霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
オエステアルマダ号にある図書室。ここには主にオハラから回収した本が収められており、他にも個人が買ってきた本なんかも収められることもあった。そんなところで珍しくルッカがこの場所に来ており、本の掃除をしていた。
「珍しいな、こんな場所にいるなんて。掃除か?」
「シオンがよく使うからな。俺が掃除しとくんだよ」
別にシオンから頼まれた訳でもないが、ルッカは普段からシオンの身の回りをよく掃除していた。島にいたころからの習慣であり、本人たちも気にしていないので周りも何が何かを言うこともない習慣だったが。
「ルッカは掃除が好きだよな。俺はあんまりしないからよ」
「そういう環境だったんだよ。身なりを整えなきゃ出来ないこともある」
ユーシスからの問いかけにルッカは過去を少し思い出す。貧乏な奴らしかいなくて、そんな中でも生きるために身分偽り、身なりを整えなきゃいけない仕事をする。いつの間にかルッカは身の回りを綺麗にするのが癖になっており、ついつい今でもしてしまっていた。
「隣、座るぞ。ルッカは無力感って感じたことあるか? どんなにやっても、やっても目標に届かない、そんな無力感」
「ある。何度だって。シオンを守れるだけの力がもっと欲しい。あいつに訪れる脅威を取り除けるだけの力が」
「だよな。ルッカだったらあるだろうと思ってた」
「……どういう意味だよ」
「絶対に心なんて折れないって目をルッカがしてるからだ。どんなことがあったって絶対に折れないってそういう目を」
ルッカもユーシスもどちらもが絶対に違わない信念を持っていた。ルッカはシオンを守り通すという信念、ユーシスは親父のしたことをし続けるという信念。どちらも本人たちの核となっている信念であり、それが困難に思ってしまうたびに2人は無力感というものを感じており、そんなところが2人はよく似ていた。
「何でそんなこと聞くんだ?」
「俺は俺の中に信念や夢に疑問を持ったことは無い。それが正しいって分かってるからな。でも、進みたくないって思うことはある。その先が何処までも暗闇で終わりが見えないって分かってるからな。そんな時、お前を見ると安心出来るだよルッカ。信念に従って生き続けてるからな」
「勝手に見本にするなよ」
2人は仲間うちの中ではそこまで仲が良い方ではない。しかし、お互いがお互いに思う心から、今、この場では2人の姿はまるで兄と弟のようにそう映っていた。
★ ★ ★
「おい! まだオレは満足しねぇねぇぞ!! 来いよ!」
「言われなくても行きます!」
グラン・テゾーロの中央ステージ。今は観客も居なく、照明も最低限しか灯っていないそんな虚無的な場所。そこではエレカとシオンの刀の撃ち合う音が何度も奏でられていた。
「てめぇが満足するまでやるって言ったんだからな」
「分かっています。私はここでやらなきゃこれからも負けることぐらい」
シオンは先日のキャベンディシュ又の名をハクバに負けてから、何処か心ここに在らずように日々を過ごしていた。そんな折に声をかけたのがエレカだった。シオンも何が原因で自分が悶々としていたかは分かっていた。ドレスローザで引き分けのは自分だけ。そのことがどうしてもシオンの脳裏を支配していた。
「燕大返し!」
「ハッ! ルーファスの技なら俺に勝てるってか?! 甘ぇんだよ!」
「
シオンの大技を武装色で何重に頑丈にした片腕と一方の刀で受け、エレカはもう片方の刀で斬撃を飛ばし、シオンの体に傷を負わせる。それは仲間にやるとは思えないほどのもので、シオンは血を流しながらも不屈の目をエレカに向ける。
「私はこのままだと足手纏いなんです。兄様や兄さん、みなさんにも迷惑をかける。それだけは嫌なんです。私はみなさんの役に立ちたいから」
「そこまで強くなってやりてぇことが役に立つことだけか?」
「ええ、私は今ここにある自分の居場所を守る為に少しでも役に立ちたいんです」
シオンは自分がこの船を守れるほどの力を持っていると言えるほど驕ってはいない。だが、この居場所を守りたいという気持ちだけは本物で、その為に強くなろうとするのが今のシオンの目標だった。
「ハッ、もっと自分の為に生きやがれ。俺は言ってたよな。鳥は何のために飛ぶかって。答えは変わってるか?」
「自分の居場所を探すためです」
「変わんねぇか。つまんねぇな!! 自分で自分の力で生きていく為に鳥は空を飛ぶんだよ! もっと自分を考えやがれ!」
ある種の的外れとも言えるエレカの言葉だが、それはある意味で筋の通った意見だった。だが、シオンはそれでも自分の目標を変えるつもりは無かった。自分の守りたい人たちをサポートするために自分は生きるのだと。
「……だったら……だったら、あなたは何のために生きるんですか?」
