ようこそ愉悦至上主義者のいる教室へ   作:凡人なアセロラ

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いつもほんとに感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
感謝しかないです。

感想返信なのですが、また忙しくなるので出来そうにありません。後日全て返信させてもらいます。申し訳ない。


敗北・勝利、そして―――

 生まれた悪。

 備わっていた善。

 矛盾を孕んだ存在。

 

 言峰士郎―――旧姓・■■士郎は聡明な子供だった。

 

 厳格な父、心優しい母。

 記憶に残る穢らわしい両親。

 自分という破綻者を産み落とした憎悪の対象。

 

 幼少期はいつも不安だった。

 少年期には絶望に変わり、とある男によってそれが悪いことではないと教えられた。

 

 他人の苦悶でしか、不幸でしか生き甲斐を見つけられない。

 間違っていることは知っていた。だから自制してきた。ずっと苦痛を感じていた。そして、信仰に身を捧げた。天におわす我らが主に救って貰えぬかと試行錯誤した。

 

 善行を積んだ。隣人を愛した。

 

 善行を積んだ。平等に手を差し伸べた。

 

 善行を積んだ。

 善行を積んだ。

 善行を積んだ。善行を積んだ。善行を積んだ。善行を積んだ。

 

 善行を―――。

 

 人の愛し方が分からない。

 隣人を愛せなかった。愛とは何か。■■士郎は人を愛せなかった。

 他人の不幸でしか生の実感を受けられない自分に、誰かを愛せるものか。

 

 好きだと思っていた、大事にしていた彼女の死に、何も感じなかった。

 寧ろ、自分の手で地獄に落とせなかったことを酷く悔やんだ。

 

 それでも隣人を愛そうとした。

 

 平等に手を差し伸べられなかった。

 他人の幸せを受け入れられない。他人の成長を許容できない。

 妬みだ。自分はこんなにも幸せになりたいのに、どうして他人の幸福を願わなければならないのか。

 差し伸べた手が握られることに嫌悪感が湧き出る。

 

 それでも平等に手を差し伸べた。

 

 善行を積んだ。主は自分を救わない。

 

 善行を積んだ。自分は何も変われない。

 

 善行を積んだ。何も、変わらない。

 

 善行を積んだ。なんの為に生きているのか。

 

 善行を積むのをやめた。

 主は自分も、そして彼女も救わなかった。

 

 信仰心はとうの昔に消えていた。それでも縋っていたのはどうしてだろうか。

 

 自分の中の悪が囁いた。

 神父が嘲笑う。それの何が悪いことか。

 友人が高笑う。何を以て悪とするか。

 

 これ以上、何を求めればいいのだろうか。

 そして、我慢の限界を迎えた時。

 

 ―――■■士郎の両親は死に絶えた。自分の中の悪が微笑んだ。

 

 

 

 1

 

 

 ―――思い返せばおかしな点は多かった。

 

 無人島試験。私たちが初めて臨んだ特別試験。

 炎天下、無人島での生活を強要された生徒たち。所属するクラスによって方針が大きく別れていたと思う。

 

 坂柳の不在の為、葛城の指示を仰いでいたAクラスは早々に洞窟内という良質なスポットをみつけ、そこに引きこもった。

 一之瀬がリーダーを務めているBクラスは一致団結を行動指針とし、特に目を引くような策を用いなかった。一人も欠かず、試験を乗り切るって感じだったと思う。

 

 そしてCクラスは龍園の支配の下、初日でptを全て吐き出した。正直、やり方には賛同出来ない。でも、私が何か代案を出せる訳もなく、悔しさとともに反論を呑み込んだ。

 

 全クラスで最も謎が多いのはDクラスだ。率いる者が決まっていないクラス。平田、櫛田、堀北、言峰というリーダーと思わしきものが複数いる。須藤との一件で、CクラスとDクラスが揉めた際、それを解決したのは堀北だと龍園が言っていた。つまり、堀北に龍園は負けたわけだ。

 だから、Dクラスのリーダーは堀北だと思っていた。警戒すべきは堀北で、後は多少優秀なだけの奴ら、と龍園も言っていたし、私も他の三人は警戒に値しないと考えていた。

 

 そんな中、Cクラスは敗北した。言峰士郎というたった一人の生徒に負けたのだ。

 

 

 

「りゅ、龍園さんっ」

 

 石崎たちが戻ってきた。佐藤を抱えて逃げた言峰を追っていたが、どうやら逃げ切られたらしい。あの身体能力だ。石崎たちでは捕まえるのはおろか、追いつくことさえ出来なかっただろう。

