霧となった少年は最悪の世代に数えられるようです。 作:地支 辰巳
やっと船が出来るらしく、僕とマグーはこれまで載ってきた船が置いてある中央港とはちょうど反対にある港に向かっていた。
「いやーやっと完成ですね。一年半も待ったかいがありましたよ」
「マグーが無茶な注文しちゃうからでしょ?軍艦用の鉄を用意するの苦労したって言ってたよ」
「でも、そのおかげで、ルーはミスト海賊団艦長になるんだから、良くないですか?」
僕にとっては船長だろうが、艦長だろうが、どちらでもいいんだけど、マグーがそうしたいって言うんだったら、別にそれでも良いのかな?
そうした雑談などを続けている内に船が見えて来た。多分他の平均的な船よりも巨大で、軍艦みたいに鉄で色んな所が補強されていて頑丈さは見ただけで良くわかった。帆には当たり前だけど、まだ海賊のマークは着いてなくて無地だった。
「どうだ。これで満足かおめぇら?」
そうして船に注目していたせいで、気づかなかったけども、船を作ってくれたおっちゃんが近くにいたようで、声をかけて来た。
「ええ、ほんとすごいです。ここまでありがとうございました」
「それはいいが、おめぇらはその、帆はこのままでいいのか?賞金首なんだろ?」
おっちゃんの一言で、海軍を呼ばれたのかと思った僕らが黙って、場が一瞬凍ったのだけど、おっちゃんの態度や周りの様子を見るに海軍がいないことを悟ると、僕たちは警戒を解いた。
「気づいちゃってたんですね。おっちゃん。私たちの首を差し出したりしないんですか?」
「いや、おめぇらは俺の客に変わりねぇからな。わざわざ数少ない客を売るような真似はしねぇ」
頼んだこの人が温厚で、優しくて、すごくよかった。船もすごくカッコいいし、こんな良い人はそうそう居ないだろうな。
「僕らは賞金首だし、海賊になる予定です。だから、帆のことまで迷惑は掛けれませんから、大丈夫です」
そこから僕らはおっちゃんから、もう船を使っても良いと言われたので、前の船から取ってきた荷物を置きながら、中を一通り見て回ることにした。船内はすごく広くて、個室もいっぱいあって、過ごしやすい良い空間だなと思った。
「おっちゃん。ちょっとベットで寝てもいいですかね?なんか一気に気が抜けて眠くなってきちゃって」
「ああ、それはもうおめぇらの船だ。好きにしてくれや。俺は外で適当に釣りをしているからよ」
おっちゃんが行ったら、マグーは直ぐにベットに寝転がって、寝るようにともう目が閉じ始めていた。
「マグーが昼寝をするなんて珍しいね。何かあったの?」
「いえ、別にそんなんじゃないんですけど、ここまで来たなーって思ったら、一気に眠くなっちゃいまして、ルーも一緒にどうですか?」
僕もマグーもいつも、夜遅くには刀とか銃の手入れをしていたり、見張りをしてたりするから、寝る時間なんてバラバラなことが多くて、一緒のベットで寝ている感覚はお互い無いけど、偶にはこんな風に寝るのもいいかもしれない。
「そうだね。じゃあそうしようかな」
僕らはそのままベットで仮眠をとることにした。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「おい!街の方が大変なことになっているぞ!起きてくれ」
僕らがスヤスヤ眠っていたところに、おっちゃんが大声を上げながら入ってきた。
「うーん……どうしたんですか?そんな大声なんて出して」
僕もマグーも意識はっきりとしていなかったけど、段々と目が覚めてきた。
ふと、僕が窓を見ると外が真っ暗になっていて、随分と自分たちが寝ていたことが分かった。
「いや、さっきまで俺も釣りをしていたんだが、いきなり大きな音がしたかと思ったら、街の方が赤くなっていくのが見えたから、おめぇらを起こしたんだ。おめぇらは賞金首だから、狙われる可能性もあるからな」
街を焼くような奴か……やっぱり海賊なのかな。正義感でも何でも無いけど、僕らが一年半も過ごした島だ。どんな奴かは分からないけど、少しぐらいは戦ってきても良いかもしれない。
「ルーもやる気十分そうですねー。私たちはせっかくの船出を邪魔されたお礼をしに行ってきますね。おっちゃんは適当な場所に隠れといて下さいね」
おっちゃんが静止の言葉をかけていたようだけど、それらを無視して、僕たちは燃え盛っている街の方へと向かった。
街の方へ近づくごとに焦げ臭い匂いがしてきた。そこからさらに進んで、街へと着いたら、燃えている建物や、死体があったり、サーベルや銃を持った明らかに海賊な奴らが略奪をしていた。
