多趣味な男がヒーロー目指す話   作:使命

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──雄英高校ヒーロー科に入って、自分にも実力が付いたと思っていた。入るまでに努力して、入ってからももっと努力して、あいつにも少しは追いつけたのじゃないかと、徐々に自信も付いてきていた。

──だがそんな自信もまやかしだった。あのとき、あのパディプロと名乗るヴィランとあいつの戦いに、ただ見てることしか出来なかった。

初めて見る命のやり取りが怖くて、恐くて、祈ることが精一杯だった。…だがヒーローとして、友達として、あの場でそんな姿を晒すのは相応しくないのではないか。

あいつは強い。その実力は確信している。同学年どころか、今からプロヒーローとして活動し活躍することすら可能だろう。

──そして、それ以上にあいつは弱い。他人には興味ないくせに、周りが傷つくのを酷く恐れてて。

親しい者を守るためなら、自身の命すら省みない。むしろその行為の確実性を増すための、一つの駒にすらするだろう。

何より知っている。性悪で、打算的で、人と価値観がちょっとズレてるとこがある──だけの、本当は臆病で心配性な普通な男なことを。

あのとき、あの顔を見ただろう。怒ってるようで、泣き出しそうで、苦しそうで──それでも決意を決めた顔を。

もう、あんな顔をさせたくない。自分が弱いままじゃ、護られてるままじゃ駄目だ。命なんかもう賭けさせない。

並び立つのだ、あいつの横に。その為にも──耳郎響香は、強くならなければならない。

ショーはウチが──必ず『護る』。












第二十話 シリアス終わりに青春を。

 

 

【おい、起きろ、起きろ私】

 

 

 そんな耳障りな声を聞いて目を覚ます。辺りを見回すと、そこは自宅でも病院でもなく──何も無い白い空間だった。

 

 

「──おいコラどういう用件だ。テスカトリポカ」

 

【なんだい? ただ我が半身と話したい神のお茶目じゃ駄目かい?】

 

「殺すぞ」

 

 

 テスカトリポカ。いつも通り俺と瓜二つな顔に、赤と緑と白のメッシュ、何故か何部分だけ色を取り戻している節足動物のような……いや、こうして見ると蜘蛛の足のような……背中に一対の左右6本、頭の後ろに伸びる真ん中の1本、計13本の細い触角が生えている男。

 

 醜悪極まる俺の本性の側面にして、独立した一人格。

 

 

【つれないねぇ…】

 

「神気取りの異常人格の話とかいやだわ」

 

【神気取りじゃない、神そのものだとも】

 

「……は? 何を馬鹿な……」

 

【君は私のことを解離性同一性障害……ようは二重人格からなるものだと思っているようだが、それは違う】

 

【そもそも前提から異なるだろう? 本来多重人格の場合、()()()()()()()()()()()()()()。その程度のことは分かっているだろうに、なぜわざわざ頑なに否定するのか……なぁ?】

 

 

 そう語りながらこちらの目を覗き込んでくる。その黒曜石より尚黒く、吸い込まれるように悍ましく美しい【煙る鏡】のような瞳に朧気に俺の姿が映る。俺の方を見たまま、懐から煙草を取り出し──吸い始めた。

 

 

「おい馬鹿何してんだ、やめろやめろ」

 

【いいじゃないか別に。君の記憶から引っ張ってきてみたが…現世の娯楽も存外に悪くない。──さて】

 

【君、勘づいてるだろ。私の言葉が虚偽ではなく真実だということに。だけど認めたくないから、そんなこと()()()()()()()()から。否定し続けるんだ、真実が覆しようのない事実にならないように】

 

 

 煙を吐きながら奴は嘲笑う。それは目の前の矮小な存在の足掻きを唾棄する上位者の──まさしく神の姿だ。

 

 

「……おまえに何が……」

 

【分かるとも。()()なのだから。──久し振りの公演、楽しかったろう? さあ、そろそろ起きるらしい。また話そう】

 

