ルパン三世 Little Little Phantom Thief 作:火影みみみ
予告状が届いた日の夜、その日はガルズタワービルにて建設記念のパーティーが行われることとなっていた。
二つの予告状によりパーティーは中止されるかと思われたが、社長自らの強い意向もあってパーティーは行われていた。
「さてと、それじゃあ行きますか」
そう呟くのはサングラスをかけた金髪で中年の男たち。もちろんルパン一味が変装した姿である。
「招待状を確認します」
「あいよ」
三枚招待状を渡す。
名簿と照らし合わせ、本物であることを確認した受付は彼らを通してしまう。
しかし彼に落ち度があったわけではない。そもそもその招待状は紛れもない本物であり、贈られた本来の持ち主たちは今頃地下の駐車場内でぐっすり寝ているのである。これをただの受付人が察しろというのは酷というものであろう。
中は外観から感じた印象通り豪勢な作りとなっていて、テーブルにもそれに負けず劣らずのワインや料理が並んでいる。
それらに目もくれず、彼らは奥のエレベーターに向けて歩き出す。
「このエレベーターで行けるのは二十五階まで、最上階にたどり着くには途中で社員専用のやつに乗り換えなきゃならねえ」
ボタンを押すと丁度一階で止まっていたようですぐさまそれに乗り、二十五階まで行き着く。
そこも人で溢れており、このパーティーの開催規模と招待人数が通常では考えられないほど大規模だということが窺える。
「おーおー豪勢なこって……そういやここには何があるんだっけか?」
ふと次元が尋ねる。
「ここは社長自らが発掘した美術品のコーナーらしい。本来ならバステトの瞳もここにあるべきなんだが、物が物なだけにあれが一般公開されるのはそう多くないって話だ」
「ならなぜ此度の宴にそれが展示されていない? このような宴ならば最適であろうに」
そんな当然の疑問にルパンが答える。
「当然、展示される予定さ。ただしそれは明日の昼から、それじゃあ到底間に合わない」
「確かにな、つくづく厄介な野郎だぜ」
予定を1から練り直す羽目になった恨みをぼやく。
「あったぜここだ」
ふとルパンが立ち止まる。
その先にあるのは社員専用のエレベーター。
「さてと、あとはここから一直線ってわけだな……ん?」
ちょいちょい、と何者かが次元の服を引っ張る。
後ろを振り返るとそこには小さな女の子がいた。
赤い瞳が特徴的な金髪の少女である。
白いドレスに身を包んだ少女がじーっと彼の顔を見つめていた。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」
次元は話しやすいように腰を落とし、目線を合わせて尋ねる。
少女はそのまま次元の瞳を見つめたまま、静かにこういった。
「今はエレベーター使わない方がいいわ。危ないから」
「危ない? そりゃ一体どういう」
その時、突如大きな閃光と轟音がガルズタワービルを襲った。
昼間は晴天だったにも関わらず、夕刻から立ち込めた黒雲から雷が飛来したのだ。
「「「!?」」」
あまりのことで一瞬目がくらむ。
彼らが目を開けると電灯が落ち、差し込むのは外からの淡い光のみとなっていた。
「どうやら、電気系統が故障したようでござるな」
五ェ門がエレベーターのボタンを押すが、反応がない。
「先に乗ってたら閉じ込められてたかもな、助かったぜ嬢ちゃ、ん?」
次元が再び少女に視線を戻すが、そこには誰もいなかった?
「おい次元何してんだ?」
「さっきまでそこに……いや、何でもない」
きっと雷に驚いてどこかに行ってしまったのだろう。そう思うことにする。
なぜ雷が落ちるのを知っていたのか、なぜエレベーターが止まるのかを知っていたのか、聞きたいことはあったが、それよりも仕事が先だ、と自分に言い聞かせた。
「危ない危ない、予知なかったらあの人たち朝まで閉じ込められてたよね」
そう一人呟く少女。先ほど次元に助言をした少女であるが、その正体はもちろん彼女、怪盗NUEこと加藤千代女である。
誰にも悟られずにビルの裏口から侵入した彼女はその後すぐに金髪の少女に変装したのだ。
未だ時代が1980年代基準であるのと、NUEの正体が子供だと知られていないことを利用し、パーティーに呼ばれた参加者の子供を装ったのだ。
事実参加者には子連れも多数おり、子供が怪盗のはずない、と先入観に囚われた社員や警備員たちを素通りして彼女は二十五階にたどり着いた。
彼女が今日この日に盗みに入ることを決めたのには理由があった。そう、先程の落雷である。
彼女が見た予知では『落雷によりガルズタワービルが一時間ほど停電するも予備電源により被害は軽微』というものだったが、彼女は事前にその予備電源を破壊していた。
そうして停電している間にお宝を盗み出そうと考えていたのだが、予期せぬものを見てしまった。
そう、もうすぐ停電になるのにエレベーターに乗ろうとする三人組である。
先程他のエレベーターに細工がし終わり、二十五階で強制停止するようにできたのだが、二十五階から最上階までのエレベーターは手付かずであった。
正直見捨ててもいいが、流石にそれは後味が悪いと思い引き止める。
(……ん?)
