多趣味な男がヒーロー目指す話   作:使命

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第一七話 断頭台《パディブロ》

 

 

 

「……は?」

 

 

今、眼前の男が言った言葉に動きが固まる。救う?誰が?いったい誰を?

 

 

「ハッ」

 

 

思わず嘲笑が漏れる。

 

 

「ハハハッ!!」

 

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」

 

 

敵の前だということも忘れて、大声で笑い、嘲笑い、嗤う。

 

 

「おまえらがっ!?あの町から全てを奪い、俺から沢山のものを奪い、地獄のどん底まで俺達を落としたおまえらが俺を救う!?ハハハハハハッッ!!」

 

「───────笑わせるな。そもそも俺は救いなど求めていない。」

 

「俺が救われてどうなる?二年前のことは綺麗さっぱり無くなるか?あそこの人々は?ジョージは?ひょっこり帰ってくるのか?……救われるべきは俺じゃない、あの人たちだ。」

 

 

仮に俺が救われるとして、それはどんな方法だ?何もかも忘れることか?過去を忘れバカみたいに今だけ楽しんでればいいのか?

 

 

───論外だ。あれだけは、あれだけは忘れてたまるものか。あの死を、あの町を、あの地獄を。あの【悲劇】を。

 

 

「衝ッ!何で来やがった!」

 

「波激!おまえは早く避難を…」

 

「すまねぇな先生方。あっちから誘われちまったもんで。」

 

「だとしても俺たちが…」

 

「本当か?あの脳剥き出しのヴィラン…いや、()()か。そいつ抑えながらこの男も手に負えるか?」

 

「ーッ!」

 

 

おそらくはあれがオールマイト用の切り札。ならば例え父さんでも全霊であれに挑まねば余裕で死ぬ。

 

 

「……行けるか?」

 

「ッ!波激さんっ!」

 

「余裕だ。…そっちは頼んだ。」

 

「へっ、誰に物言ってやがる……任せたぞ!」

 

「波激!……クソッ!仕方がないか…!!」

 

 

そう言ってまたあの脳剥き出しの兵器に向き直る二人。俺もまた眼前の男を観察する。190を優に越す身長、黄金比とも言える肉体。右手にぶら下げるマクアウィトル。先ほどの奇襲を力でなく()()で受けたことから素人でもない。しかし……

 

 

(気に入らないな……)

 

 

その目に宿っているのは…信仰、諦観、絶望、憤怒……慈悲。かつての奴らのどれとも合致しない異質な目だ。攻略の鍵は()か。

 

 

「……さて、そんな救世主(メシア)さんは果たしてどんな方法で俺を救ってくれるんだい?」

 

「救世主などという言葉を使うな…。無論、死だ。あなたを殺し、テスカトリポカ様の()()から解放する。」

 

 

そう言ってマクアウィトルを構え臨戦態勢に入る。それを見て俺も構えを取る。

 

 

「さあ来いよ狂信者。──一片の慈悲なく潰してやる。」

 

「我が慈悲の刃の下──死ね!」

 

 

斯くして、二年の時を経て今再び《花の戦争(シャオヤチョトル)》が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい良いのかよヒーローが息子にヴィラン退治させちまってよぉ…」

 

「俺はヒーローじゃないぞ。一般パパです。」

 

「……(白い目)。」

 

「大丈夫だ相澤、それにあいつの言う通りだ。俺たち二人だけではあの脳無とやらとあの男は同時に相手取れん。」

 

「…そういことでは…」

 

「…はぁ?ヒーローでもない一般人が……!なんで脳無投げ飛ばしてんだよ……!!どこまで俺を苛立たせんだよ!!」

 

 

男は錯乱を起こし苛立ち紛れに命令する。

 

 

「殺せ脳無ゥ!!」

 

「お、」

 

 

そして先ほどまで倒れていた脳無が反撃とばかりに拳を振り上げる。

 

 

「なんてパワー……だよ!!」

 

 

