ようこそ愉悦至上主義者のいる教室へ   作:凡人なアセロラ

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アンケートでの葛城の表記について作者の悪ふざけで皆様に御不快な思いを抱かせてしまって申し訳ございませんでした。
該当するアンケートを削除させていただきます。ほんとにごめんなさい。

感想、評価、誤字報告感謝です!
いつもありがとうございます!

それと更新が遅くなってしまってすみません!
夜勤続きで書く暇がなくて⋯⋯


綾小路清隆の親友(2)

 坂柳有栖。

 ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべ、オレたちを見つめている。正確にはオレと士郎をだな。椎名には見向きもしていない。

 

 窓から差し込んだ光に反射しその輝かしい銀髪が煌めいた。

 どこか幻想的な雰囲気を纏っている。

 

「―――それで、坂柳はどうしたんだ?」

 

 反射的に問い掛けてしまったのはオレだった。

 士郎から声がかかるであろうと予測していたその少女は、少し意外そうな表情を作る。

 

「偶然、この喫茶店で言峰くんたちを見かけてたもので⋯⋯お話がしたくなったんです。ダメだったでしょうか?」

 

「いや、そういうわけではないが」

 

「良かったです。そう言っていただけて」

 

 挑戦的な眼差しで坂柳は笑う。

 Aクラス、その頂点に位置する二人の生徒。一人は確か、葛城といったか。葛城とクラスを二分しているのが、目の前の坂柳有栖だ。

 オレも士郎も接点はないと思っていたのだが。

 

 坂柳は不気味なほどに穏やかな表情を浮かべている士郎へと視線を向ける。

 

「言峰くんはAクラスの生徒にも相談に乗ってあげているそうですね」

 

「俺は教会の人間だ。悩みを抱える者にクラスは関係ない。故にたとえAクラスであろうとBクラスであろうとCクラスであろうとも、等しく悩める子羊だ」

 

「ふふ、葛城派の生徒には良くしていたようで⋯⋯」

 

「悩みを打ち明けられたのならば、それに尽力するのは神の信奉者として当たり前だと思うが?」

 

「その貴方の当たり前が私の邪魔をしている、としてもですか?」

 

 どうやら坂柳は士郎が葛城派に助力していたのが気に食わないらしい。

 ただクラスの争いごとには干渉していないと思うのだが、それは八つ当たりではないだろうか。

 士郎も流石に苦笑いを浮かべている。

 

「ふむ、俺の行為が邪魔、か。坂柳、それは君の能力不足が原因ではないか? 俺は入れ知恵もしていなければ、勉強を教えていたわけでもない。つまり、単に君のリーダーとしての手腕が足りなかった。ただそれだけだと思うが?」

 

「そうですか。人のせいにするな、と?」

 

「ああ、自分の行いに成果が表れなかったとして、それを他者の能力不足、あるいは他者の行いに不満を抱く人間はリーダーには向いていないよ。それではただの暗君だ。それに未だクラスが二分されている現状が、君にリーダーとしての魅力がないと如実に示している」

 

「ふふ、言ってくれますね」

 

 坂柳の背後に立っていた数人の男女が分かりやすく士郎に顰蹙を抱いている。たった一人女子生徒は誰にも見えない位置でほくそ笑んでいたが。堀北の時もそうだったが、相談者でなければ士郎は容赦がない。

 士郎と坂柳は互いに穏やかな笑みを浮かべたまま、しかし言葉はかなり敵対的だった。

 椎名とオレは変わらず静かにその問答を眺めているだけだ。

 

「言峰くん、貴方のことは個人的にかなり評価しています」

 

「それは光栄だな」

 

「しかしどこまでいってもただの優秀な生徒なだけ。貴方のような人間はこの社会にごまんと存在するでしょうね。あくまで優秀なだけである貴方は私の敵に値しない。ただの通行の邪魔をする路傍の石と変わりない」

 

「はは、君は路傍の石ころ如きに通行を妨げられるのか?」

 

「生憎と身体が弱いもので」

 

「⋯⋯それは失礼なことを言った。謝罪する」

 

