多趣味な男がヒーロー目指す話   作:使命

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第一六話 助けを呼んで来たのが狐面被った黒い和服の男って怖くない?

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが…、俺とオールマイト、そしてもう2()()の4人体制で見ることになった。」

 

「ハーイ!何するんですか!?」

 

 

昼休みの騒動を終え、五時間目の授業に入る。ちなみにあの後緑谷が委員長を辞退。そして先ほどの混乱を治めた功績から飯田が推薦され、八百万も若干不満げながらも了承し飯田が学級委員長に就任した。緑谷め、巧くサボったな。

 

 

さて、今目の前で瀬呂が質問していたが今日の授業はなんじゃらほい。

 

 

「授業内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練。今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に。」

 

 

伝えることは伝えたから行動しろという目線を感じたので、すぐに着替えに行く。まったく、せっかちな教師だ。

 

 

「お、緑谷はコスチュームじゃないのか?」

 

「実は前回の訓練でボロボロになっちゃって…」

 

「あぁ…そうか。」

 

 

爆豪飯田コンビとの戦闘訓練で、爆破を受けまくりボロボロになっていたな。…しかし、彼らも中々面白い関係性のようだ。あだ名で呼び合うとこや、空気感などかなり昔からの付き合いを感じる。

 

 

「あのボンバーマンとはいつからの付き合いだ?」

 

「ボンバーマンって…かっちゃんとなら幼稚園からの幼馴染みだよ。それがどうしたの?」

 

 

映像で見た彼らの表情から、様々な感

 

情が視えた。羨望、尊敬、嫉妬、怒り、侮蔑、ほんの少しの恐怖。ただの幼馴染みとは到底言えぬ、並々ならぬ感情の奔流。ずっと一緒にいるからこその関係性には興味が尽きない。

 

 

片や、凡才で最近まで個性すら扱えなかった少年。片や、非凡なる才と強個性を持ち合わせた少年。僻みすら感じる謙虚さ。絶対的自信を持つ傲慢さ。まるで真逆な二人が、今一つの場所にいる。そして俺はその場に居合わせている。それはなんと────

 

 

「……いいや、なんとなくだ。ありがとな。それより、遅れたらまずい、とっとと行くぞ。」

 

「うん、そうだね。」

 

 

──────なんと幸運なのだろうか。そう思いながらバスへと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういう作りだったか……!!」

 

 

そう大声で叫ぶ飯田。バスに乗る際、飯田主導で出席番号順で席を決めたのだが、なんと車内は前部から中部にかけて向かい合って座る形であった。これでは番号順など意味を成さず、皆思い思いの場所に座っていた。耳郎は奥のほうで座ってる。相席したのか?俺以外のやつと……(CV神谷浩史)

 

 

「意味ないね!」

 

「ぐおぉぉぉぉ!!」

 

 

そして芦田の追撃により、飯田撃沈。安心しろ、委員長は八百万が継いでくれるさ(適当)。さて、そんな俺の隣は……

 

 

「よろしくね☆ベイベー☆」

 

「………。」

 

 

なんか別の方向でキャラの濃い青山である。なんだこいつ(困惑)。語尾に☆がついてるやつなんて初めて見たぞ。

 

 

「眠ってもいいよ波激君☆でも僕の輝きで眠れないかな☆」

 

 

なんだこいつ(二度目)。でもなんか苦手だこいつ……あっ、そうか

 

 

「…なあ青山。」

 

「なんだい☆、波激君?」

 

「────()()()()()()()()。」

 

 

こいつ、中学のときの俺に似てるんだ。()()を知られたくなくて、仮面を被って振る舞う。まるで自分を見てるようでつい自己嫌悪し、また彼に良い感情を向けれない。

 

 

「─────芝居?なんのことだい☆?今の僕こそありのまま☆!ありのままの輝きこそ僕!」

 

「…ならいいけどよ。」

 

 

まあ何か理由が有るんだろう。こんなこと俺が言えたことじゃないしな。深く詮索する必要もないか。

 

 

「私、思った事は口に出しちゃうの……緑谷ちゃん?」

 

「えっ!……う、うん。蛙吹さん?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで?」

 

 

そんな話をしていると、我らが女神()蛙吹が緑谷に声をかける。緑谷、女子と話馴れてないのがバレバレである。

 

 

