多趣味な男がヒーロー目指す話   作:使命

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第十九話 ギロチン・ブレイカー

 

 

──山岳ゾーンにて、此処にワープされた耳郎響香、八百万百、上鳴電気は現在、明確な窮地に陥っていた。

 

 

「へっへ…おまえら変な気を起こすんじゃねえぞ?さもなくば、こいつの命は無ぇ。」

 

「ッ……!」

 

 

彼女たちが飛ばされた直後、複数のヴィランが襲い掛かってきた。しかし上澄みの集団、雄英高校の学徒たる彼女らに、今更寄せ集めの素人集団に負ける道理もなく、危なげなくヴィランを鎮圧出来た。

 

だが上鳴の個性『帯電』のデメリット、『過剰放電による脳のショート』の隙を付かれ、潜んでいた残党に上鳴を人質に取られてしまった。

 

 

「うぇ、うぇ~い」

 

「そうだ、手を挙げて動くな。…てめぇに言ってんだよ、耳朶のガキ。」

 

「 !…クッ」

 

 

何とも言えぬ阿保面の上鳴を救おうと、死角からプラグを伸ばすがそれも不発に終わる。

 

 

(数舜の油断もない。如何にかして隙を作りませんと…)

 

(…一体如何すれば)

 

 

進退窮まっていたそのとき、轟音とともに猛烈な突風が彼女らに押し寄せた。

 

 

「うぉっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「この風…いや、衝撃波は──ショー!!」

 

 

その発生源は、凄まじい速度で上空を通過した衝からだ。

 

 

「な、何だあれは」

 

「─ッ!、らぁっ!!」

 

「な、ガァッ!?」

 

 

その光景に呆然としていたヴィランに肉薄し、上鳴を救出しながら一本背負いにて投げ伏せる。

 

 

「ヤオモモ!ロープ!」

 

「はいっ!」

 

 

そのまま八百万の創造したロープで捕縛し鎮圧する。

 

 

「あ、ありがうぇ~。」

 

「さっさと正気に戻れ!」

 

「あだっ!?」

 

 

中途半端に阿保が残っている上鳴の頭を叩き、強制的に正気に戻す。

 

 

「ごめん、二人共!こいつ頼んだ!」

 

「お、おいどこ行くんだ!」

 

「中央!ショーが飛んでった方向に早く行かないと」

 

「危険です!中央には多数のヴィランが…」

 

「だからこそショーが危ない!それに…」

 

 

思い出す、飛んで行ったときに一瞬だけ見えた彼の表情を。本当の彼を見続けてきた彼女だからこそ感じる危機感。

 

 

「あの顔は絶対()()()()顔だ!」

 

 

そうして耳郎は、駆られる不安のまま制止する二人の声を無視し、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳と拳がぶつかり合う。蹴りと蹴りが重なり合う。一進一退の攻防──などではなく、互いにあるのは前進のみだ。一歩たりとも退いてたまるものかと、踏み込む足は常に最適な足の位置を突き進み、放つ一撃は常に次の布石となる。

 

 

「オオオオォォォォォォォォォ!!!」

 

「シャァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

沸き立つ闘志の発露である雄叫びが響き渡り、戦場に残る爪痕はたった二人が起こしたものだとは思えぬ程広がっている。

 

 

「…クッ!!」

 

「ぐっ!波激君…!」

 

 

緑谷と轟は動かない、否、動けなかった。目の前で広がる絶死の空間は、下手に踏み込んだ瞬間にその暴力に圧し潰されることを伺わせる。彼が助太刀無用と言うまでもなく、足手纏いだ。

 

そんな激戦が繰り広げられている最中、その横でも凄まじい戦闘が行われていた。

 

脳無と撃也による戦いも、苛烈を極めている。脳無が剛力を振るい、撃也がそれをいなす。

 

 

「良く頑張ってんなぁ!さっさと死ねよぉオッサン!」

 

