筋肉は全てを解決する。
ロジカルな肉体を持ち、ストロングな肉体を兼ね備えれば、出来ないことはない。
「よーし、今日もいっちょ、ほどほどに頑張りますかね~」
万年三位ウマ娘ナイスネイチャ。
弛まぬ努力をこなし続ける彼女は伸び悩んでいた。いつも良いところまではイケる。だが、そこからが高い壁。
伸ばしても伸ばしても届かない。もどかしい。
いつか。
いつか、その壁を超えるため、ナイスネイチャは更に努力を重ねるのだ――。
というのが、諸君らの想像しているナイスネイチャの物語であろう。
だが、先に謝罪をしておこう。今回はそういう物語ではない。
「Hello……。ネイチャ、トレーニングの時間だ。まずは自分と併走をしよう」
「いや、アタシ、ウマ娘なんですけど」
ナイスネイチャに声をかけたのは、身長約二メートルはある大男だった。筋肉という名のペンキを雑にぶちまけたような、見事に“仕上がった”肉体。
そう、彼こそがナイスネイチャのトレーナー。
「ねえトレーナーさん。何回も言っているけど、そろそろ名前を教えてよ。このままじゃネイチャさん、ずっとトレーナーしか呼べませんよ~?」
「No problem……。君を育てるのに、自分の名前は関係ない。さぁ、早速走ろう」
「なんだかいつも上手く誤魔化されている気がする」
早速、練習場へやってきたナイスネイチャとトレーナー。
それぞれ準備運動を念入りに行った後、トレーナーは指を二本立てた。
「二回走ろう。まずは七割の力。次は八割だ。俺も走る」
「オッケー。ちなみにどういう風の吹き回し? もしかしていつもアタシが走るのを見てたから、走りたくなっちゃった感じ?」
「Yes……。そういうことだ。というより、ウマ娘とどこまで戦えるのか、知りたくてな」
「まあ、確かにそんなガタイ良ければ、気になっちゃいますよねー」
ナイスネイチャも個人的にめちゃくちゃ気になっていた。ちなみに、初めてトレーナーを見た時の印象は“めちゃヤバ”である。
二人が並ぶと、トレーナーはコインを取り出した。
これが落ちたのと同時に、レースが始まる。人間対ウマ娘。自転車と新幹線との対決と言い換えても良い。
つまり、勝敗は既に分かっている。
「Are you ready……? ナイスネイチャ、行くぞ」
「いつでもどーぞ」
コインが宙を舞い、地面へ落ちる。
二人は同時に駆け出した!
「Lose……。負けた」
「あっはっはー。いえーい。ネイチャさんの勝利! まーアタシにもプライドってもんがありますからねー。負けませんよー」
結果はナイスネイチャの圧勝。彼女がゴールする時、トレーナーはまだコースの半分くらいを走っていた。
当然といえば、当然の結果である。人間とウマ娘の身体能力には大きな差がある。
それを埋めるには一体どれだけの鍛錬が必要だろうか。
呼吸を整えた二人は再度、走る準備をする。
「よーし。じゃあ二本目いきましょーか」
「Okay……。次は負けない」
「今更なんだけど、アタシと走ってて楽しい? こんなこと言っちゃ、すごい失礼ですけど、負けるの分かってて走るなんて、ちょっとアタシには信じられないなーって」
ナイスネイチャは、自分の口が少し痺れたような感覚を覚えた。その言葉は、自分にも降り掛かってくる“かも”しれない言葉なのだ。
救いは、まだこの言葉通りのメンタルに、ナイスネイチャがなっていないこと。
そんな彼女の言葉に、トレーナーは即答する。
「No limit……。負けたくて人間は走っている訳じゃない。ウマ娘だって、そうだろう」
「っ……! 早くコイントスして、トレーナーさん。それとごめん。八割って言ったけど、九割で走るから」
「Okay……。俺も突破口を掴んだ。次は絶対に負けない」
再び、コインが宙を舞い、そして着地する!
二人が駆け出した!
先行するは当然、ウマ娘であるナイスネイチャ。
ここまでは先程通り。そして、先程と違うのは、彼女は九割の力で走っているということ。
駆けながら、彼女はトレーナーの言葉を考えていた。
(突破口って何?)
本来ならあまりよろしくないことだが、今回はあくまでトレーニング。
ナイスネイチャは何気なく後ろを向いた。すると、彼女の目にとんでもない光景が飛び込む!
「Run……。人間の力を見せてやる」
四 足 走 行 ! ! !
先程は二本足で走っていたトレーナーが、両手両足を器用に使い、地面を駆けていた!!!
二足走行でナイスネイチャとの距離はだいたい半分ほど。二足走行では限界あり。ならば両手を使えばどうだろうか? コロンブスの卵的発想がトレーナーに降りてきた。
一+一はニ。ニ+ニは四。
ニ倍ッ!
二足で半分の差ならば、ニ手を足せば、ナイスネイチャとの距離をゼロに出来る道理!
彼女が力をセーブしていた分を考慮し、トレーナーは走っていた。
その姿はまるで、別世界に存在する誇り高きウマ娘たちの“魂”の権化たる生物を彷彿とさせる、雄々しくも機能美に溢れた姿だったという。
「うぎゃああ! キモい! そのカッコでそのスピードはまじでキモい! 助けてー!」
そうなれば良かったが、実際の絵面は筋肉だるまが四肢を器用に操り、まるでホラー映画の生物さながらに超速度で、ウマ娘を追いかけている構図。
もし一般人が通りかかろうものなら、即座に携帯電話を取り出し、町の平和を守る組織へ通報される、そんな危ういものだった。
「A little more……。もう少しで追いつくよ、ナイスネイチャ」
「不審者のセリフだ~!」
結果はナイスネイチャのニバ身差。
勝ったはずのナイスネイチャが酷く疲れていた。彼女のメンタルに与えられたダメージは非常に大きい。
試合に負けて、勝負に勝つ。
これから始まろうとしているこの筋肉ダルマとナイスネイチャの物語は、そういう物語だ。
鍵のすけです。
こういうお話を不定期かつ、短めに書いていきます。よろしくおねがいします。
感想反応次第で、長編になるかどうか決まるかもしれません。