【リレー小説】ボクカノ   作:リレー小説実行委員会

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三巡目
失踪。 (hasegawa 作)


 

 

 

「あのさ……? ぼく今日、眠れないかもしれないよ……。

 きっと夢に出てくるもの……」

 

「俺もだよ、相棒……」

 

 バベルの30階。

 彼ら(と牡牛の像)以外は何もない広大なフロアに、ハルキと巌のゲンナリとした呟きが、小さく響いた。

 

「“お休みハルキくん”が、バリバリムシャムシャと頭から食べられていく光景……。

 リアルだったねぇ……」

 

「魂が入ってない事以外、人間と変わらねぇからなアレ……。

 獣に喰われる人間ってのは、あんな感じなんだな~って、無駄に勉強しちまったよ俺ぁ」

 

「しかもアレ、君とまったく一緒の顔だったろ……?

 本人としては、どういう心境だったんだい……?」

 

「自分の死に様を、仮想体験した気持ちだよ。

 もしバベルで死んだらこうなるんだぞってのを、まざまざと見せつけられたな……。

 もう帰って寝てぇ心境だ」

 

 今も目の前には、口から胸元にかけてを真っ赤な血で汚し、それでいて「余は満足じゃ」とばかりに満足気な表情を浮かべる、炉の魔王さんの姿がある。

 膨らんだお腹をポンポンと叩き、憎らしいほど上機嫌。

 人も牛も、お腹が一杯になれば幸せなのは、変わらないようだ。

 というか……てっきり炉にくべて燃やすんだと思ってたけど、普通に食べるんですね。

 

「あの人形、教授がチ〇コ突っ込んだヤツだってのは、内緒にしとこうな?」

 

「言えないよ……。あんな幸せそうな顔してる人に向かって……。

 知らぬが花という言葉もあるよ……」

 

 ふー食った食った! そう満足気に振り返る魔王モロクに対し、「それはよぅございましたねぇ」とばかりに揉み手で愛想笑い。

 皆どことなく「~♪」と目線を逸らしているのは、決して気のせいじゃ無かった。

 

「ねぇモロクさん、それおいしかった? へんなあじとか、しなかった?」

 

『心配は無用。我は満足しておるぞ。

 ラノベみたいなリボンをした、有り得ない程ピンク髪の少女よ』

 

「変な臭いはせなんだカ?

 具体的にはオッサンの唾液とか、チ〇カスみたいな物にごじゃるのだガ」

 

『何のことかは知らぬが、美味だったと言っておこう。

 間違った日本文化が好き過ぎて、『嫁の貰い手が無い』と両親を泣かせている女よ』

 

 魔王を名乗るだけあって、モロクには“見通す力”のような物が備わっているのかもしれない。

 人には見えない物が視えたり、もしかすると未来を見通すような能力さえあるのかも。

 まぁブリトニーの件に関しては、誰が見ても「こいつ行き遅れるな」って感じなのだが。

 彼女は極端に友達が少ない人だったりする。彼女と分かり合えるのは、同じ変態であるこの3人くらいのモンだ。類友。

 

「んじゃあ、これにてミッション達成ってか?

 ここ通して貰っても、構わねぇんだよな?」

 

『うむ、貴公らはその資格を手にした。

 ここから先に進むことを、我が許可しよう』

 

 ニンマリと笑い、巌とハイタッチ。

 愛叶とブリトニーの方も、「むふー!」と得意げな顔だ。

 正直、ここに来た時は一体どうなる事かと思ったが、あの教授の変態性こそが功を奏し、彼らの道を開いたのだ。きっと神様とか、自分達の守護霊だって、まさかこんな方法で難関を突破するとは、夢にも思わなかった事だろう。世の中なにが起こるか分からないものだ。

 

 しかし……何故だろう? 微塵も教授への感謝の気持ちが、湧いてこないのは(・・・・・・・・)

 装備も作って貰って、難関まで突破させて貰ったのに、不思議な事もあるものだと思う。

 ママ! ホモって不思議ね!

 

『だが――――暫し待つが良い。

 このまま進めば、貴公らは必ずや、死ぬ事となろう』

 

 歓談ムードに浸っていた彼らに、冷や水をぶっかけるが如き、魔王モロクの一言。

 

『見た所、あまりにも貴公らは、このバベルの事を知らぬと見える。

 このダンジョンの特性も、本来用意すべき準備も、何一つ』

 

 それで良く、ここまで来れたものだ。

 魔王モロクは、そうどこか関心するように呟く。

 自らの意思でなく、いきなりここへと赴く事となったハルキ達は、あまりにもバベルの事を知らなさすぎるのだと。

 

『貴公らは、このバベル内に充満する力が、人の子に力を与える(・・・・・・・・・)事を知っておるか?