その拳をかわし、伸びきった腕の関節を狙い蹴りを見舞う。ゴチャリという音を立てながら、脳無の腕は反対方向に変形した。しかし痛みを感じてないかのように暴れ、本能的な動きで距離を取ってきた。

 

 

「ちっ!痛みを感じてねぇ質か!」

 

「それに…見てください。」

 

 

言われて視線を向けると、先ほどへし折った右腕が不快な音を立てながら元に戻っている。その様に再度舌打ちをする。

 

 

「クソっ、再生持ちか。」

 

「あぁそうだよ!それにオールマイト級の身体能力にショック吸収、超回復の個性で()()()対オールマイト最強の脳無だ!おまえらごときに倒せるかよ!!」

 

 

まるで親に買ってもらった玩具を自慢する子供のようだ。そして撃也は確信する。あれは正しく子供だと。我慢弱く、不測の事態が起こるとすぐに怒り、取り乱す。身体に対して精神が未熟すぎる。そして……

 

 

(造った……てことはまさか個性を複数、人に入れたのか?仮にそんなのが可能でも身体が……)

 

 

ふと息子が言っていた言葉を思い出す。

 

 

(そうか正しく兵器か。)

 

 

薬か、はたまた別の何かか、とにかく何らかの手段によって自我を奪い、身体を改造し、適合するよう造り上げた。あれはもはや人ではない。兵器そのものだ。息子はそれを一目で見抜いたのだ。

 

 

(まったく、とんでもねぇガキだぜ……!)

 

 

驚異的な観察力に舌を巻いていると、再度脳無が突撃してきた。剛脚が唸り蹴りを打ってくるが、力を流していなし、がら空きになった脇腹を殴る。まるでスポンジを殴っているような奇妙な感覚に襲われる。なるほど、これがショック吸収か。しかし個性ならば()には敵わない。

 

 

「相澤」

 

「今やってます。」

 

 

瞬間、相澤の目が赤く発光する。それに合わせ拳を三発凄まじい速度で叩き込み、蹴りを入れる。先ほどまでの防御力が嘘のように吹き飛んでいく脳無を目に、手だらけの男、死柄木はその原因を看破する。

 

 

「おまえの個性かイレイザーヘッドォ…!」

 

 

個性『抹消』。相澤の持つヒーロー名の由来ともなったその個性は、視界に入れた異形系、もしくは定義があやふやなもの以外の相手の個性を無効化するというもの。現代個性社会において強力無比なるその力を持ってして、脳無の防御力を完全に封殺した。

 

 

「さあ回復は潰した。後はオールマイトが来るまで殴るだけだな。」

 

「…なるべく早く仕留めて頂きたい。俺はドライアイなんです。」

 

「……相変わらず惜しいなぁ!」

 

 

状況は優勢、このままオールマイトの到着まで抑えておくだけだ。しかし、想定外の事態が起きる。

 

 

「波激君!」

 

「波激!」

 

「なっ!?」

 

 

なんと生徒が戻ってきたのだ。それを見た死柄木は悪辣な笑みを浮かべ、悪意を持って命じる。

 

 

───殺せ。

 

「──緑谷ッ!!」

 

「あっ」

 

 

相澤は無我夢中に走りだし、脳無の殺意は今一人の少年に牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シッ!」

 

「ハァッ!!」

 

 

振り下ろされるマクアウィトルを避け、反撃の拳を打てばあちらも避ける。風を切りながら地面に叩き付けられたマクアウィトルは、その地面に大きな亀裂を残す。確実に殺す攻撃だ。

 

 

とは言えそれは此方も同じ。一手一手に明確な殺意を込めて放つ。

一手間違えれば絶死の攻撃の応酬は激化していき辺りに戦闘の爪痕を残していく。

 

 

身体能力は圧倒的にあちらが上、技術においては此方が上。ゆえに互角。このままでは千日手だ。必要なのは情報だ、一先ずの狙いは

 

 

(個性の把握か……!)

