聖剣を作り、担う女の子
『赤き龍の子にして、楽園の妖精よ。
君と君の個性は、やがて世界を救うだろう』
……それは、物心つく前から何度も聞いてきた、曖昧な夢の中の声だった。
私は次の春を迎えれば高校一年生になる年齢まで生きてきたが、今でも言葉の意味が分かっていない。
赤き龍の子ってなんだ、私の両親は普通の人間だ。
楽園の妖精ってなんだ、そんな頭お花畑な名乗りをしたことはない。
世界を救うってなんだ、この世界には何十年も前から平和の象徴がいるじゃないか。
だから、本当に何もかも全部がわからない。
言いたいことがあるならはっきり伝えろと何度も心の中で文句を言ってるのに、この15年間の中で夢の言葉が一文字でも変わることはなかった。
「……それなのにおかしいよね、あんな言葉を馬鹿正直に信じてこんなところまで来たんだから」
わたしのことを視界に収めると同時に襲ってきた
そんな、サーチアンドデストロイを繰り返すこと約30回。
雄英高校入学試験、実技演習。
街一つを再現した場所で、あちこちに配置されているロボットを倒し、より多くのポイントを稼ぐのが今回の試験内容。
この試験で試されるのは、機動力と破壊力と情報収集力。
どれだけ効率よくロボットを倒す方法を考えても、実行できる速さが無ければ意味はない。
どれだけ速く動けても、敵を倒す手段が無ければ意味はない。
どれだけ力が強くても、誰かに先を越されては意味がない。
しかし、求められる全ての課題をクリアすれば、栄光の道へ続くその門が開かれる。
数多のヒーローを、あのナンバーワンヒーローであるオールマイトをも輩出した名門校。
日本中のヒーロー志望の子どもたちの誰もが憧れる、雄英高校ヒーロー科。
そして、わたしの個性を『世界を救う個性』に成長させてくれるであろう、唯一の教育機関。
「なんて思って試験を受けてみたけど、やっぱ違うかも。わたしの個性を対人戦が出来るよう矯正される気がする」
対人戦もできなくはないけど、わたしが雄英に求めているのはそれではない。
そう例えば、山のように巨大な敵と戦うときの訓練なんかをしてみたいのだが――、
「あれ? 試験の説明の時に、そんなでかいロボットが出てくるって言ってたよね? あれが出てこないとちょっとプランを変えないといけないから困るんだけど――」
「お、おい! 何そこで突っ立ってるんだよお前! 早く逃げろ! あれに潰されるぞ!」
「え、あれって何のこと――って、もう巨大ロボット出てる!? 何かちょっと破壊音が増えたなとは思ったけど、誰かの個性かと思っちゃって全然気づかなかった!」
「分かったらさっさと逃げるなり何なりしろ! 死にたいのか!?」
噂をすればなんとやら、同じく受験者である男の子が走ってきた方向を見上げると、ビルの高さ程ある巨大なロボットがこちらに向かっていた。
ところで、この試験ではロボットを倒せばポイントを貰えるのだが、貰えるポイントは実はその種類によって大きく異なる。
1ポイントが基本であり、強さが上がるほどに2ポイント、3ポイントと増えていき、合計で4種類のロボットが存在する。
では、この巨大ロボットは10ポイントくらい貰えるのかというと、残念ながらその逆。
これのポイントはなんと0であり、説明で無視することを推奨される始末。
だが、それでもわたしはこのロボットを倒すべき――いや、倒さなくてはならない。
事前に決めていた、この巨大ロボットが出てきたときのシミュレーションに従って、私は手に握っていた剣を消滅させる。
その代わり、体内に貯めていたよくわからない力――とりあえず仮の名前として魔力と呼んでいる――のほとんど全てを費やして、先ほどとは別の剣を生成。
それは、わたしが持ち得る剣の中で最上の一振り。
強大な敵との戦いのために生み出されたその剣を両手で構え、わたしは巨大ロボットの進路上に立つ。
「これ使うのいつぶりだろう? ざっと5年近くかな?」