 この場所においては、本来人の身では扱うことの出来ぬ“特別な能力”を、それぞれが一つづ行使する事が出来る。授かることが出来るのだ。

 これはまさに、悪魔的な能力と言えよう』

 

「悪魔的な力……だと?」

 

 ハルキがオウム返しのように、その言葉を繰り返す。何を言っているのかが、いまいち理解出来ずにいる。

 

『しかり。この場に足を踏み入れた時点で、貴公らはもう“人”とは呼べぬ。

 このバベルが発する力により、人ならざる者へと変貌しているのだよ――――

 まぁ、この塔におる間だけの話、ではあるのだが』

 

「ちょ……ちょっと待って!? それって僕らも、悪魔と戦えるって事かい……?

 アイツらみたいに、人外めいた凄いパワーを手に入れたって事……?」

 

 思わず巌が前に出て、モロクに問い返す。

 運が良かったのか、はたまた別の要素があったのかは知らないが、彼らはここまで到達するのに、ロクな戦闘も経験しないままだった。

 しかし、それでも今まで必死に悪魔達から逃げ惑い、ここまで辿り着いたのだ。巌に至っては身体を張るような真似も多くこなして来たし、ぶっちゃけ死ぬような目にも数多く合ってきた。

 しかし……力を手に入れたとなれば、アイツらと自分達とのパワーバランスが、根本的にひっくり返る事になる。

 もう逃げ惑わなくて済むかもしれない、そう巌は微かな希望を、胸に抱いたのだが……。

 

『否。それは叶わぬだろう。

 いくら力を得たとはいえ、所詮貴公らは人の子。

 純粋な魔である者達とは競えぬ。越えられぬ差という物がある』

 

「あ、そうですよね……ハイ」

 

 即座に打ち砕かれる。抱いたばかりの希望は、まるでお菓子のように「はいあーげた!」と取り上げられた。

 

『なれど、人は力と知恵を振り絞り、ひたすら天を目指すが如く、上の階層に登る他ない。

 それかこのバベルにおいて、生きるという事なのだ。

 この力は、貴公らにとって一助と……、いや“切り札”となりえるだろう――――』

 

 魔王モロクが、その場で立ち上がる。

 見上げんばかりの巨体が、ハルキ達を影で覆い尽くしてしまう。

 その威圧感と、恐ろし気な異形の姿に、彼らの身体が自然と震えるのは、弱者としての性なのか。

 

 

『――――我はモロク、炉の魔王也。

 さぁ人の子よ、今こそ見つめるが良い。

 我が照らし、我が暴き、我が導く。

 これがお前たちの本質――――己が何者であるかを知れ』

 

 

 モロクが手をかざした途端、彼らの身体が淡い緑色の光に包まる。

 痛みは無い。身体に違和感も無い。だがハルキ達の意識は己の内側……魂に記録された“過去の記憶”へと飛び、指一本も動かすことが出来なくなった。

 

 (なか)へ、(なか)へ、(なか)へ――――

 過去へ(ふかく)過去へ(ふかく)過去へ(ふかく)――――

 

 意識の深層へと潜り、やがて己の魂へと。

 一瞬が永遠とも感じられる時の中、まるで乱雑に置かれた映画のフィルムのような膨大な記憶が、知識が、人生が、濁流となってハルキ達の脳に流れ込んでくる。

 

 それにより、彼らは今ようやく、己が何者であるのか(・・・・・・・・・)を、知った。

 

 

 

 

「――――ぶはぁッ!! はぁっ……! はぁっ……!」

 

「なっ……なんだこれは!? 僕は今、いったい……?」

 

「んぎゃーーすッ!!!! ……な、何事にござるカ?! 何が起こり腐っタ!?!?」 

 

 まるで、深い水底に潜っていたかのように。潜水をしていた者が、勢いよく水面に顔を出した時のように、ハルキ達は大きく肩で息をする。

 いま自分達が、深層意識の中で見た世界――――いくつもの数えきれない程の人生が連なった、膨大な量の記憶。

 それを上手く処理する事が出来ず、犬みたいに舌を出してハァハァと喘ぎ、チアノーゼのような状態に陥っている。

 

「ねぇ! 大事ないかミナノシュウ!? ちゃんと生きとるんカ!?」

 

「あぁ、問題ねぇよブリトニー。

 ……しかしながら、えれぇ目に合わされたモンだ。頭がガンガンしやがる」

 

「こ……これって僕の“前世の記憶”なのかい……?