 皮肉合戦は坂柳に軍杯が上がる。

 士郎は心優しい男だ。相手が傷つかないように配慮する。故に例えそれが相手の失言を誘導するような言動のせいであったとしても本気で謝る。

 流石、オレの親友だ。とても良い奴である。

 しかし、自分の弱点を利用して勝って、それで嬉しいのか坂柳。士郎の謝罪を目にして溜飲を下げている。

 

「私が言いたかったことは伝わりましたか?」

 

「⋯⋯すまない。俺には意図が読めなかった」

 

「仕方ありませんね、分かりやすく教えて差し上げます。私は貴方に身の程を弁えて欲しいのです。大した実力も持たない一優秀な生徒なだけの貴方がAクラスの内部争いに干渉するのは見過ごせません。貴方如きがいくら葛城派に尽力しようとも結果は見えていますが」

 

「そうか。それが君の意見か」

 

「貴方は黙って見ていることです。所詮、クラスを率いるリーダーにはなれなかった言峰くんは一之瀬さんに劣る存在ですから」

 

 そう言い終わると坂柳は席を立った。

 それからオレに目配せすると、一度オレたちを見渡せて頭を下げる。

 

「お邪魔してすみませんでした。私はこれで」

 

 坂柳を先頭に喫茶店の出口へと向かうAクラスの生徒たち。もう用はないと言わんばかりに歩いていたが、ふと立ち止まり、オレへと振り返った。

 貪欲な瞳がオレを射抜く。

 

「貴方と戦える日が来ることを楽しみにしていますよ綾小路くん」

 

「⋯⋯なんのことだ?」

 

「今はそれで構いません」

 

 言い切ると今度こそ坂柳たちは喫茶店を出た。

 他にも客はいたが今は静まり返っている。Aクラス、つまりは現時点で一年生のトップクラスに立つ存在が訪れていたのだ。

 その話を妨げられる人間は限られているだろう。

 

 それから暫くの静寂が続き、次第に少しずつ会話が聞こえてくるようになった。

 

「すまないなひより。どうにもあのことについて詳しく話す雰囲気では無くなったようだ」

 

「構いませんよ士郎くん。皆さん密かに私たちの会話に耳を立てていますから」

 

 そんな椎名の言葉を聞いて心当たりのある生徒たちが動揺するように肩を震わせた。確かに聞き耳を立てていたようだ。

 それにしてもあのこととはなんだろうか。聞こうにも今は聞けないだろうし、士郎がわざわざオレに話していないのなら聞くべきことじゃないな。

 また今度でいいだろう。

 

「清隆もすまない。君とひよりにはもっと親睦を深めて欲しかったのだが」

 

「いや大丈夫だ士郎。椎名とは仲良くなれそうなのがわかったし十分恩恵は受けている」

 

「そうですね。私も綾小路くんとは仲良く出来そうです」

 

 椎名の同意を持ってオレと椎名の初邂逅は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 2

 

 

 

 どうやら堀北の予測通りだったようだ。

 無人島に上陸したオレたち一年生は初めての特別試験を迎えた。

 Aクラスの担任である真嶋先生から特別試験の内容が告知される。

 

 この無人島における特別試験では大前提として、各クラスに試験専用のptを300支給する。そして用意されたマニュアルには、ptで入手出来るモノのリストが全て載っていて、生活必需品である飲料水や食料、その果てにはバーベキューセットから旅行感覚として遊べるものまで購入可能なものとして記載されていた。

 そして特別試験終了時、つまり一週間後に各クラスに残っているptが夏休み明けにCPとして反映されるらしい。

 その他にもルールがあり、今回船の中で留守番している坂柳が欠席扱いとされ、Aクラスは30ptマイナスされた。つまりリタイアは30の損失となる。

 

 学校側から配布された腕時計は体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えているらしい。かなり高性能だ。これは生徒が何らかの非常時に遭遇した際の対処の為だろう。

 

 その後、茶柱によって説明された追加ルールは五つ。

 スポットを占有するには専用のカードキーが必要であること。一度の占有につき1ptを得ることができ、占有したスポットは自由に使用できること。他クラスの占有するスポットを許可なく使用した場合50のペナルティを受けること。キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定されること。正当な理由なくリーダーを変更することは出来ないこと。

 