 

 

相手の攻撃を捌きながら本腰を入れて観察する。他の発動系を凌駕するその身体能力は、個性によるものが妥当である。しかし個性を使っているようには見えない。ならば常時発動型の可能性があるが……

 

 

【目】に情報が流れ込んでくる。そこには男の姿。鍛練のたびに跳ね上がっていく身体能力。…いやおかしい、明らかに強化率が高すぎる。たが外見に特徴はなし…ならば

 

 

「『筋繊維強化』か、おまえの個性は。」

 

「御明察通り!我が躯体は鍛えればそれだけ強さを増す、これまでの鋼の鍛練は今この時のためにあった!!」

 

 

筋力ではなく筋繊維の強化。この個性の強みはその“成長率”にある。人の身体は鍛えればその部分の筋繊維が一度破壊される。そしてその筋繊維は破壊されまいと、以前より強固となり再構成され、それをまたさらなる鍛練にて破壊していき筋肉は成長する。

 

 

ならばその筋繊維の強化とは強化倍率の増加だ。俺たちが同じ鍛え方をして1.2倍の強化ならば、男は2倍にも3倍にも鍛えられる。それだけ強固になった筋繊維を破壊し、修復され、また破壊する。それだけで男の積み上げてきた練度が分かるというもの。

 

 

ならばこの身体能力も納得できる。

 

 

「だが甘い!」

 

「ぬぅ!?」

 

 

迫ってきた拳の力を流し、そのまま肘打ちを喰らわす。横に倒れ、間一髪受け身を取ったようだがそれでもダメージは入る。追撃の蹴りを入れようとしたが、驚異的な筋力で離脱される。

 

 

「…ッ、ハァ、俺の速度についてこれているのは、あなたが初めてだ。力では上の俺を、ここまでいなすとは。」

 

「ハァ…当たり前だろ、それが武道の本質だ。力に劣る弱者、女子供が大の男を倒してのける。それこそが()であり()だ。」

 

「…見事ッ!!」

 

「ッ!」

 

 

再び迫ってきた男を迎え撃つ。避け、繰り出し、避けられ、繰り出され、受けて、受けられる。息をつく間もない攻防はさらに激化し、互いの持ち得る手を次々と出しては防がれる。

 

 

長期戦は不利だ。肉体的に劣る俺がこのまま長引かせた場合、先に体力が切れてしまう。なるべく短期に仕留めたいが、あちらも容易い相手ではなく、此方の意図を気付き受けよりになってきている。だが突破口はある。

 

 

「『衝撃(ショック)』!!」

 

「がっ!チィ!!」

 

 

それは俺の個性だ。身体能力は高いが、レンジは小さい奴の射程外からの攻撃ができるという有利。出力は低めにして広範囲を吹き飛ばすことで回避を防ぐ。

 

 

いずれにせよ奴も直に攻めてくるはずだ。そこを全身全霊で叩く。勝利への算段を立てていると思いがけない声が聞こえてきた。

 

 

「波激君!」

 

 

緑谷の姿だ。こいつはいい展開だ。緑谷に腕一本犠牲にしてもらい隙を作り俺が仕留める。これで勝利にぐっと近づいた。奴も不利になると気づいたのか少し顔をしかめる。

 

 

「ナイスだ緑谷!ちょいとこっち──」

 

 

だが見えてしまった。視界の端で猛スピードで()()()()()()()()()例の兵器の姿が。

 

 

「────ッッ!!」

 

 

刹那、脳裏にあの時(ジョージ)のことが過る。そして咄嗟に顔そちらの方に向けた。向けてしまった。

 

 

「──余所見をしてる場合か?」

 

 

身体が全力の警鐘を鳴らす。冷や汗が背中を伝い己の短慮さを嘆きながら、苦し紛れに反撃しようとする。

 

 

(まずい─まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!)

