ようこそ愉悦至上主義者のいる教室へ   作:凡人なアセロラ

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感想、評価、誤字報告感謝です。
この話を間違えて一度だけ執筆中に投稿してしまったのですが、もし気付かれた方がいたのなら謝罪しておきます。


綾小路清隆の友人(3)

 堀北は暫く肩を震わせ嗚咽を漏らしていた。

 Dクラスという評価、茶柱の指導、言峰との問答。短い期間で積み重なった感情が爆発したようだ。追い討ちをかけるように続けられた在り方の否定。彼女が目指していた孤高の履き違え。

 仕方の無いことだが、プライドの高い堀北にとって最も屈辱的だったと思う。何より、その言峰の言葉や下された評価に納得してしまったが為に抑えられなかったのだろう。

 

「堀北、孤高と孤独は似て非なるものだよ。何も仲間を頼れ、と言っているのではない。君の感情が許さないことを無理強いするのは酷な事だ。利用すればいい、信頼なんて二の次だ。君が孤高を目指すのならば、先導者ではなく、支配者として在るべきだ。思考を把握し誘導する、他者からの信頼を勝ち取る、カリスマ性が君には足りない。他者から下された評価に不満を抱く前に、覆そうとする意志が今の君にはない。この程度で挫折するようでは社会に出たところで何も出来やしないんだ。なら、堀北鈴音はこのまま孤独な少女として何もしない方が身のためだよ」

 

「―――」

 

 その言葉を最後に堀北は弾かれたように教会を飛び出した。

 教会内に敷かれた扉から祭壇へと伸びる赤い絨毯を零れた涙が濡らしている。残されたオレと言峰の間に静寂が訪れた。

 ふと、先の言葉を思い返してみれば言峰は堀北へと激励と叱咤を混ぜた言葉を送っていた。やはり、彼女を更正へと導いている。

 流石はオレの親友だ。友人として誇らしく思う。

 

「それで、綾小路はなんの用だったのかな?」

 

「オレは堀北の付き添いで来ただけだ。特に用があったわけじゃない」

 

「そうか。では少し付き合って欲しいことがあるんだが頼めるか?」

 

「別に構わないが⋯⋯」

 

「良かった」そう言うと言峰は微笑んだ。言峰がオレに頼み事とは珍しいな。二つ返事で了承してしまったが、内容くらい聞くべきだったろうか。いや、友人の頼みだ、断る理由がないな。

 言峰は少し待っていてくれ、とだけ告げると教会の裏の方へと歩いていった。オレはそれを待つことにしたので、座席へと腰を下ろす。

 傷一つなく、ほこりもついてない。言峰の管理が行き届いている証拠だ。見た通り敬虔な信仰者だったらしい。

 

 

 

 5

 

 

 

 かぽーん。

 そんな擬音が聞こえてきそうな密室。男三人で裸の付き合い。誤解されそうな状態だが、オレは生まれて初めて銭湯に来ていた。

 メンバーはオレと言峰、平田だ。しかし男子だけで来た訳ではなく、しっかり女子も女湯の方にいる。

 そして、オレたち三人はサウナと呼ばれる高温の密閉空間で並んで腰を下ろしていた。

 

「で、どうしてオレを誘ったんだ?」

 

「君は俺以外とあまり親しくしている姿を見ていないし、何より異性との交流も少ないだろう? 友人として交流の輪を広げて欲しかったんだ」

 

「それは、助かるな」

 

 どうやら言峰はオレの為に動いてくれたらしい。今日の放課後は元々いつものメンバーで銭湯に行く予定だったらしく、そこにオレを加えてくれた。

 

「洋介、そっちはどうだったんだ?」

 

「うん、大体の方針は固まってきたよ。今のところ、中間試験対策としてクラス全体で勉強会を開く予定なんだ。成績の良かった人に頼んで講師役をしてもらうつもり」

 

「堅実だな。君らしい案だ。俺も是非手伝わせてくれ」

 

「こちらからお願いするところだったんだ。ありがとう」

 

「そういえば綾小路は人に勉強を教えられるのか?」

 

「いや、オレはあまり成績の良い方じゃないな。それにオレに教えてもらうのは他の人も嫌だろう?」

 

「そう卑下するものじゃない。同じクラス、同じ船に乗った仲間だ。クラスの為、みんなの為となれば邪険に扱うものはいないよ」

 

