筋肉ダルマとナイスネイチャ【完結】   作:鍵のすけ

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第7筋肉 真剣勝負筋肉とナイスネイチャ

 芝二千メートル。いわゆる中距離レース。

 その練習場に、三人の戦士が立っていた。外側から順番に紹介していこう。

 一人はマルゼンスキー。“スーパーカー”とも呼ばれているトレセン学園でも最上位の実力を持つウマ娘。

 一人はナイスネイチャ。“ブロンズコレクター”。その実力を、根性と努力で乗り越えていこうとするウマ娘。

 一人はトレーナー。筋肉。

 

「ねえトレーナーさん。これって、どうやってスタートするの? またコイン?」

 

 ナイスネイチャが聞くと、トレーナーはデジタルタイマーを邪魔にならない所に置いた。

 

「Time……。三秒後にスタートだ。良いだろうか?」

 

 ナイスネイチャとマルゼンスキーは頷いた。既に二人は、勝負に向けてのマインドセットを完了していた。

 あとは火蓋を切るのみ。

 準備完了を確認したトレーナーは、リモコンでデジタルタイマーを起動した。

 

「Ready……。負けない」

 

 リモコンを放り捨て、トレーナーは走る構えを見せる。

 おお、何たることか! トレーナーの脚の筋肉に力が(みなぎ)る! さながら加工前の、丸太の如き(いわお)を感じさせるではないか!

 しかし、ここでレースに知識がある者ならば、トレーナーの両目に視線がいくのではないだろうか?

 三秒のカウントを見逃さないよう、普段の三倍の力が眼球周辺の筋肉に込められているのだ。今のトレーナーの視力をもってすれば、スロー再生はお手の物。人間DVD再生機爆誕!

 

 三、ニ、一。

 

 同時に、駆け出した。

 

(へぇ……)

 

(なぁっ!?)

 

 

「fast……。初手より全力でつかまつる……!」

 

 

 それを、ウマ娘たちの走行スタイルでカテゴライズするのならば――“逃げ”。

 

 

 極限の鍛錬をしたとして、人間とウマ娘の体力には圧倒的差がある。

 トレーナーに許された手札は、ウマ娘に近い身体能力のみ。

 二百の体力に対して、百の体力で勝負を挑む。

 

 

 ――つまり、その百の体力を使い切る内に、決着をつければ良い道理だ。

 

 

 トレーナーの走る後は、土煙があがり、さながら一発の弾道ミサイル。トレーナーの全身の筋肉が軋む!!

 

(トレーナーさん、あたしの“走り”を知らない訳じゃないでしょうに)

 

 トレーナーの隣を走るのは、マルゼンスキーであった。彼女の脚質は“逃げ”。

 彼女が最も“楽しい”と思う走りだ。

 マルゼンスキーは、ひたすらゴールを目指すトレーナーを横目に見る。

 

(……ううん。あたしの事を知っている上で、この走り方を選んだのよね。貴方の体力とウマ娘(あたし達)の体力には差があるから。抜き差しの技術で戦うよりも、真正面からの対決を選んだ)

 

 マルゼンスキーの分析は正確であった。だからこそ、彼女はくすりと笑う。

 

(ほんっと貴方、他のトレーナーさんとはひと味もふた味も違うのね)

 

 故に、同じ舞台(逃げ)を選んだ相手を、真正面から打ち砕く。マルゼンスキーの脚の回転率が一層跳ね上がった。

 

 

(トレーナーさん、はっや! どんだけ鍛えてきたんだっつ―の!)

 

 

 ナイスネイチャはトレーナーとマルゼンスキーの背中を追いかける形となっていた。

 以前走ったときとは、まるで違う。

 

(すごいな……アタシだったらどうなんだろう)

 

 もし仮に、自分がトレーナーのように人間だったなら。

 こういう状況になったとして、自分も同じように鍛錬できただろうか?

 分からないが、それでも“出来ない”とは決して言いたくない。

 トレーナーがちらりと、ナイスネイチャを見た。そんな余裕はないはずなのに。人間と、ウマ娘が戦っているのだ。そんな余裕、少しもないはずなのだ。

 

(もしかしてトレーナーさん、アタシに見せようとしている? 努力は裏切らないって)

 

 誰もが不可能と、そう口にするこのカード。

 だが、それでもトレーナーはああして自分と張り合うどころか、最強のマルゼンスキーにさえ食らいつこうとしている。

 

 絶対に勝てる。そう信じて。

 

(ははっ。アタシ、本当にすっごいトレーナーさんに担当してもらえているのかも)

 

 ナイスネイチャの言葉には、複雑な感情が入り混じっていた。

 だからこそ、ナイスネイチャはきっちりと勝つつもりだった。トレーナーは当然として、マルゼンスキーにも勝つ。

 勝負は最終直線。これだけの距離があっても、まだ自分は食らいつける。

 今のナイスネイチャ自身を表しているかのような、この勝負。

 

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 ナイスネイチャは心の底から叫んだ。普通、こんなことは絶対にしない。だけど、前を征く二人に感化されたのだろう。

 彼女は、そう自分に言い訳し、鼓舞の雄叫びをあげる。

 

 

「Lose……。負けた」

 

 

 一着マルゼンスキー、ニ着ナイスネイチャ、三着トレーナー。

 マルゼンスキーは数バ身離してのゴール。三着のトレーナーは、二着のナイスネイチャとは手の届くくらいの距離でのゴールだった。

 

「すごかったわねトレーナーさん。最初の勢いは本当にすごかったわ。まさか第三コーナーまであたしの隣に並んでくるとは思わなかったわ。そしてネイチャちゃん。貴方、前よりもうんと速くなったわね~」

 

「ありがとう……ございます!」

 

 ナイスネイチャは肩で息をしていた。

 必ず倒すつもりで走っていたのもあってか、どっと疲れが押し寄せてきた。この疲労感はどこか心地いいが、ナイスネイチャは今、ここで言わなきゃならない言葉があった。

 

「トレーナーさん」

 

「What……。どうしたナイスネイチャ」

 

「ありがとう。トレーナーさんの走りを見ていたらアタシ、なんだか心の底から勝ちたいって、負けたくないって、そう思えた。次のレース、早く走りたい。そう、思えたんだ!」

 

 ナイスネイチャはマルゼンスキーの方を向く。

 

「マルゼン先輩、ありがとうございました! 次は、必ず勝ちます!」

 

「ふふ、いつまでも待ってるわよ」

 

 一つ壁が生まれれば、一つぶち壊せばいい。

 それだけのシンプルな話。ナイスネイチャは、この死闘で戦心(いくさごころ)を培うことに成功したのだ。

 ゆっくりと頷いたトレーナーは、筋肉を縮小させ、“トレーナー・ランニングフォーム”を解除した。そして、満面の笑みでこう言った。

 

「Training……。では、次のレースのため、次の練習をしよう」

 

「ちょ、ちょっと待ってトレーナーさん。少~しだけ休憩をば……」

 

 トレーナーは、水筒を取り出した。

 

「Drink……。プロテインがある。今日はブルーベリー味だ。これを飲めば、即回復し、ナイスネイチャの身体の筋肉は最高の状態になるだろう。さ、これを飲んでレッツ筋肉」

 

 

「い、いやだぁ~! もっと乙女なものが飲みた~~~~い!!」

 

 

 ナイスネイチャの抵抗は、しばらく続いたのであった。




第7筋肉でした!

人間とウマ娘との対決でした。

いつも感想ありがとうございます!すぐには返せませんが、すぐに読んでます!これからもよろしくおねがいします!
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