 龍園は顔を歪めながら立ち上がる。短時間とは言え意識を失っていたせいで、何をされたのか知らないけど動く度に身体に激痛が走るらしい。ざまぁみろ。

 

「な、何があったんですか?」

 

「ハッ―――ただの優等生じゃなかったみたいだな。アイツは優等生の皮を被った化け物だ。フィジカルでCクラスを潰しやがった」

 

 龍園は自嘲するように呟いた。鬱陶しい雨が額から流れ落ちてくるのを払いながら、私も身を起こす。

 雨は止む気配を見せない。

 

 次第にアルベルトや小宮、近藤たちも起き上がる。

 どうやら全員が手加減されていたようだ。目立った外傷もない。

 

「ここで起きたことは何も聞くな。そして、誰にも話すなよ。石崎たちや他のクラスに漏らした奴は制裁を加える。覚悟しておけ」

 

「は、はい」

 

 龍園は鋭い眼光で周囲の人間を睨みつけた。全員が俯き、石崎以外は声を発することも出来なかった。

 どうやらひよりによる裏切りも、言峰の強さも黙ってろってことらしい。石崎たちも何となく何が起きたかわかっているようだが、全容が掴めたわけじゃない。あいつの怖さを知るのはあの場にいた十五人だけだ。

 

 龍園はいつもみたいにニタニタと不快な笑みを浮かべ、石崎への視線を向けた。

 

「それで、上手くやれたか?」

 

「はい。Bクラスが二人、Aクラスが一人です。どいつも馬鹿みたいに外歩いてたんで」

 

「大方、周囲の様子を見に行かされ、それに逆らえなかった気の弱い連中だろう。こっちはBクラスが三人、Aクラスが二人だ。ククッかなりの額だな」

 

 石崎たちも上手くリタイアに追い込めたらしい。Aクラスは流石にガードが硬かったが、Bクラスの方は金田がスパイとして潜り込んで、気の弱そうな奴を私みたいに誘き出した。

 私の方は失敗したけど。

 

 元々、今回はDクラスの方は言峰を潰す作戦だった。おまけが佐藤麻耶の方だ。

 あいつの情報は龍園の耳にも入っていたらしく、各クラスに太いパイプを持つ言峰を屈服させて有効活用するつもりだったみたい。

 結果は惨敗だったが。

 

 それにしてもAクラスがマイナス90ptでBクラスがマイナス150ptだ。リーダーの目処もついてるし、最終的にはもっと大きな被害を与えられる。

 

「勝ちは確定したな。だが、同時にDクラスの一人勝ちも許したか」

 

「仕方ないでしょ。あんなのいるなんて聞いてない」

 

「言峰を狙ったのは失敗だったか。あいつを狙うのは坂柳を落とした後だったな」

 

「そ、そんなに強かったんですか?」

 

「⋯⋯暴力でも、知性でも全てを上回りやがった。それ以上聞けば、お前を潰さないといけなくなるぞ石崎」

 

「あっ、すいません!」

 

 Aクラスのリーダーは分かってる。Bクラスも金田が見つけた。問題はDクラスのリーダーを見つけられなかったこと。つまり、ptを下げる手段がない。

 どうしたものか、と考えていると足音が一つ近付いてきた。

 

「負けたんですね龍園くん」

 

「―――今ごろのこのこ歩いてきやがって。随分とやってくれたな、ひより」

 

 椎名ひより。

 Cクラスきっての変わり者で、才女。読書好きで争いごとが嫌いなくらいしか何も知らない女子生徒だ。

 今回はひよりへの変わり者という周囲の評価を利用されたわけだけど。

 

「やってくれた、とは?」

 

「⋯⋯ああ?」

 

「私は情報を提供しただけで、敵対行動を取ったわけじゃないですし、何よりCクラスが不利になるようなことはしてませんよ」

 

 龍園の顔が呆然としている。馬鹿丸出しだ。

 でも、確かにひよりは言峰に言われたことをそのままCクラスに流しただけだ。それをどう判断し、どのように活用したかは全て龍園の責任となる。与えられた情報のソースを疑わなかったのも龍園だし。

 

「⋯⋯確かにな。今回の件でお前を問いつめるつもりはねぇ。敗因は俺の浅い考えだった」

 

「残念です。あんなにも頑張ったのに負けてしまったなんて」

 

「ククッ言うじゃねぇか」

 

