明日も夜勤なので更新が遅れそうです。ほんとにごめんなさい!
プロローグが終わり、本格的に愉悦の為に走り出します!
綾小路清隆の親友
須藤がきっかけとなったDクラスとCクラスの間に起きた諍い。
本来、審議会にて勝つ予定だったこの戦いは、堀北の用いた策によって解決ではなく解消がなされた。被害者が訴えなければ、そもそも何もなかったことになる、ということだ。
オレは堀北と共に特別棟で石崎たちに会っていたのだが、彼女の騙りは凄まじいものだった。士郎に認められた、という自信が堀北の騙りに真実味を与えたのだろう。
その後の佐倉のストーカー事件も無事幕を下ろしたし、いつも通りの日常が帰ってきた気分だ。
オレは親友である士郎や洋介と夏休みに遊び尽くそうと考えていた。
Dクラスが誇る2大イケメンにして良心の二人。オレにとって何よりも優先すべき存在。
そんな二人の内、士郎に放課後遊びに行こうと誘われ、またもや銭湯に来たのだが⋯⋯。
「うーん、偶には下々の生活も悪くない。普段なら私が浸かるに値しないこの湯も、それなりに価値はあるものだねぇ」
「一般人には一般人なりの味わいと言うのがあるんだよ。お前の言う下々が富豪に憧れるように、下々が持ちえて富豪が持ちえないものもある、ということだ」
「ほう、他にもあるのかね?」
「詳しくは俺も知らない。あの男に引き取られるまではお前と同じ富豪側の人間だったからな」
オレの隣には士郎、その隣に高円寺がいた。三人で並ぶように湯船に浸かっている。
なんだこの状況。
士郎と高円寺が昔ながらの仲、いわゆる幼馴染にあたる関係というのは知っていた。だが、オレと高円寺の間に会話があったことはなく、事実上初対面のような状態で裸の付き合いをしている。
本当に何だこの状況。
「綾小路ボーイは知っているかね?」
「いや、オレもあまり詳しくはないな」
「おや? 君からは上に立つ者の風格がないが?」
「知らないからって富豪生まれとは限らないだろう六助。当たり前のようにお前の思考基準を他者に強いるな」
「私に合わせろと?」
「そんなの知るか。俺はお前の常識を他人に強制するな、と言ってるだけだ」
「シェロ、君も私と同じく上に立つ者なはずなんだがねぇ」
上に立つものの風格ってなんだろうか。
高円寺のように堂々とした立ち振るまいのことか? いや高円寺からは金持ちのオーラのようなものが出ている。一目見るだけで金持ちだとわかる感じだ。これが上に立つものの風格なのか?
でも士郎からは感じないな。どちらかと言えば他者の上、つまり支配とかそこら辺のことなのだろうか。
「しかし、綾小路ボーイ。君は不可解だねぇ。上に立つ者の風格はない、でも上に立てる者の力量は持っている」
「⋯⋯どういう意味だ?」
「君は支配者の素質を持っているのさ。既に支配者である我々には劣るがね」
「そんなのオレにあると思うか?」
「君の答えは聞いてないし質問に応える気もない。それくらい自分で考えたまえよ綾小路ボーイ」
それっきり高円寺は口を開かなくなった。脱力し、湯船で寛いでいるだけだ。
支配者の素質、か。
有り得ない話ではない。今はそうしていないだけで、やろうと思えば不可能では無いのだから。
しかし驚くべきはその彗眼である。
本当に計り知れない男だ。
「気にするな清隆。そこの男は自分の言いたいことだけ言って、思わせぶりな感じにしているだけだ。君の想像より浅い男だよ」
「結構ズバッと言うんだな」
「酷いねぇ。これでも上に立つ者の責任を果たしているだけだと言うのに」
「酷いのはお前だ六助。相手に疑問を抱かせるだけでなく、その解消方法を教えなければ意味が無いだろ」
「君は飢える人間に魚を施すのかいシェロ。ナンセンスだねぇ、私は釣り方を教えているのだよ。浅いのは君の考えの方さ」
「お前がやっているのは撒き餌だ。釣り方を教えず餌だけ撒いたって意味が無いはずだが?」
「私は閃きを与えているのさ。撒き餌に集う魚を捕まえる方法を自ら思いつかなければ成長には繋がらないだろう?」
「お前は思いつく前提で話すんだな」
「そういう君はまるで思いつかないことを前提としているようだ。一般人を見下しているのは本当に私の方かい?」
物凄い論争だな。
傍から見れば口喧嘩しているようにしか見えないが、当人たちにそういうつもりはなさそうだな。
どちらも真剣な表情で、相手をバカにしている様子は見られない。