「あなたの個性……オールマイトに似てるわね?」

 

 

その言葉を聞いた直後、緑谷が急に挙動不審になる。

 

 

「えっ!!? そ、そうかな……どこにでもある様な個性な気も……」

 

「そうだぜ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我なんかしねぇ。緑谷のとは似て非なるものだぜ?」 

 

 

否、どこにでもあるものか。見た感じ恐らくあのとき個性を発動した箇所は右腕()()。そして多大なる代償と引き換えに、異形系個性をも越えうる超パワーを発揮する。もしあの力が身体全体に発動出来るようになれば、もはや単純な強化系の個性では相手にならないだろう。

 

 

「でも増強系の個性ってのは良いな。鍛えれば、やれる事が増えるだろ?俺の『硬化』なんて対人戦は強いけど地味だからな……。」

 

「そ、そうかな? プロにも通用するカッコイイ個性だと思うけど?」

 

 

話題が逸れたことで安心したのか落ち着いた様子を見せる緑谷。俺も緑谷の意見に賛成である。

 

 

「いいじゃねえか、だって便利だろ?肉壁として。」

 

「発想がひでぇっ!?」

 

 

でも実際一人はこういう個性が居てくれたら助かるのは事実だ。俺みたいな火力特化の個性は、つい守りが手薄になるからな。俺はそんなことないけど。

 

 

「まあでも強いが大衆受けするほど派手さはないのは確かだな。」

 

「そうだろ?……プロってやっぱ人気商売だろ? そう思うと地味なのは致命傷なのかもな?…でもまあ派手さと強さってんなら、やっぱ爆豪と轟に、波激だよな!」

 

「けど、爆豪ちゃんはすぐキレるから人気は出なさそう。」

 

「ハァッ!! 出すわゴラァ!! このヴィラン面よりもメッチャ出すわぁッ!!」

 

「なんやて爆豪ォ!俺のこのスーパーイケメンフェイスで人気が出ないわけないだろ!!」

 

「イケメンとか自分で言っちゃうのね波激ちゃん…。」

 

「まあ実際そうだし言い返せねぇ…」

 

「でもおまえ仮面着けてんじゃん。」

 

 

それはそう。まあそんなに人気とかは気にしてるわけではないが…

 

 

「俺の個性って言うほど派手か?」

 

「え?」

 

 

俺の個性は『衝撃波』。身体のいろんな所から衝撃波を出す個性である。そう、衝撃波である。炎でも水でも氷でも爆発でもない言わば空気で、肉眼では確認できないはずだが。

 

 

「たしかに眼には見えないけど音だったり威力だったり、そういう面で派手なんだと思うよ。」

 

「あぁ、そういうことか。」

 

 

あんまり自分でもどれだけ出てるとかは分かんない。もう感覚でブッパしてるだけだ。しかし個性を発動する際、音がするのだ。その部分が派手だというらしい。

 

 

【…確かに見た目はともかく、その威力はド派手そのものだろうね。最大出力がどんなものかは知らないが、それこそ災害級じゃないのかい?君の父はここまでの出力を持っていなかったはずだが。】

 

 

と何処からか耳触りの良い耳障りな声が聞こえてくる。

 

 

(…なんだ起きたのか?そのまま永眠してくれれば助かるんだが。)

 

 

煙った鏡(テスカトリポカ)、これが奴の名。そう名付けられ、そうであるとされ、そう信仰され、俺がそう名付けた者。

 

 

アステカ神話における創世神の二柱の一柱。様々な異名と化身を持ち、神話において最も強大な権限を持つ。鏡、運命、呪い、美、魔術、方角、戦争、支配、奴隷、黒曜石、自由など数多くの概念の象徴である名実ともに一神話体系の最高神。それこそがテスカトリポカ。

 

 

【しかしまあこの国では私のことは全く知られていないのだろう?悲しいものだねぇ。昔みたいに贄ももらえないし。】

 

(誰がおまえみたいな生け贄欲しがる邪神信仰したいんだよ。)

 

【実際に居ただろう?】

 

(大地の怪物(シパクトリ)に片足だけじゃなく食い殺されればよかったのに。)

 

【やめてくれ!あれにはもううんざりなんだ!】

 

 

…しかし妙な言い回しである。先ほどからまるで自分が実際に見てきたかのような発言をする。そもそもテスカトリポカは神であり、()()()()()。つまり実在するはずがないのである。

 

 

さらにこいつはそう名付けられただけであり……

 

 

【君の願いそのものだとも。君は求めたんだ。自分がそう(テスカトリポカ)呼ばれたと認めたくなくて、代わりの誰かにしたくて。それで君の嫌悪する自己がそれだとした。要は逃げ道が欲しかったんだろ?()を殺させた神なんかといっしょにされたくなくてね。】

 

(ずいぶんと分かったような口を利くな?)