 何人もの僕が、生まれては死んで……。生まれては死んで……。

 何千年も、いくつも人生が……僕の頭の中に……」

 

 暫くして、ようやく辺りを見回すことが出来るまでに回復。

 ブリトニーの声を皮切りに、仲間達の無事を確認するに至る。

 未だ地に足が着いていない感じ、割れるような頭痛をおして、現状の把握に務める。

 

 俺はハルキ。瀬川ハルキという人間――――それは間違い無い。

 このように、今は“自分が自分である”という事すらも、まったく確信が持てないという、曖昧な状態なのだ。

 

 

『――――視たな、己が何者であるかを。

 これで貴公らは、内なる力に目覚め、真の姿を自覚する事に至った。

 多少はバベルでの生存率も上がろう』

 

 

 未だキョロキョロと辺りを見渡すばかりのハルキ達に対し、モロクが静かな声で告げる。

 魔王としての威厳を感じさせる、地の底から響くような低い声。断定した口調で。

 コイツがさっきまで、教授がチ〇コ突っ込んだダッ〇ワイフを、旨そうにボリボリ食ってたとはな。

 世の中は不思議な事でいっぱいだ。

 

「あぁ、視せて貰ったよクソッタレ――――

 たいして知りてぇ事でも無かったがよ」

 

「あ~、これが本当の僕……かぁ~。

 自殺に美意識や尊厳を追求する者としては……、何とも言えない気分だ――――」

 

「別にアタシ信じてないケド? こんな与太話ィ! アタシはアタシ(なり)

 まっ! 話半分くらいには、聞いといてあげるワ――――」

 

 苦笑いしながらも、モロクに返事をした。「ふふん!」と挑発的な視線を投げて。

 仲間達は皆一様に、どこか自信に満ちた表情。

 己を自覚し、真の姿に目覚め、このバベルというふざけた塔(・・・・・)に、改めて挑むが如く。

 

「あーくだらねぇ時間だった! 無駄に時を食っちまったよ!

 さっさと進もうぜお前ら。もう俺は、暴れたくて仕方ねぇ。

 持て余してるフラストレーショ……」

 

 うーんと身体を伸ばし、31階への階段を見つめる。

 だがハルキは、ふとこの場の異常に気が付き、ハッと表情を凍らせる。

 

「ってオイ、愛叶は?

 アイツどこ行った!? どこにも見当たらねぇぞ(・・・・・・・・・・・)!!」

 

 これまでの異常な状況と、自分達の状態を確認する事で精一杯だったハルキ達は、今ようやく彼女の声がしなかった事に気が付く。

 この場にいるのは、モロクを覗いて三人。

 いつもあれだけハルキに纏わり付き、鬱陶しいほど一緒だった愛叶の姿が見えない。どこにも居ない! 

 

『あぁ。ヤツならば、貴公らが深層に潜っている間に、ひとり先へと進んだぞ?

 恐らくは、自分には能力が発現しないという事を、貴公らに知られるのが怖かったのだろう』

 

「あ゛ぁん!? テメェなに言ってやがる!

 なんでアイツを先に!? もし何かあったら、どうしてくれんだッッ!!」

 

 罵声が響く。矮小な人間の。

 だが炉の魔王たる存在は、それがあたかも風の音の如く、素知らぬ顔で言ってのける。

 

 

『ヤツは人の子では無い。【サキュバス】という、純然たる魔の者よ。

 それが暴かれることを恐れ、ここが潮時と、貴公の前から去ったのだろう――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルキの身体が氷のように固まる。

 混乱から立ち直り、ようやく晴れてきた思考が乱れ、目の前が真っ白になる。

 

「あっ! ハルキ=クン!!」

 

「ちょ……! 待ってよハルキくん!」

 

 

 二人が静止する声も振り切り、ハルキは階段へと駆け出す。 

 人が走っているだなんて、とても信じられないような速度。己の全てを懸け、命を燃やすようにして。

 

 歳の離れた幼馴染であり、いままで鬱陶しいばかりだと思っていた、自身の妹分――――

 

 それを取り戻すべく、走った。

 

 

 