 

「『衝げ(ショッ)』…がっ……ァァァ!?」

 

「フッ!」

 

 

抵抗虚しくその剛脚が繰り出され、反応が遅れた俺に凄まじい衝撃が身体に襲いかかる。まるでピンボールかのように地面と平行に吹き飛ばされる。10mは優に越える距離を飛び、硬い地面にバウンドして止まった。

 

 

「が…は…うァ…」

 

 

狐面が割れ、片目が露になる。無理矢理吐き出された酸素を求め肺が呼吸を強制する。蹴られた肋骨が軋み猛烈な痛みが走る。おそらくヒビが入ったか、内臓のダメージも酷い。頭も打ったのか立ち上がろうにも身体に力が入らない。

 

 

緑谷は無事なのか?また自らの因縁のせいで友を殺してしまったのか?

疑問が浮かんでは痛みで消える。なんてパワーだ。たった一撃でこの有り様だ、人体が出していい出力じゃないぞこれ。

 

 

そんなことを考えていると奴が近づいてきた。立ち上がってその顔面を殴ってやりたいところだが、生憎その力も出せそうにない。

 

 

殺意を込めて睨みつけるが、動けない者の殺意など取るに足らないだろう。身体を抑え、マクアウィトルを振り上げ首に狙いを定める。

なるほど、だから断頭台(パディブロ)か。アステカにおける断頭台を意味する言葉。そしてその銘を与えられた男が、今その刃を振り下ろさんとしている。

 

 

「不運だったな我が神よ。まさかあんな邪魔者が入るとはな。…最後の言葉は?」

 

「…FUCK YOU(くたばれ)

 

 

悪態をつき罵倒を突きつける。あと数秒、あと数秒あれば回復し反撃できる。しかしもはやそれも無理そうだ。

 

 

【──ふむ。仕方ない、私が……】

 

 

「我が神にその心臓…捧げたまえ!」

 

 

そして刃が振り下ろされる時、

 

 

「波激君を…離せえぇぇぇぇ!!

 

「なにっ!?」

 

 

緑谷が叫びながらすっ飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水難ゾーンにて指を何本か犠牲にして、蛙水と峰田と共に窮地を脱した緑谷が見たのは、謎の脳が剥き出しになったヴィランと戦う教師とその向こうで一人ヴィランと戦う同級生の姿だった。

 

 

「波激君!」

 

「ケロッ!?緑谷ちゃん!」

 

「おい緑谷!?」

 

 

思わず飛び出してしまう緑谷に周りは驚きの声を出す。そして自身の愚行に気づく。死柄木が悪辣な笑みを浮かべながら脳無に命じる。

 

 

「殺せ。」

 

 

 

眼前に拳が迫り来る。逃げようにも常人の反射神経を遥かに凌駕したその一撃は既に目の前だ。

 

 

 

 

視界をそれが支配し身体は動かない。このまま直撃する──

 

 

───かと思われた。

 

 

「緑谷ッ!!」

 

「うわっ!」

 

 

先んじて行動していた相澤が緑谷を押し退ける。そしてその拳は相澤に振るわれた。

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

咄嗟に出した防御も意味なく、逆にその腕をへし折られながら吹き飛ぶ相澤。しかしその暴威は止まることなく、主の命令を果たさんと再度拳を向ける。それは脳無に残された最後の理性であり、兵器に許された唯一の思考である。

 

 

「先生ッ……!」

 

 

そして振るわれた拳は撃也によって受け止められた。

 

 

「ぐおぉっ!!」

 

 

凄まじい力が掛かるが、後ろに生徒がいるため流せずその場で受ける。衝撃を流しきれず頭から出血する。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「せ、先生!ごめんなさい僕のせいで…!」

 

「君のせい?何言ってんだ!!」

 

 

自責の念に駆られる緑谷。確かに彼の短慮な行動がなければ今頃このような事態にはなってなかっただろう。しかし撃也は、未だ力を込め続ける拳を止めながらそれを真っ向から否定する。

 

 

「君が飛び出して来たのは衝が心配だったからだろ?あのバカ息子のことそんだけ思ってくれるのに、ありがたく感じるならともかく君を責めるなぞするわけないだろ!」

 

 

「──ッ!」

 

さらに強まる力を己の髄力と技術にて止め続ける。

 

 

