【リレー小説】ボクカノ 作:リレー小説実行委員会
失踪。 (hasegawa 作)
「あのさ……? ぼく今日、眠れないかもしれないよ……。
きっと夢に出てくるもの……」
「俺もだよ、相棒……」
バベルの30階。
彼ら(と牡牛の像)以外は何もない広大なフロアに、ハルキと巌のゲンナリとした呟きが、小さく響いた。
「“お休みハルキくん”が、バリバリムシャムシャと頭から食べられていく光景……。
リアルだったねぇ……」
「魂が入ってない事以外、人間と変わらねぇからなアレ……。
獣に喰われる人間ってのは、あんな感じなんだな~って、無駄に勉強しちまったよ俺ぁ」
「しかもアレ、君とまったく一緒の顔だったろ……?
本人としては、どういう心境だったんだい……?」
「自分の死に様を、仮想体験した気持ちだよ。
もしバベルで死んだらこうなるんだぞってのを、まざまざと見せつけられたな……。
もう帰って寝てぇ心境だ」
今も目の前には、口から胸元にかけてを真っ赤な血で汚し、それでいて「余は満足じゃ」とばかりに満足気な表情を浮かべる、炉の魔王さんの姿がある。
膨らんだお腹をポンポンと叩き、憎らしいほど上機嫌。
人も牛も、お腹が一杯になれば幸せなのは、変わらないようだ。
というか……てっきり炉にくべて燃やすんだと思ってたけど、普通に食べるんですね。
「あの人形、教授がチ〇コ突っ込んだヤツだってのは、内緒にしとこうな?」
「言えないよ……。あんな幸せそうな顔してる人に向かって……。
知らぬが花という言葉もあるよ……」
ふー食った食った! そう満足気に振り返る魔王モロクに対し、「それはよぅございましたねぇ」とばかりに揉み手で愛想笑い。
皆どことなく「~♪」と目線を逸らしているのは、決して気のせいじゃ無かった。
「ねぇモロクさん、それおいしかった? へんなあじとか、しなかった?」
『心配は無用。我は満足しておるぞ。
ラノベみたいなリボンをした、有り得ない程ピンク髪の少女よ』
「変な臭いはせなんだカ?
具体的にはオッサンの唾液とか、チ〇カスみたいな物にごじゃるのだガ」
『何のことかは知らぬが、美味だったと言っておこう。
間違った日本文化が好き過ぎて、『嫁の貰い手が無い』と両親を泣かせている女よ』
魔王を名乗るだけあって、モロクには“見通す力”のような物が備わっているのかもしれない。
人には見えない物が視えたり、もしかすると未来を見通すような能力さえあるのかも。
まぁブリトニーの件に関しては、誰が見ても「こいつ行き遅れるな」って感じなのだが。
彼女は極端に友達が少ない人だったりする。彼女と分かり合えるのは、同じ変態であるこの3人くらいのモンだ。類友。
「んじゃあ、これにてミッション達成ってか?
ここ通して貰っても、構わねぇんだよな?」
『うむ、貴公らはその資格を手にした。
ここから先に進むことを、我が許可しよう』
ニンマリと笑い、巌とハイタッチ。
愛叶とブリトニーの方も、「むふー!」と得意げな顔だ。
正直、ここに来た時は一体どうなる事かと思ったが、あの教授の変態性こそが功を奏し、彼らの道を開いたのだ。きっと神様とか、自分達の守護霊だって、まさかこんな方法で難関を突破するとは、夢にも思わなかった事だろう。世の中なにが起こるか分からないものだ。
しかし……何故だろう? 微塵も教授への感謝の気持ちが、
装備も作って貰って、難関まで突破させて貰ったのに、不思議な事もあるものだと思う。
ママ! ホモって不思議ね!
