一日一話投稿したい⋯⋯けど、時間が無い。このジレンマをどうすれば。
いつも感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
今回は三人称視点です。
ああ、主よ。どうして私を救ってはくれないのですか?
私が悪意を宿しているからでしょうか。
私が悪意を隠しているからでしょうか。
主に信仰を捧げ、良き人として振る舞い、善行に身を尽くし、それでも尚足りえぬと仰るのですか?
私は全てを捧げてきました。
彼女を愛し、彼女の為にありとあらゆる教えを説き、貴方様の庇護に入れて貰えるように、と。
主よ。
貴方は人を救わないのですか?
―――何故、彼女を救ってはくれなかったのですか?
1
堀北の言葉に時間が止まったような感覚が齎された。
その言葉の意味を理解していない平田を含め、堀北、言峰、綾小路、その場にいた計四人の動きが止まる。
綾小路は傍観を、平田は理解を、堀北は期待を、そして言峰は―――、
「間違っている、か。難しい質問だな。間違っている、間違っていない、それを決めるのは俺ではない。そして、君自身でもない。正誤を定めるのは当事者ではなく第三者。つまり世間の声だ。正しいか間違っているか、に法律やルールは関係しない。その行いが世間にとって正義か悪か、ただそれだけに完結する」
「では、貴方は私が間違っているかどうか、分からないと」
「ふむ、しかし君が俺に問いかけているのはかつての俺の問答の話だろうな。君を認めるかどうかという話、仲間としては勿論認めている。Dクラスで君を仲間と認めていない者はいないだろう。池たちを赤点から救い、須藤のために奔走した君を、今もこうしてDクラスの勝利のために尽くしている君を認めぬ者はいない」
縋るような堀北とは対称的に、言峰は余裕を持った表情で相対する。
陽射しで陰ったその表情は誰にも分からなかった。しかし、全員がその声音から穏やかに微笑んでいることを確信するだろう。
一つ一つ、丁寧に言葉を紡いで、宥めるように、赤子をあやすように言峰は続ける。
「そして、Dクラスのリーダーとして認めるかどうか。これは難しい話だ。俺個人の評価として、君に足りないものは成績。司令塔としての勝利だろう。信頼を得て、仲間と認められて、残るのは君をリーダーとしたDクラスの勝利だけだ。それさえあれば、俺もDクラスも君をリーダーとして認めざるを得ない」
「今回の特別試験で、私がDクラスを勝利に導くことが出来たら⋯⋯」
「ああ、それが出来ればDクラスは全力で君に協力しよう。君をリーダーとして、その指示に疑いなく従い、君を手助けするために尽力し、君の障害を取り除く手足となる」
堀北の瞳に決意が満ちる。
それを聞いていた平田も活気に溢れ、綾小路も友人の為にと頷いた。
「私を、認めてくれるの⋯⋯?」
「認めるさ。君の実力があれば皆がついて行くだろう。君を否定する者はもういないよ」
「そう。ありがとう、言峰くん」
「あまり気負いすぎるなよ堀北。あくまでDクラスの勝利だ。君一人が頑張ったところで達成出来るものでは無い。優秀な人間は個人ではなく集団での成績を残すという。真にリーダーを目指すのならば、君は仲間を頼らなくてはならない」
それだけ言って、言峰は再び平田と地図に須藤が見つけたスポットを書き込んでいく。簡易的なものだが、ないよりはマシだ。
無言でその場を去っていく堀北を眺めながら、綾小路は一人佇む。その言葉に抱いた違和感。歪な会話。その答え。
その正体に気づけないフリをして、飲み込む。
いつものように無表情を保ったまま、綾小路は言峰と平田の元へと歩き出した。
二日目夜。
皆が寝静まり、周囲からは虫の声だけが響く。
月明かりの下、森の中の岩陰に言峰、岩上に高円寺がいた。岩陰に腰を下ろす言峰と、2メートルにも及ぶ岩の上で優雅に立ち、月の威光をその一身に浴びる高円寺。
二人の密会を知る者はいない。
「そろそろ動き出すんだろう? いい加減我慢の限界を迎えたと見える」
「―――黙れ」
「君の精神は異常だねぇ。片や隣人を愛し、平等に手を差し伸べる信仰者。片や、隣人を突き落とし、平等に刃を突き立てる背信者。プリティーガールとは異常性が違う。常人なら自刃してしまいそうな二面生だ」
「違う。俺は⋯⋯」
「あの日、君に生き方を説いたのは間違いじゃなかったようだねぇ。さぞ苦しいことだろうに」
「こんなこと、してはならない」
「良心の呵責、罪悪感。誰もが持つそれを、君も備えていた。実に度し難い。悪意の塊でありながら、善人であろうとする残酷な矛盾」
