ルパン三世 Little Little Phantom Thief   作:火影みみみ

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メガテンの方の小説でやらかしてしまったので
気分転換に書き溜めていたものを投下します・・・・・・・・・・


燃えよ斬鉄剣編
再会は血に濡れる


 加藤千代女にも休みたい時はある。

 ルパン一味と初遭遇から数ヶ月後、あの後何度かルパンたちと鎬を削る機会に恵まれた。

 今の所六勝九敗四引き分けと負け越してはいるが、それでも十分な戦果といえよう。

 そもそも銭形警部じゃあるまいし、彼女一人でルパン一味と張り合うのは些かばかり実力が足りないと言わざるを得ない。

 それに毎日毎日怪盗家業していると、流石に少し休みたい時もある。ということで毎度のことながら不法入国、いや不法帰国することにした。

 一度国内に入って仕舞えばあとは楽なもので、タクシーを使い伊賀へ向かう。

 その後は道なき道を走りぬけ、人気もない山の奥の奥、そこに彼女の住居はあった。

 住居と言っても形だけであり、家族の思い出とか貴重品などは一切置かれてはいないが。

 二つ名が知れ渡るほどの実力のある忍者であった両親は貴重なものは持ち歩くか、秘密の隠れ家に隠していることを彼女は知っている。

 この家も一族の誰かが連絡したいときの為に残したものであるため、家具や非常食、武装品以外は置いていないのだ。

 

「この家もほんと久しぶり、何ヶ月帰ってなかったんだろう……」

 

 古い郵便受けに絡まった蔦を取り、落ち葉を払う。

 中を覗いてみるが、やはり何も入ってはいない。

 まあ、一族でも割と関わりが薄い千代女一家に手紙を出すような変わり者はいないということである。

 

「……ん?」

 

 まずは掃除かなと、考えていた千代女はふと足元を見る。

 玄関前に、うっすらと足跡が残っている。

 数は一人、履き物の種類からして恐らく忍びの者。

 土の凹み具合から恐らく女性か小柄の男性。しかも入った跡はあるのに出た跡がないってことはまだ中にいるということになる。

 なお、千代女の両親の仕業ではない。あの二人はこんな拙い足跡を残したりしない。

 しかし、いくらあまり帰らない家とはいえ、勝手に入られるのは気分が良くない。

 

「……次から指紋認証くらい付けようかな」

 

 ついでに窓も防弾ガラスにしよう。そんなことを考えつつ千代女は扉に手をかける。

 案の定先に入った何者かが鍵を開けていたようで、扉はあっさり開く。

 玄関に靴はない。

 床板に靴跡もないことからおそらくは脱いだのだろう。

 

 冷静に、片手を小太刀に添えて進む。

 周囲を観察するが、どうやら罠を仕掛けられてはいないらしい。予知にも反応はない。

 スタスタと、大胆に歩みを進める。

 少し進んだところで、人の気配がする部屋がある。今時珍しい囲炉裏のある古風な和室がある客間だ。

 手をかけ一気に開ける。

 

「やあ遅かったじゃないか」

 

 そこには勝手に囲炉裏を使い、一人で茶を沸かしている女。

 男を魅了するために肌を多く露出した忍者装束を纏った女、千代女の幼馴染のくの一、桔梗がそこにいた。

 

「人の家で何やってるの。仮の家とはいえ侵入されるのはいい気分じゃないのだけど」

「まあいいじゃないか。今回は急ぎの用があったんだよ」

「急ぎ? 一応話くらいは聞くけど……あ、ちょっと待ってて荷物置いてくるから」

「あいよ」

 

 何か思い出した千代女は急ぎ部屋へと向かう。

 けれどすぐに戻ってきて隠している小太刀を体の右側に置き、囲炉裏を挟んで向かい側へと座り込む。

 

「それで要件は何?」

「単刀直入言うけどさ、ちょっとお金が欲しくないかい?」

「お金儲け?」

 