『だが――――暫し待つが良い。
このまま進めば、貴公らは必ずや、死ぬ事となろう』
歓談ムードに浸っていた彼らに、冷や水をぶっかけるが如き、魔王モロクの一言。
『見た所、あまりにも貴公らは、このバベルの事を知らぬと見える。
このダンジョンの特性も、本来用意すべき準備も、何一つ』
それで良く、ここまで来れたものだ。
魔王モロクは、そうどこか関心するように呟く。
自らの意思でなく、いきなりここへと赴く事となったハルキ達は、あまりにもバベルの事を知らなさすぎるのだと。
『貴公らは、このバベル内に充満する力が、
この場所においては、本来人の身では扱うことの出来ぬ“特別な能力”を、それぞれが一つづ行使する事が出来る。授かることが出来るのだ。
これはまさに、悪魔的な能力と言えよう』
「悪魔的な力……だと?」
ハルキがオウム返しのように、その言葉を繰り返す。何を言っているのかが、いまいち理解出来ずにいる。
『しかり。この場に足を踏み入れた時点で、貴公らはもう“人”とは呼べぬ。
このバベルが発する力により、人ならざる者へと変貌しているのだよ――――
まぁ、この塔におる間だけの話、ではあるのだが』
「ちょ……ちょっと待って!? それって僕らも、悪魔と戦えるって事かい……?
アイツらみたいに、人外めいた凄いパワーを手に入れたって事……?」
思わず巌が前に出て、モロクに問い返す。
運が良かったのか、はたまた別の要素があったのかは知らないが、彼らはここまで到達するのに、ロクな戦闘も経験しないままだった。
しかし、それでも今まで必死に悪魔達から逃げ惑い、ここまで辿り着いたのだ。巌に至っては身体を張るような真似も多くこなして来たし、ぶっちゃけ死ぬような目にも数多く合ってきた。
しかし……力を手に入れたとなれば、アイツらと自分達とのパワーバランスが、根本的にひっくり返る事になる。
もう逃げ惑わなくて済むかもしれない、そう巌は微かな希望を、胸に抱いたのだが……。
『否。それは叶わぬだろう。
いくら力を得たとはいえ、所詮貴公らは人の子。
純粋な魔である者達とは競えぬ。越えられぬ差という物がある』
「あ、そうですよね……ハイ」
即座に打ち砕かれる。抱いたばかりの希望は、まるでお菓子のように「はいあーげた!」と取り上げられた。
『なれど、人は力と知恵を振り絞り、ひたすら天を目指すが如く、上の階層に登る他ない。
それかこのバベルにおいて、生きるという事なのだ。
この力は、貴公らにとって一助と……、いや“切り札”となりえるだろう――――』
魔王モロクが、その場で立ち上がる。
見上げんばかりの巨体が、ハルキ達を影で覆い尽くしてしまう。
その威圧感と、恐ろし気な異形の姿に、彼らの身体が自然と震えるのは、弱者としての性なのか。
『――――我はモロク、炉の魔王也。
さぁ人の子よ、今こそ見つめるが良い。
我が照らし、我が暴き、我が導く。
これがお前たちの本質――――己が何者であるかを知れ』
モロクが手をかざした途端、彼らの身体が淡い緑色の光に包まる。
痛みは無い。身体に違和感も無い。だがハルキ達の意識は己の内側……魂に記録された“過去の記憶”へと飛び、指一本も動かすことが出来なくなった。
意識の深層へと潜り、やがて己の魂へと。
一瞬が永遠とも感じられる時の中、まるで乱雑に置かれた映画のフィルムのような膨大な記憶が、知識が、人生が、濁流となってハルキ達の脳に流れ込んでくる。
それにより、彼らは今ようやく、
「――――ぶはぁッ!! はぁっ……! はぁっ……!」
「なっ……なんだこれは!? 僕は今、いったい……?」
「んぎゃーーすッ!!!! ……な、何事にござるカ?! 何が起こり腐っタ!?!?」
まるで、深い水底に潜っていたかのように。潜水をしていた者が、勢いよく水面に顔を出した時のように、ハルキ達は大きく肩で息をする。
いま自分達が、深層意識の中で見た世界――――いくつもの数えきれない程の人生が連なった、膨大な量の記憶。
それを上手く処理する事が出来ず、犬みたいに舌を出してハァハァと喘ぎ、チアノーゼのような状態に陥っている。
「ねぇ! 大事ないかミナノシュウ!? ちゃんと生きとるんカ!?」
「あぁ、問題ねぇよブリトニー。
……しかしながら、えれぇ目に合わされたモンだ。頭がガンガンしやがる」
「こ……これって僕の“前世の記憶”なのかい……?
