それではどうぞ!
人の体温というものはとても繊細で、平熱から1〜2度下がるだけで体の機能に大きな支障が出て、最悪の場合、命を落としてしまうなんてことにもなりかねない。
一方で、轟君は氷を操る個性故に寒さに耐性があるというわたしの予想に反して、自らの氷で体温が下がるという反動に耐えきれないでいた。
それはつまり、轟君には必然的に氷を操る限界が存在する証拠に他ならない。
そして、もしも限界まで追い詰めることができれば、恐らく轟君は個性が使えなくなって戦闘不能になる。
「問題はその手段なんだけど……」
限界まで追い詰めると言っても、このままでは決して、わたしが勝利する未来はやって来ない。
相手は、ここまで強力な実力者である轟君だ。
当然自分の限界は把握してるはずだし、その上で行動不能にならないように考えて攻撃しているはず。
だから、それでも限界まで追い詰めようとするのなら、彼の想定を大きく上回る規模の氷を使わせないといけない。
仮に、そんな事が可能だとすれば。
「最初に使ってきた氷壁。あれを何度も使わせるか、あれ以上の規模で使わせることができれば、もしかしたら……」
現状を鑑みるに、マルミアドワーズは決定打にならない。
カリバーンなどの聖剣を使ってもおそらく火力が足りず、戦闘向きではない聖剣は言うまでもなく論外。
だから、勝ちたいのなら使うべき聖剣はたった1つだけ。
「……あの聖剣しかないよね」
こうして長考している間にも襲いかかってくる氷を破壊し続けながら、わたしが持つ最強の聖剣のことを思い浮かべる。
あの力は、まだまだ最大出力に届いていない今の状態でも、とても強力だということはあの入学試験の時に証明されている。
だから、もしも使ってしまえばあの聖剣は轟君を殺してしまうかもしれない。
それを考慮し、あの聖剣を使うことを選択肢から除外しようとして――直後にその考えを撤回する。
ここは全国の高校生で特に上位の者にしか入学を許されない、雄英高校ヒーロー科だ。
そして、相手はその上位の中でも1,2を争うレベルの実力者の轟君。
彼の強さを、この戦闘中にどれだけ味わってきたと思っているんだ。
それなのに、力を抑えて勝とうなんて傲慢がすぎる。
本気で勝利を手に入れるのなら、己の全てを出しきらねば絶対に届かない。
「――解除、聖剣マルミアドワーズ」
声と同時に白の衣装が消失、防具とドレスの合わさったコスチューム姿に戻る。
マルミアドワーズのブーストが無くなり、重力が倍になったような感覚に囚われていると、それを見た轟君は好機だと判断したのか、再び氷壁を放ってくる。
ブーストがない以上、もしも凍らされてしまえば壊して脱出することも叶わずに行動不能になるだろう。
だけど、そんな未来は決して訪れない。
マルミアドワーズの代わりとして振るっていた聖剣を構え、その力の行使に必要な文言を詠唱する――!
「――選定の剣よ、力を! 邪悪を断て、
放たれたのは金色の光。
その力は、どう振り絞ってもあの聖剣には届かない。
だが、詠唱と共に魔力を限界まで込めた一閃は、あの一撃に迫る力を発揮して迫りくる氷壁をすべて吹き飛ばす。
その衝撃は余波で風が吹き荒れるほど凄まじく、風圧で互いに動けなくなった僅かな硬直時間を使って、本命の聖剣を顕現させる。
黄金の輝きを放ち、蒼穹の
両手で構え、視線の先で再び攻撃に出ようとしていた轟君を見据えてわたしは叫ぶ。
「轟君! 今から全力であなたを倒しに行きます! ですから、本気で防ぎに来てください!」
「テメェ、何を言って――」
「――この明かりは星の希望、地を照らす命の証!!」
「――ッ!!」
雄英生には初めて見せた聖剣の姿に、轟君は一瞬だけ驚愕の表情を浮かべ、わたしの発言の意味を理解してすぐに氷壁を作り出す。
わたしが入試の時の巨大ロボットを倒したという話は、既にA組内では有名な話になっている。
もちろん、その倒した手段についても。
そして、轟君がその対抗手段として生み出したのは、都市1つをまるごと飲み込みかねない大津波のような規模の氷壁だった。
巨大ロボ以上の高さと圧倒的質量を持つ攻撃に、きっとほとんどの人は恐怖で動けなくなるか、逃げてしまうかのどちらかなのだろう。
推測ではあるが、もしかすれば聖剣を防ぐだけでなく、このままこの氷壁で押し勝って、そのままわたしを戦闘不能にまで持ち込もうとしているのかもしれない。
けれど、わたしは全く恐怖することなく、むしろ全身を震わすほどの歓喜を噛み締めて、自然と笑みを浮かべながら黄金の聖剣に魔力の全てを乗せる。
「これでこの聖剣を使うのも3回目。もう15歳になったのにまだ3回しか使ったことがないんだ」
……ふと、5年前からずっと、この剣を使うことが許されなかったことを思い出した。
わたしの個性の象徴、聖剣の名に相応しい輝き。
今まで、そんな大事な力と思いにずっと蓋をしなければいけなかったけれども、もうあの頃とは違う。
個性を使うことを許される環境があり、聖剣を使っても対等に戦える雄英生がいるのだ。
きっと、轟君のように優秀なクラスメイトたちとの演習において、これから何度でもこの剣を使う場面が訪れるだろう。
プルスウルトラ――更に向こうへという言葉が、この雄英高校の校訓だ。
ならばわたしは、その向こうへ進むための第一歩をこの一撃と共に歩みだす!
