愉悦ッ!(挨拶)
作者はこれを流行らせようと画策中です。
それは置いておいて本日二話目です。前話を読んでいない方は気を付けてください。
感想、評価ありがとうございます!
初めはちょっとかっこいいなって思っていた程度だった。
入学式の日、まだグループわけを明確にされずにいた女子たちの間で話題作りとして出てきたのが平田くんと言峰くんだ。
二人はDクラス男子の中でもずば抜けてイケメンで、そして性格もよくスポーツ万能、頭も良い。そんな優良物件だった。輪を調停するのが平田くん、輪を作るのが言峰くん。そんな感じの認識だったと思う。
そして、この二人は初日から仲良くなっていた。
一部女子からは目の保養なんて呼ばれてたけど、確かに分類の違うイケメン二人をみていてときめかない女子は少ないだろう。
あの日、平田くんの提案で自己紹介が始まり、私の前の席だった言峰くんへと順番が回ってきた。
彼は優雅な振る舞いで席を立つと、聞き取りやすく穏やかな声音で淡々と話し始めた。
「俺の名前は言峰士郎。中学校では冬木市にある教会で神父見習いをしてた。まぁ見習いって言っても大したことはしてないけどね。後は、スポーツ全般は得意かな。身体を動かすことは好きだし、勉強するのも嫌いじゃないよ。教えて欲しいとこがあったら存分に頼って欲しい。皆とも仲良くしたいしね。最後になったけど、趣味は読書やボードゲーム、スポーツとか。みんな、三年間よろしく」
優しい話し方だったと思う。
今思い返せばかなり違和感のある話し方だ。もしかしてこっちが素だったりしたのかな。
当時、私はその顔に見惚れてしまっていた。
端正ながら、どこか冷めた感じの目つき。クールと言い換えれるのかな。
平田くんが正統派のイケメンとするなら、言峰くんは比較的クールなイケメンだった。
ぼー、と気を取られ私は自分の番が回ってきていたことに気づかずにいたけど、言峰くんはそんな私に合図するように視線を送ってくれた。
頬が熱くなった。
周囲から見て、確実に私は赤面していたと思う。
でも、いつもより饒舌に自己紹介が出来た。
どうしてかは分からない。もしかしたら、言峰くんの存在が私に安心感を与えてくれていたのかもしれない。
私は、言峰くんにこの時、既に惚れていたのかもしれない。
1
入学式が終わり、私は軽井沢さんに遊びに行かないか、と誘われていた。
平田くんと女子数人のグループだ。何故か、言峰くんがいなかったから直接平田くんに聞いてみれば、学校施設のひとつに教会があるらしく、そこの管理を申し出に行くみたいだった。
それを聞いて、私は言峰くんに近付くチャンスだと思った。
軽井沢さんたちに謝り、職員室に向かった言峰くんを探しに行く。
この時に少なからず女子グループから反感を買っていたみたい。でも、そんなことどうでもよかった。
結果的にだが、言峰くんと一番親しい女子として、平田くんの彼女である軽井沢さんと同じ地位に立てたんだから。
そんな話は置いといて、言峰くんはすぐに見つかった。
職員室前で茶柱先生と何か話していたのだ。
「契約通り、鍵の管理と教会の所有権はお前に譲渡する。事実上、教会はお前のものだ。学校側は干渉しないし、保持をしてくれる以上、毎月PPも支払われるだろう」
「ありがとうございます。しかし自分の手に負えない破損の修理等は学校側に依頼できるのでしょうか?」
「その場合は我々から業者を手配しよう。勿論、代金については故意による損害では無い限り、こちらが負担する」
「了承致しました。時間を取らせてしまったようで申し訳ないです」
「気にするな。これも教師の仕事の一環だ。使うものがいない施設を利用してくれる者がいるのなら喜んで手を貸す」
「ありがとうございます。では、また後日に。失礼します」
「ああ、またな」
茶柱先生は話を終えると即座に職員室へと戻っていった。言峰くんの手には鍵が握られており、また契約書のようなものも持っている。
私は彼に近づき声を掛けた。
「言峰くんっ」
「佐藤か。洋介たちと遊びに行くと思っていたのだがどうかしたのか?」
「あ、あの私もなにか手伝えることないかなって」
「そうか。感謝する佐藤。実は一人で掃除するのは大変だと思っていたんだ。手を貸してくれるのなら喜ばしいよ」
「よ、よかった! 何でもするからね!」
やった!