何人もの僕が、生まれては死んで……。生まれては死んで……。
何千年も、いくつも人生が……僕の頭の中に……」
暫くして、ようやく辺りを見回すことが出来るまでに回復。
ブリトニーの声を皮切りに、仲間達の無事を確認するに至る。
未だ地に足が着いていない感じ、割れるような頭痛をおして、現状の把握に務める。
俺はハルキ。瀬川ハルキという人間――――それは間違い無い。
このように、今は“自分が自分である”という事すらも、まったく確信が持てないという、曖昧な状態なのだ。
『――――視たな、己が何者であるかを。
これで貴公らは、内なる力に目覚め、真の姿を自覚する事に至った。
多少はバベルでの生存率も上がろう』
未だキョロキョロと辺りを見渡すばかりのハルキ達に対し、モロクが静かな声で告げる。
魔王としての威厳を感じさせる、地の底から響くような低い声。断定した口調で。
コイツがさっきまで、教授がチ〇コ突っ込んだダッ〇ワイフを、旨そうにボリボリ食ってたとはな。
世の中は不思議な事でいっぱいだ。
「あぁ、視せて貰ったよクソッタレ――――
たいして知りてぇ事でも無かったがよ」
「あ~、これが本当の僕……かぁ~。
自殺に美意識や尊厳を追求する者としては……、何とも言えない気分だ――――」
「別にアタシ信じてないケド? こんな与太話ィ! アタシはアタシ
まっ! 話半分くらいには、聞いといてあげるワ――――」
苦笑いしながらも、モロクに返事をした。「ふふん!」と挑発的な視線を投げて。
仲間達は皆一様に、どこか自信に満ちた表情。
己を自覚し、真の姿に目覚め、このバベルという
「あーくだらねぇ時間だった! 無駄に時を食っちまったよ!
さっさと進もうぜお前ら。もう俺は、暴れたくて仕方ねぇ。
持て余してるフラストレーショ……」
うーんと身体を伸ばし、31階への階段を見つめる。
だがハルキは、ふとこの場の異常に気が付き、ハッと表情を凍らせる。
「ってオイ、愛叶は?
アイツどこ行った!?
これまでの異常な状況と、自分達の状態を確認する事で精一杯だったハルキ達は、今ようやく彼女の声がしなかった事に気が付く。
この場にいるのは、モロクを覗いて三人。
いつもあれだけハルキに纏わり付き、鬱陶しいほど一緒だった愛叶の姿が見えない。どこにも居ない!
『あぁ。ヤツならば、貴公らが深層に潜っている間に、ひとり先へと進んだぞ?
恐らくは、自分には能力が発現しないという事を、貴公らに知られるのが怖かったのだろう』
「あ゛ぁん!? テメェなに言ってやがる!
なんでアイツを先に!? もし何かあったら、どうしてくれんだッッ!!」
罵声が響く。矮小な人間の。
だが炉の魔王たる存在は、それがあたかも風の音の如く、素知らぬ顔で言ってのける。
『ヤツは人の子では無い。【サキュバス】という、純然たる魔の者よ。
それが暴かれることを恐れ、ここが潮時と、貴公の前から去ったのだろう――――』
ハルキの身体が氷のように固まる。
混乱から立ち直り、ようやく晴れてきた思考が乱れ、目の前が真っ白になる。
「あっ! ハルキ=クン!!」
「ちょ……! 待ってよハルキくん!」
二人が静止する声も振り切り、ハルキは階段へと駆け出す。
人が走っているだなんて、とても信じられないような速度。己の全てを懸け、命を燃やすようにして。
歳の離れた幼馴染であり、いままで鬱陶しいばかりだと思っていた、自身の妹分――――
それを取り戻すべく、走った。
◆覚醒した能力◆
・巌 【暴食】―Gluttony―
有機物、無機物に関わらず、どのような物であっても“喰う”ことが出来る能力。
たとえ鋼鉄であっても咀嚼が可能。毒物や劇物も問題なく消化出来る。
飲食した物が栄養として吸収される事はなく、全て“無”に帰するのみ。
有り体に言えば、それがどのような物であっても「喰うことにより消滅させる」という力。
ただし、一度に“喰う”事が出来るのは、自身の胃の容量(水6リットル分)の範囲に限られる。胃の中の物をすべて消化しきるには、約3時間ほどかかる。