「そうだ。俺は敬虔な信徒で、隣人を愛す博愛主義者で⋯⋯」
「罪悪感など感じなければ、普通に生きれていたはず。どんなに神に縋ろうとも、神は君を救わなかっただろう?」
「―――」
「君は生まれる時代を間違えたのだよシェロ」
暗雲が月を隠した。
そしてCクラスの女子生徒、伊吹澪を迎え入れた以外に大きなアクシデントもなく、Dクラスは五日目を迎える―――。
2
転機は突然だった。
全学年、無人島試験に望んでいた学生を襲ったのは凄まじいほどの豪雨。吹き荒れる風に、肌にたたきつけられる雨粒。
夏場だというのに感じる肌寒さ。
「―――予想外よ。学校側はこの事態を予測していなかったらしいわ」
「でも、特別試験は続行するんだよね?」
「ええ、最悪なことにね。川の氾濫、体力を奪う雨、歩き辛い泥道。これではいつものように焚き火も出来ない。この調子だと明日まで降るわよ」
「まずいな。体調不良でリタイアする生徒が出るかもしれない。そうなれば、試験どころの話じゃなくなる」
なんとか雨を防いでいる三つの防水テント。急遽、テントを多く購入する羽目になったDクラスだったが、さすがに反対するものは出なかった。
男子テント、女子テントに別れ、3つ目のテントには作戦会議として堀北、平田、綾小路の3人が集まっている。言峰は現在、どこか避難できそうな場所を探すと告げてから外出していた。
「テントで明日まで凌げればいいのだけど」
「難しいだろうな。如何に大きなテントと言えど、Dクラス四十人が過ごすには狭すぎる。この中央テントを使えればマシにはなるだろうが、そうすると情報の漏洩を防げない」
「そうね。もし万が一に伊吹さんが侵入でもすれば、私たちの実行してきた作戦が露呈するし、最悪リーダーを推測する手掛かりになりかねない」
「Dクラスの皆を疑うわけじゃないけど、ここは荷物含め大事なものが多すぎる」
食料、スポットを書き記した地図、全員の着替え、マニュアル。中央テントはたった三人だけだと言うのにかなりの狭さだ。
一般的に入る許可が無ければ入室を許されていない。基本的に立ち入るのはこの場にいる三人に言峰、櫛田、軽井沢を加えた六人だ。それ以外は入室の許可が降りることはない。とはいえ、反感を買いそうなものだが、そこは言峰が説得したらしく幸村含め非難の声が上がることは無かった。
仲間意識も上がり、Dクラスは前提条件である一致団結を達成しようとしているのである。
「Aクラスは同じように洞窟内を拠点としているため、大した被害はないみたいだな」
「かなりの好条件のスポットだったみたいね。悪天候に左右されないのはかなり有利よ」
「そうだね。スポット占有の競走で負けたのが後になって響いてきた感じだ」
Aクラスは葛城を司令塔として今回の特別試験に望んでいる。堀北が最も警戒していた坂柳ではない。
保守的な葛城よりも厄介なのは攻撃的な坂柳だ。守りと攻め。現状維持に尽力し、守りを固めようとする葛城よりも、更なる点差を広げようとする坂柳の方が恐ろしい敵である。
距離を保って逃げる者を追い掛けるより、罠を張って妨害してくる相手の方が今のDクラスにとって強敵なのだ。
「Bクラスは私たちと同じように防水テントを購入したようね。これは言峰くんからの証言だから信頼出来る」
「Bクラスらしいやり方だな。勝利だけでなく仲間が欠けるのを阻止しようとしている。完全にオレたちDクラスの上位互換だ」
「⋯⋯僕らもいつかはそれを超えるよ。今はまだ地盤を固めることに時間を費やす。Dクラスはスタートラインにすら立てていないからね」
「そうね。今回の特別試験で勝つこと。それでようやく私たちは他のクラスに並び立てる」
一ノ瀬をリーダーとしたBクラス。派閥によってクラスの団結から程遠いAクラスよりも集団としての力は強い。
信頼し、信頼される。堀北が目標とするリーダーに最も近いのが一之瀬だ。それを越えてこそ、ようやく兄である堀北学、そして憧憬の相手、言峰士郎に認められる。彼女から学ぶことはまだまだ多い。
だが、敵としては警戒に値しない。彼らは集団としての力こそ強いが、個人個人の総力で比べれば、Dクラスに軍杯が上がるはずだ。
しかし、最も不可解なのは―――、
「不可解なのはCクラスよ。全ptを吐き出したと思ったら未だ無人島に残り続けてる。全員がリタイアするものだと思っていたけれど」
「龍園含め四十人、その全てに欠員がいなかった。それに既に勝ちを拾っている、だったか」