 ああ、と桔梗は頷く。

 正直どうでもいいと思った彼女だけれども、とりあえず話を聞くことにする。

 

「一族に代々伝わる斬鉄剣を超える合金の話は知ってるね」

「ええ、一族から距離置いているとはいえ、一応は知らされてるわね」

 

 斬鉄剣よりも硬い合金。正式な名前は不明だけれども伊賀の忍者にはそう伝わっている。

 かつて斬鉄剣を作り上げた刀匠は後に斬鉄剣よりも硬い合金を作り上げることに成功した。しかしそのあまりの危険さから作成方法を刀匠に封印され、それは伊賀に伝わる巻物と竜の置物に隠されたと言われている。

 

「けど、今は巻物はあっても置物がどっかに行ったって話よね? 何、今更見つかったの?」

 

 実はどこにあるのかも知ってはいるがとぼける千代女。

 そうとは知らない桔梗は意気揚々と話し始める。

 

「ああ、けどね私だけじゃ引き上げられない場所にあってね。外部の協力者とともに色々やってるところだけどどうも上手くいかなくてね。そこで世にも有名なルパン三世の力を借りることにしたのさ」

 

 ああ、燃えよ斬鉄剣始まったのね。と彼女は理解した。

 

「それで置物はどうにかできても巻物は五ェ門兄さんしか知らない場所にあるでしょ? 兄さん一族の掟は絶対な人だからきっと反対するよ」

「そこであんたの出番って話、五ェ門を除けば若い世代の中であんたが一番実力があるだろ。私が五ェ門を唆して巻物を手に入れさせたらあんたがそれを奪えばいいのさ。報酬は約束するけど、どうだい?」

 

 目を閉じ、考える。

 正直な話、この依頼に千代女にとってのメリットはない。

 お金関係には困っていないし、五ェ門相手となると流石の彼女でも死を覚悟しなければならない。あまりにもリスクが多すぎる。

 どう言いくるめて断ろうか、名案が思いつかなかったので食べながら考えることにした。

 

「ちょっと、食べながら考えてもいい?」

「ああ、よーく考えておくれ」

「えーっと、確か保存食が何処かに」

 

 背後にある戸棚から食べ物を探そうと立ち上がったその時だった。

 背中に軽い衝撃が走る。

 視界の端に異物が写る。白い鉄の刃が彼女の腹から突き出ていたのだ。

 

「漸く隙を見せたね」

 

 背後から桔梗の声がする。

 

「正直受けてくれるとは思ってないさ。あんた、五ェ門になついてたからね。あんたの事だからどうせ断ろうとか考えてたんだろ。私にはお見通しさ」

 

 ゆっくり、刃を引き抜く。

 重力に導かれるように、千代女の体は畳へと叩きつけられる。

 千代女は何で刺されたのか知ろうと、うつ伏せのまま瞳だけをそちらに向ける。

 桔梗が握りしめているその小太刀は、あろう事か千代女の愛刀であった。

 

「あんたの鋼のような肌もコレなら貫ける。正直どうやって奪おうか考えてたけどまさか自分から手放してくれるなんて、油断したねえ」

 

 そう桔梗は千代女が立ち上がり後ろを向いたその瞬間に千代女の小太刀を奪い、そのままの勢いで彼女へ突き刺したのだ。

 

「昔からあんたのことは鬱陶しく思ってたよ。年下のくせにすぐに私を追い抜いて任務についた天才児。……だけど、これであんたも終わりだね」

 

 千代女の側に何かが刺さる。

 それは一見小太刀のようでもあったが、柄に火薬が仕込んである忍道具である。

 

「じゃあね、この刀は形見として貰っておくよ。五ェ門に渡せば、さぞかし悲しむだろうね」

 

 そう言い残すと桔梗はその場から走り去る。

 近くにいては桔梗も爆発に巻き込まれるからだ。

 そして三十秒もしなうちに、客間から激しい爆発が起き、加藤家は火の手に包まれる。

 