このままでは論争は平行線のままだと思ったのか、士郎が立ち上がった。
「⋯⋯あの日の続きをやるか、六助」
「次やったら負けると忠告したと思うが、シェロ」
同じように高円寺も立ち上がる。
お互いに全裸で向かい合っていた。このまま殴り合いを始めそうな雰囲気だ。
オレはとてつもなく気まずく感じたので口を挟むことにした。
「あの日の続きってなんだ?」
「中学二年の冬だったねぇ。今のようにお互いの主張が納得できない時、我々はゲームをするんだ。実力で相手を黙らせるのさ綾小路ボーイ」
「前回は神経衰弱をやった。四セットのトランプカード、ジョーカー四枚を含んだ212枚でやる神経衰弱だ。終盤、邪魔が入って決着がつかなかったが」
「今までの戦績は五分五分。お互いの得手不得手の不公平な勝負さ。だからこそ、次のゲームで我々の中で序列を作ることになったんだよ」
「負けた方が折れる。勝った方の主張が通る。社会でも罷り通る常識だ。だからこそ、不平等で不公平な勝負の方が真に実力の優劣が示されるんだ」
昔から士郎と高円寺は何かしらのゲームで主張を無理やり納得させていたようだ。
それにしてもトランプカード四セット分の神経衰弱は凄くないか。記憶力が良いとかの話じゃないと思うんだが。
「ちなみにその神経衰弱のルールは?」
「絵柄数字が全く一緒のカードを連続で四枚引くと得点になる。得点はカードに表記された数字と同じだ。互いに順番ずつカードを引くが、二枚目を引いた時点で一枚目と同じカードでなければ即行で相手のターンとなる」
「ジョーカーは得点の入れ替え。一発逆転の大チャンスを握る存在だねぇ。ちなみに一度でもジョーカーを引くと揃わなければ問答無用でシャッフルが行われる」
「考えたの誰なんだ?」
「⋯⋯俺だな」
「記憶力はシェロの方に軍杯が上がるだろうねぇ。それは私も認めるところさ」
「⋯⋯士郎に有利なゲームだが高円寺は不満はなかったのか?」
「実にナンセンスだ綾小路ボーイ。さっき言ったばかりだろう? 我々の間で有利不利は関係ない。真に実力を測るゲームならばそれを覆して見せてこそ実力者、という訳だよ」
成績上位陣ならではの考え方だ。
身体能力、学力、知性、判断力その全てに秀でた彼らだからこそ成立する勝負であり、破られることの無いルールなのだろう。
一般人とは価値観が違う。
実力があるからそんなことが言える、とかそういう話ではない。そういう考え方ができるから実力者としてなるべくなったのだ。
「⋯⋯取り敢えず上がらないか?」
士郎と高円寺の論争は聞いていて面白いのだが、環境が悪すぎる。
このままでは逆上せそうだ。
二人は顔を見合せたあと、仕方ないと言わんばかりに脱衣所へと向かうのだった。
1
オレは豪華客船にいた。
どうやら茶柱が言っていたバカンスとは本当のことだったらしい。一年生全員を乗せた客船が海を優雅に進んでいた。
そんな楽しい雰囲気とは裏腹にDクラスの首脳陣たちが集まって会議をしている。場所は学校側から与えられたオレたちの部屋だった。
部屋割りはオレ、洋介、士郎、高円寺である。高円寺を士郎に押し付けとけばなんとかなるだろう、という学校側の意志のようなものを感じるな。
部屋に集まったメンバーは五人だ。
オレ、洋介、士郎、堀北、櫛田である。高円寺は既に外出した。何故か参加させられているオレだが堀北に強制的に連行されたのだ。
そういう所が友達が出来ない原因だぞ堀北。いや、でもおかげで一人ぼっちで船の中を歩き回ることを回避出来たな。ありがとう、お前に友達ができるよう応援しているぞ堀北。
「特別試験がある可能性?」
「ええ、これまでの一年生のCPの変移を調べてみたらちょうどこの時期と重なったの。何かしらの試験があるとみていいわ」
「確かに、CPを左右する試験があってもおかしくはないな。そうでもしなければクラス間の差が埋まらない」
「そうだね、覚悟をしておいた方が良さそうだ」
堀北が話したのはこの豪華客船でCPの変動する特別試験がある可能性。士郎や洋介も同意しているし、オレもそうだと思っている。
まず一学年が集められていること、プールの最初の授業で泳ぎが必須だと言っていたこと、判断材料は結構転がっていた。それに気付けたのはおそらく士郎と高円寺くらいだろうか。
堀北でさえ、CPの変移を調べなければ分からなかっただろう。しかし、士郎は気付いていなかったフリをしているみたいだ。特に口を挟む気もないので黙っておこう。