◆覚醒した能力


・巌 【暴食】―Gluttony―

 有機物、無機物に関わらず、どのような物であっても“喰う”ことが出来る能力。
 たとえ鋼鉄であっても咀嚼が可能。毒物や劇物も問題なく消化出来る。

 飲食した物が栄養として吸収される事はなく、全て“無”に帰するのみ。
 有り体に言えば、それがどのような物であっても「喰うことにより消滅させる」という力。

 ただし、一度に“喰う”事が出来るのは、自身の胃の容量(水6リットル分)の範囲に限られる。胃の中の物をすべて消化しきるには、約3時間ほどかかる。
 モンスターや悪魔の身体を“喰う”ことも出来るが、そもそもヤツ等は不死の存在であり、欠損部位を瞬く間に修復してしまうので、決して倒すことは出来ない。


 前世の彼は、太平洋戦争末期に南方戦線へと送られた、【名も無き日本軍兵士】
 略奪や殺戮、カリバニズムまでもが横行した戦地で、まさにこの世の地獄とも言うべき壮絶な飢餓を経験した。

 巌が持つ生への執着や虚無感、「どれだけ食べても満たされない」常に飢餓状態という体質は、この前世から来ている。



・プリトニー 【献身】―dedication―

 自身が持つ物を、他者に与える能力。
 知識、技能、身体能力に加え、生命力(命)すらも分け与える事が出来る。

 一例として、他者に脚力を与えた場合は、対象自身の脚力+彼女の恩恵となる為、まさに人外めいた速度で疾走することが可能。
 生命力を分け与える場合には、彼女の“寿命”と引き換えにする事により、対象の治癒を行う。

 ただし、能力を使用中のブリトニーは、神に祈る巫女のように瞑想状態となる為、完全に無防備となってしまう。
 そして献身の名が示す通り、怪我や病気などの“負の要素”は、他者に肩代わりさせる事は出来ず、敵への攻撃手段としては活用できない。


 彼女の前世は、江戸時代に生きた、【とある武家の妻】
 夫が怨敵との果し合いに赴く際、自身の存在が心の迷いや足枷とならぬよう、自ら喉を短刀で突き刺して自害。
 夫が武士の本懐を遂げてくれることを祈りながら、ひとり死んでいった。

 ブリトニーが持つ「日本人ならこうあるべき」という他者への厳しさや、時に我が身を顧みないほどの深い愛情は、この前世による物。



・ハルキ 【証明】―Proof―

 自身の意見、意思、正当性などを、他者に理解させる能力。
 何かを成したい、何かになりたいと強く願う時、その実行の為に必要となる要素が劇的に向上。成功率が上昇する。

 言わば“火事場の馬鹿力”のように、危機的状況において身体能力のリミッターが外れる現象や、アスリートが強い意思力によって己の限界を超える現象を、概念として昇華した物に近い。
 単純な身体能力のみならず、知能や発想力、己の身長(見た目)なども変化させる事が出来る。

 ただし、悪魔を打倒するというような、“ハルキ自身が不可能だと思っている事”は実行できず、能力の恩恵も得られない。
 そして、効果範囲は自身に対してのみであり、他者にまで影響を与えることは出来ない。

 あくまで彼が「こうなんだ」と感じた事を、他者に対して証明する(見せつける)為の能力であり、その為にこそ知恵を絞ったり身体を張ったり出来る、いわば“意地っ張り”が具現化した物。
 己の意思を押し通す力。


 彼の前世は、1900年代前期のヨーロッパで“奇形”として生まれ落ちた人物。
 いわゆる、【人とは思えないほど醜い容姿をした男】

 優しかった両親と死に別れ、その庇護を無くしてしまった後は、化け物として村人から石を投げられる日々。あげくサーカス団の見世物小屋に捕らえられ、人々の奇異の視線に晒される人生を送った。
 人々は皆ニタニタと笑い、いつも「気持ち悪い、気持ち悪い」と口元を覆いながら、エレファントマンと名付けられた彼を見物した。

「――――私は人間だ! 人間なんだ!!」

 そう力の限りに泣き叫んだ様を、人々にアハハと楽しそうに笑われた夜、彼は凍えるような寒さの檻の中、自らの手首を噛み千切って死んだ。

 ハルキが持つ“変身願望”や、くだらない者達を陥れてでも成り上がるという“野心”、そして自らの身内だけを大切にするという思考は、この前世が影響している。



 ◆ ◆ ◆



 当作品のテーマの項目にある一文。
【プレイヤーには、それぞれ一つだけ優れた能力が付与される。】

 恐らく、これを作品内で示すのは、私の役目になると思っていました。
 そもそも主要人物自体が、私の考えたキャラでありますしねw

 ここに記述したのが、今回【彼らが覚醒した能力】、その設定になります。
 この能力を活かし、ダンジョン探索&脱出の物語を紡いで頂けると幸いです。

(管理人)

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