。生き残れるし、無駄な争いもしなくて良い。でも……隣でアプーさんやホーキンスさんに憤怒しているキッドさんを見ていたら、僕に残っている数少ない海賊のプライドが出てきそうになる。
「ルー兄。どうする? 私は何でも着いていくからさ」
「ここで降伏をするのは簡単だけど、僕はそこまで簡単に降りたくは無い。勝つ気で戦って、逃げる」
「僕らはそうします。みなさんはどうしますか?」
「俺らは勝つまであいつとやるさ。そうだろキッド?」
「ああ!! どいつもこいつもぶっ倒してやる!!」
僕らの戦力はほぼ4人であっちはカイドウさんとアプーさんの2人。でも、そんな人数差さえ覆せる力がカイドウさんにはある。油断も隙も出来ない。ただ全力で挑むだけ。
★ ★ ★
カイドウとルーファスたちがいざ戦い始めようとしている中、アデルはアプーの正面に立ち、増やした角材をアプーに向かって投げる。それを難なくと避けたアプーはアデルのことを煽る。
「おまえみたいな一戦闘員がオラッチに勝てると思ってるのか? 甘く見過ぎじゃねぇか?」
「でも、私はあんたの能力知ってるもん。音を聞かなきゃいいんでしょ?」
「そんな耳も塞いで、片目も見えてないやつに負けるほど落ちぶれちゃいねぇよ」
「
咄嗟に耳を塞いだアデルにアプーの音は届かなかった。しかし、アデルが耳を塞いだ隙に近寄って来ていたアプーは自身の得物であるトンファーを振るって、アデルの顔に傷をつける。
「はぁー乙女の顔を殴るなんてほんっと最低なんだけどー」
軽口を叩きながらもアデルは冷静に距離を取り、周りにあった椅子や机などを増やしつつ投げて牽制する。アプーも牽制と分かっているからこそ、それを軽く壊していく。
「何でそんなことしたの? ルー兄さえいれば、この同盟も成功するはずだったのになー」
「分かってねぇな。どれだけ俺たちが固まろうとも四皇には勝てるわけないんねぇんだよ!!」
アデルもああは言ったもののアプーに言い返すことは出来ていなかった。それはアデルもビッグマム海賊団相手に大き過ぎる戦力差を感じて敗北した記憶が未だに頭に残っていたからだった。
「勝てるじゃなくて、負けない戦いをするのが私たちの流儀なんて問題ないから!!」
「アッパッパ、笑わせなよ」
ルーファスたちは明確な負けということを避けながらここまでのし上がってきた。敗北することが死と直結することになるこの世界ではその心意気が何よりも大事だとルーファスが考えていたからこその生き方だった。
「
「油断したな! アッパッパ」
急に奏でられたアプーの音にアデルの体を衝撃波が襲う。カラクリを詳細に理解しないと回避が難しいアプーの攻撃はアデルの意識をもっていきかけるほどのもので、アデル自身もここまでのものとは思っていなかった。
「もう許さないから! これで死んだも同然だから!!」
「
ギリギリで飛びそうになった意識を引き戻し、アデルは服に仕込んでいた本来はピストルにいれる用の銃弾をアプーに向かって投げていく。増やしたものをさらに増やして作られるは何十物による銃弾の壁。しかし、アプーは器用にトンファーを払い、自分の体の急所に当たりそうなところを避けていく。
「こんなんじゃオラッチの相手には不足だぜ?」
もしもの時に備えて、最低限の能力が使えるほどの体力を残しておかなければならないが、体力を出し切るほどじゃないとアプーには敵うことはないかもしれない。そんな迷いを持っているアデルを震わせるほどの覇気が急にきた。
★ ★ ★
アデルがアプーさんと戦うことを買ってくれたおかげで僕たち3人はカイドウさんと戦うことに集中出来ていた。ホーキンスさんはどちらにも手を貸さないようで、静観をしていた。
「お前らが強いなら」
「オレに勝ってみろ!!」
左右から攻めるキッドさんとキラーさんに対して僕はカイドウさんの目の前で霧で巨大な槍を作っていく。カイドウさんの悪魔の実は動物系。その凶暴性と何倍もあるタフネスが特徴だから、やるなら短期決戦でやらなきゃいけない。
「霧細工
霧の槍を発射する。それはキッドさんの巨大になった腕の攻撃とキラーさんの攻撃と同時にカイドウさんに命中するけど、カイドウさんには全然効いていないみたいで、こちらをじっと睨むのみだった。
「こんなもんか」
「
「霧細工 燕大返し!!」
キッドさんやキラーさんを巻き込みながらも、僕に向かって飛んできたその巨大な衝撃波は簡単に止められるものでは無かった。だから、僕は自分の最高の技で返そうとしたんだけど、方向をずらすことを精一杯だった。
「ハァ、ハァ、キッドさん、キラーさん。全力でいきましょう。このままで勝てるとは僕は思えません」
「てめぇが仕切ってんじゃねぇぞ!!」
「だが、一理はある」
