......え、時間が経つの早すぎない?
雄英高校には、ヒーロー基礎学のように、ヒーロー育成高らしい授業の他にも、英語や数学のように、普通の高校でも扱う教科の授業もある。
それらの授業に共通しているのは、どれも非常に難しい内容を取り扱っていること。
雄英高校は、ヒーロー育成校として有名な場所だ。
しかし、学業の方も、特にヒーロー科は入学のためには偏差値が79は必要と言われる程、高い成績を求められる。
正直、聖剣作成なんて強個性を持つわたしからすれば、実技試験よりも、筆記試験で合格点を取る方が難しいと感じていたくらいだ。
つまり、何が言いたいかと言うと。
「先日に続き、今日も素晴らしい戦いだったな、ペンドラゴン卿。隣に座っても構わないだろうか」
「常闇君もすごかったよね! いいよ、全然座って! 別に許可取る必要もないし!」
「卿ほどではない。それと、席が全く見つからず困っていた。感謝する」
お昼休み、雄英の食堂にて。
プロヒーローの1人であり、凄腕の料理人であるランチラッシュが、非常に安い値段で絶品の料理を提供してくれるこの場所は、お昼休みの混雑具合が尋常ではない。
少しでもタイミングが遅れてしまうと、常闇君のように席を求めて、さまよい歩くことになりかねない。
特に、それが激しく体を動かした戦闘訓練の後の場合、致命傷になりかねないのだ。
さて、それはそれとして。
「やっぱり呼び方、変えてほしいなぁ」
「良いと思うのだがな……やはり不服か?」
「うん。だってわたしは別に、名前に卿なんて付けて貰えるような凄い人じゃないから」
わたしの個性に関連のある人物、アーサー王。
もちろん、彼の物語は知っている。
国と民を守るため、たくさんの強い敵と戦った彼と、円卓の騎士たちの物語。
夢で何度も世界を救うと告げられたことに、何か関係があるのではと思い、何度も何度も読み返した。
彼らの凄さは、誰よりも知っている自信がある。
だからこそ、さすがに卿呼びは気後れするというのが理由の1つ。
そして、変えて欲しい理由がもう1つ。
「それに、クラスメイト同士の呼び方らしくないもん。せっかく、同じ学校の同じ教室で学ぶ仲間になったのだから、わたし、常闇君ともっと仲良くやっていきたいな」
さっきの理由よりも、こっちの方が重要で。
わたしたちは騎士じゃない、クラスメイトなんだ。
だったら、名前で呼び合う方がずっと良い!!
「だから、ペンドラゴン卿なんかじゃなくて、気軽にアルトリアって読んで欲しいな!!」
「…………。……そう、だな」
「……? 常闇君、どうかした?」
まるで、石になったかのように動かない常闇君。
かと思えば、顔を覗くと目を逸らされてしまう。
「……アル、トリア」
(……? どうして今、間が空いたの?)
「……ところで、話は変わるが、今日の戦闘訓練で気になることがあってな。その時に使っていた不可視の剣について聞いても良いか?」
今も、若干目が合わないことが気になるけれども、質問には答えなければならないだろうから、一旦スルーすることにした。
わたしの剣で、不可視のものといえば1つだけ。
「
「あの剣は、インビジブルエアと言うのか!?」
「え? あ、うん。そうだけど……?」
あ、目が合った。
今度は目をキラキラさせているのを見て、また少し、常闇君のことがよくわからなくなる。
そんなに、わたしの個性が気になるのだろうか?