 

【分かるとも。()()なのだからね。…まあともかく実際に見てきたかのようなと言うが、それは事実だ。】

 

(は?な訳ねぇだろ。まさかおまえが、本当にテスカトリポカだとでも言うのか?冗談にもならん。)

 

【………さあ、どうだろね。そろそろ私は黙っておこう、級友たちとの話に花を咲かせてくれたまえ。】

 

 

勝手に話てきたくせになんなんだよ……まあ黙ってくれるならいいか。

 

 

「……なあ波激、さっきから気になってたんだが…」

 

「ん?どうした。」

 

 

まさか声に出てたか?それならまずい、何か言い訳を……

 

 

「おまえの持ってる…そのケース、なんだ?」

 

 

どうやら違ったらしい。よかった、一安心だ。そして切島は俺が足元に置いている縦長のケースを指差す。

 

「これは…まあ救助訓練で必要なものだ。」

 

「何が入ってんだ?」

 

「……それは開けてからのお楽しみさ。」

 

「怪しい。」

 

「怪しいわね。」

 

「俺への信頼がゼロなんだが?」

 

 

こうして盛り上がっていると先生が声を出す。

 

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」

 

「「はい!!」」

 

 

今日も今日とて、相澤先生の教育は完璧である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげーー!!USJかよ!?」

 

 

いや本当にでかいな。確かにこの広さは某テーマパークを連想させるほどの敷地だ。試験会場のロボしかり、この施設しかり、俺は雄英の資金力を嘗めていたようだ。そう驚愕していると、向こうから中性的な声が聞こえてくる。

 

 

「水難事故、土砂災害、火事…etc、あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も…

 

 

ウソの災害や事故ルーム(USJ)!!

 

 

ホントにUSJだったよ(驚愕)。てかその名前は大丈夫なのか?

 

 

その声の主は、スペースヒーロー13号先生。個性は『ブラックホール』というリアルダイソーである。しかしその強力な個性と裏腹に、彼の…彼女の…?本職は救助系。まさに今回の授業にうってつけというわけだ。ファンも多いらしくうちのクラスも、特に麗日が歓声を上げていた。

 

 

「分かったから静かにしろ……それより13号、オールマイトは? ここで落ち合う筈だろ?」

 

「それなんですが……」

 

 

どうやらトラブルがあったらしい。聴こえた内容からすると、オールマイト兄貴が遅刻したらしい。まあ彼も多忙な身であるゆえ、仕方のないことでもあるが…

 

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ三つ四つ…」

 

 

先生、小言は増えすぎると小言ではないのだよ。ただの長話だから。その思いを他所に、13号は話を進める。

 

 

「……皆さんご存知だと思いますが、僕の個性は『ブラックホール』です。全てをチリにする事ができ、災害現場ではそれで瓦礫などをチリにして人命救助を行っております。……ですが同時に()()()()()()()()()()です。」

 

 

予想していなかったヘビーな内容に、思わずビクリとする。

 

 

「──今の世の中は個性の使用を《規制》する事で成り立っている様に見えますが、一歩間違えれば安易に命を奪える事を忘れてはいけません。」

 

 

それはそうだ。俺や爆豪、轟に緑谷は勿論のこと、例えば八百万の創造で凶器を作成する。麗日の『無重力』ならば相手に触れて高所から落下死。切島の『硬化』など全身鈍器のようなものだ。芦戸の『酸』ならば、強酸性物質に耐えれる人間は基本存在しない。一見殺傷性の無さそうな瀬呂や峰田の個性も、あれで呼吸器を塞げば前者の個性よりも惨たらしく殺せるだろう。

 

 

「そして……この授業では各々の個性をどう人命救助に生かすのかを学んでいきましょう。──君達の個性が他者を傷付けるだけのものではない。その事を学んで帰ってください。」

