些細なことでもいいので感想を書いていただけるだけで執筆意欲が湧いてくるので凄いですよね。
とりあえず私たちは何があったのか事情を聞くことになった。教会内の応接室へと誘導され、対面式に置かれた大きなソファに全員で腰を下ろす。高円寺君は集まるのを嫌ってその場から動くことは無かった。
集まったメンバーは当事者の須藤君、平田君、軽井沢さん、綾小路君、池君、山内君、心ちゃん、みーちゃん、私、そして言峰君の十人だ。女子と男子に別れて座ったのだが、男子の方は少し窮屈そうである。言峰君はお茶を入れるから、と席を立ったままだった。
「皆、紅茶でいいかな?」
「うん、構わないよ。ありがとう士郎」
代表して平田君が答えると言峰君は満足そうに紅茶を入れ出した。私たちはその間に須藤君本人から何があったのかを聞くことにする。
「それで、須藤君。一体何があったのかな?」
「ああ、櫛田。Cクラスの奴らと喧嘩しちまったんだ。相手は三人で、俺は一人だった。なんか呼び出されてよ、ついて行ったらいきなりボロクソに言われてよ、でも折角堀北たちに助けてもらったのに問題を起こしたくなかったから、無視して帰ろうとしたんだ。そしたら、アイツら急に殴りかかってきやがって」
「それで、つい殴り返しちゃったんだね」
「ああ、本当にすまねぇ。あんなに助けて貰ったのに、結局、またやっちまった。足引っ張ってばっかだな、俺。謝っても許されねぇのはわかってるけどよ、それでも謝らせてくれ」
「須藤君⋯⋯」
「すまなかった! ほんとに申し訳ねぇ」
須藤君は全員に頭を下げた。鬼気迫る表情から本当に反省しているようだ。また、問題を起こしてしまったという罪悪感から顔は青ざめてしまっている。額からも汗の粒が浮き上がっていた。
言峰君がゆっくりと全員に紅茶の入ったマグカップを配膳した。そして、須藤君を見て、穏やかな笑みを浮かべる。
「須藤、今謝っても仕方ない。明日、クラス全員に誠意を込めて謝罪する方がいいよ。この時間はどうするか、という対策を考えるのに有効活用するべきだ。確かに君は詰られ罵られるだろうけど、それでも仕方の無いことではあった。反射的に拳を出したのならそれは防衛本能だ。止めることは出来まい」
「言峰⋯⋯」
「彼女も、そろそろ来るだろう。迷惑をかけられたが、最もショックを受けているのは君の面倒を見た堀北のはずさ。君に贖罪の心があるのならば、堀北に許して貰えたのならば、我々Dクラスは君を助けるために力を貸すよ。同じクラスの仲間だからな」
「すまねぇ、本当にありがとうっ」
「しかし、不可解なのはCクラスの目的だな。いくら須藤に傷が無いとはいえ、正当防衛にあたるし、もし須藤の証言が認められなくて不利になっても学校側は喧嘩両成敗で終わらせるはずだ。そもそも状況がおかしいしな。だからCクラスに旨みはないはずなんだが⋯⋯いやCクラスはBクラスに何度も嫌がらせをしていると言っていたな。これはもしや、学校側が介入してくるラインを探っているのか?」
「Cクラスの目的はどこまでやってもセーフなのかを見極めてるってことなのかな?」
「かもしれない。それか、CPの変動を見ているのか、これも嫌がらせの一環で、ptの支給を遅らせようとしているのか。学校側もCクラスが訴えを起こせば、事実確認の為にptの支給を止めるだろうしな」
言峰君の推察に皆はなるほど、と感心していた。試験で満点を取るのは伊達じゃないようだ。まだ当事者から、それも須藤君一人からしか事情を聞いていないというのにそこまで推理できるのは言峰君だけだろう。
やっぱり敵に回すと恐ろしい人だ。だが、彼は平田君並に仲間意識が強い。私がクラスの不利になるような事さえしなければ、今のように良好な関係は維持出来るはず。
何とかして堀北を退学に追い込んでやろうと考えてはいたけど、完璧な計画ができるまではやめておいた方が良さそうだね。