 龍園は真面目な表情を浮かべる。

 

「次負けたら俺は支配者を降りる。覚悟は決めた。もうてめぇらに下は向かせねぇよ」

 

「龍園さんっ!」

 

 石崎がキラキラした瞳を向けている。きもい。

 

「そんな龍園くんに言峰くんから伝言です」

 

「あ?」

 

「どうせならAとB、両方落とすつもりは無いか、とのことですよ」

 

 そう言ってひよりが差し出したのはカードキーだった。

 

 

 

 2

 

 

 

 特別試験最終日。

 8月7日。長くも短い無人島での生活がついに終わりの時を迎える。

 過酷なサバイバルではなく、親友たちとバカンスに来ていた気分だった。かなり楽しく過ごせていたと思う。

 終了時間とされていた正午になっても、まだ周囲には真嶋先生たちの姿はない。

 

『ただいま試験結果の集計をしております。暫くお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用ください』

 

 そんなアナウンスが流れ、生徒たちが一斉に休憩所へと集まっていく。他に仮設テントの下にはテーブルやら椅子やらが用意されていて、十分な休憩が取れそうだった。

 

「終わったね。⋯⋯大変だったけどかなり楽しめたよ」

 

「そうだな。良い経験になった」

 

 オレの隣で平田が安堵の息と共にその場に座り込んだ。オレも同じように座り込む。

 肩を並べ、同じ目標を胸に特別試験に挑めた。勝敗はどうあれ、当初の目標であった一致団結は達成したのだ。肩の荷がおりたのだろう、平田はやり遂げたと力を抜いた。

 

「堀北さんの策が上手く行けばいいけど」

 

「ああ、リーダーを事前に開示してそれを指名させたあとリタイアする。相手はリーダー指名失敗でマイナス50ptとなる、だったか」

 

「うん。おかげで士郎がリタイアしちゃったけど、マイナス30ptの損失は彼がスポットを占有し続けたことで帳消しになったね」

 

 士郎はリタイアした。今のリーダーはオレだ。

 正当な理由なくリーダーの変更はできない、だったか。体調不良によるリタイアはどうやら正当な理由だったようだ。

 

 ひとつ不可解なのはこれが堀北の策というところか。

 平田は本気でそう思っているようだが、これは士郎の考えた策だという確信がオレの中にはあった。

 入れ知恵、ではないな。士郎は堀北の成長を促している。きっと断片的に情報を与え、気付きを与えたのだろう。かつて言っていた高円寺と士郎の論争を思い出す。飢えたものへの施しについて。

 撒き餌という情報を与え、釣りをするという閃きを与えた。士郎は高円寺の意見を参考にしたのか? 

 

「結局、Cクラスは一人もリタイアしなかったんだね」

 

「みたいだな。あの状態から一人も欠かさなかったのは凄いな」

 

 Cクラスも他クラスと同様にこの場にいた。

 龍園はジャージのポケットに手を突っ込み不敵な笑みを浮かべながら立っている。その周囲からCクラスは一人も離れていない。

 意外と統率が取れているらしい。全員の表情を見る限り、忠誠心のようなものを感じる。

 堀北は龍園に今後勝てるだろうか。

 

 キィン、と拡声器のスイッチが入る音が砂浜に入ると、真嶋先生が姿を見せる。

 慌てて列を形成しようとする生徒を、手で制止させた。

 

「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了している。今は夏休みの一部のようなものだ、つかの間ではあるが自由にしていて構わない」

 

 生徒たちに緊張が走り、雑談が止んだ。

 

「この一週間、我々教員はじっくりと君たちの特別試験への取り組みを見させてもらった。真正面から試験に挑んだ者。工夫し試験に挑んだ者。様々だったが、総じて素晴らしい試験結果だったと思っている。ご苦労だった」

 

 真嶋先生からの、迷いのない褒め言葉を受け生徒たちから安堵が漏れる。

 やっと特別試験が終わったのだと実感できたのだろう。

 

「ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う」

 

 どのクラスが勝っているか、現時点で確信出来ているのはオレや士郎、高円寺くらいだろうか。

 

「なお結果に関する質問は一切受け付けない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」

 

 Dクラスの最終ptは220だ。士郎のリタイアで減ってはいるがそれでもほとんど消費せずに、スポット占有だけでもかなり稼げている。

 真嶋先生は続ける。

 

「ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位は―――Bクラス0pt」

 