 

「はい!!」

 

「13号かっこいい!!」

 

 

クラスの皆は、あの素晴らしいご演説に称賛を送る……が、俺は素直に称賛できなかった。

 

 

【彼が知ったらどう思うだろうね?ヒーローの卵だと思っていた生徒の中に、一人だけ大量殺戮経験者がいるんだ。その個性で、何人殺した?その拳で、その蹴りで、その手刀で、その技術で、幾人の人が死んだのだろうね。】

 

(…うるさい。)

 

 

身体は憶えている。個性で殺したときの感触を。この拳、蹴り、手刀、技術。全てを殺すために使った、あの感覚。

 

 

───もしだ。もし、耳郎に、常闇や障子、緑谷たちクラスメイトに危害が加わったら?両親に危機がきたら?自分は、その相手に殺すことを()()できるだろうか?

 

 

…否、無理だろうな。それこそ確実に、躊躇なく、抹殺しようとする。それほどまでに変わったのだ、俺は。

 

 

【まさか変わらないとでも思ってたのかい?もう君は、純粋なあの頃の君ではない。人の殺意を知り、殺しを知ったのだから。】

 

 

相変わらず耳障りな声を聞き流しながら、疑問に思う。

 

 

──この嫌な予感はなんだ?先ほどから刻一刻と高まり続けるこの予感に身震いする。

 

 

「ショー、どうしたの?」

 

「…いや、なんでもない。」

 

「…では、僕の話はここまで!ここからはもう一人の先生に話してもらいましょう!」

 

 

そう締めくくり、次の人へ順番を回す。果たしてどんな人か……

 

 

「───まったく、相変わらずの話の長さだな、13号。」

 

「ハハハ…これでもまだ伝えたいことが山ほどありますよ。」

 

 

と、やけに聞き覚えのある男の声が聴こえてくる。瞬間、背筋が凍りつき、冷や汗が頬を伝う。

 

 

─────その男は、まさに『和』というべき男だった。白髪が混ざり、なぜかメッシュぽくなって逆にオシャレさを感じさせる黒髪。紺色の和服に、口元が出た真っ赤な鬼の面。なんど見たことか、この姿を。

 

 

「嘘……!?」

 

 

横で、耳郎が驚愕の声を上げるが、もはやそれに反応している余裕もない。

 

 

「誰あの人?」

 

「ヒーローなのかな?」

 

「メディア露出が少ないのか…でもあんなヒーロー見たこと…」

 

「声がダンディー……!」

 

 

また緑谷がぶつぶつ言ってるのに突っ込んでやりたいがそれどころではない。俺の快適な高校生活が、音を立てて崩れさっていくまっ最中なのだから。

 

 

「…うそやん。」

 

「なんだ波激、知ってんのか?」

 

 

やっと絞り出た声を上鳴が聞いていた。あぁ、知ってるとも。あの人を、あの人の厳しさも。

 

 

「知ってるもなにも…あの人は……」

 

「13号が長かったからな、俺からは自己紹介だけとしよう。初めまして少年少女諸君。青春を謳歌してるか?」

 

 

そう喋りだし、男は面を外す。するとそこには俺と()()()()鋭い目をした中年の顔があった。

 

 

今眼前にいるのは、ヒーローではない。高名な三味線職人でもない。

 

 

「…()()が世話になっているな。響香ちゃんも久しぶり。どうも、十五代目『護壊波激流武術』正式継承者兼師範代の波激撃也こと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波激パパです。よろぴくね。 」

 

「パッ」

 

『パパァァァァァ!!??』

 

 

武道家、波激撃也の姿である。

 

 

「なんでいるんだよ父さん……!」

 

「ん?言っただろ?用事があるから来るぞって。」

 

 

それはそうだが、まさか父親がちょっと用事とか言って学校に教師しにくるとは思わんだろ。

 

 

「確かに目元が似てるな。」

 

「イケオジって感じ…!」

 

「雰囲気とかそっくりだね。」

 

 

なんかクラスも盛り上がってるし…

 

 

「はい静かに…ということで今回のヒーロー基礎学から非常勤で来られる波激撃也氏だ。今回はあまり関係ないが主に体術や技術面を指導してもらう。…因みに指導はとても厳しいので、覚悟するように。」

 

「ハハハッ、そういえばおまえも指導した記憶があるな。」

 