「全く。これで残る邪魔者は五ェ門だけだね」

 

 誰も脱出しないのを確認する。

 忌々しい千代女のことだからもしかしたら生き延びているかも、と思ったが杞憂だったようだ。

 

「時間だ、桔梗」

「ああ、今行くよ」

 

 桔梗の背後に髭を蓄えた厳つい忍者、柘植の幻斎が音もなくその場に姿を表す。

 彼に導かれ、桔梗は加藤家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数時間後。

 焼け落ちた加藤家、その客間があった辺りの地面がぼこりと膨れ上がる。

 

「あー、よもやこう言う風になろうとはね。流石に予想外だったわ」

 

 地面の下から一人の少女、加藤千代女が姿を表した。

 彼女が隠れていたその空間は下にもまだまだ奥行きがあり、ちょっとした平家住宅ほどのスペースがそこに存在していた。

 そう、仮の家とはいえここは忍者の屋敷、いつ何時襲撃されてもいいようにある程度の避難路は確保されていたのだ。

 千代女は桔梗が去ってからすぐに自分の真下にあった地下への入り口へと逃げ込み、爆発から生き延びていたのだ。

 

「全く、いくら再生できるとは言え痛いのは痛いんだから、そう気軽に刺してくれないで欲しいんだけどね」

 

 そう言って彼女は刺された部分を触る。

 しかしそこにはすでに傷は無く、服に染み付いた血液と切られた跡だけが彼女が傷ついていたことを示していた。

 そうあの時、一度自身の部屋に帰ろうする少し前に彼女は刺される光景を予知したのだ。

 だからこそ刺される寸前に身を少し動かし上手く心臓への直撃を回避することができた。

 彼女の驚異的な身体能力はすでに一族には知られているものの、予知と再生能力に関しては隠し切っていたため桔梗も気づかなかったのだ。

 彼女の体に宿るオルゴンエネルギー、それによる生命力の活性化。並の刃物は弾き、銃弾ですら重傷を与えることもできない脅威の肉体。この程度の傷ならばすぐに癒えてしまうのだ。

 あとは火が消えるのを地下のスペースでゆっくりと待つだけでよかった。

 けれど、想定外のことが一つあった。

 

「て言うか、予知でみてはいたけど小太刀を持ってかれたのは予想外なんですけど。あれ、結構思い入れあるし、早いとこ取り返さないとそのうち海に沈みそう」

 

 ルパン三世テレビスペシャル『燃えよ斬鉄剣』のラストを思い出す。

 斬鉄剣よりも硬いはずの合金は断ち切られ、そのまま海へと沈む。もしも桔梗がそのまま持っていたら一緒に行方不明になりそう。

 例え桔梗が言った通りに五ェ門に渡したとしても、なんかラストあたりで海に供養として捨てられそう。千代女はそう思った。

 

「………………仕方がない。気は進まないけど、原作介入、しますか!!」

 

 そう思い立つと、彼女は別の入り口から地下に避難させていた道具を取り出す。

 一度部屋に帰ったときに必要なものは避難させていたのだ。

 

「まずは香港マフィアの…………名前忘れたけどカエル顔の男と、ルパン一味の動きを探らないと。……ああそうそう、これもやっとかなきゃ」

 

 ふと思い出し振り返る。

 全焼し、跡形もないこの別荘。焼け落ちたままでは両親に何を言われるかわかったもんじゃない。

 たまたま火の手を免れていた郵便受けに、手紙を挟んでおく。千代女たち家族でしか知らない極秘の暗号で書かれた手紙だ。

 

「これでよし、あとはいつもの建築屋さんに依頼しに行かないと。セキュリティ、マシマシのにしてもらわなきゃ」

 

 そう言い残すと、彼女はとりあえず日も暮れてきたのでホテルにでも泊まろうとその場を後にした。


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