死後の世界というものを信じたことがあるだろうか。
天国と地獄。一般的にはそんなイメージが湧くのだが、実際は全くもって違う。
「……マジで、ここが死後の世界かよ」
彼、大道寺陸は、どう見ても現実と変わらない死後の世界を見て、そう嘆く。
隣には無駄に清楚で綺麗な美少女が一人。彼女曰く、神に仕えし天使らしい。
「はい、そうです。これまでの人生お疲れ様でした。そして今からもお疲れてください」
まさしく、天使のスマイルでそう告げ、どこかへと飛び去っていく。
「おい、こらクソ天使待てy……ざっけんなよォォォォ!!」
捕まえようとするも、飛ぶほうが早く捕まえられない。
どこが天使だ、どう考えても堕天使だろ、悪魔だろ、などと悪態を吐きながら、紙に書かれている住所へと向かう。なんとなく記憶のある街並みで、迷うこともなく、あっさりと着いた。
その住所にあったのは普通の家だった。ドアはなく、何か結界のようなモノが張られている。
触れようとしてみるも、何故か透けてしまう。
「……なるほど、ここが俺の家ということか」
家のドアの上に書かれてある『大道寺陸』という表札を見て、確信する。
これは自分以外を弾く結界。――つまり、この世界でのドアなのだろう。
元々、頭の回転が早い陸は、そんな風に認識し、家の中に入る。
部屋の中には、過去に自分が持っていたゲームやら、何やらが詰め込まれていた。
「……こんなものまで、あるのか」
苦々しく、学生服と学生鞄、その他、中学校に関連するモノを一瞥する。
「――まてよ。そういえば、さっき学校みたいなのあったな。それに学生服来た奴も。まさか、マジか。マジでそういうことなのか?」
とある推測に至り、それが事実なのか否か判断する。
そのまま飛び出そうとして、一時中断。服を学生服に着替えて、学校へと向かう。
「……やっぱり、あった」
『死後の世界第一中学校』。ドストレートかつ、シンプルな中学校名に苦笑いしながら、校舎へと入っていく。下駄箱を見つけ、名前を確認していく。
タ行の一番最初に自分の名前を見つけ、愕然とする。
「学校でイジメられて死んだってのに、死んで学校とかなんなんだコレ」
その場に崩れ落ち、呆然とする。
かなりの時間が経って、正気に戻り、教室を確認、階段を登って、三階の二年生ゾーンへと向かう。そっと、自分が所属するクラスを見てみると、一つの机だけ何故か花瓶があり、その机には『生き返れ』だの『還れ』だの、『死ぬ価値の無いクズ』だの、恐らく悪口なのであろう言葉が並べられていた。
「……なるほどな、コレがこの世界の罵倒ってことか」
そして陸は、なんとなく理解した。この世界が、どういう世界なのかを。
そっと学校を出て、家へと戻る。
自分のお気に入りの服を来て、外へと出る。
「……やっぱりだ。やっぱり、ここは、生きている世界とほとんど同じ世界だ。……ここは、現実世界とほとんど変わらない世界だ」
「おぉ、まさか、そんなに早く気付くとは。予想外ですよ」
そう言って、まるで最初から存在していたかのように、天使が現れる。
「ここは多分、現実に未練を残して自殺、もしくはそれに近い形で死んだ人間の魂の集合場所だ。今度は自殺を選ばないで、どんな結果であろうとも、寿命まで生き続けなければならない、天国にでも地獄にでもなるそんな世界。違うか?」
「なるほど、中々の推理力でございますね。えぇ、正解です。流石です」
「悪魔――もとい、天使様にそう言われるなら光栄だな」
「そんなことは置いといて。この世界の原則として、この世界の本質に気付いた人には、帰ってもらわないといけないのです」
「なるほど、ついでに精神修行ってことか。気付かなければ成仏、もしくは抹消され、新たな魂を現世へと送り込む。気づけば、今のままこの世界へ送り出して、どうせ自殺してもこの世界に戻るだけだ、と諦めさせる」
「まぁ、そんなところです。折角、生を受けたのですから天寿を全うしてもらわないと」
「どうせ、そうしないと何か都合が悪いんだろ」
「えぇ。全うしてもらわないと、成仏の際にちょっとだけ作業が増えるんだそうです。未練っていうのは、消去するのが面倒なんだそうで」
らしい、そうで、そんな単語を使うということは、また他の役割を持つ何かがいるということになる。面倒臭そうだな、と陸はそんな風に思う。
もともと、面倒臭いことが嫌いなのだ。
「うわ~、なんじゃソレ。そっちの世界も面倒臭いんだな」
「面倒臭くない世界なんて、想像上のお話ですよ」
「想像上の天使が言うと重みが違うな」
「……それでは、次、目を覚ました時には、現世でございます。またまたお疲れなさってください」
本当に嫌な天使だな、と相変わらずの天使スマイルを睨んだところで、意識は一度途切れる。
目を覚ますと、そこは病院だった。
「……陸ッ!」
母親が、驚いたように声を掛ける。
「よかった、一度心臓が止まったのよ!?」
「あぁ、一度死んだっぽいな。ちょっとあの世を見てきたし」
「何、面白くない冗談言ってるの!? 一週間も眠って……、あぁ、もう体も痩せてさ」
「……落ち着いて、母さん。俺は無事だから、ちょっと無茶しちゃっただけだから」
「そう、良かった。本当に、良かった」
そう言って、陸の母親は陸を抱きしめた。
「…………」
抱きしめた母の奥に、嫌というほど綺麗な笑みを見せながら、看護師の服を来た天使がいた。
天使は小さく、口を動かす。
――今までで一番早く気付けた貴方には特別に、プレゼントをさし上げましょう。
それを、何故か明瞭に読み取った陸の瞬きと同時に、天使は消えた。
「……そういえば、アイツらはどうなった?」
天使の発言の意味を理解して、陸は尋ねる。
「学校を辞めて、この街からも逃げていったわ。もう、何も怖がらなくていいのよ」
「そっか」
若干、失敗しています。
死んだ後も、現実と同じ世界だったら、自殺なんて選択しないっすよね?
なにせ、次は死ねないんですから。