「──待て、待て! おまえはいったい―!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───目を開けるとUSJや、家の天井ではない白く無機質な天井が広がっていた。窓からカーテン越しに柔らかな光が差し込み、心地よい暖かさを感じる。身体中に包帯やらが巻かれていて少し動きにくいことが減点だが。

 

 

「……知らない天井だ」

 

「いえ、あなたがよく知っている天井の筈ですよ」

 

 

 取り敢えずお約束を言ったとき、聞き馴染みのある抑揚の少ない女性の声が聞こえてきた。

 

 

「お久しぶりです、衝君」

 

「えぇ、そうですね療耶さん」

 

 

 療耶治子。個性『活性化』という患者本人の生きる気力を活性化させる、治療系個性の持ち主のナースだ。迅速かつ適切な処置と、個性による治療率の高さ。そして患者のためならば医者に盾突き、患者にも厳しく接する、無表情ゆえの無機質さと苛烈さから『現代のナイチンゲール』とまで界隈で呼ばれる女傑だ。

 

 そして俺も被害し……目をつけられている一人。実は俺はこの病院の常連──と言っていいのか分からないが、よく父さんの修行による怪我でお世話になっている。入院中、夜にこっそり鍛錬してたときが一番怒られた。ちょっと泣いた。

 

 

「──まったく、あなたはいつも大怪我をして帰ってきて……」

 

「ハハハ……今回ばかりは勘弁していただきたい……」

 

「えぇ……ヴィランの襲撃を受けたようですね」

 

「はい、ホントに災難で──」

 

「で、一人でヴィランを食い止めたと」

 

「……ま、必要でしたから」

 

 

 嘘です。ぶっちゃけ私怨ありまくりでした。

 

 

「──はぁ。本当にあなたは─いえ、今回は何も言いません。替わりにこの方に説教されてください」

 

 

 また説教かと身構えてたら、そう言いながら隣のベッドのカーテンを開ける。するとそこにはまさかのミイラ……ではなく、包帯だらけの相澤先生だった。気まず、なんだこれ。先生も驚いてるし。

 

 

「───ス‐、お、おはようございます先生」

 

「……あぁ、おはよう。身体は大丈夫か?」

 

「あ、はい。特に問題なしです」

 

「それを決めるのは医者の仕事ですよ」

 

「…すみません」

 

「いいですか、また何時のように無茶はしないように。では私はこれで、病院ですのでなるべく静かにお願いします。……衝君」

 

「はい?」

 

「──皆、心配したのですよ」

 

 

 温かく、柔らかな──普段からは想像もできないような──美しい微笑の後、療耶さんは去っていった。

 

 

「……あの人はいつもああなのか」

 

「いえ、激レアですよあの顔。……どうかしました?」

 

「いや、さっき検査を受けたとき食生活のことを聞かれてな。正直にゼリーみたいな携帯食料で済ませてると答えたら、しこたま叱られてな……」

 

「あぁ……あの人はそういうの許さないでしょうね」

 

 

 そこから会話は弾まず、微妙に気まずい空間が出来る。あぁやだなこれ。もうあのこと言っちゃうか。

 

 

「あの、先生」

 

「ん?」

 

「あのとき──二年前はすみませんでした」

 

「ーッ!」

 

 

 頭を下げ謝意を示すと、忘れてたのか予想外なのか分からないが、驚いたような感情を示す先生。……もとい、イレイザーヘッド。

 

 

「……覚えていたのか」

 

「いや、あのときのヒーローが先生だと気づいたのはつい最近です。いつ謝ろうか、と悩んでて」

 

「俺はあのとき、あなたたちヒーローにとんでもない失礼を働いてしまった。国を越え、あの地獄に助けに来てくれたのに」

 

「……波激」

 

「……誰も守れなかったくせに、一丁前に文句だけ言って」

 

「波激!」

 

 