 

速報、相澤氏、被害者だった。なんか一気に親近感湧いてきたぜ。…というか俺は高校に来てまで父親と修行しなきゃいけないのか……はあ、もういいやとっとと始め……

 

 

「───ッ!?」

 

 

瞬間、猛烈な悪寒を感じ視線を中央の噴水がある広場へ向ける。そこには黒いモヤが広がっており、底無しの悪意が滲み出ている。

 

 

俺の【目】には、視覚化された悪意がうねり、広がり、這いよりながら撒き散らされている光景が写る。

 

 

「全員!! 一塊に動くな!!!──13号!波激さん!」

 

「おう!」

 

「はい!!」

 

 

ゴーグルを着け、鬼気迫る表情で指示を出す先生と直ぐ様臨戦態勢に入る父さんを見て確信する。

 

 

(これが()()()()の正体か……!)

 

「なんだあれ? もう始まってるパターン」

 

「動くな!! あれは────」

 

「てめぇら気ィ張れ!もう訓練じゃないぞ!あれは──」

 

「「()()()()だ!」」

 

 

中から出てきたリーダー格であろう全身に手を着けた異様な姿の男が辺りを見回して、首を傾げる。

 

 

「おい、オールマイトがいないぞ……」

 

 

───子供を殺せば来るのか?

 

 

まずい、想像以上に()()だ。ケースを開き中身を取り出す。幸い、弾薬は既に込めてある。

 

 

「なんでヒーローの学校にヴィランが来るんだよぉぉぉ!!」

 

「どっちみち馬鹿だろ!? ここは雄英だぞ!」

 

 

峰田と上鳴が叫ぶ。やはりマスコミはあいつらの仕業か。たかがマスコミ風情が突破出来るものではない雄英のセキュリティ。それがあんな風に侵入されるには、マスコミを煽った奴がいる。それが彼らだったのか。

 

 

「先生! 侵入者用のセンサーは!?」

 

「ありますが……反応しない以上、妨害されているのでしょう。」

 

「そう言う個性持ちがいんのか。──場所、タイミング……馬鹿だがアホじゃねぇぞあいつら。」

 

 

八百万、轟が事態を把握している。あいつらが冷静なのは救いか。あいつらがいればクラスも纏る。後は先生の指示を……

 

 

「ここに居られましたか!()()()()()()()様!」

 

「……は?」

 

 

思いもよらない言葉に、身体が固まる。今、何と言った?それを、その名を呼ぶ者など()()しか思い浮かばない。

 

 

何故、何故、何故。思考が冷えていくのを感じる。暗い殺意によって凍えて(ひえて)醒めて(ひえて)覚める(ひえる)

 

 

「何故だ…!何故貴様らがここにいる!!」

 

 

久方ぶりに覚える威嚇などではない純粋な殺意を一点に集中し睨み付ける。

 

 

「『心臓売人(イン・ヨリョトル)ゥ!!』」

 

 

そうスーツ姿に、心臓のエンブレムを着けた怨敵の名を叫びブツを突きつける。セーフティを外し、いつでも引き金を引けるよう構える。

 

 

脳裏にあの時のことが過る。(ルイス氏)が、(おばさん)が、(夫婦)が、(ジョージ)が、鮮明に思い出され瞼にこびりついて離れない。

 

 

「おい落ち着け波激!」

 

「波激さん!彼らを知ってるのか分かりませんが、今は冷静になるところです!」

 

「そうだ衝!ここは()()()()じゃない!おまえも一生徒だ!」

 

「……ッ!」

 

 

そうだ落ち着け波激衝、ここは戦場じゃない。周りにはクラスメイト(仲間)がいて、先生(ヒーロー)がいる。あの時みたいに一人てはないのだ。

 

 

「なんという気迫…!殺気…!流石であります、我が神よ!!」

 

「…なあ、本当にあのガキがてめぇらの神様か?」

 

「ええそうですとも!あの御方にとって姿形など思うがまま。()()の化身が彼なのです!!」

 

「……そうかよ。」

 

 

何やら喋っているようだが……いかんせん数が多いな。…だが、見た感じ素人が多数か。あれなら父さんがいるから大丈夫たが、奴らが素人だけ集めているとは到底思えない。特にイン・ヨリョトルの野郎共に関しては()()だ。どこに突兵がいるか分からない。