「誰が死ぬかクソガキィ!息子が頑張ってんのにパパが頑張らねぇわけねぇだろ!」

 

 

頭から血を流しながらも、その闘志は微塵も衰えない。だが

 

 

「うおっと!?」

 

「チッ!避けやがった」

 

 

真横から突如手が迫ってくる。掴まれた服の部分がボロボロに崩壊を初め、それを間一髪躱すと同時に、その原因を看破する。

 

 

「てめぇかモヤ野郎!」

 

「えぇご名答。貴方は中々に邪魔になりそうですので、此処で確実に死んでいただきます。」

 

 

状況は悪化の一途を辿っている。今のは半ばまぐれで避けれたが、脳無の攻撃を捌きながらワープホールによる死柄木の崩壊の手にも反応するなど厳しすぎる。

 

 

「さあ行け脳無!」

 

「チッ!」

 

 

脳無が撃也に突撃し、再度黒霧がワープホールを発動しようとした瞬間、

 

 

「死ねぇ!!」

 

「なっ!?ぐっ!」

 

「ッ!ガキが!!」

 

 

爆破とともに爆轟が黒霧に飛びかかり、そのまま組み伏せる。そして対処しようと動き出した死柄木を爆破で牽制する。

 

 

「やっぱ実体はあるみてぇだなぁ!…おいデク!半分野郎!何突っ立ってやがる!!」

 

「…ッ!!」

 

「今、煽りカスとその親父が一番やばそうな奴らを止めてんだろ!なら俺らがやるべきことはなんだ!!クソが!」

 

「…そうだ。ごめんかっちゃん!轟君、僕らはあの手だらけのヴィランを抑えよう。」

 

「あぁ…!」

 

 

そうして死柄木と対峙する二人。その間にも、戦況は動きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ!」

 

 

先ほどまで互角だった勢いは、徐々に俺が圧しつつある。

 

 

「何故俺が圧されている!?」

 

 

パディブロが叫ぶ。そりゃそうだろう。先ほどのように武術的な立ち回りならともかく、今は真っ向からの正面戦闘。ウエイト、身体能力で遥かに劣る俺に圧されるなどまずありえない。

 

 

「何故かって?それは簡単な話だ。…おまえは()()()()。」

 

「浅いだと!」

 

 

拳を避けながら答える。あぁそうだとも、浅いし、何より狭い。

 

 

「当たり前だ!──悲劇しか見ず、絶望し、狂ったおまえに!!」

 

 

そのままがら空きになった脇腹に拳を叩き込む。苦悶の声を上げ後退るパディブロに向かって踏み込み───

 

 

「がぁ…!?」

 

「──悲劇も、喜劇も、味わい語ってきた俺が、負けるわけないだろうがぁ!!」

 

 

さらにその腹に渾身の蹴りを叩き込む──────!!!

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「最後だ!これにて仕留める!!」

 

 

そして中腰に構え、拳を引く──中段突きのフォームを作る。

 

──嘗て、個性という概念すらなかった幕末日本に、一人の剣士がいた。その剣士は病弱ながら天賦の才を持つと謂われ、ある逸話を残した。『彼のものの刃の突きは、三段。しかしその突きがあまりにも迅速(はや)く、一突きにしか見えなかった』と。この話を聞いたとき、あまりの格好良さに思わず考えた。

 

『この技を再現できないか』と。

 

だがこれはあくまで空想(フィクション)の産物だった。──のだが、そのふざけた考えは俺自身にたまたまあった才能と個性のおかげで実現した。剣を(けん)に変え、縮地と個性による加速を合わせたその名を──

 

 

「奥義──我流、無明拳三段突き──」

 

 

パディブロの顔、胸、腹の三か所に──()()()()()、音に迫る速度の拳が突き刺さった。

 

 

「が…あ…」

 

 

そして───それを受けたパディブロは膝から崩れ落ち、地に伏せた。それと同時に

 

 

 

「皆、待たせてすまなかった…!もう大丈夫、何故かって──」

 

「私が来た!」

 

 

オールマイト(平和の象徴)が到着し──

 

 

「飯田天哉──只今戻りました!!」

 

 

いつの間にか飯田が連れて来た、ヒーローが駆け付けた。

 

 

「オールマイトォ…!」

 

 

手だらけマンが深い憎悪の籠った声を放つ。何か因縁があるのか?