 生徒たちに動揺が走った。

 誰しもが予想し得なかった結果。Bが龍園、いやCクラスへと強い敵意を向けて睨んでいる。もしかして、狙われたのはDクラスだけじゃなくAクラスやBクラスも同じだったか。

 つまりリタイアでptをかなり削られたワケだ。

 

「続いて三位はAクラス10pt。二位はCクラス100pt」

 

 結果が予想出来ていたのか龍園は不敵な笑みを一切崩さなかった。

 なるほど、士郎は龍園と手を組んだらしい。今回の目論見はAクラスとBクラスをたたき落とすことだったのだろう。

 

「そしてDクラスは―――320ptで一位となった」

 

 歓声が爆発した。

 

 

 

 人気のない船内。

 端末から試験結果を見ていた言峰は笑みを零す。BクラスとAクラスの絶望した表情。今までの尽力が全て無為に帰したその無様。実に味わい深いものだ。

 しかし、まだ足りえない。これでは満足出来ていない。

 

 だが、自分を満足させてくれる人間は沢山いる。

 堀北鈴音、櫛田桔梗、王美雨、軽井沢恵、平田洋介、龍園翔、一之瀬帆波、坂柳有栖。どれも上質な獲物だ。

 

 端末に映る堀北が目に入る。

 頑張りが報われたからか、仲間たちに囲まれ涙を流すその姿は微笑ましいものだ。

 

 コツン、と靴が床を叩いた。

 言峰が振り向いた先にはAクラスの生徒であり坂柳によって縛られている神室真澄が立っていた。

 彼女は訝しげな表情を浮かべている。

 

「約束、守ってくれるんでしょうね?」

 

「守るさ。一度決めたことを反故にするつもりはない」

 

 悠然と言峰は返す。

 端末を懐にしまい、神室を見つめながら立っている。

 

 そんな姿を神室は腕を組んで睨みつけた。

 

「これでもかなり危ない橋を渡っているのよ。労力に見合った成果を見せてくれないと」

 

「ああ、君の働きには報いるつもりだ。リタイア、ご苦労だったな」

 

「ふざけないで。坂柳の指示にないことをしたからかなり怪しまれてる。こんなこともうごめんよ」

 

 神室が吐き捨てた。

 目の前にいるのは良人の皮を被った悪人で外道だ。唾棄すべき存在。

 そんな彼にしか出来ないことを頼んでいる身ではあるが、やはり嫌悪感はある。

 

「そんなに信用ならないか?」

 

「当たり前でしょ。坂柳とどう結託しているのか知らないけど、目撃者として名乗るつもりでこの契約を結んだんだから」

 

「ふふ、結果は夏休み中には出すさ」

 

「それが信用ならないって言ってんの」

 

 言峰へと詰め寄り、その胸倉を掴んで睨みつける。

 それでも尚、この男の表情に変わりはない。寧ろ、聞き分けのない幼児を見るかのような微笑みを浮かべていた。

 虫唾が走る。

 

「俺も長い間我慢を強いられていたんだ。それも全て念入りな準備の為だ。生まれてこの方、我慢ばかりしてきた。慣れたものだよ」

 

「知らないわよそんなこと! 私に強要するな!」

 

「声を荒らげてはいけない。聞かれたらどうする?」

 

「死ねっ」

 

 神室は苛立ちを我慢出来ずに悪態をついて歩き出した。

 その後ろ姿を見ながら、言峰は嗤う。

 

「喜べ神室。君の願いはようやく叶う」

 

 全ては―――の為に。

 

 

 

 

 

 

 




神室さん可愛い。
次回は他社視点での無人島試験での話か、直ぐに四巻に移ろうか迷っています。ということでアンケート取ります。アンケで結果決まるわけじゃなくて参考にする程度です。ご了承ください。

あと言峰士郎は所属するクラスによってやり方が変わってきます。
Aクラスであれば葛城、坂柳を率先して潰しに来ます。そのやり方がCPを減少させてDクラスに転落させる、というものです。
Bクラスであればクラスメイトを不幸に叩きのめしてクラスとして機能させなくしてきます。一之瀬は贄となったのだ⋯⋯神へのな。
Cクラスが一番ヤバイです。龍園と結託して、やりたい放題してきます。物理的に破壊しに来たり、精神的にも破壊しに来ます。

結論、Dクラスが一番大人しいのかもしれない。

次回は―――

  • 直ぐに四巻に入れ
  • 一之瀬、葛城、龍園視点入れろ
  • サブキャラの視点も書け
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