「
「
「霧隠れ 黄霧四塞 国之狭霧神 天之狭霧神」
「覚醒か」
キッドさんの覚醒でカイドウさんが隠れるほどの金属が寄せられていってカイドウさんが押しつぶされる。その内に僕は黄金の霧を出しながら、刀を構える。
「
毒霧としての性質を持つ黄金の霧が鳥の姿のまま、カイドウさんにぶつかっていく。金属たちで押しつぶされ、毒をその身に吸収していく。いくら、カイドウさんと言えどもただでは済まないとは思う。
「ウォロロロ! いいぜ! お前らの心を折って傘下にしてやる」
辺りに金属を撒き散らしながら、カイドウさんは平気な顔をしてこちらを向く。その顔は怒っているというよりは笑っているようで、巨大な覇気を感じとつた僕は咄嗟に刀を強く握った。
「
意識が飛ぶ感覚がする。ただ棍棒を払っただけなのにこれなんて……カイドウさんに勝てる相手なんているんだろうかと、そう思えるほどだった。ガードも間に合わず、見切れるもしない。勝てる見込みなんて。
「だらしねぇ。そんなじゃこの世界で生き残れないぞ」
「……僕だってまだやれますよ。ここまで生きてきた海賊ですから」
クラクラして立つのもやっと中でもカイドウさんから目を離さない。ビッグマムさんと戦った時に分かったんだ。四皇と戦う時は絶対に目を離してはいけない。心を折らない為に。前だけを見る為に。
「
カイドウさんの首元に瞬間的に移動して、尖らせた霧と晴嵐で刺し切る。でも、そんなことをしてもカイドウさんの硬い皮膚には傷一つつけきれないばかりか、無理な体勢からしたせいで着地するときにバランスを崩した。
「
「
そんなカイドウさんを僕のいる方向に押しながらダメージを与えるキッドさんとキラーさん。駄目だ。2人の攻撃ばかりに任せちゃ。僕だって最悪の世代の1人。こんなところで負けてはいられない。
「
挟み撃ちをするように霧で作った鋭利な翼と刀と僕自身の刀で上から下へ一刀両断する。それはやっとカイドウさんの体から血を流すことが出来たけれど、傷口はまだまだ浅いものだった。
「ウォロロロロ、やるじゃねぇか小僧ども!! だが、そんなんじゃオレを倒すには足りないぞ!!」
「
カイドウさんは青い鱗に纏われた人獣型へと変身すると、そのまま飛び上がる。空中から巨大な覇気が纏われたカイドウさんの一撃が僕とキッドさんとキラーさんへまるで巨大な稲妻の如く落ちてきた。
★ ★ ★
「ルー兄!! こんなにやられちゃうなんて」
アデルはカイドウの一撃によって倒れさったルーファスの元に駆け寄る。ルーファスは死んではいなかったが、瀕死の状態そのもので、意識はさっきの一撃で持っていかれていた。
「逃げなきゃ。ここでルー兄は死ぬ場所として相応しくない!」
アデルは必死でルーファスを引っ張って逃げようとするが、25歳の体を持ち上げて軽々と移動出来るほど13歳の体は出来てなく、着実に一歩一歩ずつ歩いていた。
「こいつは良い部下になる。ババアに殺させとくにはもったいねぇ」
「絶対にルー兄には触れさせない!」
まるでアリと象の身長差があるアデルとカイドウ。そんなアデルから投げられた数本のナイフもカイドウの体には全く効いておらず、アデルの呼吸が段々と早くなっていく。
「死にたくない。ルー兄」
死さえアデルが覚悟したその時、何かが崩れるような大きな音とともにアデルの横にある2人が後ろから姿を現す。
「間に合って良かった、死ぬ前にな。無茶するよなルーファスも」
「ほんとよね。あたしたちが来なかったらどうなっていたことか」
ギルド・テゾーロ討伐へと赴いていたユーシスとカリーナ。彼らはその任務が終了した同時にビブルカードを頼りにここに向かい、今し方到着したのである。だが、2人も正面切って戦いにきたのではなく、ルーファスを助け、退却するために来ていた。
「足止めだ!」
「二乗衝撃!!」
タメタメの実の覚醒により、自分に溜まっていたダメージも含めての衝撃が二度カイドウの体の内部を襲う。その経験したことのないダメージの感覚にカイドウは体を揺らされるが、そんなものはカイドウからすればそこまで大きなダメージでは無かった。
「どこに行くんだ。てめぇの相手は俺だ!!」
「ああ、エルドリッチだけじゃ物足りないだろ」
ユーシスの攻撃やキッドやキラーの方に意識が持っていかれ、ルーファスたちはカイドウから退却することに成功した。ここで見た風景や空気感を全員が忘れることはないだろう。そして、ルーファウスたちの姿は広々とした割に関係者がいないグラン・テゾーロにあった。
次回から入る章が終われば最終章になります
ルーファスは自然系悪魔の実ということもあって、パワーと耐久が異次元のカイドウと非常に相性が悪く、勝てる見込みはビッグマム以上に低かったです