 

そんな事考えてた次の瞬間には周りの生徒ごと回収されていた。

 

 

「…はい?」

 

「波激少年、良く頑張った!後はヒーローに任せたまえ!」

 

 

いや挙動が目で追えなかったんだが?明らかに人じゃ無理な速度で動いたよね?なに、No.1は人間辞めなきゃいけないの?

 

 

「やっと来たかとし……オールマイト!」

 

「あぁ、お待たせしたな!撃也氏!」

 

 

そして脳無を殴りつけるが効いた様子がない。さしものオールマイトも驚愕していると、父さんが声を張り上げた。

 

 

「そいつはショック吸収持ちだ!生半可な威力じゃ無理だぞ!」

 

「ならばそれも超えるまで!!」

 

あろうことかその情報を聞いた後に、さらに拳を叩き込み始めた。するとショック吸収持ちのはずのヴィランにダメージが入る。

 

 

「ヴィランよ、こんな言葉を知ってるか…!」

 

「さらに向こうへ…Plus ultra!!!」

 

 

我が校の校訓を叫びながら渾身の一撃を叩き込むと──そのままUSJの天井をぶち破って吹っ飛んで行った。

 

 

「…ショック吸収相手に、上限超えるまで殴り続けるとか…なんなのおまえ?」

 

「HAHAHA!やはりこれが一番だね!」

 

「おまえしか出来んがな。」

 

 

その間にも残党やらが残さすヒーローに拘束されていく。

 

 

「ふむ…潮時ですか。来なさい黒霧。」

 

「なっ!?」

 

 

コアトゥルがそう呼ぶと重力を無視した動きで移動していった。おそらく個性によるものか。

 

 

「ありがとうございます。」

 

「いえいえ、死柄木様も帰りましょう。」

 

「…あぁ、そうだな。帰ろっか…おいオッサン」

 

「あ?」

 

「おまえはオールマイトと一緒に、必ず殺してやる…!」

 

「あぁそうかい、次が有ればな。13号」

 

「はい!逃がしませんよ!」

 

 

その言葉と共に、ワープしようとした黒霧を13号のブラックホールが吸い込み始める。

 

 

「ぬぅ…!」

 

「おやおや、そう邪魔されては困るのですが。」

 

 

そう言ったコアトゥルが人差し指を13号に向けた瞬間、13号が()()()()()

 

 

「がぁぁっ!?」

 

「13号!?」

 

 

なんだ?何が起きた?空気圧縮弾、いや、重力操作?違う、違う。たった今あそこに()()()()()()。そんな無法、既存の個性、物理法則じゃ説明つかない…!それに

 

 

(見えない…奴のことがまるで分からない!)

 

 

姿が、心が何一つ映らない?こんなことが…!

 

 

【…不愉快だな、あれ】

 

「では、失礼いたします。我が神よ。」

 

「…こいつはどうすんだ。」

 

「何を仰るかと思えば、我ら一同あなたへの供物ですとも。」

 

「…そうかい。」

 

「またお会いしましょう。――お元気で。」

 

 

糞ほど嬉しくない再会への言葉を最後に、完全にワープが完了した。

 

 

「…ショー!!」

 

「波激!」

 

「無事か!」

 

「ようおまえら、これ見て無事と…おっと!」

 

 

いつもの三人に応対しようとして――耳郎に抱き着かれた。

 

 

「馬鹿!こんな無茶して!!」

 

「痛い痛い耳郎、俺傷だらけだから!あばば!!」

 

「…意外に余裕そうだな。耳郎、放してやれ。」

 