 

 

「13号! お前は生徒を避難させろ。上鳴は学校へ連絡を試みろ!波激さん、援護をお願いします。」

 

「任せろ。」

 

「待って下さい! イレイザーヘッドの本来の戦い方だと、あの人数は──」

 

「一芸だけではヒーローは務まらん!!それに──」

 

 

先生の隣から、強烈な闘志が振り撒かれる。ヴィランたちは驚いたように一斉に其方を見やる。

 

 

「──俺がいる。いくぞ相澤、五分で済ませるぞ。」

 

「父さん!油断すんなよ!奴ら何を隠し持ってるか分からんぞ!」

 

「分かってる!おまえは逃げとけ!」

 

 

戦闘態勢を取る二人に頷くと、そのまま二人は集団に突っ込んでいった。……あれは五分もかからんな。

 

 

「皆さん! 早くこちらへ!」

 

「させませんよ?」

 

 

13号先生の指示に従い避難しようとした矢先、目の前に黒いモヤのヴィランが現れる。どうやらこいつがモヤの発生源のようだ。

 

 

「はじめまして……我々は(ヴィラン)連合と言います。そして単刀直入に仰いますと……我々の目的はオールマイト──」

 

 

 

──平和の象徴の【殺害】でございます。

 

 

「……は?」

 

【…ほう。】

 

 

その言葉にクラスが唖然とする。平和の象徴、ヴィランの抑止力。その信頼は、最早一つの信仰とさえ言える。

 

 

そのオールマイトを殺す。実に骨董無稽な話だが、その言葉を聞いて確信した。

 

 

(やはり隠し玉があるか…!)

 

 

オールマイトを殺すなど、生半可な個性もしくは個体では到達出来ない。だが現に奴らはこうやって奇襲を仕掛けている。ならば殺す算段があるということ。

 

 

「しかし……オールマイトはいらっしゃらない様子。仕方ありません、ならばまずは……」

 

『射撃(ショット)』!」

 

「っ!?」

 

 

瞬間、個性を一点集中させ周りに被害が行かないようにしながら発動する。どうやら当たり判定はあるようだ。モヤだとするなら衝撃波に弱いと思ったが、実体はあるらしい。そう確認した後直ぐ様銃口を向ける。

 

 

「お見事です波激くん!」

 

 

それと同時に13号先生が動き個性を発動しようとする。今のタイミングなら回避は不可能。……なのだが、突如小脇から二人が飛び出す。

 

 

「その前に俺達にやられる事を─」

 

「退けこの阿保どもが!!」

 

 

切島の声を遮り静止する。あいつらのせいで13号先生の射線上に入り個性を発動できない。二人は振り向いた直後自分たちの愚行に気づいたようだ。

 

 

「どきなさい二人とも!!」

 

 

だがもう遅い。ヴィランは既に体勢を立て直している。

 

 

「危ない危ない……流石は金の卵。だが所詮卵は卵…私の役目は───散らして、嬲り殺す。」

 

 

黒いモヤが肥大かし、辺りを覆い始める。先ほどのように何処かに転移させるつもりか。

 

 

(衝撃波で…!…否、周りを巻き込むか…!!)

 

「耳郎……!」

 

個性を発動するか悩むが結局出来ず、なす術なく俺たちは巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───飛ばされた場所は、土砂ゾーンの一角。隣には轟がいて、辺りを確認している。

 

 

「おっ!来たぜぇ獲物がよぉ!」

 

「ちっ!男かよ、しかもやけにイケメン2人…その顔ぐちゃぐちゃにしてやるよ!」

 

 

汚ならしい声を上げながら、辺りをヴィランが囲んでいる。人数は多いが……素人だけか。

 

 

「へっへっへっ、おいなんか言って」

 

ドパンッ!!