「そうだよ綾小路君。もっと自信を持っていいと思う」

 

 二人に励まされるとなんだか出来るような気がしてくる。今のオレならば同じく人気者になれそうだった。流石にこれは妄想だな。

 しかし、サウナというのは良いな。同じ空間で汗を流していると何故か一体感というものが生まれてくる。まるで部活でお互いに切磋琢磨してきた仲間のようだ。存在しない記憶が溢れてきた。

 

「だが、やはり断らせてくれ。今のオレでは力不足だ」

 

「そっか。そこまで言うなら無理強いはしないよ」

 

「ではテストは一人で乗り切れそうか? 不安があるのなら俺たちが鞭撻するのも吝かではないが」

 

「そうだな、是非お願いする」

 

 何かと言峰はオレを優遇してくれる。友人としては当然なのかもしれないが、こうやってオレが他者と関わる機会を増やす手伝いを積極的にしてくれるのだ。もはやオレたちは親友どころか竹馬の友なのかもしれない。

 

「講師役は俺、洋介、櫛田辺りかな。幸村はあまり集団行動を得意としてないし自分の方に集中したい筈だ。誘わない方が良さそうだな。高円寺も同様クラスに興味を持ってないから無理として、後は堀北はどうだろうか?」

 

「堀北さんなら大丈夫だと思うけど協力してくれるかな?」

 

「彼女はあまり協調性のない生徒だ。頼み込んでも難しいかもしれない、がやってみるだけ無駄ではないだろう。今日辺り俺から直接連絡をとってみる」

 

「じゃあお願いしようかな。グループ分けはどうしようか」

 

「それは堀北次第だね。彼女からの返答の後、あらためて君に連絡するからそれまで待って欲しい」

 

「わかったよ。一応綾小路君は希望の人とかあるかな?」

 

 微妙に答えにくい質問がきた。どう答えても角が立ちそうだな。言峰と答えれば、平田は嫌だと言っているようなもんだし、平田と答えれば言峰との友情を蔑ろにする気がする。一番の悪手は櫛田を選ぶことだろう。オレが女好きという評価を下されそうだ。

 

「特に希望はないが、人数合わせ程度に思ってくれ。空いたところに入れるぐらいが丁度いいかもしれない」

 

「答えにくい質問しちゃってごめんね」

 

「洋介は思いやりはあるが配慮に欠けるところがあるな。その方が人間として俺は好ましいけど」

 

「あはは、自己紹介の時もそうだったね」

 

「なに、過ぎた事を気にするよりこれからどう改善するかが肝だよ。君は人格者だ。普段の行いから見て、有り余るほどの善行を積み重ねている。多少の失敗も皆許してくれるさ」

 

「そうかな? 士郎みたいに出来ればいいんだろうけど」

 

「俺も完璧ではないよ。洋介と同じでね。実は俺、恋人が出来たことがないんだ。ちなみにこれはオフレコで頼む」

 

「そうなの!? 女子の扱いに手馴れてたからてっきり!」

 

「意外と奥手だったりするんだよ。教会の人間として他人と関わるのは得意なんだが、恋愛は苦手でね、上手くいった試しがない」

 

「オレも恋人ができたことは無いな。平田を羨ましく思うよ」

 

 生まれて初めて恋愛トーク、恋バナみたいなやつを行った。ここがサウナでなければそれなりに雰囲気はあったのだろうが、流石に友情は深めれても恋の悩みを打ち明けようとはならない。

 ふと、言峰が思いついたように紡いだ。

 

「綾小路、君も名前で呼び合わないか? 同じクラスメイト、仲間なんだ。それにこうして裸の付き合いまでしている。信頼関係を結ぶにしても名前で呼び合うのは連帯感を呼び起こす。どうだ?」

 

「いいのか?」

 

「僕は全然構わないよ! むしろこうして男子と仲良くなれるのは嬉しいんだ。普段、女の子と一緒にいるのが多いから男子にいい感情を抱かれなくてね。同性の友達は僕が望むところだよ」

 

「それじゃ、士郎、洋介これからよろしくな」

 

「ああ、清隆。今後も仲良くしていこう」

 

「うん、清隆くん。よろしくね!」

 