「⋯⋯なんとなくだがクラス主体となる試験になりそうだな」
「どういうことかしら言峰くん」
「前提である話だが、我々が競い合うのはあくまで他クラスだ。つまりクラスで協力して試験に望む必要がある。確証があるわけではないが、個人で競い合う試験ではないと見ていいだろう」
「つまり、チームワークを主とした試験になると?」
「ああ、俺たちにとって特別試験は今回が初めてだ。つまりクラス競争が今後なされるとして前提であるチームワークを培う試験かもしれない」
「そうかもっ。ってことは何かしらの仲間内に不和を齎す試験の可能性があるってことだよねっ」
「そうとなれば、なかなかきついかもね。僕たちはまだ完全に一致団結出来ているわけじゃない。そこを突かれれば、クラスが崩壊する未来も有り得る」
「⋯⋯そうね。前の私がそうだったように、まだまだ個人の力でAクラスに上がろうとしている人も少なくないわ。何とかして全員の歩調を合わせないといけない」
試験の内容が分からない限り、対策は出来ない。
だが、傾向が分かれば、 何かしらの対処は出来るかもしれない。そういう話だろう。
Dクラスは一枚岩じゃない。まだまだ集団としてバラバラの状態だ。危機感の欠如、とも言えるが真剣に試験に取り組もうとしている人間は多くないのだ。
池や山内がその代表だろう。Aクラスに上がりたい、でも楽もしたい。そういう気持ちが歩調を乱す可能性がある。
「と、なればまずは意識の共有を優先しなければな。全員が同じ意気込み、同じ志を持たなければ不和は必ず生まれる」
「須藤くんのように意識改善出来ればいいんだけれど」
「⋯⋯幸村くんや長谷部さんたちは集団行動苦手そうだもんね」
「うん、彼らに強制は出来ない。でも、Aクラスを目指しているのは同じはず。僕らDクラスが纏まること自体は難しいことじゃないと思う」
「そうだな洋介。最底辺に落ちたからこそ、どん底から這い上がる気概は持ち合わせているはずだ。協力することは出来る」
オレたちDクラスにとって最重要なのは勝つことじゃない。チームとして纏まることだな。
その手段こそオレは持ち得ないが、この四人ならば容易なことだろう。オレは今までと同じように静観を保っていれば問題ない。
「綾小路くんにも協力してもらうわよ?」
やめろ堀北。
「⋯⋯オレにできることはないぞ?」
「貴方、協力するって言ったわよね? 覚えていないなんて言わせないわよ」
「確かに言ったが⋯⋯」
あれは勉強会についてだった気がするんだが。記憶を捏造してないか? というか曲解してまでオレを前に出そうとしないでくれよ。
そんなこと言ったら―――、
「綾小路くんは卑下し過ぎだよっ。もっと自分に自信を持ってっ」
「そうだよ。清隆が色々してくれていたのは知ってるよ。勉強会の時だって、堀北さんと一緒に須藤くんを赤点から掬い上げてたよね」
「ふふ、清隆も同じDクラスの一員なんだ。君を邪険に扱う人間はいない」
ほら、こうなるだろ。
いや分かっててやったな堀北。オレが断れない状況を作りやがった。強かになったのはいいが、オレに頼るのはやめてくれ。
他力本願ばっかりしていると友達が出来ないぞ。
「友人としてお願いする清隆。俺たちに力を貸してくれないか?」
「僕も友人として、君の力を借りたいと思ってる。お願いできないかな?」
「是非やらせてくれ。オレにできることがあればなんでもやるぞ」
もはや怖いものは無い。
オレたちは親友なんだ、手伝わないわけがないだろ。いや、そういえばオレたちは同じ施設で育った仲だった気がする。
オレの脳内から溢れてきた記憶がそれを物語っている。
「⋯⋯扱い方が分かってきたわね」
ボソッと堀北が何か呟いた。
聞き取れなかったが今はどうでもいいことだ。オレはこの記憶にある風景を堪能するのに忙しい。
「清隆の助力も得られたことだし、当面の目標はチームで纏まることで相違はないな?」
「ええ、ないわ。試験の勝敗以前に優先すべきだもの」
「そうだね、今回は勝ち負けよりも皆がクラスとして一致団結できるようにしないと」
「頑張ろうねっ」
意見も纏まり、第一回首脳会議は終わりを迎えた。
「清隆、これから洋介たちと昼食を取りに行くんだが、一緒に来ないか?」
行くに決まっている。むしろ行かなくて何をするというのか。
「あら、綾小路くんはこれから私と作戦会議よ。申し訳ないけど彼を借りていくわ」
「そうか、なら仕方ないな。また後でな清隆」
おのれ堀北!