トントン、と応接室のドアが叩かれた。言峰君がすかさず扉を開くと立っていたのは堀北だった。
どうやら彼から連絡を受け、飛んできたらしい。出来れば関わらないで欲しかった。また中間試験のように活躍されると困る。
「よく来てくれた堀北。事情は説明した通りだ。須藤については君に任せるつもりだ」
「そう、ありがとう言峰君。私としても思う所はあったから」
「気にするな。では後は任せよう」
そう答えると言峰君は壁際まで移動し、壁に背を預けた。堀北は須藤君の前まで歩いていく。言峰君は堀北に決定権を委ねるようだ。あの女が言峰君に信頼されているようで腹立たしい。
「何か弁明はあるかしら須藤君」
「⋯⋯すまねぇ堀北。また迷惑かけちまった。お前に申し訳が立たねぇ」
「そうね、折角貴方を赤点からすくい上げたのにそれを不意にされた気分だわ。正直言って不愉快だし、裏切られたって思ってる」
「ああ、そう言われても仕方がねぇことをしちまった。あんなに、俺の為に勉強を教えてくれたのに、俺は、俺はそれを全部、台無しに―――」
「だから、それ以上にDクラスに貢献しなさい」
その言葉に須藤君は下げていた頭を上げた。目を見開き、堀北が何を言っているのか理解するのに時間がかかっているみたいだ。私も驚いた。勿論、他の人たちも瞠目し、信じられないものを見るような目をしている。ただ、言峰君だけが嬉しそうに表情を崩していた。
「貴方の失敗は私がカバーする。勿論、勉強面もそう。貴方は短気で手が早くて、粗暴で、言葉遣いも荒くて、勉強も出来ない」
「うっ」
「でも一つだけ誇れることがあるわ。貴方、バスケ部でレギュラーになったんでしょ? 嬉しそうに私に報告してきたから覚えてる。部活動で活躍した生徒にはそれ相応のCPが与えられる。今後も貴方の高い身体能力を活かす機会がきっと来る。須藤健はDクラスにとって欠かせない存在なのよ」
「ほ、堀北⋯⋯」
「貴方が底に落ちることになっても私が何度だって手を差し伸べる。だから、貴方もそれに応じて、言葉遣いを改めること、勉強にも熱心に取り組むこと、もう誰にも暴力を振らないこと。これを誓ってちょうだい」
「ああ、誓う! 今後、絶対に問題なんて起こさねぇ! もう、お前を裏切るような真似はしない!」
「分かったのならこれからどうするか、話し合うわ。もっと詳しい情報を提供しなさい」
須藤君は涙を流しながら何度も頷いた。明らかに入学当時の堀北じゃない。いつ、こんな成長を遂げたのだろうか。
非常にまずい事態だ。このまま堀北がDクラスに認められてしまうと、退学に追い込むのが難しくなってしまう。一体誰が、あいつにそんな成長を促したの?
「いや堀北、それ以上須藤から話を聞いても事態は好転しない。如何に須藤が無罪を主張しても、学校側は証拠がないと相手にしないだろう。Cクラスは確実に須藤を起訴するはずだ。ならば、第三者、つまり事件の目撃者を探す方が堅実だ」
「そうね、でもそんな都合の良い人がいるかしら? それに他クラスの人が目撃者なら協力なんてしないでしょうし」
「特別棟付近は監視カメラも少ない。死角になる部分が存在するから、目撃者に頼らざるを得ない。仮にDクラスに目撃者がいたとしても決定的な証拠がなければ、学校もその証言を認めない。⋯⋯どうやら結構追い込まれているようだ」
「クソ、俺が殴り返してなんかいなかったら!」
「いや殴り返したのは正解だよ須藤。もし無抵抗のままで君が怪我を負えば部活動にも支障が出たかもしれない。Dクラスが不利にはなったが、何も全てがマイナスというわけではないよ」
「⋯⋯ありがとう言峰」
目撃者なんているのだろうか。人気の少ない特別棟だったし、何よりCクラスも周りに人がいないかどうか確かめてから事に及んでいるはず。
八方塞がりだ。このまま話し合っていたってどうにもならない。
「それに目撃者はいるかもしれない。一人だけ心当たりがあるんだ。名前は伏せるが、俺から後で連絡してみよう」
