霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。   作:地支 辰巳

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 新章です。あまり長くはならない予定


最悪の世代編 大海賊の資格
明日の夢 前編


 

 僕の後ろに二つの気配があって、目の前にもっと大きな気配が一つあり、その目の前の気配は二つの気配を合わせても届かないほどのものだった。それは段々と形を成していき、その姿はルーファスがマグメルと会った頃の幼いルーファスへと変わった。

 

「君は何がしたいんだい?」

 

「僕はただ誰かの記憶に残るような人間になりたいだけなんだ。その手段として海賊をやっているんだと思う」

 

「君は僕とも言えるし、僕は君とも言える。だから、君の考えは分かっているつもりだ。だからこそ言える。君のそれは本当に君の考えかい?」

 

 目の前にいる自分の過去の姿とも言える人物と自然に話しているルーファスだったが、その目の前の人物はルーファスの芯をつくようなことばかりを言ってくる。それを受け入れつつもルーファスはそれについて考えてく。

 

「始めは自由になりたい一心で海賊になったんだ。その後は人を殺すのが嫌になって、責任を取りたくて死にたくなった。でも、両親のように簡単には死にたくなかった」

 

「そう君はその曖昧なバランスの元で生き残ってきた。どちらかが強かったなら、君は何処で死んでいた。それは自覚した方が良い」

 

 一体目の前の存在が何を言いたいのか分からなかったルーファスだが、その先も口にすることを防ぐものが無いように自分の人生を振り返るように自分の考えを語っていく。

 

「僕のその考えを断ち切ってくれたのがマグーだった。マグーは僕に死んで欲しくないってそう言ったんだ。そんな言葉を他の人からもらったのは初めてだったと思う。そこで僕は死ぬならもっともっと大きな舞台で死にたいって思えた」

 

「そうだね。誰にも知られないまま死ぬのなら、そんなものは君が海賊の意味が無い。今はどう思っているんだい? どんな舞台で死にたいんだい?」

 

 ルーファスの脳内に巡るのは今も世間を騒がしている様々な勢力の人物たち。彼らと同じ舞台で散れればルーファスも人々に記憶に残れる。そんな構想が頭の中を巡りつつも、仲間たちの顔も同時に浮かぶ。

 

「そう。君はどこまでいっても中途半端なんだよ。今の君には目的が無い。死にに行くような行動をしているわけでも無いし、何かの目的を伴って動いているわせでも無い。一体何の為に進んでいるんだい?」

 

 ルーファスの気づいていない心の疑問。それを掘り起こしていくようにどんどんとルーファスという人間に疑問を投げかけていく。それを受けたルーファスも動揺を隠さず、その事について頭を回していた。

 

「……僕は……僕たちはただ高みを目指していくんです。その先に死があって、僕の終わりが見える。高みを目指し続けることが今の僕が生きる為の糧になっている気がする。確証は無いけれど」

 

「それで……他の仲間たちの目標は関係ないと?」

 

「他のみんなもそれぞれ目標に向かって頑張ってると思う。僕は今の場所がみんなのその助けになって欲しいんだ」

 

 今の居場所が全員が目的に向かっていける最適で心地よい空間だと願うように。いや、そう確信しているような視線をルーファスは幼い頃の自分の姿をした何かに向ける。

 

「そうくらいの責任と覚悟をあるんだね」

 

「うん。僕らは自分の目的に向かって自由気ままに生きていく。それが僕の思い描く海賊だよ」

 

「そのなおも終わりを目指そうとする覚悟と周りを巻き込むことへの責任を考えてるなら良い。君は覚醒するに相応しい」

 

「……何を」

 

 その幼い頃のルーファスは消え去ると、ルーファスの意識も現実に戻されていく。目覚めた景色は何度も見た医療室の中だが、ルーファスは自分の見た夢の内容を忘れていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「流石世界一の遊び場ですね。大人の遊びがなんでもありますね」

 

「でも、これじゃああたしたちの船が動かないんだけど?」

 

 ルーファスが目覚めて数日後。無事に全員合流したミスト海賊団の面々はオエステアルマダ号をグラン・テゾーロの上に乗せ、ゆったりとした船旅を謳歌していた。そんな中でスロットマシーンで隣り合って語らうのはマグメルとカリーナという珍しい組み合わせだった。

 

「ここでお目当てのお宝は見つかりましたかカリーナ?」

 

「全く。昔は黄金なんていくらあっても良いかなーって思ったんだけど、今はあんまりかな」

 

 カリーナはグラン・テゾーロの至る所にあった黄金の装飾品や高価な洋服をその身に身につけていたが、初めは喜んでいたそれも今はあまり新鮮味が無くなっていた。

 

「苦労して手に入れたお宝とかはもっと大切にしたいんだけど、これとかはあんまりかな。やっぱり、スリルが無いとねー。何かマグメルは知らない?」

 

「……ONEPIECEとかどうですか? スリルいっぱいですよ?」

 

 冗談半分にマグメルへ聞いたカリーナはその真面目な声で発声されるその言葉に一瞬固まる。真面目なのか、冗談なのか。それを見極める為にマグメルを見つめるカリーナだが、マグメルの表情は変わっていなかった。

 

