感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
明日見直した時に気に食わなければ削除して投稿し直すかもしれないです。
プロットと違う話書いてるし。
特別試験二日目の夜。
Bクラスに所属する一之瀬帆波、神崎隆二の両名は森の中を歩いていた。
月明かりだけを頼りに道を進むが、何度も足を踏み外し転びそうになってしまう。夜の帳は既に降りた。木々によって閉鎖された空間は光さえも遮る。
「ここら辺だったよね⋯⋯?」
「ああ、夜道故に確証はないが」
約束の場所に辿り着いた、はずだが不安は残った。
それもそうだ。同じような景色。見渡す先は全て植物だけ。目印になるようなものは限られている。
だが、どこか見覚えがあった。既視感の正体は―――、
「おや、客人が来たみたいだねぇ」
二メートルにも及ぶ岩の上、金髪を輝かせる男が立っていた。
堂々と、まるで世界の中心が自分の立ち位置と言わんばかりの自己主張。溢れ出る圧倒的自我。
その男が放つ独特な気配を二人は知っていた。
「高円寺くん⋯⋯?」
「如何にも、プリティーガール。私以外に高円寺六助は存在しないし、私以上の人間も存在しない。当然の摂理だが、当たり前のことをこなせたことには及第点をやろう」
「凄いよ神崎くん、全然何言ってるのかわかんないっ」
「⋯⋯ここまで意味不明なのは高円寺くらいだろうな」
見せつけるように髪を撫で付けた高円寺に動揺を隠せない。
相手が自らの言葉を理解しないのが悪い、そう言いたげな態度だ。
「シェロ。いつまでそこにいるつもりだい? あれらは君の客人だろう?」
「⋯⋯ああ、そうだな」
高円寺が岩裏に視線を落とす。
その声に反応して出てきたのは高円寺以上に屈強な肉体を持つ男だ。上着を脱いでいる為にその筋肉質な身体は一目瞭然だった。
ここまで隆起した肉体はCクラスのアルベルトくらいだろうか。
「士郎くんっ」
「待たせたようだな。すまない」
Dクラスの言峰士郎。
神崎から見て、凄まじいポテンシャルを持つ優等生だ。総合力で言えば、一之瀬を上回るかもしれないと警戒する生徒でもある。
誰にでも平等に接し、密やかに学年全体の女子に好意を抱かれている端正な顔立ちをした人気者。
「ううん、全然待ってないよ。寧ろ、私たちが待たせちゃったみたいだし」
「不本意だがそこの馬鹿が話し相手になってくれていた。俺も待ってはいないよ」
「退屈させちゃったかなって思ったけど、それなら大丈夫だね」
言峰は心なしか元気がない。
いつもみたいな穏やかな笑みを浮かべてはいるが、覇気がなかった。
「それで⋯⋯特別試験の話、だったか」
「うん。士郎くんから見て、今回の特別試験どう思う?」
「ふむ、そうだな。今回の特別試験は今後課題になってくる協調性を元にした下地だと思っている。まず大前提として特別試験で競い合うのは個人ではなくクラス。集団での戦い方を重視しなければならない。その為にもこの試験はチュートリアルのようなものだと思うが」
「なるほどね。つまり一致団結を高めるための試験だってことかな」
「ああ、推測には過ぎないがな。この試験でクラス内で溝を作るようであれば、以後勝ち上がるのは難しいだろう。それに、ルールがある以上、一人で戦うのは不可能だ」
一之瀬は納得したように頷いた。
神崎も同様だ。今後の為にもこの特別試験は勝敗よりもクラスの離反を気にかけた方がいい。
Bクラスは元よりそのつもりだったが、Dクラスも同じ方針なようだった。
そこで、黄金の偉丈夫が口元を歪めた。
「君たちは実にナンセンスだねぇ」
「っどういう意味かな高円寺くん」
「ほら、その問いかけ。答えを聞けば返ってくると思っているのは良くない。少しは頭を使い給えよプリティーガール」
「⋯⋯高円寺、おまえの言葉は理解できない」
神崎が声を荒らげた。
不敵に嗤う高円寺は可哀想なものを見る目で、一之瀬、神崎の両名を見下す。
憐憫。格上の者にのみ許された感情を見せる高円寺に二人の心がざわついた。
「理解できないのは君の怠慢さクールボーイ。何事も理解しようとする、不可能でも実行する、それが君たち弱者の義務だと思っているが?」
「お前は自分を強者だと思っているのか?」
「思う? だから君はナンセンスなんだよ、クールボーイ。思う思わないは関係ない。そこに私がいるということが何よりの証明であり、確証なのさ」
「意味がわからない」
「それは残念だ。寛容な私と言えど、理解する気がない者に親切に説いてやることは無い。答えを待つ、他者に委ねる。なんとも貧困な思想だ。そういう者たちが蔓延るこの世を憂いてしまうよ」