「あのバカは無駄に優秀でな。大体のことは自分一人で片付けちまう。そのせいで誰かに心配されることが少ないんだよ。……そんなあいつがこうやって心配してくれる()()作ってるなんざ、感激だよ。響香ちゃんぐらいしかマトモに家に連れてこねぇあいつがよ!!」

 

 

そして向こうで轟音が聞こえ、衝が倒れ、それに歩み寄るヴィランの姿を視認する。

 

 

「──波激君!」

 

「なっ!あの野郎……!」

 

 

思わず走りだそうとする瞬間、足が止まった。先程と同じように自身の行動で誰かが傷つくのではないかという不安で、躊躇してしまう。しかし目の前で仲間が窮地に陥っている事実に、心が揺れ動く。

 

 

「君、名前は!」

 

「え、みっ緑谷出久です!」

 

 

突然の問いかけに動揺しながら答える。

 

 

「緑谷君!すまんが行ってくれ!!」

 

「え……」

 

「頼む!俺の息子を…()()()()()()()()!!」

 

「……っはい!!」

 

 

そうだ、そうではないか。目の前で友人が危険な状況なのにここで見てるだけなど、友人として、()()()()として有り得ないじゃないか。

 

 

そして迷いを振り払い、全速力で走る。その姿を見届けた撃也は、軽く微笑んだ後、その力を後ろに流し地面に脳無を投げつける。

 

 

「波激君を…離せえぇぇぇぇ!!」

 

「すまんな相澤、大事な生徒にこんなことさせちまってよ…だがあの子は強くなるぜ…!間違いない、ヒーローの顔だよ!」

 

 

聞こえてくる声に笑いながら、撃也は確信したように言う。そして凄まじい足さばきで脳無の腕を掻い潜り、死柄木の前に移動する。

 

 

「なっ…!」

 

「てめえも見てるだけじゃつまらんだろ!!ちょいと遊べや!」

 

「くそが…脳無!」

 

 

攻撃は脳無によって防がれるが、撃也の目的は果たせた。

 

 

それは自分に意識を向けること。今までの攻防で水難ゾーンに飛ばされていたであろう生徒が隠れているのを眼にしている。ならば他の場所にも近くで隠れている可能性が高い。そうなると万が一先程のように生徒に被害が行かぬよう、己に全意識を向けさせることこそが狙いだった。

 

 

「死柄木弔。」

 

「ちっ!黒霧ィ…13号は殺ったのか?」

 

「行動不能に出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして…一名逃げられました」

 

「はぁ…?黒霧おまえ…おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…!!」

 

 

一名逃げられた。つまり助けを呼びに行かれたということ。ならば一層勝ちが見える。オールマイトが来るまでの耐久戦だ。

 

 

「えぇ?おいおい、逃がしたのかよ!オールマイト殺すとか息巻いていた奴らが、ヒーローでもない生徒を?ハハハっ!様ないぜ!」

 

「……。」

 

「…はぁ、流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ…()()はゲームオーバーだ。帰ろっか……けど」

 

 

イヤにあっさりと撤退の意思を見せたかと思ったが、直ぐに濃密な殺意がこちらに向く。

 

 

「その前におまえだけは殺して…平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう!」

 

「来いよクソ野郎共!全員取っ捕まえてやるぜ!!あ、ヒーローと警察がね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DETROIT ……SMASH!!!

 

「くっ!」

 

 

突如飛び上がり殴りかかった緑谷の拳をマクアウィトルで受け止めようとするパディブロ。

 

 

だがその程度では止まらない。いくら超人的な力を持とうと、完全な人外のパワーは受けられない。

左腕一本に込められた恐るべき破壊力はマクアウィトルを砕き、防御ごと貫いた。

 

 

「ぬおっ!?がぁっ!!」

 

 

そして吹き飛んでいく奴を尻目に緑谷を見る。

 

 

「緑…谷…!」

 

「っ!波激君、無理して動かないで!」

 

 

反動で襲う激しい痛みを堪えながら声をかけてくる。勝手に死んだかと思って悪かった、だが今伝えたいのはそれではない。

 

「来るぞ……!」

 

「ぬぅあっ!!」

 

「なっ!?」

 