「どういう意味だろうね。何かしらのルールの穴に気付いたのかも」
「リーダー当ての最高獲得ptは150。つまり全てを吐き出したとしても、まだ取り返せる上に、Cクラス以外は50ものptを失う。私は龍園くんがこれを狙っていると思っていたわ」
だが違った。
Cクラスは初日に全ptを使用していたようで、かなり豪遊していた。龍園は堀北の指摘に首を振っていた。あれは演技のように見えなかった。
つまり、本気でそれ以外に勝ち筋を見つけているのだ。一体どうやっているのかは全く分からない。
龍園翔。坂柳に匹敵する強敵。今までのBクラス、Dクラスとの衝突を顧みるに、ルールの裏を突いたやり方を狙ってくる。
思いもよらぬ方法でこちらを攻撃してくる可能性があるのだ。
「⋯⋯一先ず、Cクラスとの接触は避けた方が良さそうね。Dクラス全体に今日は拠点から出ないように説得しないと」
「何があるか分からないな。現状において厄介なのはCクラスだ」
「早速みんなに通達しようか」
方針は簡易的なものであるが定まった。言峰がいないこの場で、決定的な策を練ることはできない。
このクラスのブレインは間違いなく彼なのだから。堀北や平田はあくまで調停者に過ぎないのだ。彼以上に常に勝ち筋を残している生徒はいない。
今だって、既に勝つ方法は見つけてあるはずだ。そんな信頼が言峰士郎にはあった。
平田から軽井沢と櫛田へ、堀北から須藤、幸村へと指示が通達される。そこから伝播式に全体へと知らされる。
綾小路は一人考えに耽る。
龍園が既に得た勝利、Aクラスの拠点、言峰の違和感。この特別試験は疑問は多い。
何より驚いたのが高円寺の試験の参加。本人が何かしたわけではないのだが、それでも性格的に真っ先にリタイアするものだと考えていた。
今も外で豪雨の中、ポージングを取っている。退屈はしていないようだ。
まるで何かを待っているのかのように。
「大変だよっ」
中央テントへと櫛田が駆け込んで来た。
かなり慌てている様子だ。
その場にいた三人の視線が彼女へと集まる。
「どうしたの?」
「さ、佐藤さんが!」
「佐藤?」
綾小路が疑問符を浮かべた。
それに追従するように平田や堀北も怪訝な表情をしている。
「言峰くんを探しに行ってから戻ってきていないって!」
「どういうこと?」
「佐藤さん、言峰くんを探してくるって言ったきり戻ってきていないらしくて、かれこれ30分は経ってるみたい!」
この雨の中、佐藤は言峰を探しに森に入っていったらしい。
おかしい。とてつもなく不可解だ。
如何に成績の悪い佐藤と言えども、この悪天候の中、外を歩き回るような愚行はしないはず。あれは言峰という体力面で優れている生徒だから出来ることだ。彼の身体能力なら泥道をものともせずに歩くことが出来るだろうから。
まるで誰かに呼び出されたかのような状況。
考えられるのは―――、
「罠か?」
「ええ、そうみたい。やられたわ」
綾小路の言葉に堀北が同意する。
明らかに佐藤は誘い出されている。
それを齎したのは彼女しかいない。
「伊吹さんはテントにいないのかしら?」
「見てないかも。佐藤さんと何か話してたのを最後に、どっか行っちゃったみたいで」
「確定だな」
「まずいわ。これが龍園くんの策だとしたらきっと佐藤さんは―――」
―――リタイアに追い込まれる。
佐藤は森の中をさまよっていた。
たった一人の男子生徒を探して、頼りない肉体を酷使し、歩き続けている。雨が体温を奪い、泥道が体力を奪い、暗闇が気力を滅入らせる。
それでも彼女がその足を止めなかったのは一人の男子生徒の身を案じてだった。
「⋯⋯こ、言峰くん、どこに」
限界が近い。
息遣いが荒くなり、呼吸がままならない。低体温、まるで風邪をひいたかのような倦怠感に頭痛、そして発熱。
消耗した体力を回復させる為に、佐藤は傍にあった木へと寄りかかった。
彼女が森へと入った理由。
それは伊吹に聞かされた話が原因だった。
『⋯⋯Dクラスの言峰士郎って奴。龍園に闇討ちされるみたい』
ボソッと佐藤にだけ聞こえる声量で呟いたその言葉に身体が突き動かされた。
考えるよりも早く、走り出していたのだ。
今更になって後悔する。
平田たちを頼った方が良かったと。堀北や須藤たちに探してもらった方が早く見つけれたのではないか、と。
でも、そんなの後の祭りだ。
今はいち早く言峰へと危険を知らせなければならない。
龍園、Cクラスよりも早く―――、
「お前が佐藤麻耶だな」
