筋肉ダルマとナイスネイチャ【完結】   作:鍵のすけ

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第8筋肉 後悔筋肉とナイスネイチャ

 ナイスネイチャは練習場で汗だくになっていた。

 来月のレースのため、ずっと調整を続けてきている彼女は、最近ずっとこの調子である。

 そんな彼女を、じっと見守るトレーナー。その口元は油断なく、引き締められていた。

 

(Think……。考えすぎだろうか)

 

 彼女の努力に水を差すつもりはない。だからトレーナーはずっとナイスネイチャのやりたいようにやらせてきた。

 しかし、レースが近づくたびに感じる。

 

 

 ――彼女は頑張りすぎている。

 

 

 

「Hmm……。ナイスネイチャ、今良いだろうか?」

 

「はぁ……はぁ……! 何、トレーナーさん? アタシ、このままもう一本追加したいんだけど……!」

 

「Really? ナイスネイチャ、それはいけない。やるにしても一度休憩だ」

 

「駄目! それじゃあ次のレースは勝てないと思う! だからやらせてほしい!」

 

 トレーナーは思わず後ずさった。ここまで明確に拒否してくることは初めてだったから。

 ナイスネイチャは続ける。

 

「マルゼン先輩にも、そしてトレーナーさんにも、沢山練習に付き合ってもらった。だからアタシはその恩に報いるためにも、絶対に勝たなきゃならないんだ。だからお願いトレーナーさん! もう一本!」

 

「One more……。ナイスネイチャ、オーバーワークは確実に身体へダメージを与える。それについて、自分が許可を出すことなんて……」

 

 ナイスネイチャはじっとトレーナーを見つめる。否、これはもはや射殺すという表現で良いだろう。彼女は真剣だった。だからこそ、視線に重みが乗る。

 トレーナーは天を仰いだ。突っぱねるべきだと、ウマ娘の身体の事を考えるならば、ここは突っぱねる以外の選択肢はない。

 

「Yes……。一本は認める。ただし、走るのではなく、自分と同伴で歩いてもらう」

 

「どういうこと?」

 

「Share……。各コーナー、ストレートごとに俺が感じたことを述べよう。そしてナイスネイチャ、君がこの場所ではどう判断するか、それを教えてくれ。そして認識の共有を図ろう。より、君が効率よく走れるように」

 

「ふむふむ……なるほどね、オッケー! じゃあ早速行こうトレーナーさん!」

 

「Yeah……。じっくり行こう」

 

 ナイスネイチャと歩きながら、トレーナーはこう思っていた。

 

 

(Bad……。自分はトレーナーとして未熟だ)

 

 

 トレーナーとして、これが妥協案だった。走らせる訳にはいかなかったため、こうしてより負担が少ない選択肢へ持っていくことが精一杯。

 真面目な彼女は、トレーナーから苦し紛れの理由ですら、しっかりと受け止め、意見を出している。

 ナイスネイチャはトレーナーへ意見を出しながら、こう考えていた。

 

(アタシは絶対に勝つ。トレーナーさんとマルゼン先輩に胸を張れるように……!)

 

 彼女の闘志は最高潮に達していた。

 もはや来月まで待てない、そのレベル。

 そんなナイスネイチャの“熱”を感じていたトレーナーは、危うさを感じていた。

 

 ――近い内、嫌な予感が現実になるのではないかという予感だ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 運命の日は、レースまであと三日という時にやってきた。

 

「Good morning……。ナイスネイチャ、今日も頑張ろう」

 

「おはよ……トレーナーさん。あと三日だからね、頑張ろ?」

 

 ひと目で、ナイスネイチャの様子がおかしいと分かった。顔が赤く、呼吸も乱れている。

 トレーナーは背筋に悪寒が走る。

 

「Stop……。ナイスネイチャ、動かないでくれ」

 

「へ……?」

 

 トレーナーはナイスネイチャの額に手をやり、もう片方の手は自分の額に当てた。じっくり観察するまでもない。

 

 ――酷く、熱い。

 

「Health room……。保健室だ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよトレーナーさん。練習は?」

 

「No……。保健室に行こう。君は今、感覚が鈍っているのかもしれないけど、酷い高熱状態だ」

 

「嘘……」

 

 トレーナーの見立ては正確だった。

 保健室に連れていき、養護の先生の立ち会いのもと、検温した結果、やはりナイスネイチャは高熱を出していた。

 トレーナーはそのまま、ナイスネイチャを病院へ連れていくことにした。

 

「Hmm……。体力低下のところを狙った風邪か」

 

「あはは~。ごめんねトレーナーさん。これからって時に」

 

 トレーナーはナイスネイチャと話し合い、レースのこともあるので、念の為一晩だけ入院させてもらうことにした。

 病室のベッドの上にいるナイスネイチャは、ずっと耳が下がっていた。

 

「No……。自分の判断ミスだ。君はずっと練習しすぎだと思っていたが、君の情熱に甘えてしまっていた」

 

 トレーナーは頭を下げていた。

 それに思わずナイスネイチャは両手をぶんぶんと振る。

 

「や! 何言ってるのよ! 自己管理できていないアタシが原因なんだからさ! 気にしないでったら!」

 

 ナイスネイチャは更に言った。

 

「そっか……アタシって、やっぱちょっと頑張ればこうなっちゃうんだ」

 

「No……。ナイスネイチャ、それは――」

 

「うん、分かってる。分かってるんだけど、悔しいなって……。ここで名前出すのもなんか脈絡ないけどさ、テイオーはこれ以上の練習をしているはずなんだよ。だからアタシだって、頑張らなきゃってそう思ってた。それがこの有様ですよ! あっはっはっ!」

 

 トレーナーはとても愛想笑いをする気にはなれなかった。

 ナイスネイチャは布団に潜り込んだ。

 

「ごめん、トレーナーさん。アタシ、このまま寝たい」

 

「All right……。それじゃ自分は帰るよ。お休みナイスネイチャ」

 

「う~い、おやすみ~」

 

 病室を出たトレーナーは、すぐに歩き出さず、しばらくそこにいた。

 やがて、病室の中から静かに、だけど確かにすすり泣く声が聞こえた。

 

「……」

 

 トレーナーは今度こそその病室を後にする。

 

「Absolutely……。ナイスネイチャ、自分は必ず君を勝たせる」

 

 トレーナーは両目を拭い、誓いを新たにした。拭った腕は、少し濡れていた。




第8筋肉でした!

この物語も後少しで完結となります。
最後までお付き合いいただければ幸いです!
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