話した時に何か違和感を覚えたが、それがよくわからなかった。
そうしている内に雷が落ち、我にかえった彼女はすぐに行動を開始する。
目指すはここからすぐ近くにある階段、駆け抜けながら変装を脱いで最上階へと向かう。
壁を蹴り、天井を伝い、警備の視線を掻い潜り、彼女は目的の部屋、その外側へと到着した。
近くにいた警備員は既に気絶させ、あとは正面にある唯一の入り口を守る者たちだけだが、バステトの瞳が安置されている部屋は広く、遠くて彼らだけでは異変を察知することはできない。
「ふぅ……」
小太刀を手に取り、意識を集中させる。
忍者の中で見れば彼女はなかなかの手練れだが、五ェ門と比較できるほどではない。それほどに彼との力量には差があるのだ。
例えば五ェ門ならば難なく切り落とすであろう銃弾の嵐も、彼女は頑張りに頑張って2・3発が限度である。……いや、それでも十分驚異的ではあるのだが。
「せいっ!」
丸く壁を切り落とす。
警備システムも軒並みダウンしている今、彼女を妨げるものは何もない。
そうして彼女は悠々とバステトの瞳を盗み出し、あとは事前に調べた結果社長室に隠されていると分かったガルズの悪事の証拠を手に入れるだけ、かに思われた。
「「「は?」」」
「え?」
全く同じタイミングで反対側の壁が四角く切り取られ、その先にいた三人と目が合ってしまう。
赤いジャケットの猿顔男、深く帽子を被った男、侍の三名、どこからどう見てもルパン一味だった。
(え、なんでここにいるの? 予知で見た時には大丈夫だったのに!?)
ここに来る前、正確には雷の予知を見た少し後に彼女は今回の仕事が完璧に終了する予知を見た。それはルパンの介入があっても変わらないもので、だからこそ彼女は大胆に色々と細工などができたのだ。
しかし、こと此処に来て予定外の行動を起こした者がいる。何を隠そう千代女自身だ。
あの時の三人組、つまりはルパン一味はエレベーターに取り残され、脱出に時間がかかり、それが原因で本来ならばNUEに遅れをとることとなっていた。
だが、彼女はそれを助けてしまったことにより、彼らも別の階段で最上階へと登り、千代女と同じように警備員を気絶させ、壁をくり抜くという手段を取ったのだ。
つまりは自業自得なわけだが、悲しいことにそれを知るものはいない。
「!」
「まず!?」
最初に動いたのはルパンだった。少し遅れて千代女が走る。
二人が狙うは中央に安置されたバステトの瞳。先にこれらを手に取り、逃げおおせたものがこの場の勝者である。二人はそう考えた。
「させねえよ!」
次元が彼女に向けて銃弾を放つ。
しかし、彼女はまるでどこを撃たれるのかわかっていたように次々と躱す。
「何!?」
「ならば拙者が!」
次元が再装填しているうちに、五ェ門が斬りかかる。
(避けても斬られる、嫌だけど仕方ない)
彼女も逆手に持った小太刀でそれを受ける。
「む、もしや同門のものか!?」
刀同士が激しくぶつかり合い、互いに距離をとる。
まさか動きだけで看破されるとは思わなかったが、そんなことを嘆く暇など彼女にはない。
「キィエエエエエエ!!」
奇声を上げ八相の構えにて迫り来る。
チラリと視線を逸らすと、もうすでに厳重に鍵が掛けられたガラスのケースを外そうとするルパンの姿があった。
「ちっ」
忍者的には美学にかけるかもしれないが、仕方ないと彼女は左手で忍ばせていたそれをルパンに向ける。
黒く輝く6,5インチの銃身、.44マグナム弾が六発分装填可能な薬室、うっすらと輝く木製のグリップ。
次元の拳銃と同じくスミス&ウェッソン社が開発し、映画『ダーティハリー』で一躍有名となった回転式拳銃、S&W M29である。
「まず!」
それに気づいた次元が拳銃を撃ち落とそうとするが、運悪く五ェ門と射線が重なり撃てなかった。