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 

擬音にするならそんな感じの銃声を響かせ、適当な奴のド頭にぶちこむ。安心しろ、非殺傷弾だ。

 

 

「…おいおい!どういうことだよ!?」

 

「聞いてねぇよ!なんで、なんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

       ……ガキが銃なんか持ってんだよ!!」

 

 

たかが一人仕止めた程度でこの慌てようか……やはり集団が集められたのでもなく適当なチンピラ連れてきたのか。

 

 

「……最後まで言わせてやれよ…」

 

「あ?時短だ時短。今は忙がなきゃまずい。」

 

「…なあ、おまえ奴らを知ってるのか?」

 

「連合とかいうのは知らん。…だが、心臓のエンブレムをつけた奴がいたら()()気概で行け。そいつらはプロだ。」

 

「……何者なんだ?」

 

「マフィアであり、狂信者だ。…悪いが今はそれしか言えん。それより、とっととこのクズどもを片付けるぞ。三分で済ませる。」

 

「…バカ言え。二分でお釣りがくる。」

 

 

さあここからは特に特筆すべきことはない。極めてシンプルで、スムーズな蹂躙劇だ。

 

 

「さあ躍り踊れクソ■■■共。…開演だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞いていない!聞いていない!()()()()がいるなんて何一つ聞いていない!!ガキを殺すだけの簡単な仕事ではなかったのか!

 

 

そう叫びたい欲求に駆られるが、体が震え叶わない。近くで悲鳴と銃声に、地面ごと凍りつく音が聞こえる。

 

 

狐面を着けた和装のガキと、赤と白の髪の毛のガキ。両者とも学生とは思えぬ隔絶した実力の持ち主だった。

 

 

だが問題は狐面のガキだ。なんだあれは?あんなものがヒーローを目指す学校にいていいのか。非殺傷とはいえ躊躇なく敵に引き金を引く冷酷さ。足を折り、腕を折り、急所を抉り、執拗なまでに痛め付け、再起不能にする残虐性。

 

 

本能で感じる。あれは、何の気なしに人を殺せる。それこそ、殺してはダメだから殺さないだけ。そんなものはヒーローの在り方などとは到底言えぬと、犯罪者(ヴィラン)である自分すら思う。そんな未知の恐怖を受け、本能的に体は逃走を選んだ。

 

 

物陰に隠れ、息を潜める。口に手を当て、恐怖で震える体を無理矢理抑えつけ、やり過ごそうとする。

 

 

ふと、悲鳴が止まった。終わったのか?あれはもう去ったのか?そんな期待が頭を過る。

 

 

ザクリ

 

 

と足音が響いた。瞬間血の気が一気に引いて、震えが一層強くなる。

 

 

ザクリ

 

 

音が近づいてきた。音を聞くたびに冷や汗は溢れ、体は言うことを聞かなくなる。

 

 

ザクリ

 

 

どんどん近づいてくる足音に悲鳴を上げたくなるが、必死に抑えつける。目からは涙が溢れ、吐息がもれる。

 

 

ザクリ

 

 

足音が止まった。顔を出し、確認したい。だがそんなことをすれば直ぐ様殺されるかもしれない。だがその意思とは裏に、顔は後ろを振り向き顔を上げようとしている。そして反射的に目を閉じた。

 

 

首は回り、完全に後ろを向いている。後は目を開けるだけだ。だが、それだけは駄目だと己に訴える。しかしその意思に反して、或いは意思のままに目を開いたとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I found you(見つけた)】 

 

「ァ」

 

 

悲鳴を上げる間もなく、意識は暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで全員だな。」

 

「…なんでおまえは救助訓練で銃なんか持ってきてるんだ。」

 

「暴徒鎮圧用に決まってるだろ?」

 

 

今回持ってきたブツはレミントンM870。いわゆるポンプアクション式ショットガンだ。救助訓練ということで、足場の悪い場所や閉居を想定したときにこいつほど最適なのはいない。散弾で命中率が高く、威力も申し分ない。だがそこそこ使ったな。もう弾切れだ。

 

 

「よし、じゃあ俺は中央に戻るからおまえは何処かに残党がいないか注意しておけ。」

 

「いや、俺も行くが……こいつらから情報を聞き出さなくていいのか?」

 

「いいだろ。どうせ寄せ集めの素人だ、大した情報も持ってないさ。……そしておまえは来るな。」

 

「…俺じゃあ足手まといとでも言うのか?」

 

 

轟の語気が強くなる。嘗められているとでも思ったのだろうか。

 

 

「いいや違う。奴らの…イン・ヨリョトルの目的は俺だ。なら俺から出向けば被害は少ないだろ?」

 

「だがそれならおまえが…」

 

「いいや、俺が行かなきゃならねぇ。…()()()()されちまったからな。」

 

「…は?呼ばれたってのは……」

 