 大まかなルールは以上と言ったところだ。その他にも細かなルールはあるが、それよりもリーダー当ての方が気になる。

 七日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。その際、見事他クラスのリーダーを的中させることが出来たなら、的中させたクラスひとつにつき、50ptを得る。そして逆に言い当てられたクラスは代償として50ptを支払わなければならない。

 

 こんな感じか。

 ぼうっと試験について考えを巡らせていると女子の悲鳴が聞こえてきた。

 

「こ、こんなの無理っ。男女共用なんでしょ!? 絶対無理だから!」

 

 叫んでいたのは篠原だ。

 青ざめた表情で簡易トイレを指さしている。学校側から無料で支給された簡易トイレはダンボールにビニールを被せただけの作りだ。

 女子だけじゃなく男子ですらも嫌悪感を抱くものである。

 ちなみに堀北、洋介、士郎の三人はマニュアルを持って少し離れた場所で会議をしていた。

 

「で、でもよ。我慢すれば一週間後には300ptを手に入れられるんだぜ? たった一週間だぞ?」

 

「関係ないっ! 無理なものは無理だから! あんた達と一緒にしないでよ!」

 

「な、なんだと!?」

 

 何としてでもptを得たい池と、衛生面の心配や生理的嫌悪を隠しきれてない篠原が口論を始めた。

 教師陣は今回の特別試験のテーマは『自由』だと謳った。が、本当に必要なのはやはりチームワークだろう。士郎たちが言っていたようにDクラスは纏まりに欠けている。いま、その推測が当たってしまっていた。

 

「さ、さすがに男女共用は⋯⋯」

 

 大天使櫛田も動揺してしまうほどである。

 簡易トイレ、それはもしや教師陣がクラス崩壊を招く為に用意した罠だったのでは? 

 

「池、ptが欲しい気持ちはわかるが、だからって精神的苦痛を受けるのは違うだろ」

 

「す、須藤?」

 

「そうよね須藤くん! ほら、あんたも須藤くんを見習いなさいよ!」

 

 驚くべきことにその場をおさめようと最初に動いたのは須藤だった。四月の頃とは比べものにならないほど成長している。

 が、しかし須藤には両方の意見をまとめた折衷案を出せる賢さがない。つまり円満に場を収める能力がないのだ。そんな風に片方に肩を入れれば、

 

「須藤お前! 女子に味方すんのかよっ」

 

「女に媚び売ってんじゃねーよ!」

 

「大体! 今まで足引っ張ってきた奴が調子に乗んな!」

 

「今度は点数稼ぎか!? 見苦しいな!」

 

 池の意見は男子の総意だった。それを否定するということは男子の大半の意見を蔑ろにするということ。

 やはり今の須藤にはまだ無理だな。

 そろそろ話し合いを終えた堀北、洋介、士郎の三人が帰ってくるはず。

 

「落ち着け。確かに須藤は足を引っ張ってきたかもしれないが、今それを批判するのはおかしい。少しは冷静になれ」

 

「そうだよ、僕たちで争ってどうするんだい? 仲間同士で協力しなくちゃ試験は乗り越えられないよ!」

 

 Dクラスの2大イケメンが帰ってきたことから女子たちが静かになり、良心二人組の言葉で男子も落ち着きを取り戻していた。

 相変わらず凄いな、オレが同じこと言っても火に油を注ぐだけになりそうだ。

 

「で、でもよぉ、俺だってクラスのことを思って」

 

「それは分かっている池。でも、それより先に話しておくことがある」

 

 池の肩を叩いて士郎は穏やかな笑みを浮かべた。

 その言葉を聞いて池も引き下がる。そして、士郎は堀北へと視線を向けた。なにかの合図だろう。

 堀北は一度頷き、言葉を紡ぐ。

 

「今回、300ptを残して試験を乗り越えるのは不可能と見ているわ」

 

「なっ! ただ一週間我慢するだけだろ!」

 

「そうね。でも一週間よ? 一日二日なら出来たでしょうね。一週間となれば体調を崩す人も出るかもしれない。それが原因でどれくらいptが引かれるかは知っているでしょう? トイレで揉めていたようだけど、仮設トイレは20ptで購入可能よ。どちらがより安全な策なのかしっかりと皆にも理解して欲しいの」

 