「……冗談に決まってるじゃないですか。ONEPIECEなんてそう簡単に取れるものではないですから」

 

「お宝なんていっぱいあるだろうし、まだまだ考えておくけど、マグメルは何かしたいこととか無いの?」

 

 考えこむようにしているマグメルの頭の中にはモネとシュガーの顔が思い浮かぶ。2人と再会し、ちゃんとした謝罪をするのがマグメルの人生の一番の目標だった。それが無くなった今、マグメルにはぽっかりと穴が空いていた。

 

「……他のみんなの夢とかを応援するのが私の今の夢ですよ。案外楽しいですよ?」

 

「ちょっと意外。マグメルってもっとガツガツするタイプだと思ってた」

 

「そんな事無いですよ。私ももう24。落ち着いてきましたし、支えることが嫌いならいつまでも副艦長なんてやってませんよ」

 

「もう寝る時間なので、寝させてもらいますね。カリーナもあんまり自由奔放にしてると貰い手が無くなりますよ」

 

「……そればっかり言わないでって」

 

 スロットが当たったこともあって眠くなったマグメルはそのまま眠っていく。置き土産のように置かれた言葉に言い返そうとしたカリーナだったが、眠ったマグメルを見ているとそんな気を無くしたのか、台と睨めっこをまた始めた。

 

 

★ ★ ★

 

 

「いつもこそこそしてるよねヴィレムって」

 

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。おれはいつだって正直真正面に生きてるぜ?」

 

 いつもの如く赤犬へと電伝虫へ連絡しようとしたヴィレムの元へつけてきたのか、気配を出したアデルが現れる。アデルは最年少特有の天真爛漫の笑みを浮かべていたが、その見えている片目はしっかりとヴィレムを貫いていた。

 

「睨むなよ。その片眼って案外怖いんだぜ? もう少し配慮をしてくれよ」

 

「ルー兄っていつもいつも頑張って自分で背負い込んでるんだ。マグー姐は表には出さないけど、ああ見えてみんなのことを思って行動してる。シオンはルー兄とルッカのことを思って生きてる。ルッカはシオンのことしか考えてないよね。カリーナは大人だし、周りを見つつ行動してる。エレカは自分の欲望しか考えてない。ユーシスは誰かに成ろうとしてる。みんなはみんなのことが見えるんだ」

 

「ヴィレムは何のために生きてるの?」

 

 すっとヴィレムの身体を冷や汗が通り過ぎる。これまで何年もアデルとは同じ船の上で暮らしてきた。だが、ヴィレムはこんな風にアデルに恐怖を感じたのは初めてだった。まるで自分の正体が分かられているようでならなかった。

 

「ずっと分かんなかったんだ。ヴィレムが何の為にこの船に乗ってるのか。全員と話すのなんか私ぐらいだからさ、ヴィレムが一歩引いてるのだって分かってるけど、子どもだから、何でそんなことするか分かんない」

 

「都合のいい時だけ、子どもを使うなよ。全くよ」

 

 アデルがヴィレムの正体を知ってるわけではなさそうだと分かったことで、ヴィレムは肩の力を抜き、質問に対してどう答えるか考える。ヴィレムにとって存外何の為に生きるという質問は答えにくい質問に他ならなかった。SWORDの任務の為に生きているという答えも一つの答えではあるが、それも何かしっくりこず、それを答えるわけにいかない。

 

「……俺自身の正義を探すためだな」

 

「よくわかないんや。ヴィレムにとって正義ってそんな大事? 私は正義なんて無くても生きていけると思うけどなー」

 

「正義をかざして生きてる奴や正義に振り回されて生きてる奴がいるんだ。そいつらが楽して生きれる正義を探すやつが居てもいいだろ?」

 

 ヴィレム自身、自分が何を話しているのかははっきりとは分かっていない。しかし、ヴィレムはこれだけは分かっていた。自分だけの正義を探す為に自分は色んな場所を見てきたのだと。

 

「ちゃんとあるじゃん。もっとそういうの話してくれても良いのになー」

 

「まっ、俺はこういうスタイルが合ってるのさ。お前こそ、何のためにこの船に乗ってるんだ?」

 

「私はここが家だからねー。復讐も出来たし、もう後はここでゆっくりするのが生きる意味? 多分」

 

 幼い頃からこの船で生きてきたアデルにとってはここが家であり自分の居場所。そこで生きていくのはアデルとって当然であり、ここが無くならないように、誰も居なくならないようにすることがアデルが望み続けることだった。

 

「今が満足ってことかよ」

 

「そういうこと。私は今が一番楽しいだよねー。そこを守るのは当然でしょ?」

 

「確かにな。おれより立派してやがるよ」

 

 ヴィレムから聞きたいことも聞けたのか、アデルはてきとうに手を振りながら、ご飯を食べに食堂へと向かって行く。それを見送りながらもヴィレムはため息をついていた。

 

「みんなを裏切らなきゃあれは黙っといてあげるねヴィレム」

 

 何かを分かっている素振りを見せたアデルにヴィレムは気づかなかった。アデルにとってこの今を壊す人は誰であろうと許せない。それが例え仲間であっても。




 戦ってばかりだったので少し休憩の回です
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