一時間後、堀北から開放されたオレは士郎に連絡を取り、客船内の喫茶店で落ち合うことになった。
先程の作戦会議で堀北から指示されているのは積極的に試験に参加すること、堀北が呼んだら直ぐに来ること、堀北の指示には「はい」と「イエス」で答えること、の三つだ。暴君か。
それ以外にも小さな指示が幾つかあったが本気でオレが守ると思っているのだろうか。オレは何かあったら士郎と洋介の指示を優先するつもりだぞ。
士郎は既に喫茶店内でコーヒーを飲んでいた。
オレはその席に近付き、一人の少女が士郎の隣に座っていることに気がつく。彼女は、前に士郎と噂になっていたCクラスの女子か?
「来たか清隆。紹介する、俺の友人である椎名ひよりだ」
「こんにちは綾小路くん。Cクラスの椎名ひよりです」
「あ、ああ。綾小路だ」
「喫茶店に彼女が居てね。この際、君に紹介しようと思っていたんだ清隆。争いごとが嫌いなひよりと君は気が合いそうだと思ったんだよ」
どうやら士郎はまだオレに友人を増やそうとしてくれているらしい。最高だ。
椎名ひより。かなり大人しい感じの女子で、おっとりしたような雰囲気がある。活発的な生徒と比べて仲良くはしやすそうだな。
「綾小路くんは本を読みますか?」
「え、あ、読むがそれがどうかしたのか?」
店員に注文を頼もうとした瞬間に声を掛けられて吃ってしまった。
椎名は続けて言う。
「どんな本を読みますか? 漫画? 小説?」
「まぁ小説だな。最近は純文学なんか読んだりしている」
「そうですかっ。今までどんな作品を読んだことが?」
「そうだな、つい最近読んだのは夏目漱石だな。『それから』というやつだ」
「夏目漱石ですか。人間関係を深く描写するのが特徴的ですよね。私も読むことがあります。海外の小説は読んだことがおありで?」
「それほど多くはないが『ABC殺人事件』とか有名なものが多いな」
やけに嬉しそうだな。興奮しているのか、瞳が大きくオレを映している。
士郎はまるで子供が戯れているのを見守るような穏やかな表情を浮かべている。オレと椎名が仲良くしているのを嬉しそうに見ていた。
「『ABC殺人事件』ですかっ。あれは―――」
「―――ご一緒してもよろしいですか?」
鈴が鳴るような声だった。
椎名の話を遮り、オレたちに接近してきたのは銀髪の小柄な女子生徒。杖をつき、背後に数人の男女を侍らせている。
「話を遮ってしまい申し訳ございません。私も話に加わりたかったもので」
「坂柳か。構わないよ、座りたまえ」
士郎は立ち上がると、椎名とオレの隣の椅子を引き、少女を誘導する。ちょうど士郎に対面する位置だな。
「他の者はどうする? 席がないので、必要であれば店員に声をかけるが」
「いえ、そのままで大丈夫ですよ」
「そうか? 君らがそのままでいいのならそうするが」
士郎が席に着いた。
オレたち四人の中で静寂が訪れる。同じテーブルを囲む異色の組み合わせ。各々が違うクラスに所属しているという状況だ。
「私はAクラスの坂柳有栖です。よろしくお願いします皆さん」
坂柳、そう名乗った少女の襲来は予期せぬものだった。
なんか分かりにくかったので今までで不明な点をピックアップしておきます。
・二話で言峰士郎は特別棟で誰かに会いに行っていた。
・言峰士郎がDクラスの理由。
・六話で言峰士郎は急用と言って祝勝会を抜け出している。
・言峰士郎が言っていた目撃者は誰なのか。
・審議会で必ず勝つ方法。
自分でも伏線回収を忘れそうなのでここに記しておきます。偶に考察コメが見掛けるのですがめちゃくちゃ嬉しいですね。
次回の更新は日曜日までには必ずします!(制約と誓約)
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