「ルー。あいつらってクズですから、殺しちゃっても構いませんよね?」
「問題無いよ。まだ奥の手は使わないんだよね?」
「もちろんですよ。使うなら船長や幹部くらいにしか使いませんから」
マグーは悪魔の実を食べてから、獣型や人獣型に変身するのを油断させるためと言って、使うのを最後まで取っておいていた。だから今戦っている時も、僕は霧の能力を使いながら戦っているけど、マグーは前と一緒で銃で戦っていた。
「とりあえず、片付きましたね。このレベルだったら八宝水軍の方が強かったですよ」
「大体の敵だったらそうだと思うけど……ん?」
僕が港の方向を見ると、蒸気船の近くに海軍の軍艦のようなものが泊まっていることに気づいた。もしかしたら、これをやったのは海軍なのか?いや、さっきのあいつらは根っからの海賊だった。だったら海軍の軍艦を奪った奴がここに略奪しに来たということなのかな。
「マグー。港の方へ行ってみよう。敵の船を見つけたから、いるとしたら船長はあそこにいると思う」
「了解です、ルー。とっとと行きましょう。大将首を取った方が早いですから」
僕らは途中にいる海賊を倒しながらも、出来るだけ早く向かった。港近くに着くと、そこには多くの死体と海兵のコートのような物を着た巨漢が笑みを浮かべながら立っていた。こいつの顔、僕はこいつを知っている気がする。多分、新聞でも、手配書でも見たことがあったけど、確か異名は……
「立派な武器なんてもって、てめぇらはこの島の奴じゃねぇな?」
「ええ、海賊になる予定の賞金首ですけど?……貴方はいったい誰ですか?」
「わざわざ俺が言うことじゃねぇ。隣の餓鬼は知ってそうだけどな?」
あいつが僕に振ってくるから、マグーもこっちを首を傾げながら見ている。
「マグー。あいつは堕ちた海軍将校で、別名将軍なんて呼ばれてる、懸賞金6500万のガスパーデだと思う」
僕がガスパーデの名前を呼んだ瞬間、あいつの顔がニヤリと笑った。一般的に懸賞金は強さと大体比例しているって言われるから、僕らがガスパーデに勝てるかどうかは今の所は分からない。それに、まだ僕とマグーは覇気は取得出来ていないから、ガスパーデが自然系とかだったら勝てる手段は持っていない。
「暇つぶしに、クズみてぇな海賊になりたいっていうてめぇらの相手をしてやろうじゃねぇか」
嘗められていると分かった僕が、攻撃を加えに行こうとする前に、同じく今の言葉にイラッとしたマグーがすでに発砲していた。でも、撃ったマグーの弾はガスパーデの体を自然と通り抜けていった。
「よりにもよって……自然系」
僕がガスパーデの能力を悟った瞬間、その巨漢が近づいて来て、その腕を僕に向かって振りかぶった。なんとか能力を駆使して一発目は避けたけど、あいつの腕が尖ったかと思うと、僕の肩を刺して、そのまま地面に突き刺した。
「てめぇの方が自然系じゃねぇか。痛いだろう?自然系の奴は痛みに弱いからな。ゲームの時に楽しめるから好きだぜ」
これまで生きてきた中で、味わったことの無い痛みだ。傷口が気持ち悪くて、熱くて、いつの間にか出なくなったと思っていた涙まで出てきそうになる。
「ルーから、離れて下さいよ!」
マグーがその体を獣型である、翼の生えた虎に変形して、こちらに向かってきた。僕にしか見えてないガスパーデの顔は笑っていて、自分が攻撃されて痛みを負うなんて全く考えていないみたいだ。
マグーが硬く固定した翼で、背中からガスパーデの体を切り裂いた。でも、その切り口は離れたかと思うと、直ぐに泥のようにくっついた。
「くっ、ガスパーデ、貴方の能力っていったいなんなんですか?」
「俺はアメアメの実の水飴人間だ。にしても、てめぇらは自然系と動物系と良い能力を持ってやがるな。どうだ、俺の手下として働くのは」
水飴ってことは、超人系なのか。それでも、この無敵さということは、懸賞金も伊達じゃないってことみたい。そんな奴相手でも、僕は簡単に負けを認める訳にはいかない。
「僕らは誰か一人の人間の下に着くことなんてしません。例え、貴方みたいな勝機が見えない相手でも」
「霧細工
僕はガスパーデへの攻撃への最初の一手として、針の形をした霧を千個作り出して、そのまま全てガスパーデに直撃させた。その間に僕は霧化して、人型に戻ったマグーの隣まで来た。
「今の攻撃は中々良いじゃねぇか。ほとんど効かなかったがな」
水飴らしいその体には、やっぱり全く効いていなかった。勝てないからって、逃げるのか?こいつから?違う。この島を護りたいから逃げないとかそんなんじゃない。僕とマグーのただの意地の問題なんだ。