「本当かいっ!? よろしくお願いするよ士郎っ」
「ああ、協力してくれるとは限らないが、可能な限りは助力をお願いするつもりだ」
「良かった。なにも対抗手段が無いわけじゃないんだねっ」
「一応、他の目撃者も探してみましょうか。それに目撃者じゃなくてもこちらが有利になる情報を提供してくれる人もいるかもしれないし」
「やってみるだけ損は無いだろう。じゃあ当面の目標は情報提供者を探すことだな」
「ええ、平田君や櫛田さんからDクラス全体に協力して貰えるようお願いできないかしら?」
「うんっ。ぜひ協力させてくれ堀北さん」
「私もっ。他のクラスの人にも聞いてみるっ!」
先程まで沈んでいた空気が改善されていた。言峰君のおかげだろう。それと、認めたくないが、堀北が須藤君を許したのも影響している。
打開策があると分かり、まだ何もしていないのに皆事態が好転していると思っている。凄い話術だ。
言峰君と堀北が手を組めば、司令塔、いや統率者や支配者としてDクラスをAクラスまで引っ張りあげれるんじゃないか、と考えてしまう。
私たちは解散し、皆は各々に聞き込みに回った。応接室に残っていたのは堀北、綾小路君、言峰君、私だけとなった。
「では、そろそろ俺たちも動かなければな」
「ああ、オレも協力させてもらうぞ士郎」
「お前がいれば百人力だな清隆。期待してるよ」
言峰君と綾小路君の会話を聞きながら私たちは応接室を出た。綾小路君っていつも何考えてるかわからなかったけど、言峰君と話している時だけ饒舌だしテンション高いよね。
この二人、結構仲が良かったり?
応接室を出ると高円寺君がさっきと同じ場所で足を組んで座っていた。
「話し合いは終わったのかい? 随分と時間がかかっていたじゃないかシェロ」
「いつまで居座ってるんだ六助。俺は一度教会を出る。まだ居るつもりなら鍵は開けておくが?」
「ノンノン、いらない気遣いだねぇ。私もそろそろお暇させてもらうよ。レディーたちが熱心に食事に誘ってきてね。シェロもどうだい?」
「それこそいらない気遣いだな。そのレディーの目的はお前だ。俺が行ったところで顰蹙を買うだけさ」
「Hmm、なら仕方ないねぇ。また会いに来るよ」
前髪をかきあげ、「アデュー」という言葉と共に高円寺君は教会を去っていく。本当に彼は何しに来てたんだろう。
高円寺君と言峰君の仲は謎が多い。クラスでもたまに言葉を交えていることはあるが、それでもあまり親密な関係には見えなかった。でも、こうしてお互い遠慮なく言葉を交わしているを見るとかなり仲が良いように思える。
「さて、君たちはどうする?」
言峰君は堀北と私を見てそう尋ねてきた。
「私はBクラスに聞きに行ってみるっ」
「そうね、私は現場検証をしてみるわ。もしかしたらCクラスが見落としていた監視カメラがあるかもしれない」
「そうか。じゃあ清隆、堀北の方を手伝ってやってくれ。俺は目撃者かもしれない人に会いに行く。その後、櫛田と合流しよう」
「⋯⋯わかった」
綾小路君は少しだけ残念そうだった。どうやら言峰君と行動するつもりだったらしい。確かに堀北と一緒に行動するのは嫌だよね。なんなら私と一緒に聞き込みに行ってもいいけど。
そんな感じで私たちは行動を開始した。
2
やはり、と言うべきかCPは増えていたのにptは支給されなかった。その後、ホームルームで茶柱先生がCクラスの訴えにより支給が中断されていることを知らされる。
前日に須藤君がクラス全員に謝罪しており、言峰君たちが予めこうなることを予言していたから不満の声は上がらなかった。
「やっぱりCクラスは訴えてきたね」
「そうだな、やはりラインの見極めが濃厚か?」
「みたいだね。これから学校側が介入しないスレスレの方法で何か仕掛けてくるかも」
「不安は残るな。それを見越した上で何かしらの手を打つしかないか」