「
「鞘というと、剣を収めておく……?」
「そうそう!! 剣の周りに風を何層にも重ねることで、屈折率を変えて見えないようにしていてね!!」
しかも、この風の鞘の凄さはそれだけではない。
風の噴射で加速したり、風の防御壁を張ることもできて、かなり広い範囲で応用が効く。
そして何より、ヴィランの逮捕が求められるヒーロー活動において、現在、相手を殺さずに有効打を与えられる数少ない手段の内の1つなのだ。
「なるほど。この前の、轟との戦いで使っていなかったのは何故だ?」
「便利なんだけど、聖剣で直接攻撃するよりも、かなり威力が下がっちゃうんだよね。あの氷の猛攻は絶対に防げなかったと思う」
とはいえ逆に、聖剣を使うと過剰火力になってしまうのも問題だ。
実際、轟君が
そして、これは予想なのだけれど。
「ねえ常闇君、わたしはまだ、エクスカリバーの最大出力を引き出せてないって言ったら信じる?」
「あれ以上の力を、かの聖剣は秘めていると?」
「なんて言ったら良いかな? 聖剣が強力なレールガンだとしたら、わたしは小さい電流しか流せてないみたいな感じかも」
エクスカリバーの100%を引き出すには、わたし自身の出力上限をさらに上げて、相応の魔力を出し続けられるようにならないといけないのだと思う。
でも、もしもこの先、個性を鍛えた先で、100%の領域まで辿り着けたのなら、夢の中で告げられた、わたしの個性が世界を救うなんて話も、案外嘘ではなくなるのかもしれない。
だとしたら、世界を救う時に戦う相手は、どれほど凶悪な人物なのだろうか。
オールマイトが平和の象徴として輝き続ける現代で、史上最悪の魔王みたいな奴が現れるなんて、到底想像できないけれど。
それはともかく、今はわたしの個性のお話だ。
「なるほどな、緑谷とは真逆というわけか」
「そうかも。緑谷君は逆に、最大出力しか出せないから、力をセーブ出来ずに暴走させてしまってる感じだもんね」
休み時間に聞いた話によると、緑谷君は個性の発現がつい最近のことだったらしい。
普通、個性の発現は4歳までに済むはずなので、緑谷君のケースはかなり珍しい。
でも、それなら個性の扱いに慣れていないのにも頷ける。
「……アルトリアの個性も凄まじかったが、緑谷の個性もかなりのものだ。あの戦闘訓練中にビルをめちゃくちゃにしたのは、アルトリアと轟、そして緑谷の3人だけだからな」
思い出すのは、戦闘訓練後での講評のこと。
オールマイト、というよりも八百万さんから、核兵器の保護が目的だったのに、建物への被害を顧みずに全力で戦ったことを指摘されたのは、まだ記憶に新しい。
(八百万さんなぁ、悪い人ではないと思うんだけど、なぜか心に引っ掛かるんだよね……なんでだろ?)
入学当日の個性把握テストで負けたことや、講評で辛口評価をもらったことも理由の1つだと思う。
でも、理由はそれだけではない。
(わたしにはないスタイルの良さに、雰囲気からわかるお嬢様感。それに、どこかで聞いた気がする声)
自分でも、どうしてそこなんだと思うが、それでもやっぱり気になってしまうのだ。
「……アルトリア、どうかしたか?」
「あ、ごめん!! ちょっと講評のこと思い出してて。わたしは怒られちゃったけど、常闇君は褒められてたよね? ダークシャドウとの連携、見てて凄いなぁって思ったもん!!」
「そう言って貰えると喜ばしいな。とはいえ、共に戦った蛙吹の助けも大きかった。でなければ、切島と瀬呂の守りを掻い潜ることは不可能だっただろう」
そうして、楽しいお昼休みの時間が過ぎていく。
授業の反省会をしつつ、それを踏まえた上で、次はどうすれば上手くいくかを話し合ったりして。
学生としての貴重な時間。
ちょっとした青春の1ページを、今日も1枚ずつ
……そのはずだった。
『セキュリティー3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』
「あれ? 緊急のアナウンス?」
「確か、校内への侵入があった際の警鐘のはずだ……! 避難するぞ、アルトリア!!」
雄英高校は、最高峰のヒーロー育成高として、セキュリティーは万全のものが用意されていたはずだ。
それを突破した、侵入者がいるらしい。
明らかな、異常事態。
先輩方も慣れていないのか、我先にと移動しようとする人たちで、食堂が大渋滞になっていた。
「凄い人混みだな……! アルトリア、無事か!?」
「わたしは大丈夫!! 常闇君は!?」
「俺も大丈夫だ、問題はない!!」
大混乱の中、わたしはなぜか嫌な予感に胸騒ぎを覚えていた。
これから、何か悪いことが起きるかもしれない。
何の根拠もない直感なのに、間違いなく当たってしまうような気がして。
全身を包む恐ろしさが、纏わりついて離れなかった。
⭐︎⭐︎
「――――壊すか、希望の象徴」