「一先ず終わったんだ。とにかくおまえも病院に──」

 

「いや──まだ俺の仕事が残ってる。」

 

 

取り敢えず耳郎に離れてもらい、落ちてた狐面を拾う。半分くらい割れ、片目が出ちゃっててもう面の意味がないな。そのまま警察に連れていかれている()()()に声をかける。

 

 

「…なんて面してやがる。親から逸れた迷子のガキみたいだ。」

 

「──あぁ、その通り。俺は道を見失った。…なぁ神、否、衝。」

 

「…なんだ。」

 

「教えて…くれないか、この世にそれがあるならば、君の言う喜劇があるのなら。」

 

「──はぁ、()()は休止中なんだがなぁ…父さん、車で来たなら座布団載せてないか?」

 

「あるが…いいのか?」

 

「当たり前だ。ここに『噺』待ってる客がいんなら…『語り屋』が語たらずしてどうする?」

 

「フ───ほらよ。」

 

「なんで持ってんだよ」

 

 

さてさて、警察の皆様には悪いが少し時間をもらおうか。なあに、その分満足させるとも。座った座った!

 

 

「え、ちょ、ショー!?」

 

「ショー?何言ってる。今の俺は

 

 

 

 

 

 

──天才落語家、三日月亭妖狐だ。」

 

 

 

 

 

『え?』

 

『ええぇぇぇぇぇぇぇ!!??』

 

「まじかこいつ…!」

 

 

聞いてたのかクラスの連中から驚愕の声が上がる。というか先生方も驚いてる。

 

 

「お、おう、有名人なんだな貴方は…」

 

「らしいな…まあそんな有名人様のおまえのためのステージだ、一言たりとも聞き逃すなよ?」

 

「 !…あぁ!」

 

「──はいはい静粛に!三日月亭妖狐の公演が始まるぞ!皆も座った座った!切島、皆を纏めろ!!」

 

「なんで俺!?──まあいいか、座れおまえら!」

 

「いや順応早すぎ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──本日はお集まりいただき、ありがとうございます。」

 

 

毎度恒例の挨拶から入る。皆それぞれ楽な座り方を、パディブロは最前列で正座している。

 

 

「さて、今日の公演は迷える子羊のための特別公演。──抱腹絶倒、爆笑不可避の喜劇を語りましょう。そうですねまずは──」

 

 

言葉に魔力が宿る。皆の目にありありと光景が浮かぶ。──心優しき小太りの男、ドジばかり起こす美女、下らないジョークを繰り返す少年、老若男女が織りなす色とりどりの物語。

 

美女を演じ

 

老人を演じ

 

少年を演じ

 

人を演じる

 

皆が笑っている。爆轟や轟までも笑みをうかべている。そうだ、無粋な涙や悲しみなど喜劇に無用。笑顔だけで十分だとも。

 

笑え、笑え、楽しく、高らかに。

 

そして───

 

 

「──さて、今日はここまで。ご清聴ありがとうございました。」

 

 

深々と礼をすると、拍手が起こる。色々と歓声が聞こえるが──ちょっと意識がやばい。アカン、無茶し過ぎた。

 

 

「これが、これが喜劇か…!あぁ、こんな、こんな幸せな世界があるというのか…!!」

 

 

──だが、客が笑顔ならいいか。

 

 

「なぁ、パディブロ。俺は伝えられたか?おまえに…喜劇を。」

 

「あぁ、あぁ!!」

 

「なら、よか…」

 

 

ついに座ることすら出来なくなってきた。あぁ、もう意識が薄くなってきた。そういえば肋骨折れてたし、内臓逝ってたっけ?

 

 

「な、波激!?」

 

「うそっ、ショー!ショー!!」

 

 

耳郎の声が聞こえる。返事してやりたいがもう無理だ。

 

そのまま深い眠りについた。




パキリ

【…ふむ、これはこれは。】

【…近い、か。】
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