筋肉ダルマとナイスネイチャ【完結】   作:鍵のすけ

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第5筋肉 スーパーカー筋肉とナイスネイチャ

 果てしのない筋肉道。走っても走っても、また次の道が見えてくる果てしのない漢道。人間の一生に与えられた課題、と言い換えても良い。

 それはウマ娘たちの人生にも似ていた。駆け抜けても駆け抜けても、次のレースが待っている。更なる高みが待っている。

 そう、ウマ娘と筋肉というのは、ある意味姉妹関係なのだ。

 

「Good morning……。ナイスネイチャ、おはよう」

 

 練習場で既にストレッチをしていたナイスネイチャへ、トレーナーは声をかける。いつ見てもキレイにしているジャージだな、とトレーナーは思った。

 補修も何度かされているみたいで、一つの物を大事にしているのが、良く分かる。

 

「おはよートレーナー。今日は何すんの?」

 

「Run……。今日のトレーニングは、他のウマ娘と走ってもらう。いわゆる併走トレーニングだな」

 

「併走? アタシと? 誰がやってくれんのそんなこと」

 

 併走とは文字通り、他のウマ娘と走ることだ。

 しかし、それは他のウマ娘の貴重な時間を頂くことと同義。当然ながら、相手側にもそれなりの成果がなければいけない。

 ナイスネイチャは、そのことが気になっていた。自分は万年三着ウマ娘。普通なら、もっとレベルの高いウマ娘と走りたいに決まっている。

 

「そんな優しいウマ娘さんはどなたさん?」

 

「This……。自分の後ろにいる」

 

「いや、なら見えんわ」

 

 身体の大きいトレーナーが邪魔になって、全く見えない。大きなウマ娘も多々いるが、このトレーナーにかかれば、皆見えなくなる。

 ナイスネイチャが手で払うモーションをしたので、トレーナーは横にずれてやった。

 

(さてさて、誰かな~? アタシと走ってくれるんだから、もしかしてマヤノ? それともまさかのテイオー……? う~……誰でも嬉しいかも)

 

 無意識に笑顔になっていたナイスネイチャ。貴重な時間を割いてくれて、一緒に走ってくれるのだから。

 感謝と共に、ナイスネイチャはそのウマ娘へ焦点を合わせる。

 

「……え?」

 

 “彼女”を目にした瞬間、ナイスネイチャは思わず息を止めてしまった。

 

 

「ハァイ。マルゼンスキーよ! ネイチャちゃん、今日はよろしくね!」

 

 

 マルゼンスキーがそう言って、ウィンクをひとつした。

 

「な、なぁーー!? ま、ままままマルゼン先輩!? へっ!? トレーナーさん!? なんで!? どうやってマルゼン先輩に来てもらえたの!?」

 

 彼女の走りを見た者は、こう言葉を揃える。

 

 ――エンジンが違う、と。

 

 規格外の走りを見せる彼女の異名は“スーパーカー”。他のウマ娘らを普通の車扱いにするのが許されるのだ、彼女は。

 怪物中の怪物。

 本来ならば、最上の戦場で戦っているはずの彼女。それがどうして、ここにいるのか。

 ナイスネイチャの思考がバグった。

 

「What……。普通に頼んだら、来てもらえたよ」

 

「可愛い後輩の頼みだもの。お姉さん、ひと肌脱いじゃう!」

 

「……まって、トレーナーさん、マルゼン先輩……。一回、深呼吸させて」

 

 大きな深呼吸を一度。身体の中に新鮮な酸素が入ったことで、思考がクリアになる。

 その上で、改めて今回の併走相手を見た! マルゼンスキーだった! またナイスネイチャの思考がバグる!

