引退したウマ娘がトレセンでトレーナーする話   作:おわる美砂

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タイトルはurumu様【http://urumu.xrie.biz/?guid=on】よりお借りしています
多分ですが実名組のウマ娘はあんまり出ないと思います、ライバルちゃんもモブウマ娘のマイトリートちゃんです


かすみ草みたいに清らかな熱情

――メイクデビュー当日。

 

「ふう……すぅ……」

 

デュオスクトゥムは控え室でゆっくり深呼吸をしていた。ついに迎えたメイクデビュー、勝とうが負けようがここから本格的な選手生活が幕を開けるのだ。色々と思考を巡らせていると、扉が開いてイナセビャクヨウが入ってきた。

 

「緊張してるね、そりゃ当たり前か」

「はい……」

「まずはストレッチしとこうか、緊張のし過ぎでレース中に足を痛めたりしたら大変だし」

 

 そう言って、イナセビャクヨウはデュオスクトゥムの緊張をほぐすように肩を軽く撫で、簡単なストレッチを一緒に始める。そうしているうちに、段々と最初の方のガチガチとした緊張感は程よくほぐれたように感じる。

 

「少し落ち着いた?」

「はい」

「……今日はとにかく、これまでやってきたことを精一杯発揮する、これが一番大事だよ。もちろんレースだから勝ち負けは着いちゃうけど、それは今は気負わないで。……大丈夫、きっと上手くいくよ」

 

 そう言って笑うイナセビャクヨウの顔を見れば、デュオスクトゥムの緊張一色だった心に次第に闘志が灯り始めた。

 ――今日勝って、ひとまずトレーナーに勝利をプレゼントしたい。

 そう考えると、俄然やる気が出てきた気がする。

 

「そろそろ、パドックに移動だね。……ゴールの先で待ってるよ」

「はい!」

 

 二人はがっしりと握手を交わす。そして、先に出ていくデュオスクトゥムの背中をイナセビャクヨウはじっと見つめて見送った。

 

(私もデビューの日はあんな感じだったな)

 

 そんなふうに懐かしく思いながら、イナセビャクヨウも控え室を出た。

 

■■■

 

 メイクデビューの中距離レース会場、観客席にはデビューを控える新バ達を一目見ようと多くの観客が集まっている。熱気溢れるその場で、イナセビャクヨウはパドックにいるデュオスストゥムをじっと見ていた。

 

(まだ少し緊張してるかな、でもきちんと意識はレースに向いてるし……うん、きっと、大丈夫)

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

「イナセ?」

「えっ?」

 

 振り向いたイナセビャクヨウは、懐かしい顔に思わず目を丸くしたあとにっこりと笑った。

 

「先生!」

「最近入ったウマ娘のトレーナーってお前の事だったかぁ!久しぶりだな!」

 

 それはかつて、彼女が選手だった頃のトレーナー、和泉星路であった。

 

「先生がここにいるってことは、先生の今の担当の子も今日デビューですか?」

「ああ、十番のマイトリートってのが今の担当だ……お前のは?」

「三番のデュオスクトゥムです」

 

 そう答えながらイナセビャクヨウはある意味後輩でもあるマイトリートを見やる。少し俯き加減に立っている様子を見て、はてと首を傾げた。

 

「少し緊張気味ですかね?」

「ちっと精神面がまだ未熟なんだよな……お前んとこのは緊張してはいるが気持ちがきちんとレースに向いてるように見える」

「昔先生がしてくれたようにしているだけですよ」

 

 そう、レース前に他愛のない話をしながら簡単なストレッチをするのは、彼女がかつて和泉としていたことだ。それを彼女も実践しているに過ぎない。

 

「お前はあれできちんと緊張を解せたからな」

「ならスクと私は似てるのかもしれません」

 

 そんなことを言っている間に、選手たちはパドックからゲートへ誘導されていく。この時ゲート入りを嫌がって暴れるなどして怪我をする子も一定数存在するので、なかなか緊張の場面だ。が、全員無事にゲート入りを果たした。それだけで正直ホッとしてしまう。

 ゲート入りを果たした全員の体勢が整い、そして。

 

『メイクデビュー、中距離戦スタートです!』

 

 一斉にゲートが解放され、ウマ娘達が走り出す。逃げ戦法であるデュオスクトゥムは、無事に出遅れることなく駆け出し、ハナを進んでいる。

 

(よし、出遅れはなし……!ひとまず最初の関門はクリア……)

 

 固唾を飲んで見守るイナセビャクヨウを知ってか知らずか、デュオスクトゥムは快調に飛ばしていく。他の逃げウマ達と先頭を競い合いながら、そろそろ最終コーナーに差し掛かるという時だ。

 

「……!上がってきたなトリート……!」

 

 和泉の声にイナセビャクヨウは目をこらす。中団グループ内にいたマイトリートが、内からぐんと上がってくるのが見える。

 

(差しウマだったのね……!)

 

 先行バのグループを抜き、二番手争いをしている他の逃げウマ達に迫る。デュオスクトゥムは第四コーナーを曲がって抜け出し、先頭を必死に走っている。残り二百を通過。

 

「来い!トリート!」

 

 それに応えるようにマイトリートはぐんと伸びる。が、デュオスクトゥムも決して脚色は衰えない。

 

『デュオスクトゥムとマイトリート!縺れ合いながらゴール!!デュオスクトゥムが体勢有利か!?』

 

 掲示板を見上げる。一着の部分に表示された番号は……三。

 

『一着はデュオスクトゥム!』

 

 実況のアナウンスの声に、会場内の歓声は大きくなる。イナセビャクヨウは大きく安堵の息を吐くと、デュオスクトゥムの元に向かった。

 

「おめでとう!初勝利ね!」

「トレーナー!」

 

 デュオスクトゥムは、思わず思いっきりイナセビャクヨウに抱きついた。それを受け止めると、イナセビャクヨウは彼女の背中をぽんぽんと優しく叩くように撫でてやる。デュオスクトゥムが落ち着いたところで、二人は控え室に戻るために歩いていた。

 

「ちょうどよくライバルになりそうな子もいたし、いいレースだったね」

「あ、十番の子……危なく差しきられるとこでした……」

「なら次は追いつかれないようにスピード上げていこうか」

「はい」

「次の目標だけど」

 

そう言いながら、イナセビャクヨウはメモ帳を開く。

 

「オープン戦を二つくらい使って脚を距離に慣らしつつ、十二月のホープフルを目指す……のはどう?」

「ホープフル……」

 

 クラシックへの登竜門だ。しばしの逡巡ののち、デュオスクトゥムはこくりと頷く。

 

「目指します、初Ⅰ!」

「決まりだね、これからトレーニングも本格化するよ、いいね?」

「はい!」

 

 力強く頷くデュオスクトゥムに、イナセビャクヨウも満足気に笑う。二人の二人三脚はここからが本当のスタートだ

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