そして放課後、私は言峰君と聞き込みに回っていた。言峰君の方で名前は教えて貰えなかったけど目撃者は見つけている。だが、それだけでは審議会で負けるかもしれないので、こうして些細なことでも情報を手に入れようとしているのだ。
「やっぱり、有力な情報は得られないね」
「まぁ想定していたことだ。しかし、Cクラスの石崎が過去に暴力沙汰を起こしていたという事実は大きい。訴えに信憑性がなくなる」
「うん、喧嘩が強いって有名な石崎君が3人がかりで須藤君に傷一つつけられずに負けたなんておかしいもんね」
「抵抗の意思がなかった、といえばそれまでだが人間というのは反射的に腕で顔を覆うものだ。それなのに傷は顔だけ。明らかに殴られにいっているとしか思えない。少しでも須藤の証言に説得力が増せばいい」
昨日今日で聞き込みをしてはいるが、あまり情報は回ってこない。Bクラスは積極的に協力してくれたが、Aクラスが少しではあるが手を貸してくれるとは思わなかった。ptの支給を急かしていると言われればそれまでだが、何か裏があるに違いない。
何より、少しだけ言峰君を意識しているように感じられた。しかし、それにしても暇だ。校舎近くで聞き込みを行っていたが、生徒の数も減ってきている。それに事件のことはかなり話したし、もうプライベートな話題でしか言峰君と会話出来なくなってきている。
⋯⋯思い切って聞いてみようかな。
「言峰君って佐藤さんと付き合っていたりする?」
「ふふ、いきなりだな。俺は佐藤と交際していないよ。確かに佐藤は女子の中で一番親密な仲かもしれないが」
「私より仲良いんだっ。妬いちゃうなー」
「自己紹介の後で直ぐに仲良くなってね。そのまま教会の管理を俺が任された時に掃除を手伝ってくれたんだ。彼女にはかなり助けられてる」
「そっかー。それなら仕方ないねっ。じゃあ気になってる女子とかいたりするのかな?」
「そうだな、Dクラスの女子は心優しい子ばかりだし、しっかりと芯がある子が多い。大変魅力的に感じるが、今はそういう感情を抱いてる子はいないよ」
「言峰君、モテるんだから大変でしょ? この前他クラスの子に言い寄られたって聞いたよ?」
「まったく、どこからそんな噂が広がっているのやら。それは事実だが、俺は異性から好意を向けられるに値する男ではないよ」
「またまたー、言峰君はなんとっ、イケメンランキングの堂々一位に輝いているのですっ! これを見ても自分がモテないって言えるかな!」
「くく、そんなものを見せられてしまっては自覚せざるを得ないな」
言峰君は苦笑いを浮かべていたが、嫌そうではなかった。少し強引過ぎたかな、とも思ったけど。やはり少し強引に距離を縮める方が効果的なようだ。やり過ぎるとよくはないが、消極的に接しても彼との距離は変わらないしこれくらいで十分なはず。
「だが、そういう櫛田はどうなんだ? 君は俺なんかよりモテていると思うが?」
「ええっ!? そんな事ないよっ」
「この前他クラスの男子に言い寄られたって聞いたが?」
「もうっ! 意地悪しないでっ」
「ふむ、意趣返しのつもりだったが、女子相手にやるものでは無いな。すまなかった」
「別にそこまで怒ってないよっ」
やっぱり言峰君との会話は楽しい。話していて不愉快になることがないからだ。それに彼は私に釣り合うスペックを持っているからね。こうして会話するだけでも周りにアピール出来るし、実際に会話が楽しいのだから効果的である。
ほかの男子だと下心丸出しだったり、露骨に媚びを売ってきたり、嘘を並べて煽ててやったり、結構疲れるのだ。言峰君が相手だと嘘をつく必要がないし、ストレスがない。それどころかストレス発散になってしまう。
やっぱり、彼を恋人に―――
「それ、疲れないか?」
え?
それにしてもアンケートの結果なんですが、まさか櫛田がいちばん多いとは思いませんでした。綾小路視点だとかなり影が薄かったので。
二巻では最低二人の視点を予定しています。
平田ェ⋯⋯。