 

吹き飛んだ方向から猛スピードで向かってくる奴に緑谷が驚愕する。それはそうだ、奴は想像以上の力を感じた瞬間、本能的に後ろに逃げた。そして衝撃を最大限いなし、反撃に打って出てきたのだ。

 

 

「……っ!?」

 

 

だが次の瞬間、辺り一帯の地面が凍りつき、進行を阻止する。

 

 

「波激!死んでねぇか!?」

 

「轟君!」

 

「へっ!…生きてるわ!」

 

 

右腕から発する冷気によって周囲が瞬く間に氷に包まれる中、こちらの生存確認をしてくる轟。さっきは置いていってごめんね。

 

 

「──舐あめるなぁ!!!」

 

 

だがパディブロは氷を素手で破壊しながら突き進み、轟に襲いかかる。

 

 

「なっ!?なんてパワーだよ…!」

 

「我が神との戦いを…邪魔するな!!」

 

 

漸く回復した身体を動かし、殴りかかろうとするパディブロの横っ腹に先程の恨みを乗せて蹴りを打ち込んでやる。

 

 

「がはっ!」

 

「そおら仕返しじゃこの野郎!」

 

 

もろに打たれたパディブロは、苦悶の声を上げながら数mほど飛んでいった。

 

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

「やっぱり緑谷のパンチは効いていたみたいだな…!」

 

「波激君!怪我は!?」

 

「いやおまえの方がダメージでかくね?」

 

 

それはそうだ。普通に考えて不意討ちであの超パワー喰らったらまず無事じゃない。むしろあのタイミングでこれほどまで動けているのだから尚更奴の化け物具合が分かる。

 

 

───そして

 

 

 

 

「……本当は心底やりたくないのだが」

 

 

このままでは奴は折れない。今から三人で立ち向かい、たとえ倒せたとしても一人は死ぬ。三人といってもダメージを負ったのが二人、そして俺のダメージも軽くはない。己が死のうと、死ぬ覚悟ができてる奴は死ぬ一秒前でも動く。ならばその《心》を折るしかない。

 

 

【…ほう、()()のかい?】

 

(あぁ。本当に不服だが仕方がない。)

 

 

あのときから封印していた。封じ込めていた、あの【目】。

 

 

どこぞの学者が言った、

 

 

『人間の心には壁がある』

 

 

と。それは防衛本能そのものであり精神を保護する防壁であると。

 

 

知られたくないこと、秘匿したいこと、隠したいこと。全ては壁の向こうの奥底へと安置される。

 

 

──ならばこの【目】はその壁に穴を開け覗き込む物だ。

 

 

壁を砕き、抉じ開け、人の心に傲慢にも土足で入り込み中を観察する。

 

 

善性を、悪性を、思い出を、トラウマを、信念を、欲望を、過去を、現在を、傷を、膿を、真実を。

 

 

その人物が持つ今までの『物語』を視る。それこそが俺の忌み嫌った【目】の本性。本気で相手のことを見るとこれが勝手にできてしまうため、普段は視点を合わせすぎないことで抑えているが、今回は別だ。心を知り、弱さを見つけ、其処をつく。

 

 

「悪いがおまえを倒すにはこれしかなくてな…勝手に視ることを許してくれよ?」

 

 

……しかしだ。それ以前に()()()()のだ。語り屋として、諦観と絶望と憤怒と信仰に染まった奴が辿った道に、堪らなく興味があるのだ。

 

 

確かに忌み嫌っているが、それ以上に語り屋の本能が叫ぶんだ。

 

 

【彼のことを知りたいと?】

 

 

(その通りだ。………さて、始めようか)

 

 

奴の瞳を覗き込む。何故か奴は動かないが好都合。己の目に全意識を集中させ、奥へ奥へと意識を潜らせる。

 

 

「教えてくれ、おまえのことを。」

 

【開かせてくれ、君の傷を。】

 

 

「【さあ、おまえ()の物語を見せてくれ。】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙る鏡には、断頭台(パディブロ)の姿が映っていた。

 

 

 

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