「――決着をつけるぞ!
「――!? 氷が崩れるのが早い……けど、まだ終わらねぇ!!」
振り上げられた聖剣の光の奔流に正面から激突し、巨大な盾であったはずの氷壁は十数秒でその役割に耐えきれず崩壊する。
だが、轟君は言葉通り本当にそこで終わらない。
氷壁がもう保たないと判断した時点で次の氷壁を――しかも壊れたもの以上の氷壁を即座に作り出して、光の奔流と氷壁との衝突音が激しさを増す。
お互いの全力をかけた、この決着をつける最後の激突。
一進一退の攻防、お互いに残された全てを出し尽くして生み出された衝突は、どちらが勝ってもおかしくはなかった。
わたしは魔力消費の多い聖剣を、轟君は大規模な氷を使った攻撃を何度も使ってきたせいで、すでに限界の一歩手前まで近づいている。
故に、勝利を手にするのは相手が限界のその先に征く者。
そして、その勝負を制したのは――、
「――魔力装填。開放、聖剣マルミアドワーズ!」
分厚い氷の壁を吹き飛ばしたことを確信してすぐに、聖剣をエクスカリバーからマルミアドワーズに変更。
戻ってきたブーストを全開にして、一瞬で轟君との距離を詰めてその体の
戦闘を始めてからこれまでの間、轟君は彼の右側からしか氷を出していない。
左側を氷で覆うコスチュームを着ている理由が、何故なのかは分からない。
けれど、ここまで激しい戦闘を繰り広げながら左側での氷の攻撃が行われていないのなら、左側では氷を使えない可能性が高い。
果たして、轟君は右から氷を出して止めようとするが、さっきの攻防で力を使いきったせいか、勢いが足りずこちらには届かない。
そして、わたしはそのまま轟君を目一杯の力で地面に叩きつけて、
「これで、チェックメイトです!」
聖剣の切っ先を首に当て、その上で何本かの聖剣の矢を手足に向けて空中で固定させているのを見せつけての勝利宣言。
――もしも抵抗しようとすれば、その前にわたしが轟君の手足や命を切り捨てる。
もちろん、そんなことは絶対にしないが、本物の敵が相手ならば躊躇いなくそうするだろう。
わたしの言葉に込めた意味を察してなお、轟君は諦めの表情を見せずにこちらを睨みつけ、
「……この戦い、俺の負けだ」
逆転の方法はないと判断したのか、力なくそう呟いたのだった。
作中でも触れていますが、オリ主は幼い頃からエクスカリバー禁止令が出ていて鍛錬してこなかったこともあって全力を引き出せていません。
もしセイバー並の火力が出せてしまったら、轟くんの命が……、
とにかく、これにてアルトリアVS轟焦凍戦は終わりですが、まだヒーロー基礎学編は続きます。
続きが気になる、この作品が気に入ったなどと思っていただけましたら、高評価や感想の方をどうかよろしくお願いします!
投稿時間、いつ頃にするのが良いんでしょうか?
-
18:00
-
20:00
-
22:00
-
00:00(今のまま)