 先生が語気を強める。包帯の隙間から僅かに覗く瞳は、真っ直ぐ俺を見つめている。

 

 

「おまえが、おまえが負い目など感じなくてもいいんだ。あれは例えオールマイトであろうと防ぐことなど無理だ」

 

 

 それほどまでにあのとき、狂気と暴力は突如として襲い掛かった。平穏と命を踏み躙り、町は地獄に変えられた。

 

 いつだって聞こえてくる。怨嗟と悲鳴と銃声の合唱が。

 

 いつだって瞼を閉じれば思い出す。数多の狂気を、悪意を、死を。

 

 

「えぇ、分かってます。──分かってるんだそんなことは…でも考えずにはいられないんだよ…!俺がいなけりゃ、地獄は作られず、町の皆は死ななかったんじゃないかって…!」

 

 

 こんなものはなただのタラレバだ。今どれだけ過去を想おうが、呪おうが、過去が変わることなどありえない。俺が居なくてもあの抗争は起きただろう。

 

 ただ俺がテスカトリポカ()になることがなくなるだけ。徹頭徹尾、俺がただ誰かにこのクソッタレた今を押し付けたいだけだ。

 

 

「…先生。奴らはまた来る。確実にな」

 

「────根拠は」

 

「信徒が神を追う。当たり前のことだろう?」

 

 

 だからこそ──過去を呪い、疎むからこそ俺は【今】から逃げちゃいけないんだ。

 

 テメェが持ってきた迷惑はテメェで処理する。それが最低限通す義理ってものだ。

 

 

「だから俺は逃げない。このクソみたいな因果は俺が背負う。――だから先生、どうか」

 

 

 再度頭を下げる。ベッドに手を付け頭を当てる、所謂土下座の体勢。

 

 

「俺のこと、雄英で受け入れてくれ」

 

 

 真に皆のことを考えるなら、俺は雄英から離れるべきだ。俺がいることで周りに被害が及ぶリスクを思えば、この懇願は非合理的に過ぎる。

 

 なら何故この判断をしたか。答えは単純、俺が雄英から離れたくないからだ。

 

 あの地獄のような小学校でもなく、息が詰まりそうだった中学校でもない。ただありのままの俺を受け入れてくれた、正真正銘の仲間(馬鹿)たちがいる雄英が心の底から好きなのだ。

 

 俺の懇願に先生は一つ、溜め息を吐き――

 

 

「俺から言えるのは一つだけだ。『一人で背負い込むのはやめておけ』。…ヒーローとして、一人の男としての忠告だ。」

 

「…」

 

「あいつらにも話してみろ。俺の所感ではあるが…まあ大丈夫だろう。きっとな。それと…」

 

「雄英高校はヒーローを目指す奴を拒みはしない。寧ろおまえのような問題児などいくらでも見てきたんだ。今更おまえぐらい、どうということはない。要は…気にするな」

 

 

 ということで俺は寝る。と言って俺にカーテンを閉めさせ、黙ってしまった。ミイラ相澤、眠りにつく。次に掘り起こされるのはいつになるだろうか。

 

 

「…俺は…ハァ」

 

 

 もう悩んでても仕方ないか。俺も寝よう。そうして布団に潜り込もうとしたとき

 

 

「――ショー?」

 

 

 聞き覚えのある艶のあるハスキーな女性の声がした。

 

 

「…よぉ耳郎。見舞いに来てくれt」

「ショー!!」

「ゴゲバっ!?」

 

 

 ニコニコで耳郎を迎えようとした瞬間、目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。俺一応怪我人なんだが。

 

 

「耳郎死ぬ…俺死ぬ…」

 

「え、あっごめん!大丈夫?」

 

 

 とは言っているものの、耳郎は抱きついたままだ。口ではそう言ってるが身体はこんな素直なんだな(?)