「おいおい、今更そんなこと聞くか? おれはな、生きる心地を得るために戦ってんだよ。戦えば戦うほど俺自身が生きてるんだって感じれる。それを証明し続ける為に戦うんだよ」
何処までも自分のことだけを考えたエレカの考え方にシオンはどうしようもない嫌悪感を覚えると同時に本人も自覚が無いほどに小さくだが、羨望を抱く。それはそれとして、エレカとシオンの考え方は真反対とも言えるもので、2人は互いに睨み合う。
「私は飛べなくなったっていい。それがみんなの役に立てるなら」
「どんな生まれだったらそんな考え方になるんだよ!?」
「
「
まるで空間を裂くが如しのシオンの斬撃もエレカは笑いながら、いつもの飛ぶ斬撃を細かくし、まるで拳銃の弾のようにしたもので向かえうつ。その銃弾のようなものが数百個あってもシオンのその斬撃を止まることは出来ないだろう。だが、エレカは現在進行形で生産しつつけることでその数は数千近くになり、シオンの斬撃を相殺した。
「私ではやはり無理ですか……」
「悪くねぇが、俺に敵うなんてことは考えんじゃねぇぞ。てめぇはてめぇの考えを持ってるだけマシだけどな」
あまりの落ち込み具合にエレカもどう対応すれば良いか迷い、自分自身でシオンに思っていることを言った末に何処かへ去って行く。エレカはあまり意識もせずに言った言葉だったが、シオンの心の何処かには響いたようで、シオンはゆっくりと立ち上がる。
「意外に……良いこと言うんですね」
お互いに帰る場所はほとんど一緒だが、別の道を進んで行くエレカとシオン。その足取りの早さに違いはあれど、2人とも途中で止まることは無かった。
★ ★ ★
目が覚め、ほとんど身体も元通りと言って差し支えの無い具合まで回復したルーファスは久しぶりに厨房に立ち、米を炒め、卵を焼く。
「私の分も作って下さいよ。久しぶりに2人で」
「本当に久しぶりだね」
マグメルのリクエストに応え、マグメルの分も同じものを作り始めるルーファス。2人以外誰も居ないこの場所では料理の音はよく響き、会話は無くともその音で2人は心地が良かった。
「出来は良く出来たと思う」
「うん。昔と変わらない良いオムライスですね」
昔から料理が得意だったルーファスのオムライス。その懐かしくも、美味しいその味をマグメルはしっかりと噛み締めていく。
「ルーはこれから先どうしようかって考えてますか?」
「……高みを目指したいかな。その先に僕の死に際があるだろうから」
「確かに一理あるとは思います。まぁ、私はルーの行く先をサポートするだけですから」
神妙な面持ちながらもルーファスの言葉に頷いていくマグメル。2人がお互いの意見に反対することは無い。お互いに互いに尊重し合い、より良い結論を導き出すだけだった。
「だったら、具体的な行動を決めましょうよ。ここから何をしようにも私たちの自由ですよ? また四皇でも攻めますか?」
ルーファスたちは四皇級と呼べる人物たちと巡り合い、戦ってきた。しかし、その戦績は手放しに喜べるものでは無く、この新世界で好き勝手生きるにはまだ力が足りていなかった。それを分かっているからこそのマグメルの提案だった。
「僕もそう思うけど、その前に戦ってみたい人たちがいるんだ」
「誰ですか?」
「麦わらの一味」
ルーファスは超新星と呼ばれる同期の活躍やその生き様を間近で見るたびにその輝きに憧れと自分には無理だという悲観をしていた。その中でも麦わらのルフィに対してはあんなにも人を惹きつける、まるで物語の主人公のような人間がいるのかと、他より一層の憧れを持っていた。
「ロビンさんがいるのであまり戦いたくありませんが、何か理由でもあるんですか?」
「そこまでの理由は無いよ。でも、僕は彼と戦うことで自分という人間をもっとよく知れて、自分がより成長出来ると思う。だから、これは僕のエゴだよ」
自分のエゴだとはっきり言い切るルーファス。普通ならば、その言動を咎める人間もいるだろう。しかし、ここにいるのはルーファス本人と相棒と言える関係ほどのマグメルのみ。
「良いですね。この船はルーが一番上です。好きに決めて下さいよ。私もその海賊団には色々と知ってる顔はいるので」
「ありがとう。いつもみんなに苦労ばっかりかける」
「ここの長がそう簡単に謝らないで下さい。ルーはルーの道を進んでください。その道を舗装するのがルーを連れ出した私の責任ですから」
責任。言うだけなら簡単だが、マグメルが発する責任という言葉の重さにルーファスは強く頷く。ここまで自分のエゴを強く出したルーファスは誓う。絶対に誰も死なずにその戦いを終わらせてみせるのだと。
「さて、そうと決まったら、闇から今の麦わらの一味の情報を集めますか」
「うん、そうしよう」
★ ★ ★
各々が傷を完治させ、麦わらの一味が戦っているであろう島の近くまでグラン・テゾーロがゆっくりと移動している途中、グラン・テゾーロにまるで隕石のように空から軍服に身を包んだ何かが落ちてきた。
次回からはいよいよ戦いの始まりです