話す気がなくなったのか、高円寺はそれ以上口を開くことが無くなった。
沈黙が訪れる。
流石にお人好しな一之瀬といえど、ここまで言われて黙っていることは出来なかったが、有無を言わせぬその黄金からの視線を受け口を噤んだ。神崎も同様に言葉を発することは出来ない。
そんな中、くつくつと押し殺した喉を鳴らす笑い声が聞こえてくる。静寂な空間で、その笑い声はよく響いた。
「お前は本当に変わらんな六助」
「何か答えでも見つけたかい?」
「ああ、また助けられてしまったようだな」
「気にすることはない。私と君の仲だ。それに、その歪みの結末を見届けたいという思いもある。必要経費と言うやつさ」
「⋯⋯そうだな。隣人の事ばかり考えすぎていた。俺は自由なんだ。やっと、あの呪縛から抜け出せたんだ。好きにやらなくては、長年の我慢が報われん」
何か不穏な気配を感じる。
穏やかな笑み、とは毛色が違う笑みを零す言峰。
全身が産毛立つのが分かった。一之瀬と神崎は無意識に身構える。
「⋯⋯士郎くん?」
「―――一之瀬帆波、Bクラスの生徒で俺に相談を持ちかけてきた者は何人いると思う?」
唐突な問い掛け。
一之瀬は困惑を隠せずに眉を顰める。
「どうだろ、かなりいたと思うけど」
「十八人だ。内訳は男子が五人、女子が十三人だな。その中に君の親友である白波千尋、そして君も含まれている」
「何が言いたいの?」
「俺はその全員の秘密を知っている。無論、君もだ」
時が止まった。
理解するまでその言葉を脳内で何度も繰り返す。
そして理解した。
顔が青ざめ、冷や汗が溢れ出る。
「ま、まさか⋯⋯」
「人に聞かれたくない。聞かれてしまえばこの学校に居られない。くだらない悩みから、その者の今後を左右する罪悪。随分と幅広く相談されたものだ」
「脅すつもり? ⋯⋯正直、君は、士郎くんはそんな人じゃないと思ってた」
「どういうことだ、言峰ッ!」
神崎が声を荒らげた。
明らかな脅しだ。見過ごせるようなものでは無い。
言峰は嗤う。
「ふむ。脅しとはまた物騒なことを。俺はただ事実を伝えただけであり、君たちを脅迫するようなことは口にしていないと思うが?」
「⋯⋯何が目的なの?」
「目的? 目的とはなんだ? この掛け合いに意味はあるのか?」
「―――は?」
言峰の背後で高円寺が静かに行く末を見守っている。
言峰士郎はこんな人間ではなかった。善良で、博愛主義で、誰からも好かれるような性格の男子生徒だった。
それが今はどうか。あんなにも親身に相談に乗っていた男が、悩みに大小などないと言っていた男が、くだらないと吐き捨てたのだ。
明らかに異常な事態だ。
「人の行動原理には、その根底にある愉悦が作用する。勝ちたい、負けたくない、見返してやりたい。どれも等しく愉悦だ」
「愉悦?」
「君にもあるだろう? 愉悦を持たぬ人間など、それはただの機械だ」
一之瀬を庇うように神崎が前に立つ。
それを見ても言峰は尚嘲笑うように続けた。
「俺は―――他人の不幸でしか生きられない人間だ。他者の苦痛でしか生き甲斐を感じられない欠陥品だ。Dクラスに配属されたのも納得がいくものだな。人の不幸に悦を感じることを誰が許容する?」
「士郎くん⋯⋯」
「隣人の破滅を尊び、他人の不幸を好み、苦悶の声に安堵する。ああ、なんておぞましい人間なんだ、と。自分はなんて罪深い悪人なんだ、とそう思っていた」
―――言峰士郎にとっての愉悦は、まさしくそれだった。
「だが、それももうおしまいだ。なぜ、他者に許容される必要がある? 理解に何の意味がある? 等しく無価値だ。この掛け合いも、俺の心情の吐露も、全てが無意味なもので、意義がない」
「⋯⋯苦しんでたんだね」
「それは同情か? 俺に憐れみを抱くのはやめた方がいい」
「どうして?」
「満足しているからだ。俺を産んだ穢らわしい両親を憎み、良心の呵責を嫌悪し、罪悪感を噛み殺した。だが、今となっては全てが愛おしく感じる。俺には幸福を感じる心があった。機能が備わっていた。どこに憐れみを抱く必要があるというのだ? 喜ばしいことではないか。愉悦を感じることが出来ることのどこが欠陥だと言うんだ?」
「⋯⋯それでも、私は士郎くんが苦しんでいたんだと思うよ。今はそんなことないかもしれないけど、昔の君はそうじゃなかったんでしょ?」
「⋯⋯確かにそうだな。それは間違っていない」
「じゃあ、ずっと我慢を強いられてきたんだよね。私たちにとって当たり前の幸福を実感できずに、空虚な生き方を選んだ士郎くんは―――」
一之瀬帆波はどこまで行っても善良だった。