 

 突き返す必要もないので俺からも抱き返す。綺麗な黒髪が耳の横で揺れ、柔らかくどこか甘い香りが鼻腔を擽る。やっべ、これやっべ。思春期男子だからドキドキしちゃう。

 

 

「…ごめんね、ショー」

 

 

 暫し抱き合っていると耳郎がぽつりと呟いた。その声は弱々しく、腕も少し震えている。しかし俺には謝られることをされた記憶はない。むしろ俺が謝らなきゃならないことばかりだ。

 

 

「なにがだ?」

 

「何も出来なくて、ショーが危なかったのにウチ、怖くて隠れることしか出来なかった」

 

 

 今にも泣き出しそうに喉を震わせながら訴えてくる。会話から感じられるのはあのときの恐怖と…自身への不甲斐なさ、罪悪感か。どんよりとした曇り空のような感情が視覚化し、彼女の周りに漂っている。

 

 正直言って、彼女の感じているそれは無用なものだ。パディブロとの戦いは本当に決死の思いだった。途中までの死の押し付け合いも、最後の意地と信念のぶつけ合いも、余人の挟まる余地はなかった。

 

それに耳郎が傷つくことこそが俺の最も恐れていることだ。耳郎に怪我なく、こうして無事でいてくれるのが何より嬉しい。

 

 

「ウチ、いつもショーに助けてもらってるのに…!これじゃヒーローとしても失格だ…!」

 

 

 震える声で耳郎が告げる。感情がうねる。哀しみが、怒りが、恐れが。今にも雨が降りそうな暗い思いが耳郎を包む。――これ以上は見ていられない。

 

 

「――何馬鹿を言ってんだよ」

 

「…え?」

 

 

 彼女は言った、俺に助けられていると。それは大きな間違いだ。自身はヒーロー失格だと。更に大きな誤りだ。

 

 

「おまえがヒーロー失格だと?燻っていた俺を救い上げたのは誰だ。あの息苦しい中学校生活で、俺を支えてくれたのは誰だ。――誰にも頼れなかった、一人だった俺に手を差し伸べてくれたのは誰だ」

 

 

 彼女にはそう名乗る資格がある。ここにいる俺こそが彼女の偉業の生き証人だ。おまえにとっては大したことじゃないのかもしれないが、心から救われた男は確かにここにいるんだぜ?

 

 

「おまえが俺の恩人であるおまえ自身を否定するな。とっくの前からおまえは俺にとっての―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒーローだろうが。阿保」

 

 

 例え彼女がどれだけ否定しようが、俺は一生唱え続けよう。彼女への感謝を、賞賛を。一生語り継げよう。彼女の勇姿を、英雄譚を。

 

 それこそが、彼女に救われた――否、救われ続けている語り屋の役目なのだから。

 

 

「ッッ―――!!…アホってなんだよ、アホって」

 

「うるせぇ阿保。…だから泣かないでくれ、俺のヒーロー」

 

 

 あぁ、ようやく笑顔を見せてくれた。やはり彼女には笑顔が似合う。

 

 

「ウチ、強くなるから。もうショー一人に無理させないように、絶対」

 

「うん、おまえはきっと強くなるさ。誰よりも、俺よりも」

 

 

 ――さて、耳郎は誠意を見せた。弱さを吐き出した。決意を語った。ならば俺は?今だ。今こそだ。彼女に語らねばなるまい。俺の傷を、過去を、今に繋がる因縁を。

 

 

「――覚悟ができた」

 

「え?」

 

「全てを話そう。奴ら…イン・ヨリョトルのことを。俺と奴らの因縁のことを全て。…もう隠したままじゃいられない」

 

「ショー…」

 

「明日、皆の前で説明する。おまえも明日まで待っておいてくれ。心の準備もあるし」

 

 

 もう逃げない。目を逸らさない。真の意味で、俺があいつらの仲間になるために。楽園に入るため地獄を語ってやろう。あの悲劇が、忘れ去ってしまうことがないように。

 

 

 それが生き残ってしまったものの責務なのだから。

 

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