「いやお前聞いてたか俺の話!? さっさと逃げなきゃ潰されるって!」
「あれ、あなたは逃げなくて大丈夫なんですか?」
「いや、腐ってもヒーロー志望の人間が目の前で襲われそうになってる女の子置いて行けるわけないだろ……」
「心配してくれてどうもありがとうございます。でも、今から私があれを倒すので大丈夫です」
「いや、いくらなんでもそれは無理だろ――いや、無理だよな……?」
こうして話している間にも巨大ロボットはすぐ目の前まで迫って来ていて、それと同時にこちらの準備も完了する。
「――聖剣、開放」
わたしの声に呼応して光の奔流が剣身に宿り、その金色の光は圧倒的な光量をもって自らの存在を世界に刻みつける。
これこそが、わたしの個性によって生み出された聖剣の力の一端。
個性とは、ある時期を境に世界中の人間に見られるようになり、今では世界の約8割の人が持つと言われている特殊能力。
その力は非常に多岐にわたり、個性が遺伝する親族以外では同じ個性を持つ人がほぼいないと言われるほど。
そして、わたしの個性の名前は聖剣作成。
鉄を打つのではなく、エネルギーの一種である魔力を編んで特殊な力を持つ剣を生み出す力。
作る剣の種類によって特殊な力の種類も変わるが、その中でもこの剣は最強の一振りだ。
というのも、この剣だけは威力が余りにも強すぎるため、初めてこれを使った後に親や先生たちから街への被害が大きすぎると言われて、使うのを禁止にされた程の代物なのだ。
しかし、今は個性も使った戦闘能力を測る実技演習。
それに、わたしにはこの剣以外にはあの巨大ロボットを倒す手段がない。
そして何より、他の受験者は皆巨大ロボットから逃げているため誰かを巻き込む心配もなく、よってこの剣を使うことを咎める人はいない。
「――束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流」
……これはあくまでもわたしの推測なのだが。
この巨大ロボット、事前にスルー推奨と説明されたが、本当にそうだろうか?
確かに、
それに、戦っても勝てない敵には立ち向かわずに命を守る判断をするのも大事なことだろう。
――だからこそ、もしもこの巨大ロボットを倒す力を持つ人がいれば、果たして雄英高校はそんな人物を放っておくだろうか?
雄英高校だって、進学校のうちの1つなのだ。
だからこそ実績を出すことを求められるし、そのためにはより強力な個性を持つ人間を欲しがるのは当然だろう。
そして、そんな力を持つ受験者がいるかを確認するための手段こそが、この巨大ロボットではないかと思うのだ。
だから、わたしは今出せる全力をもってあの巨大ロボットを討ち果たす。
わたしの個性を、その力を雄英高校ヒーロー科に入学するにふさわしい物だと示すために。
「――受けるが良い!
――其は、かつてアーサー王が手にした剣と同じ名を与えられた聖剣。
光を束ね、その圧倒的光量で全てを切り裂く究極の一撃。
その一撃が、巨大ロボットを真っ二つに切り裂き、ここに巨大ロボットはその機能を完全に停止させる。
「……でも、やっぱりまだ威力が全然ですね。いや、ロボット相手には過剰だったと思うんだけど、本来の力はこんなもんじゃない気がするというか……」
「いや、あれで全力じゃないのかよ!? お前、本当に何者なんだ……?」
こうして、彼女の入学試験は終了する。
実技演習最終結果、67点。実に全体で5位という成績。
主席には届かなかったが、それでも十分優秀な結果を残し、ここに彼女の入学が決定する。
彼女の名前は、アルトリア。
個性である聖剣作成を持つ、聖剣の担い手。
そして、来年度より雄英高校ヒーロー科1年A組の一員として、世界をかけた戦いへとその身を投じることとなる者である。
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