「Hey……。ナイスネイチャ、今日のトレーニングは上半身を鍛えよう」
「お、摩訶不思議なトレーニングじゃないのね。でもなんで上半身? 走る練習はしない感じ?」
「Yes……。上下のバランスは重要だ。それだけで走り方というものが変わってくる」
「確かに……よ~し! じゃあトレーナーさん! 練習やろ! 何すればいい!?」
「Okay……。これだ」
そう言いながら、トレーナーは片手を地面につけた。もっと正確に言えば、右小指だけを地面につけていた。
そこから何をするのだろうと思ったら、おもむろにトレーナーは右小指のみを支点にし、倒立を始めた!
あり得ない! 重量や小指の強度を考えれば、それだけでバカバカしい光景!
だが成し遂げている! この荒唐無稽な光景を、トレーナーは何故か演出出来ているのだ!
「なんでだー!?」
「What……。ナイスネイチャ、君はおかしなことを言うね。適切な重心操作と小指の強度、そして何より大事なのは筋肉だ。これさえあれば出来る」
「じゃあアタシは出来ませんけど!」
思い切りナイスネイチャは叫んだ。
これが許されるのならば、これから先、あまりにも無茶な練習をさせられる可能性が大きくなる。
「Hmm……。じゃあ腕立てをしてみよう。でも、ただやるだけじゃ気が乗らないだろうから、自分と勝負しよう」
「勝負……勝負? またアタシとトレーナーさんが?」
「Yes……。自分も体を動かしたい」
「いや、素直か! ……まぁ、特に断る理由はないっか」
「Okay……。同意と見てよろしいですね?」
「オッケー。やるからには、勝ちに行きますよ~?」
「Good……。それなら、もしナイスネイチャが勝ったらスイーツを奢ってあげよう」
「マジですか!? よし! 絶対にかぁーつ!」
ルールを決めた二人。これはあくまでトレーニング。五分間きっかりで終え、しっかりとした姿勢で行うのが、前提条件。
それを確認しあった後、二人仲良く並び、腕立て伏せの姿勢をとった。
公平となるよう、ナイスネイチャに号令をしてもらうことにした。
「よーい、どん」
その瞬間、ナイスネイチャは突然、視界が光に包まれた!!
もはや怪奇現象。普通に生活を送っていれば、こんなことはまず起きない。ならば一体この現象はどういう理屈で発生しているのか――!?
答えはすぐ近くにあった。
「Hm! Hm! Hm! Oh Yes! Oh Yes!!」
高速で腕立て伏せをしているトレーナーの肉体が、なんと発光していた! これは何という不可思議!
この世の光景ではない!
「なんか光ってるー!?」
困惑しながらも、腕立て伏せは続行するナイスネイチャ。だって仕方がないじゃないか。タダで食べるスイーツほど、美味しいものはないのだから!
「What……。ナイスネイチャ、腕立て伏せをしている時はいつもこうならないのかい?」
「なってたまるか! なんでアタシがそんな人力発電機みたいなこと出来ると思ってんの!?」
「Why……。何故だ、自分がこうなるから皆そうだと思っていた」
もし、この場に肉体工学に精通している有識者がいれば、みんな首を縦に振り、トレーナーの言うことを肯定しているだろう。
身体は動かすたびに、燃焼される。常人ならば、当然その燃焼を見ることはないのだが、トレーナーの領域に達すると、それが可視化されるのは周知の事実。
トレーナーが一往復する。すると、彼の肉体に留めきれなかった熱が外に放出される。それだけならまだよかったが、それが空気中の静電気に触れるとどうなるだろうか?
そう、引火し、小爆発を起こす!!!
トレーナーの身は、いまや小型の危険物! 危険物取扱者甲種を持っていなければ、近づくことすら危険!!
「いや、そんなんあったら誰もがニュース案件です、よ!」
ふざけた事を言っているトレーナーのペースは、遅くなるどころかむしろ早くなっていた。
目算で負けていると感じたナイスネイチャは、一刻も早く、追いつこうと全身を懸命に動かす――!
きっかり五分。
トレーナーはすぐに立ち上がった。
「Lose……。自分の負けだ」
「か、勝った……? え、でも相当トレーナーさんが動いていたような……」
「Yeah……。あぁ回数上では自分の勝ちだ。だが、回数よりも大事なことで、自分は君に負けた」
「何それ……?」
「Win……。勝利への貪欲さ」
トレーナーは続ける。
「Feeling……。君の勝負に対する意識は素晴らしい。けど、一歩退いてしまっているんだ。自分の口からは絶対に口にしないが、君は“諦め”と“あがき”の中間点にいることは間違いない」
それは、ナイスネイチャにとって、一番キツい一言だった。
だが、それを表に出さず、彼女は返す。
「い、いやぁ……見抜かれてしまってましたか! さっすがトレーナーさん! このネイチャさんの事を良く見ていらっしゃる!」
じっと、トレーナーは何も言わずにナイスネイチャを見つめていた。
何か言ってくれればいいのに。それで、ナイスネイチャはつい、漏らした。
「何よ……アタシは、それが身の丈に合ってるの。ほどほどに頑張って、ほどほどにいい成績出して……それで良いでしょ?」
「本当に、そう望んでいるのなら、自分は何も言わない。けど、そうじゃないだろう?」
「…………もちろん、そうに決まっているじゃない。アタシだって、勝ちたい! 勝つためにトレーナーさんのトレーニングをこなしたいの! だから!!」
「だから自分はこうしてナイスネイチャと張り合うんだ」
「っ!」
いつの間にか言葉の前に英語が消えていたトレーナーは、ナイスネイチャの両肩を掴む。
「心の底からの全身全霊の勝負を怖がるな。君は、乗り越えていける」
「アタシは、皆みたいに軽々困難を超えていける、キラキラしたウマ娘には――」
「なっていたろう! 今! あの瞬間! 自分に勝とうと、君は力を出せた! それが答えだ! 君は、君を信じても良いんだ……!」
「アタシが、アタシを……」
筋肉の放熱で光り輝くトレーナーが、ナイスネイチャと向かい合う。それは悪質な宗教勧誘とか、そういう風に揶揄されても仕方のない絵面。
ナイスネイチャ自身、まだ目の前の非現実に適応できていないが、それでも彼の言葉でしっかり噛み締められた。
「アタシ、もう少しだけ信じても、良いのかな?」
「All right……。当たり前だ」
「……そっか、ありがとう。トレーナーさん」
「Okay……。よし、じゃあナイスネイチャ。早速スイーツの時間だ」
「あれ本当だったの!? え、ええ~……何にしよっかな~。久々のスイーツだし、行きたかったあそことか良いかも。ふふ、ふふふふ……」
空を見上げ、スイーツに思いを馳せているナイスネイチャ。そんな彼女に対し、トレーナーは首をかしげていた。
「? ナイスネイチャ、約束のスイーツだよ」
「えっ、早くない? 一体どこの店のスイーツ……」
差し出されたのは、プロテインシェイカーだった。
色と匂い的にバナナ味。まさかと思いながら、ナイスネイチャは訪ねた。
「……えっと、トレーナーさん。これは?」
「What……。約束のスイーツだ。バナナ味プロテイン。今日は特別に砂糖を入れたよ」
沈黙が通り過ぎた。
いや、少しは予想できていた。こんな筋肉ダルマの発想なぞ、本当は手に取るように分かっていた。
だけど! あえて、叫ばせて頂きたい!
「この筋肉ダルマァァァーー!!!」
ナイスネイチャの心からの叫びは、トレセン学園中に響き渡ったそうな。
第4筋肉でした。
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