「確かにそれは理解出来る。だが、あくまで必要としているのは女子だけだ。女子の為に男子が割りを食うのは⋯⋯」

 

 堀北に噛み付いたのは幸村だ。真面目な性格で、成績も良い優秀な生徒である幸村を納得させるのは感情論だけでは不可能である。

 男子にとってメリットがあるということを伝えなければ首を縦に振らないだろう。

 

 ちらり、と堀北が士郎へと視線を向けた。堀北が説得するよりも士郎の方が良いと判断したか。

 確かに士郎は幸村と良好な関係を築いている。それは洋介にもなし得なかった事実だ。

 

「幸村、男子にデメリットは無いはずだよ。女子と男子、同じ目標を抱えているんだ。なにも勝ちたいのは男子だけじゃない。今回、俺たちが目指すべきなのはDクラスの勝利ではない」

 

「何を言っている?」

 

「勝利できたのなら良し、だがあくまでオマケだ。俺たちが必要とするのはクラスの内部崩壊を防ぐこと。例え勝てたとしても、それで男女に溝が出来てしまえば次からどうする? 仲間内で協力できるか? 無理だろうな。疑心暗鬼になり、互いに足を引っ張り合うことになるだろう」

 

「⋯⋯わかった。そうなってしまえば本末転倒だな。俺は言峰の意見に賛成する」

 

「ありがとう。今回は男子が女子に譲歩する。確かに君らにはデメリットに映ったかもしれない。しかし、次は女子が男子を助けてくれるようなことがあるかもしれない。そう信じて助け合うことこそが集団で戦うコツだよ」

 

 幸村が折れたことで男子は誰も反論するものがいなくなった。

 決まりだな。

 

 

 

 取り敢えず、オレたちは茶柱に仮設トイレを注文すると再び全員で集まった。そこでDクラス首脳メンバーの意見を堀北が代表して話し始めた。

 

「ここで話し合っても暑さで気が滅入るだけだわ。判断力も鈍くなるし、苛立ちも募って再び男女で諍いになるかもしれない。だから、まずはスポットの占有を優先することにすることにしたわ」

 

「何処か宛てがあるの?」

 

 櫛田の質問に堀北は士郎へと視線を向けてから頷いた。

 

「士郎くんによれば学校側は私たちが安全に過ごせる場所にスポットを作っているはずよ。つまり、日光が直接当たらず、飲水もあって近くに食料があるスポットが必ず存在する」

 

「ってことはいち早くスポットを見つけなんきゃならねぇってことか」

 

「そうね須藤くん。取り敢えず森の中でスポットを探すわ。須藤くんを先頭に体力に自信のある人は他のスポットを見つけてきてちょうだい。ついでに食べ物を見つけてくれたら助かるわ」

 

「っし! 任せろ堀北!」

 

「貴方の活躍に期待しているわよ。ここまで被ってきた汚名を返上しなさい」

 

 希望者を元に作られたほぼ男子主体の肉体労働チームは須藤を先頭に森の中へと入っていった。

 運動能力の高い士郎や洋介が残っているのは皆の調停の為だろう。それに堀北と三人で策を練るのだからあまり離れられないわけだ。緊急事態に対処出来なくなるしな。

 

「私たちは拠点となるスポットに向かう。体力に自信の無い人は言峰くんや平田くんに言って。彼らなら一人二人なら背負ったり肩を貸して歩けるだろうから」

 

 堀北がそういうや否やオレたちは移動を始めた。堀北を先頭、士郎や洋介を最後尾に歩いているのだが、女子の八割近くが最後尾近くにいる。どう考えても二人目当てである。

 くそ、これでは親友のもとに行けない。

 

 もう足を挫いてしまった井の頭が士郎に背負われていた。早すぎる。

 女子からは顰蹙を買って鈍臭いだの、ぶりっ子だの言われている。流石に可哀想だが、士郎に密着しているのはオレも許容出来ない。

 オレも足を挫いたと言えば、洋介が背負ってくれないものだろうか。

 

「哀れね」

 

 やかましいぞ堀北! 

 

 

 

 

 

 

 




坂柳「ざぁこざぁこ♡あたまよわよわ♡自分が優秀だと思ってる凡人♡」

次回はいつになるかはわからないです。
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