 

「やっぱりマルゼン先輩だ……」

 

「あら……? もしかしてあたしじゃ、駄目だった……かな?」

 

「な! ないないないない!」

 

「ないないナイスネイチャ?」

 

 マルゼンスキーのパスに、ナイスネイチャが神速で乗っかった。

 

「どうも~ないないナイスネイチャです! ……乗せないでくださいマルゼン先輩。……もし、本当に走っていただけるなら、光栄です」

 

「うふふ。ありがとうね。ネイチャちゃんの力になれるよう、あたし頑張るから!」

 

「Time is money……。マルゼンスキー、早速頼めるだろうか」

 

「もちのろんよ! じゃ、早速行きましょっか。あたしに追いついてみなさい」

 

「それは――」

 

 そこで、ナイスネイチャは言葉を切った。

 

 ――それは無理ですよ!

 

 今、“いつもの”調子で、こんな事を言おうとした。それを言ってしまえば、簡単だ。いつもの通り走って、いつもの通り終われる。

 

 ふざけるな。

 

 自分を信じる、この前、確かにそう誓ったのだ。

 ナイスネイチャは両頬を叩いた。ひりひりする。だが、これは自分の甘さが生んだ痛み。受け入れ、飲み込み、彼女は一つの言葉を練り上げた。

 

 

「追いつきます! 必ず! マルゼン先輩を!」

 

 

「……うん、その言葉を待っていたわあたし」

 

「Great UMA MUSUME……。ナイスネイチャ、自分は今泣いている」

 

 泣いている、なんて可愛い表現ではなく、号泣していた。目から、筋肉から、トレーナーは全身で感情を表現していた。

 

「な、泣くの早すぎ! アタシ、まだ走ってないから!」

 

「But……。感動したものは感動したんだ……うぇーん」

 

「アタシが原因だから、これ言うのは違うかもだけど、“うぇーん”は無いと思う」

 

「さぁさネイチャちゃん。時は金なり、よ。早く行きましょっか」

 

「はい! よろしいお願いします!」

 

 ナイスネイチャが小走りで遠ざかっていく。

 マルゼンスキーは彼女の後ろ姿を見ながら、トレーナーへ顔を寄せる。

 

 

「……正直に言うと、最初はあたし、貴方の土下座に心ドッキュンコしたから来ただけだったのよね。でも、今のネイチャちゃんを見てると、この併走をもっともっともっと実りあるものにしてあげたいって、そう思っちゃった」

 

 

「Thanks……。ナイスネイチャに足りないものは、皆が持っている。けど、皆に足りないものは、彼女が持っている。君も、彼女から学ぶと良い」

 

 マルゼンスキーは思わず目を丸くした。

 今までアプローチを受けたトレーナーたちからは、一切聞いたことがない言葉だったから。

 

「ふふ。ネイチャちゃんはもちろんだけど、あたし貴方に興味持っちゃった。これからも声掛けてくれたら、ネイチャちゃんの併走付き合うわよ?」

 

「Really……?」

 

「だ け ど」

 

 ピッと人差し指を立て、マルゼンスキーは小悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「今度で良いから、あたしの練習も見てくれないかしら? 貴方なら、良いアドバイスをくれるんじゃないかって、そう思うの」

 

「Okay……。自分で良ければ」

 

「じゃ、期待してるわよ~!」

 

 そう言い残し、マルゼンスキーはナイスネイチャの元へ走っていく。

 

「Plus……。サポートするウマ娘が増えた、のだろうか?」

 

 

 その後、ナイスネイチャはマルゼンスキーと走り、普通に圧倒的敗北を喫した。

 だが、ナイスネイチャの顔は清々しく、“次”に対する意欲が非常に強く増したのだという。

 

 

「……ありがとう、トレーナーさん」

 

 

 トレーナーに聞こえないタイミングで、ナイスネイチャは確かにそう呟いた。




第5筋肉でした。

皆様のおかげで日間ランキング入ってました!
まさか載るとは思ってなかったので、この結果は本当に嬉しいです!
皆様の感想が、まぁ~~~「よし書くか!」と、書きたくなる感想ばかりだったので、すごく励みになってます。

これからもたくさん感想お願いします!!!!

失礼します!
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