果てしのない筋肉道。走っても走っても、また次の道が見えてくる果てしのない漢道。人間の一生に与えられた課題、と言い換えても良い。
それはウマ娘たちの人生にも似ていた。駆け抜けても駆け抜けても、次のレースが待っている。更なる高みが待っている。
そう、ウマ娘と筋肉というのは、ある意味姉妹関係なのだ。
「Good morning……。ナイスネイチャ、おはよう」
練習場で既にストレッチをしていたナイスネイチャへ、トレーナーは声をかける。いつ見てもキレイにしているジャージだな、とトレーナーは思った。
補修も何度かされているみたいで、一つの物を大事にしているのが、良く分かる。
「おはよートレーナー。今日は何すんの?」
「Run……。今日のトレーニングは、他のウマ娘と走ってもらう。いわゆる併走トレーニングだな」
「併走? アタシと? 誰がやってくれんのそんなこと」
併走とは文字通り、他のウマ娘と走ることだ。
しかし、それは他のウマ娘の貴重な時間を頂くことと同義。当然ながら、相手側にもそれなりの成果がなければいけない。
ナイスネイチャは、そのことが気になっていた。自分は万年三着ウマ娘。普通なら、もっとレベルの高いウマ娘と走りたいに決まっている。
「そんな優しいウマ娘さんはどなたさん?」
「This……。自分の後ろにいる」
「いや、なら見えんわ」
身体の大きいトレーナーが邪魔になって、全く見えない。大きなウマ娘も多々いるが、このトレーナーにかかれば、皆見えなくなる。
ナイスネイチャが手で払うモーションをしたので、トレーナーは横にずれてやった。
(さてさて、誰かな~? アタシと走ってくれるんだから、もしかしてマヤノ? それともまさかのテイオー……? う~……誰でも嬉しいかも)
無意識に笑顔になっていたナイスネイチャ。貴重な時間を割いてくれて、一緒に走ってくれるのだから。
感謝と共に、ナイスネイチャはそのウマ娘へ焦点を合わせる。
「……え?」
“彼女”を目にした瞬間、ナイスネイチャは思わず息を止めてしまった。
「ハァイ。マルゼンスキーよ! ネイチャちゃん、今日はよろしくね!」
マルゼンスキーがそう言って、ウィンクをひとつした。
「な、なぁーー!? ま、ままままマルゼン先輩!? へっ!? トレーナーさん!? なんで!? どうやってマルゼン先輩に来てもらえたの!?」
彼女の走りを見た者は、こう言葉を揃える。
――エンジンが違う、と。
規格外の走りを見せる彼女の異名は“スーパーカー”。他のウマ娘らを普通の車扱いにするのが許されるのだ、彼女は。
怪物中の怪物。
本来ならば、最上の戦場で戦っているはずの彼女。それがどうして、ここにいるのか。
ナイスネイチャの思考がバグった。
「What……。普通に頼んだら、来てもらえたよ」
「可愛い後輩の頼みだもの。お姉さん、ひと肌脱いじゃう!」
「……まって、トレーナーさん、マルゼン先輩……。一回、深呼吸させて」
大きな深呼吸を一度。身体の中に新鮮な酸素が入ったことで、思考がクリアになる。
その上で、改めて今回の併走相手を見た! マルゼンスキーだった! またナイスネイチャの思考がバグる!
「やっぱりマルゼン先輩だ……」
「あら……? もしかしてあたしじゃ、駄目だった……かな?」
「な! ないないないない!」
「ないないナイスネイチャ?」
マルゼンスキーのパスに、ナイスネイチャが神速で乗っかった。
「どうも~ないないナイスネイチャです! ……乗せないでくださいマルゼン先輩。……もし、本当に走っていただけるなら、光栄です」
「うふふ。ありがとうね。ネイチャちゃんの力になれるよう、あたし頑張るから!」
「Time is money……。マルゼンスキー、早速頼めるだろうか」
「もちのろんよ! じゃ、早速行きましょっか。あたしに追いついてみなさい」
「それは――」
そこで、ナイスネイチャは言葉を切った。
――それは無理ですよ!
今、“いつもの”調子で、こんな事を言おうとした。それを言ってしまえば、簡単だ。いつもの通り走って、いつもの通り終われる。
ふざけるな。
自分を信じる、この前、確かにそう誓ったのだ。
ナイスネイチャは両頬を叩いた。ひりひりする。だが、これは自分の甘さが生んだ痛み。受け入れ、飲み込み、彼女は一つの言葉を練り上げた。
「追いつきます! 必ず! マルゼン先輩を!」
「……うん、その言葉を待っていたわあたし」
「Great UMA MUSUME……。ナイスネイチャ、自分は今泣いている」
泣いている、なんて可愛い表現ではなく、号泣していた。目から、筋肉から、トレーナーは全身で感情を表現していた。
「な、泣くの早すぎ! アタシ、まだ走ってないから!」
「But……。感動したものは感動したんだ……うぇーん」
「アタシが原因だから、これ言うのは違うかもだけど、“うぇーん”は無いと思う」
「さぁさネイチャちゃん。時は金なり、よ。早く行きましょっか」
「はい! よろしいお願いします!」
ナイスネイチャが小走りで遠ざかっていく。
マルゼンスキーは彼女の後ろ姿を見ながら、トレーナーへ顔を寄せる。
「……正直に言うと、最初はあたし、貴方の土下座に心ドッキュンコしたから来ただけだったのよね。でも、今のネイチャちゃんを見てると、この併走をもっともっともっと実りあるものにしてあげたいって、そう思っちゃった」
「Thanks……。ナイスネイチャに足りないものは、皆が持っている。けど、皆に足りないものは、彼女が持っている。君も、彼女から学ぶと良い」
マルゼンスキーは思わず目を丸くした。
今までアプローチを受けたトレーナーたちからは、一切聞いたことがない言葉だったから。
「ふふ。ネイチャちゃんはもちろんだけど、あたし貴方に興味持っちゃった。これからも声掛けてくれたら、ネイチャちゃんの併走付き合うわよ?」
「Really……?」
「だ け ど」
ピッと人差し指を立て、マルゼンスキーは小悪魔のような笑みを浮かべる。
「今度で良いから、あたしの練習も見てくれないかしら? 貴方なら、良いアドバイスをくれるんじゃないかって、そう思うの」
「Okay……。自分で良ければ」
「じゃ、期待してるわよ~!」
そう言い残し、マルゼンスキーはナイスネイチャの元へ走っていく。
「Plus……。サポートするウマ娘が増えた、のだろうか?」
その後、ナイスネイチャはマルゼンスキーと走り、普通に圧倒的敗北を喫した。
だが、ナイスネイチャの顔は清々しく、“次”に対する意欲が非常に強く増したのだという。
「……ありがとう、トレーナーさん」
トレーナーに聞こえないタイミングで、ナイスネイチャは確かにそう呟いた。
第5筋肉でした。
皆様のおかげで日間ランキング入ってました!
まさか載るとは思ってなかったので、この結果は本当に嬉しいです!
皆様の感想が、まぁ~~~「よし書くか!」と、書きたくなる感想ばかりだったので、すごく励みになってます。
これからもたくさん感想お願いします!!!!
失礼します!