 こうしてオレは士郎だけでなく、洋介という新たな友人が出来た。人気者に挟まれるオレの腰巾着感が凄そうだが、友人が出来て舞い上がっていたオレには関係の無いことだった。

 

 

 

 程なくして根を上げた洋介に合わせてオレたちもサウナを出ると暫く湯船に浸かって脱衣場へと戻った。

 そこで身体を拭き上げる士郎を見て洋介が感嘆の声を洩らす。

 

「やっぱり士郎は体つきが凄いね。僕なんかじゃ比べ物にならないよ」

 

「筋トレが好きなんだ。ただの見せ筋さ。それより清隆の筋肉のつき方は実用性のありそうなものだな。何か武道をやっていたのか?」

 

「いや、習い事はピアノと茶道だけだな」

 

 洋介は高校生の中では鍛えられた肉体をしていた。が、それ以上に士郎の筋肉は凄かった。制服やキャソックでは分からなかったが、改めて見るとボディビルダーのような体つきをしている。隆起した肉体を見れば、ひと目で強いと理解できるレベルだ。

 流石にオレでも身体能力では勝てそうにない。

 

「さて、女子も待ってることだろうしさっさと出ようか」

 

「そうだね。待たせちゃってるみたいだし怒られそうだ」

 

「違いない。清隆も叱責される覚悟をしておくといい」

 

 脱衣場から出て大広間に向かうと洋介の言ったようにオレたち三人は遅いと叱責をもらうのだった。

 

 

 

 6

 

 

 

 その後、オレは堀北と会っていた。これから皆で勉強会をするという士郎たちと別れ、堀北の連絡先を教えた。

 士郎とどんな会話をしたのかは分からないが、呼び出され寮近くの自販機に向かうと堀北は既にベンチに腰を下ろしオレを待っていたようだ。心なしか決意に溢れた表情をしている。

 

「珍しいな堀北の方から会いたいなんて」

 

「誤解を招くような言い方はやめてほしいのだけど。ただ、私も覚悟を決めたから貴方にも協力をお願いしたいって話をしたかったの」

 

「協力と言ってもオレに出来ることは特にないぞ」

 

「全教科50点なんて狙ってできる貴方が冗談はやめて」

 

 オレは堀北の隣に腰を下ろす。

 相変わらず疑っているようだ。そもそも頼るのならオレではなく洋介や櫛田、士郎辺りにするべきだ。

 

「言峰君に言われたことについて考えてたの。確かに私は間違っていたわ。でも孤高を目指すのはやめるつもりはない。彼が言ってたように私にはカリスマ性が欠けているわ。でも、能力が不足しているからって諦めるのも私のプライドに反する」

 

「言峰の言うようにプライドを折ってでも頼った方が堅実ではあるぞ?」

 

「そうね。彼のように出来れば、それで良かったんでしょう。でも、私は彼のようにはなれない。目指している人がいるの」

 

「じゃあ、勉強会のお願いは断ったのか?」

 

 堀北は首を横に振った。

 

「寧ろ私から参加を希望させてもらったわ」

 

「随分吹っ切れたんだな」

 

「吹っ切れてなんかないわよ。今でも悔しく思うし、Dクラスに配属されたことに不満を抱いている。だから、考え方を変えたの」

 

 星を見上げながら堀北は零す。街灯に照らされて、泣きじゃくり赤く腫れた瞼が目に入った。

 しかし、瞳に弱々しさはなく、寧ろ決意に満ち溢れた凛々しさを孕んでいた。どうやら士郎の激励と叱咤に気付いたようだ。

 

「抗議するのではなく、私自身の力で評価を覆す。その為に、彼の言葉通り、まずはクラスから信頼を勝ち取ることにしたの」

 

「身を張らない統率者には誰もついて行かないからな」

 

「ええ、私が率先して泥を被る。どんなに泥に塗れても、それで勝ち取った結果が汚れることなんてないから」

 

 晴れやかだな。

 前に進むことが出来たようだ。以前の堀北とは全くの別人のように思える。

 

「だから、須藤君たちの勉強を見ることにしたの。彼らはきっと平田君が主催した勉強会には参加しない」

 

「だろうな。そんなことで参加するならそもそもあそこまで女子に煙たがられてない」

 

「そう、彼らを赤点からすくい上げて信頼関係を結ぶ。私が頼るかなんてのはまだ考えなくていい。まずは彼らから頼られる存在にならなくちゃ話にならないわ」

 