声に驚き振り返った先、立っていたのは十人を優に超える男女だった。そのどれもがCクラスの生徒。
警戒心が沸き立つ。心臓の鼓動が忙しない。背中を走る冷や汗。背筋を凍らせる緊張感。
咄嗟に佐藤がとった行動は、逃げの一手だった。
「アルベルト」
が、女子生徒の中でも佐藤は運動を得意としていない。ましてやこの雨の中で奪われた体力は回復していなかった。
アルベルト、と呼ばれた屈強な黒人の男子生徒が佐藤の腕を掴んだ。必死に振りほどこうにもピクリともその男子生徒の腕は動かない。
「は、離して!」
「おいおい、俺たちは道を尋ねようとしただけだぜ? 何をそんなに怯えている?」
「こんなの、先生たちに訴えたら―――」
「訴えたら、なんだ?」
「―――ッ!」
反射的だった。
佐藤へと顔を寄せてきた龍園。攻撃される、という防衛本能がその頬を平手で叩いた。
バチン、という軽快な音が響き、雨に流される。
当の叩かれた本人はくつくつと喉を鳴らしていた。
「叩いちまったな。これでお前は他クラスへの暴力行為を働いたわけだ」
「ち、ちがっ」
「残念だなぁ。これを教師共に伝えればDクラスは一体どれだけのptを引かれることやら」
「あ、あんたが先に!」
「―――失格なんてこともあるかもなぁ」
「―――」
特別試験。その失格行為。
今まで、この五日間の努力を佐藤一人の手で終わらせてしまう。有り得てはいけないことだ。
クラスからの顰蹙だけでは済まない。培ってきた信頼も、友情も、地位も、そして言峰士郎との関係をも終わらせかねない。
正常な判断力の欠如。
かつて堀北が石崎相手に行った方法。
龍園はそれを意趣返しとして佐藤へと行う。
力が抜けたように佐藤はその場にへたりこんだ。既にアルベルトの手は離れている。
龍園は俯く佐藤を覗き込むように屈んだ。
「お、お願いします、ゆ、許してくだ、さい」
「おいおい、謝罪で俺の傷が癒えるかよ」
「そ、そんな―――」
「でもまぁ、お前がリタイアしちまえば、許してやらんこともねぇなぁ」
「―――あ」
理解した。
自分は嵌められたのだと、佐藤は理解してしまった。
最後尾に立っているのは伊吹だ。見えづらいが、確かにいる。
つまり、自分は誘い出されていたのだ。
「本来ならDクラスは試験失格、となるところをたったマイナス30の損失で許してやるって言ってんだ」
「あ、ぁ」
双眸から流れ出る涙。
ダムが決壊したかのようだ。涙は雨水に流され、地面に溶けていく。
恐怖、後悔、屈辱、羞恥、そして諦め。
「ご、めんなさい、士郎く―――」
「―――誰に謝っているんだ麻耶」
掛けられた声に振り向いた。
穏やかな表情、そうだ彼が佐藤が探していた―――、
「⋯⋯てめぇは」
「よくも俺の友人を泣かせてくれたな。それに、ここまで来るのに覆面を被った生徒たちから襲撃を受けたんだが、まさかCクラスか?」
「ハッ―――無傷で帰ってきやがって」
ぱさり、と言峰の上着が麻耶を包む。そして、安心させるように肩に手を置いた。
敵対クラスの男女十数人に囲まれているというのに余裕な表情、いつもと変わらない声音。
そうだ、彼なら。言峰士郎ならば負けるはずがないのだ。
「俺の予想以上だったわけだ、言峰ェ」
「暴力を実力と履き違えているようだな龍園」
言峰士郎と龍園翔が対峙した。
龍園くんってこんな鬼畜だったっけ?
こんな感じだったような、ここまでやらなかったような⋯⋯。
佐藤が言峰に好意を向けているのは傍から見れば誰にでも分かります。今回は龍園にそれを逆手に取られました。
策がうまくいったようでご満悦な龍園くん。
それと、坂柳との直接対決をお待ちしている方が多いみたいなので、事前にお知らせします。
VS坂柳は4巻、4.5巻でお送りさせていただきます。プロット上ではそうなってる。ネタバレっぽいですけど、ネタバレじゃないはず⋯⋯。、
所属するならどのクラス?
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絶対王者坂柳が率いるAクラス
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一之瀬率いるみんな仲良しBクラス
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龍園が支配する暴力帝国Cクラス
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堀北がまとめる闇鍋魔境Dクラス