モンスターや悪魔の身体を“喰う”ことも出来るが、そもそもヤツ等は不死の存在であり、欠損部位を瞬く間に修復してしまうので、決して倒すことは出来ない。
前世の彼は、太平洋戦争末期に南方戦線へと送られた、【名も無き日本軍兵士】
略奪や殺戮、カリバニズムまでもが横行した戦地で、まさにこの世の地獄とも言うべき壮絶な飢餓を経験した。
巌が持つ生への執着や虚無感、「どれだけ食べても満たされない」常に飢餓状態という体質は、この前世から来ている。
・プリトニー 【献身】―dedication―
自身が持つ物を、他者に与える能力。
知識、技能、身体能力に加え、生命力(命)すらも分け与える事が出来る。
一例として、他者に脚力を与えた場合は、対象自身の脚力+彼女の恩恵となる為、まさに人外めいた速度で疾走することが可能。
生命力を分け与える場合には、彼女の“寿命”と引き換えにする事により、対象の治癒を行う。
ただし、能力を使用中のブリトニーは、神に祈る巫女のように瞑想状態となる為、完全に無防備となってしまう。
そして献身の名が示す通り、怪我や病気などの“負の要素”は、他者に肩代わりさせる事は出来ず、敵への攻撃手段としては活用できない。
彼女の前世は、江戸時代に生きた、【とある武家の妻】
夫が怨敵との果し合いに赴く際、自身の存在が心の迷いや足枷とならぬよう、自ら喉を短刀で突き刺して自害。
夫が武士の本懐を遂げてくれることを祈りながら、ひとり死んでいった。
ブリトニーが持つ「日本人ならこうあるべき」という他者への厳しさや、時に我が身を顧みないほどの深い愛情は、この前世による物。
・ハルキ 【証明】―Proof―
自身の意見、意思、正当性などを、他者に理解させる能力。
何かを成したい、何かになりたいと強く願う時、その実行の為に必要となる要素が劇的に向上。成功率が上昇する。
言わば“火事場の馬鹿力”のように、危機的状況において身体能力のリミッターが外れる現象や、アスリートが強い意思力によって己の限界を超える現象を、概念として昇華した物に近い。
単純な身体能力のみならず、知能や発想力、己の身長(見た目)なども変化させる事が出来る。
ただし、悪魔を打倒するというような、“ハルキ自身が不可能だと思っている事”は実行できず、能力の恩恵も得られない。
そして、効果範囲は自身に対してのみであり、他者にまで影響を与えることは出来ない。
あくまで彼が「こうなんだ」と感じた事を、他者に対して証明する(見せつける)為の能力であり、その為にこそ知恵を絞ったり身体を張ったり出来る、いわば“意地っ張り”が具現化した物。
己の意思を押し通す力。
彼の前世は、1900年代前期のヨーロッパで“奇形”として生まれ落ちた人物。
いわゆる、【人とは思えないほど醜い容姿をした男】
優しかった両親と死に別れ、その庇護を無くしてしまった後は、化け物として村人から石を投げられる日々。あげくサーカス団の見世物小屋に捕らえられ、人々の奇異の視線に晒される人生を送った。
人々は皆ニタニタと笑い、いつも「気持ち悪い、気持ち悪い」と口元を覆いながら、エレファントマンと名付けられた彼を見物した。
「――――私は人間だ! 人間なんだ!!」
そう力の限りに泣き叫んだ様を、人々にアハハと楽しそうに笑われた夜、彼は凍えるような寒さの檻の中、自らの手首を噛み千切って死んだ。
ハルキが持つ“変身願望”や、くだらない者達を陥れてでも成り上がるという“野心”、そして自らの身内だけを大切にするという思考は、この前世が影響している。
◆ ◆ ◆
当作品のテーマの項目にある一文。
【プレイヤーには、それぞれ一つだけ優れた能力が付与される。】
恐らく、これを作品内で示すのは、私の役目になると思っていました。
そもそも主要人物自体が、私の考えたキャラでありますしねw
ここに記述したのが、今回【彼らが覚醒した能力】、その設定になります。
この能力を活かし、ダンジョン探索&脱出の物語を紡いで頂けると幸いです。
(管理人)