「悪いが時間がないから行く。」

 

 

轟の言葉を遮り、衝撃波で飛び立つ。あのスーツの男の目、あれは明らかに誘いの目だ。俺が来なければ何をするか分かったものではない。耳郎が心配だが……先を急ごう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方場所は変わって中央広場。そこには撃也と相澤の二人がいた。その回りには、沢山のヴィランが転がっていた。

 

 

「さあ、ヨリョトルのクソ野郎が……ルイスさんの仇をとらせてもらうぜ。」

 

「ふむ…流石は我が神の器のお父上、その実力に偽りなしですか。」

 

「はあ…?あの数をこの時間でかよ…チートがよぉ…」

 

 

手だらけの男は煩わしそうに首をかきむしるが、反対にスーツの男は取り乱した様子もなく興味深く観察している。

 

 

「初めまして波激撃也様。私は《(コアトゥル)》と申します。二年前は我が神との会合を果たす足掛かりとなっていただき、ありがとうございました。」

 

「ご丁寧にどうも。…早速だが───神妙にお縄につけや!!」

 

「残念ですがあなたの相手は私ではない…死柄木様。」

 

「うるさい、分かったよ……《脳無》!!」

 

 

瞬間、男の背後から凄まじい速度で何かが飛び出してきた。その影を辛うじて視界の隅で確認できて相澤が声を上げる。

 

 

「っ!?波激さん!」

 

 

しかしそれは既に彼の眼前まで迫っている。そこまでの移動を相澤は視認することができなかった。防御は不可能か、そう思われたが

 

 

「おっと!」

 

「…………は?」

 

 

なんと撃也は、その超速度で襲いかかってきた丸太のごとき拳を()()()()()()()()

 

 

「全く、躾のなってないボンクラたぜ!!」

 

 

そして、その手をそのままに地面に轟音を鳴らしながら叩きつけた。あまりの衝撃に揺れがここまで伝わってくる。

 

 

「……相変わらず、馬鹿げた実力なことだ。」

 

「…おい黒霧ィ……!()()は言ってたよなぁ…あれがオールマイト用の切り札だって…!」

 

「ええその通りです。…つまるところ、あの男がオールマイト級の実力だということです。」

 

「クソ!クソが…!なんで教師にあんなのがいるんだよ……!!」

 

 

どうやらあの脳がむき出しなヴィランで、オールマイトを殺害するつもりだったらしく動揺が走っている。

 

 

「おいおい、俺がオールマイト級だって?なわけねぇだろ。あんなバケモンと一緒にすんな。」

 

 

彼ほどの武道家ともなると蹴りやパンチだけでなく、一つ一つの所作や立ち振舞いで相手の実力を測ることができる。そんな彼が先ほどのパンチから感じたのは、()()()()()

 

 

確かにその筋力は、オールマイトに匹敵するだろう。しかし、肝心の技術か皆無だ。ただ力任せに拳を振るうだけ、オールマイトのような、経験も、鍛練も、技術もない拳一つ防げなければ武道家の名折れというものだ。

 

 

「…まさか本気でこいつでオールマイトを殺せるとでも思っていたのか?…ハッ!片腹痛いわ。」

 

「~~~~ッッ!!!」

 

 

それに激昂した男のかきむしる手はさらに食い込み、血が滲んでいる。

 

 

「おい!コアトゥル!!おまえも奴を殺す…」

 

「すみませんが、それどころではないようです。」

 

「はあ、何言って」

 

 

───瞬間、轟音と衝撃波と共に一人の少年が目の前に迫ってきた。だが、男は動じる様子もなく一言命じた。

 

 

断頭台(パディブロ)。」

 

「御意に。」

 

 

そして待機していた男がその一撃を受け止める。それに舌打ちしながら地面に降りたつ少年…衝は悪態をつきながら喋る。

 

 

「ハッ、忠実な部下をお持ちのようで!」

 

 

その男は、素晴らしい巨躯を持っていた。身長は190を優に越し、その筋肉は黄金比とも呼べるほど無駄がなく、練り上げられている。顔には特徴的な刺繍を施し、右手には()()()()()()()をぶら下げている。

 

 

「…お初にお目にかかりますテスカトリポカ様…そして、波激衝。あなたを───()()()()()。」

 

 

男は当然のように、堂々と言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

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