言峰くんと一緒にいられると思うと気分が上がる。嬉しさからいつもより声が上擦ってしまったけど、そんな私を言峰くんは微笑ましいものを見るような目で見てきた。
⋯⋯ちょっと恥ずかしい。
「では、早速教会に向かおうか」
「うん!」
私は言峰くんについて行って教会に向かう。
その間、世間話をして色々と言峰くんの情報を探った。好きな物とか、好きな音楽とか、中学の時はどうだった、とか色々と。
でも言峰くんは聞き上手でむしろ私の事ばっかり話すことになった。んー、あんまり上手くいかないなぁ。
教会に着く。比較的寮から近く、何時でも行ける距離だ。
それより驚いたのが、敷地の荒れ具合だと思う。雑草が生え、門から教会へと続くコンクリートのタイルは見えないほど土に覆われている。
なるほど、これは酷い。
「⋯⋯流石にこれ程とは思わなかった。建物自体は綺麗だが、敷地全体には手入れしていなかったようだな」
「これ、今から全部綺麗にするの?」
「ああ、大変そうだな。無理せずやめとくのなら言ってくれ佐藤」
「だ、大丈夫! 全然余裕だよ!」
⋯⋯全然余裕じゃなかった。
まず草むしりから始めた私たち。
まだ4月だというのに汗水垂らしてしまった。言峰くんが事前にジャージを貸してくれていたおかげで汚れは気にせずに済んだけど。
雑草を抜き終わると、今度はタイルの清掃に入った。ホースを蛇口に取り付け、水を掛けながらブラシで擦る。
草むしりと違って大変さは減ったが、両方の作業で腰をかなりやってしまった。
この二つの作業が終わった頃、もう夕方になっていた。
教会の玄関で腰を下ろし息を吐く私へと言峰くんはスポーツドリンクを差し出してくれる。
「汗をかいただろうから飲んでおくといい。まだまだ四月とはいえ長時間日に当たっていたんだ。熱中症や脱水症状を起こす危険もある」
「あ、ありがとう」
「礼を言うのはこちらだよ佐藤。君のおかげでかなり早く済んだ。俺一人ならきっと夜までかかっていたかもしれない。本当にありがとう」
「べ、別にいいよっ。私が好きで手伝ったんだから」
「それでもだ。出会ったばかりの間柄だと言うのにここまでしてくれるとは、優しいな君は」
言峰くんは私の隣に腰を下ろす。彼の手には私と同じスポーツドリンクが握られており、額から垂れる汗を首に掛けたタオルで拭っていた。
ちょっと距離が近い。私、汗臭くないかな?
不安に思って、スンスンと自分の首元を嗅いでみる。多分、大丈夫なはず。
言峰くんって全然汗臭くないよね。作業中にそれとなく匂ってみたのだけど、むしろいい匂いがした。中学の時の男子は体育の後ものすごく汗臭かったのに。香水も使ってないんだよね?
なんか私、変態みたいだ。
彼は私にジャージを貸していた為、スウェットパンツにインナーみたいに密着した半袖のアンダーシャツを着ている。
上半身の筋肉の凄さが目に見えてわかった。中学の時に見てきた男子とは大違いなほど、鍛えられた肉体。その低めな身長を目立たせないほどの筋肉が存在感を放っている。
はっきりいって目に毒だ。
それにしても、かなり距離が縮まったと思う。
同じ大変な作業を二人でやったことで一体感みたいなのが生まれていた。
名前呼びとかできるかな⋯⋯?
「あ、あの言峰くん」
「どうした?」
「あの、嫌じゃなければなんだけど、名前で呼んでもいい?」
「ああ、構わないぞ。ここまで手伝ってもらったんだ、遠慮せずなんでも言ってくれ麻耶」
「―――っ! うん、士郎くん!」
心臓が止まるかと思った。
士郎くんはそんな私の動揺を見て意地悪な笑みを浮かべている。どうやらわざとやったみたいだ。
もう、彼は少しだけ意地悪なところもあったらしい。
やっぱりかっこいいなぁ。
どうやったら彼に振り向いてもらえるだろうか。私が櫛田さんに可愛さで負けてることも知ってるし、軽井沢さんのように積極的ではない。
どうしても、自信が湧いてこない。それでも、私は彼の隣に居たいと思ってしまう。
まだ出会って初日なのに、こんなにも好きになるとは思わなかった。
「一応、明日の放課後は花壇を作ろうと思っている。その後は教会内の掃除だな」
「⋯⋯明日も手伝っていい?」
「勿論だ。君がいれば心強い」
そんな感じで私たちの関係は始まったのだ。
2
「そう言えば、この前特別棟で佐倉さんを見たよ。何してたんだろう」
「佐倉?」
「うん。士郎くんも知ってるでしょ?」
「ああ、知っているよ。たまに会話もする仲だからな。それにしても特別棟、か。彼処には何かあったか?」
「さぁ? 特に何も無いと思うよ」
そうか、とだけ士郎くんは呟いた。
四月半ば。私たちは喫茶店にいる。女子に人気のこの喫茶店は、席に座っている大半が女子だ。士郎くん以外に男子の姿は見えない。