そして彼女は躊躇うことなく二発、発砲する。
一発目はルパンの持っていたカバーガラスを粉砕し、一瞬だがルパンの目をくらます。
二発目は残りのバステトの瞳が安置されていた台座を破壊し、空中へと弾き飛ばせる。
「ほいっと」
「何!?」
恐ろしい速さで近づき、斬鉄剣を振り下ろす五ェ門。それを跳躍して紙一重で避け、彼の胸に両足で蹴りを入れる。
「ガハッ!?」
「五ェ門!?」
蹴られた五ェ門はそのまま次元のすぐ隣の壁へと激突した。
心配した次元が駆け寄るが、五ェ門は胸を押さえながらヨロヨロと立ち上がる。
「何という力だ。常人の脚力ではない」
「マジかよ、どんな馬鹿力……あいつはどこに!?」
ふと視線を戻すと、そこにNUEの姿はない。
嫌な予感がしてルパンの方を見ると、そこには互いに一つずつバステトの瞳を手に収め対峙しているところであった。
なぜこうなったかと言えば、それは五ェ門が蹴飛ばされた辺りに時間を巻き戻す。
五ェ門に蹴りを入れると同時に反動を利用してそのまま跳躍、一気にバステトの瞳へと迫った。
本来ならば二つともバステトの瞳を掠め取るつもりであったが、物事はそううまくは行かない。
銃をしまった左手で一つ目を掴み、二つ目に手を伸ばすが、その前にごつい男の腕がそれを掴み取る。ルパン三世である。
こうして、互いに一つずつバステトの瞳を持ち、睨み合うこととなる。
ルパンはNUEが小太刀と拳銃を持っていたことから迂闊に近づけない。
千代女は近づくことも容易であるし、近接戦ならルパンより強い自信もある。だが相手は世紀の大泥棒ルパン三世である。近づいたが最後、彼女の意識の隙間をついてこちらのお宝を掠め取られることは予知に頼るまでもなく理解していた。
(どうしたもんか)(さてどうしよう)
奇しくも両者の心は一致していた。
両者とも迂闊には動けない。そして次元と五ェ門もただならぬ両者の気配を察して動けない。
このまま何時間経とうとも互いに隙を伺い、互いの持つバステトの瞳を奪い取るつもりであった。
「誰だ!?」
だが、その張り詰めた空気に一石を投じるものたちが現れた。
入り口にて警備をしていた警備員たちである。
「あっちゃぁ、流石にどんぱちやりすぎちまったかなぁ〜」
ついでに.44マグナムの発砲音や五ェ門の奇声など考えると突入するのが遅かったとすら思える。
残された時間は無くなった、無理にでもバステトの瞳を奪おう。そう考えたルパンだったが、相手の方が早かった。
「うん無理」
ルパンに加えてこの後やってくる警備のこと、さらには社長室に立ち入らなければならないことを計算し、彼女はお宝を諦めた。
いち早く元来た場所へと走りさる。
「じゃ、この場は引き分けってことで」
「ま、待て!」
次元が発砲するが、当たらない。
あまりの当たらなさに自信を失いそうになるが、そうも言ってはいられない。
「次元、五ェ門ずらかるぞ!」
黒い衣装のせいもあり、停電した薄暗い室内ではNUEを捉えることは不可能と判断し、彼らも撤退を始める。
「おう!」
「承知……む!?」
何かが五ェ門の元へ飛来する。それを受け取るも、確認するよりも先に撤退を優先した。
この時五ェ門が受け取ったのはとある廃工場の住所が書かれたメッセージカードであった。
後日ルパンがその場に向かうと、丁寧に安置されたバステトの瞳と、『次こそ勝つ』と記されたカードが残されていたと言う。
・加藤千代女
窓を銃で破壊して、そのままムササビの術で逃げ去った。
何でM29にしたかといえば単純に威力こそ正義という脳筋思考から。
もう一丁あるけど、出番はない。というかもう少ししたらデザートイーグルが発売され、その後に.44マグナム版が売り出されるので、多分永遠に予備のまま終わりそう。
次回から「燃えよ斬鉄剣編」始まります