「ルー。私たちが今からどうするか分かってますよね?」
「満足するまで戦って、逃げるってことでしょ?」
「そういうことです。私たちはまだまだ若いですから、倒すチャンスはいつかありますよ」
また獣型に変形したマグーが突撃して行き、僕は自身の攻撃をするための準備をする。打ち合わせなんて必要ない。僕とマグーなら合わせられる。
「
「霧隠れ 五里霧中」
マグーが虎となった牙で、ガスパーデの体を噛みちぎったと同時に、僕は霧を展開した。そして、霧の中を移動して、ガスパーデの背中側に出てくると、首に狙うように自身の刀を構えた。
「
しっかりと刀は喉元に突き刺さったが、水飴人間と言っていた通り、刀が絡め取られて動かせなくなっていた。
「夢を追って現実を見ねぇ馬鹿みたいな海賊になりたがるか。理解出来ねぇな。
僕は巨漢の手に掴まれて身動きが取れなくて、マグーも硬質化させて飴が無数に生えた足で踏まれて、痛みに耐えている。
「そんな物に興味なんてありませんよ。私とルーは刺激ある自由な生活を送るために海賊になるんです」
「面白ぇじゃねぇか。もう一度聞くが、俺の部下になる気は無いか?」
ガスパーデは僕と僕の刀を川の近くに放り投げて、マグーも僕と同じ場所に向かって蹴った。そして、この戦いはもう終わりかのように、もう一度だけ誘いをかけてきた。
「ガスパーデ。貴方の部下になることに対して、僕は自由を感じない。だから嫌で」
僕が最後まで言葉を言おうとした時、川の上流から、声が聞こえてきた気がした。そのまま川の方を見ると、子どもが川に溺れながらも、必死に手を挙げて、声を出して助けを求めていた。しかも、あの子は……。
「マグー!あの子を」
「分かってますよ!そろそろ頃合いでもありますしね。じゃあガスパーデ、私たちはこの辺で」
「いつか、貴方を仕留めてみますから」
「暇つぶしぐらいにはなったな餓鬼どもが」
獣型になったマグーは川に溺れていた子どもを口に咥えて助けると、そのまま僕らの船に向かった。僕も霧にしながらマグーの後を追った。
♦︎ ♦︎ ♦︎
船の元に戻った僕たちが、ぼろぼろなのを見て、おっちゃんが駆け寄って来て手当てをしようとしたけど、軽く断っておいた。それから、ベットの置いてある船室に子どもを寝かせた。今は意識が無いようだけど、数日ぐらいしたら目は覚ますとは思う。
「おっちゃんはこれからどうします?私たちの船に乗せることも、他の島に送ることも出来ますよ?」
「いや、俺は大丈夫だ。ずっとこの島で暮らしてきたんだ。いまさら、他の場所になんか行けねぇ。だけど、その子は連れて行ってやってくれ。この状況じゃあ、多分、その子の家族は……」
この島にもう生き残りは数えるぐらいしか思えるほど、この島に活気ある造船島としての面影は残っていなかった。迷子のこの妹を探していて、アイスを食べ合ったあの兄は死んでいるのかもしれない。
「家族を失う辛さは僕も分かる。この子が起きてから何て言うかは分からないけど、僕にマグーがいてくれたみたいに、この子の居場所になりたい」
「大丈夫ですよルー。もしこの子が降りたいって言えば別の島でも、この島でも降ろしにくればいいですから。もし、一緒に居たいって言ってくれたら、私も命をかけますから。だから、おっちゃんも心配しないでください」
「ああ、おめぇらのことを無闇に人を殺すような悪党だとは思ってねぇ。例え賞金首であっても、俺が選んだ客でもあるからな」
そして、島からガスパーデが去ったと思ったぐらいに、僕らは一度仮眠を取った。出港する準備も整えて、帆にはマグーが軽くドクロを描いて、その上から霧ような白いモヤモヤした虎を描くことで、僕らの海賊旗が完成した。
「じゃあ、おっちゃん。私たちそろそろ行きますから、手配書とか新聞で活躍を確認しといて下さいね」
「僕からもありがとうございました。貴方ような良い人に船を作ってもらえて良かったです。あの子のことも任せて下さい」
「おう。おめぇらの活躍は見といてやるから、あの子のことを頼んだぞ、ふたりとも」
おっちゃんの上手く笑えていない笑顔を見ながら、僕らの船はこの島を出港した。
船も作れた。自分たちはまだまだだと言うことも学べた。初めての仲間も得られるかもしれない。
そして多くを得られた、ここがミスト海賊団の旗揚げの場所だ。
元海軍将校なら、覇気を取得しているかなって言う話。
これで海賊への準備編は終わりです。
そして、初めての仲間は映画のキャラのあの子でした。