芝二千メートル。いわゆる中距離レース。
その練習場に、三人の戦士が立っていた。外側から順番に紹介していこう。
一人はマルゼンスキー。“スーパーカー”とも呼ばれているトレセン学園でも最上位の実力を持つウマ娘。
一人はナイスネイチャ。“ブロンズコレクター”。その実力を、根性と努力で乗り越えていこうとするウマ娘。
一人はトレーナー。筋肉。
「ねえトレーナーさん。これって、どうやってスタートするの? またコイン?」
ナイスネイチャが聞くと、トレーナーはデジタルタイマーを邪魔にならない所に置いた。
「Time……。三秒後にスタートだ。良いだろうか?」
ナイスネイチャとマルゼンスキーは頷いた。既に二人は、勝負に向けてのマインドセットを完了していた。
あとは火蓋を切るのみ。
準備完了を確認したトレーナーは、リモコンでデジタルタイマーを起動した。
「Ready……。負けない」
リモコンを放り捨て、トレーナーは走る構えを見せる。
おお、何たることか! トレーナーの脚の筋肉に力が
しかし、ここでレースに知識がある者ならば、トレーナーの両目に視線がいくのではないだろうか?
三秒のカウントを見逃さないよう、普段の三倍の力が眼球周辺の筋肉に込められているのだ。今のトレーナーの視力をもってすれば、スロー再生はお手の物。人間DVD再生機爆誕!
三、ニ、一。
同時に、駆け出した。
(へぇ……)
(なぁっ!?)
「fast……。初手より全力でつかまつる……!」
それを、ウマ娘たちの走行スタイルでカテゴライズするのならば――“逃げ”。
極限の鍛錬をしたとして、人間とウマ娘の体力には圧倒的差がある。
トレーナーに許された手札は、ウマ娘に近い身体能力のみ。
二百の体力に対して、百の体力で勝負を挑む。
――つまり、その百の体力を使い切る内に、決着をつければ良い道理だ。
トレーナーの走る後は、土煙があがり、さながら一発の弾道ミサイル。トレーナーの全身の筋肉が軋む!!
(トレーナーさん、あたしの“走り”を知らない訳じゃないでしょうに)
トレーナーの隣を走るのは、マルゼンスキーであった。彼女の脚質は“逃げ”。
彼女が最も“楽しい”と思う走りだ。
マルゼンスキーは、ひたすらゴールを目指すトレーナーを横目に見る。
(……ううん。あたしの事を知っている上で、この走り方を選んだのよね。貴方の体力と
マルゼンスキーの分析は正確であった。だからこそ、彼女はくすりと笑う。
(ほんっと貴方、他のトレーナーさんとはひと味もふた味も違うのね)
故に、
(トレーナーさん、はっや! どんだけ鍛えてきたんだっつ―の!)
ナイスネイチャはトレーナーとマルゼンスキーの背中を追いかける形となっていた。
以前走ったときとは、まるで違う。
(すごいな……アタシだったらどうなんだろう)
もし仮に、自分がトレーナーのように人間だったなら。
こういう状況になったとして、自分も同じように鍛錬できただろうか?
分からないが、それでも“出来ない”とは決して言いたくない。
トレーナーがちらりと、ナイスネイチャを見た。そんな余裕はないはずなのに。人間と、ウマ娘が戦っているのだ。そんな余裕、少しもないはずなのだ。
(もしかしてトレーナーさん、アタシに見せようとしている? 努力は裏切らないって)
誰もが不可能と、そう口にするこのカード。
だが、それでもトレーナーはああして自分と張り合うどころか、最強のマルゼンスキーにさえ食らいつこうとしている。
絶対に勝てる。そう信じて。
(ははっ。アタシ、本当にすっごいトレーナーさんに担当してもらえているのかも)
ナイスネイチャの言葉には、複雑な感情が入り混じっていた。
だからこそ、ナイスネイチャはきっちりと勝つつもりだった。トレーナーは当然として、マルゼンスキーにも勝つ。
勝負は最終直線。これだけの距離があっても、まだ自分は食らいつける。
今のナイスネイチャ自身を表しているかのような、この勝負。
「うおおおおおおおおおお!!!」
ナイスネイチャは心の底から叫んだ。普通、こんなことは絶対にしない。だけど、前を征く二人に感化されたのだろう。
彼女は、そう自分に言い訳し、鼓舞の雄叫びをあげる。
「Lose……。負けた」
一着マルゼンスキー、ニ着ナイスネイチャ、三着トレーナー。
マルゼンスキーは数バ身離してのゴール。三着のトレーナーは、二着のナイスネイチャとは手の届くくらいの距離でのゴールだった。
「すごかったわねトレーナーさん。最初の勢いは本当にすごかったわ。まさか第三コーナーまであたしの隣に並んでくるとは思わなかったわ。そしてネイチャちゃん。貴方、前よりもうんと速くなったわね~」
「ありがとう……ございます!」
ナイスネイチャは肩で息をしていた。
必ず倒すつもりで走っていたのもあってか、どっと疲れが押し寄せてきた。この疲労感はどこか心地いいが、ナイスネイチャは今、ここで言わなきゃならない言葉があった。
「トレーナーさん」
「What……。どうしたナイスネイチャ」
「ありがとう。トレーナーさんの走りを見ていたらアタシ、なんだか心の底から勝ちたいって、負けたくないって、そう思えた。次のレース、早く走りたい。そう、思えたんだ!」
ナイスネイチャはマルゼンスキーの方を向く。
「マルゼン先輩、ありがとうございました! 次は、必ず勝ちます!」
「ふふ、いつまでも待ってるわよ」
一つ壁が生まれれば、一つぶち壊せばいい。
それだけのシンプルな話。ナイスネイチャは、この死闘で
ゆっくりと頷いたトレーナーは、筋肉を縮小させ、“トレーナー・ランニングフォーム”を解除した。そして、満面の笑みでこう言った。
「Training……。では、次のレースのため、次の練習をしよう」
「ちょ、ちょっと待ってトレーナーさん。少~しだけ休憩をば……」
トレーナーは、水筒を取り出した。
「Drink……。プロテインがある。今日はブルーベリー味だ。これを飲めば、即回復し、ナイスネイチャの身体の筋肉は最高の状態になるだろう。さ、これを飲んでレッツ筋肉」
「い、いやだぁ~! もっと乙女なものが飲みた~~~~い!!」
ナイスネイチャの抵抗は、しばらく続いたのであった。
第7筋肉でした!
人間とウマ娘との対決でした。
いつも感想ありがとうございます!すぐには返せませんが、すぐに読んでます!これからもよろしくおねがいします!