故に目立つ。私たちは、というより士郎くんはかなり注目を浴びていた。他のクラスの女子や他学年の先輩たちがコソコソと士郎くんを見ながらなにやら話している。
私は少しだけ優越感に浸った。
「麻耶、軽井沢たちは良かったのか?」
「軽井沢さん? どうして?」
「今日は洋介と軽井沢たち女子グループでカラオケに行くと聞いていたが」
「あー、大丈夫だよ。軽井沢さんたちにはしっかり断りを入れてたし、それに士郎くんに会いたかったから」
「そうか。そう言われて嬉しいかぎりだ。だが、俺以外との友人関係をおざなりにするのはいただけないな」
「そう? 軽井沢さんたちは毎日おしゃべりしたりできるし、たまに遊びに行ってるよ? 士郎くんと二人きりの時間って少ないから」
実際そうだ。
軽井沢さんたちとは授業の合間などに話せる。昼休みもよく話している。でも、士郎くんと二人きりの時間は放課後にしかこない。
私にとって大事なのは士郎くんなのだ。こうして放課後になる度、彼に会いに行ってるのはほかの女子への牽制も兼ねてる。
士郎くんは知らない間にすぐ女の子と仲良くなってるから。
「しかしなぁ」
「もうっ、私はちゃんと折り合いはつけてるのっ。軽井沢さんたちも納得してくれてるからっ」
「ふむ、なら大丈夫⋯⋯なのか?」
「大丈夫だって! そんな親みたいなこと言わないでよ」
「すまん。君が孤立しないか心配だったんだ」
「それは分かってるけど、大丈夫だよ。それに士郎くんがいる限り孤立はしないでしょ」
「それは、そうだな」
士郎くんは本気で私の身を案じている。
彼は心配してくれている。彼には内緒だが、士郎くんと常に一緒にいるから多少女子の顰蹙は買ってる。偶に陰口言われている時あるし。
だけど、面と向かって何かを言われることは無い。一重に私と士郎くんの距離が近いからだ。
皆、士郎くんの反感を買いたくないのだろう。Dクラスの中で彼の存在は大きい。誰もが好意を持っている。
故に、私になにかしてくる人はいないはずだ。
「でも正直、助かってることはあるんだよ。あんまり軽井沢さんたちと遊んでないおかげでptの節約はできてるし」
「まぁ俺も数度彼らと遊んだが、ptの浪費は凄まじいものだったな」
「でしょ? いや遊ぶのは楽しいんだよ? 軽井沢さんたちとは気も合うし」
「たしかにな」
士郎くんは何かが琴線に触れたのかくつくつと喉を鳴らして笑った。
なんだか猫みたいだよね士郎くんって。平田くんは、犬かな?
最近、綾小路くんが士郎くんと話している姿をよく見かけるようになった。士郎くんは友人になったって言ってた。
よくよく見ると綾小路くんも結構イケメンだよね。これから三大イケメンって言われる日が来るのかな、なんて。
「ああ、ptで思い出した。麻耶、君は教会の掃除を手伝ってくれるだろう? その事についてだ」
「うん、よく手伝ってるけど、それがどうかしたの?」
「俺が学校側からptを貰っているのは教えたな。その一部を君に譲渡したいと思っている」
「えぇっ!? いいよそんなの!」
「しかしだな、無償で手伝ってもらうわけにはいかないんだ。君の善意を利用しているようで心苦しい」
「私だって見返りを求めているわけじゃないんだよ? 士郎くんの手伝いがしたいからなのに」
「⋯⋯すまないな、忘れてくれ。君が拒否しているのに押し付けるわけにはいかないな。俺のわがままだった」
そう言って士郎くんは頭を下げた。
私は慌ててやめさせる。士郎くんはそれに応じたけど、もう一度だけ謝罪した。
律儀だなぁ。そんなの要らないのに。
それに私は十分見返りを貰っているのだ。士郎くんに見てもらえる、士郎くんと話すことが出来る。
これ以上に今は望むものがないし、ptを受け取るつもりはなかった。
その後、喫茶店を出ると教会に向かい、私は二人きりの時間を楽しんだ。
ねぇ士郎くん。
貴方は私のことどう思ってるのかな。
次回から綾小路視点に移ります。
三巻から本格的に愉悦に走る予定です。
一応、度々伏線を張っているので見つけていただければ幸いです。
主人公との親交度(女子)
一位・佐藤麻耶
二位・櫛田桔梗・椎名ひより
三位・軽井沢グループ、王美雨
四位・井の頭心、佐倉愛理
五位・長谷部波瑠加・一之瀬帆波・坂柳有栖・白波千尋
六位・その他女子たち
七位・■■■■
主人公←女子の親交度です。
ちなみに男子だとぶっちぎりで綾小路が一位に来ます。
二位が高円寺で三位が平田、以下須藤、幸村⋯⋯と続きます。
もしかしたら次話投稿が遅れるかもしれません。
一応間に合わせたいとは思ってます。
あなたが最も愉悦したいのは?
-
堀北鈴音
-
龍園翔
-
一之瀬帆波
-
坂柳有栖
-
南雲雅