言峰にとってはそれが喜ばしいことではある。
この掛け合いに意味は無い。が、少なくとも無価値ではなかった。
「―――一之瀬帆波、これは警告だ。俺は君のその善良な性格を心から尊敬している。だからこそ、君の破滅を見届けたい俺にとって、君が折れることは何よりも許せない」
「うん」
「今は何もしない。だが、これから先、俺はBクラスを潰しにいく。それまで決して折れてくれるな」
「―――その時は本気で立ち向かうよ。私たちBクラスが」
「ああ、それでいい」
言峰が心から笑った気がした。
神崎がその笑顔に瞠目する。しかし、一之瀬には分かっていた。彼は確かに悪い人だが、非道ではない。
悪人ではなく悪党。非道ではなく外道。それが言峰士郎という善良さを持ち合わせた人間だった。
「龍園翔には気を付けろ。あの男は君が思っている以上に悪知恵が回る」
「龍園くん?」
「正攻法で戦うことは褒められるべきことではあるが、推奨されるものでは無い。時には悪辣さが君を助ける時がある。善意だけでは集団を導くことは出来ないぞ」
言峰が背を向け歩き出した。その後を高円寺も喉を鳴らして笑いながら追従する。独特な二人だったが、両者共にそんなに悪い人では無い気がした。
神崎は依然として警戒していたが。
「言峰士郎、高円寺六助、あの二人は危険だ一之瀬」
「そうかな? 高円寺くんの方は分からないけど、士郎くんはそこまで思うほど悪いことはしてないと思うよ?」
「確かに現時点では何かしたわけじゃないが⋯⋯」
「士郎くんは他人が堕落したり、足を踏み外したりするところを見たいと思っているわけではなくて、それでしか生の実感ができない人なんだよ。それを開き直ることで良心の呵責を止めてるんじゃない?」
「⋯⋯そうかもしれないな」
きっとあの二人はBクラスの敵として立ちはだかるであろう。
それでも、嫌いにはなれなかった。
2
特別試験五日目。
Bクラスを襲ったのは凄まじい豪雨だった。
「うわー凄い雨だねー」
「このままじゃまずいな。何かしらの対策をしなければ」
そんな悪天候に見舞われながらもBクラスは冷静さを欠くことなく、対処していく。
降り続ける雨に辟易しつつも、乗り越えられる自信があった。
この時までは。
それから数時間後、点呼の為に現れた星ノ宮の言葉で一之瀬及びBクラス生徒は絶望することとなる。
「残念だけどBクラスから五人、リタイア者が出ちゃった」
「―――え?」
悲痛な面持ちでそう告げた星ノ宮に一之瀬は動揺を隠せなかった。
リタイアした五人はいずれも内気な生徒であり、食料を取ってくるという金田について行った者たちだ。
そして気付く、あの時の言峰の言葉の意味を。
――― 龍園翔には気を付けろ。あの男は君が思っている以上に悪知恵が回る。
その意味を理解した時、湧いてきたのは激しい怒り、そして途方もない悲しみと後悔だった。
五人のリタイアによるマイナス150ptの損失はかなり大きなものだ。
「嘘」
「一之瀬?」
「こんなのって」
一之瀬の顔が歪む。
言峰の忠告をもっと考えるべきだった。
楽観的に受け止め、皆を敗北に導いたのは自分だ。救えたはずの五人を蔑ろにしたのも自分だ。
「嘘だ⋯⋯」
「落ち着け、一之瀬っ」
「こんな、こと⋯⋯」
神崎が一之瀬の肩を掴んだ。
一之瀬がその場から崩れ落ちるように座り込んだと同時に、その心が折れた音が聞こえた。
それを目の当たりにしたBクラスの生徒たちも、次々と力が抜けたようにへたり込む。
龍園の悪辣さは一之瀬の想像の範疇を大きく上回っていた。
Bクラスは、一之瀬帆波は、
―――Cクラスに大敗を喫したのだ。
思ったよりCクラスルートやAクラスルートを望む声があって驚きました。時間が空けば書いてみるかもしれません。本編が一段落着いたらですけど。
それにしても最近ランキングの方でよう実の作品がちらほらあって嬉しいです。このままもっと増えて欲しい⋯⋯。
アンケを参考にして簡易的にBクラス視点を書いてみたんですけど、なんかよくわかんない。全部は明日の自分に任せます。おやすみなさい。
この展開は書き直すべき?
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書き直すべき。言峰士郎はそんな事言わない
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別にいいと思う
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どうでもいい早く続きかけ