「だが、堀北が誘っても池や山内たちは協力しないと思うが」

 

「でしょうね、だから貴方にお願いするの。―――彼らが勉強会に参加するよう協力してください」

 

 ベンチから立つとオレの前まで来て、堀北は頭を下げた。彼女のプライドが本来許さないはずの行為。自分の限界を理解したが為に、湧き上がる屈辱感を押さえつけてまでこうしてオレに頭を下げている。

 士郎はこうなることを見越していたのだろうか。いつものオレなら断っただろうが、流石に士郎が関わっているんだ。無下には出来なかった。

 

「分かった。だがオレは何をすればいい?」

 

「きっと貴方でも彼ら三人を参加させることは無理でしょうね。言峰君なら可能なのでしょうけど、まだ今の私には彼は協力してくれないわ。だから、貴方経由で櫛田さんにお願いして欲しいの。⋯⋯私から直接はプライドが邪魔して出来ないわ」

 

「そういうことか。明日の昼休みにでも櫛田に協力を依頼してみる」

 

「ありがとう」

 

 堀北は俯いていた。頬が熱を帯びて紅潮していることから恥ずかしかったのだろう。今まで誰かに頼るということをしてこなかった彼女にとって、これは初めての経験であり新たな一歩でもある。

 櫛田でも無理そうだったら、オレ経由で士郎に相談してみるか。

 

「私はいずれ言峰君にも認めさせてみせる。その上で、Aクラスに上がるわ。どん底から這い上がるだけだもの。言峰君の協力があれば不可能ではないはずよ」

 

「だろうな。茶柱先生も言峰のことはAクラスの完成系と言っていたし、きっと全クラスにおいて言峰より優れた生徒はいないんじゃないか?」

 

「そうね。兄さんと類する彼ならきっと⋯⋯。茶柱先生の言葉が本当ならあの高円寺君も制御出来ると思っていいはず」

 

「それは真実だと思うぞ。高円寺が教会に足を運んでいるのを見た事がある。実際教室内での会話を聞く限り、かなり親しい間柄みたいだ」

 

「綾小路君、盗み聞きはいい趣味とは言えないわよ」

 

 確かにそうだな。これからはやめておこう。士郎にもいい顔はされないだろうからな。

 再びオレにお礼を告げると堀北は寮へと戻っていった。一人取り残されたオレはベンチで星を見上げ黄昏ながら、今日新たな友人が増えたことに思いを馳せるのだった。

 

 

 

 結論から言うと、Dクラスは全員が赤点を免れていた。堀北の助力もあり、池、山内、須藤の三人が赤点ではなかった為に、クラス内でも堀北を見直す声がちらほら聞こえる。

 彼女も満更でも無い様子だった。だが、堀北曰く、まだこの程度ではいけないらしい。士郎はクラスでの協力はするが個人の協力を得るのは難しいのだという。洋介の頼み事を聞いているから、今の堀北の方針ならば士郎も協力してくれると思うのだが。

 

「これで、第一関門は突破したわ。後は継続してDクラスから赤点を出さないようにしないと」

 

「そうだな。流石にクラスから赤点が出そうだったら言峰も何かしらの対策はしそうだが」

 

「私の手でやることに意味があるのよ。言峰君を認めさせなければ、きっと兄さんにも認めて貰えないでしょうから」

 

 そう言い切ると堀北は黙ってしまった。クラス全体の平均点がそれなりに高かったようで勉強を教えていた士郎たちが褒め称えられている。

 須藤たち三人も堀北に賛辞を飛ばしていた。勿論、櫛田への賛辞が一番凄かったが。

 それにしても、佐藤たちが士郎の腕に引っ付いているが彼らは結構親密な仲なのか? 彼らの距離感を見る限り、士郎は恋愛下手なようには見えないし、明らかに異性の扱いに手馴れている。

 何かしらの理由があるのだろうか。

 




綾小路「オレの友人たちは凄い」

Dクラスの良心(笑)は力を溜めている。

とりあえず第一巻分は終わりでしょうか。
次から誰視点で話を書こうか迷っています。

次の語り手は?(あくまで参考にする程度です)

  • 綾小路清隆
  • 堀北鈴音
  • 平田洋介
  • 佐藤麻耶
  • 櫛田桔梗
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