今回実名組が、また史実馬をモチーフとした創作ウマ娘がそれぞれ名前のみですが数名出ます、それで凡その年代を察してくれ(?)
いや、主人公とその家族はだいぶ古いんですけどね……マルゼン姐さんより前……
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……かつての砂の女王亡き後、ダートは二人の地方トレセン所属ウマ娘が二大エースとして牽引していた。
一人は南関東の女傑、女王亡き後の絶対王者と名高きメサイアタラチネ。
一人は岩手の怪物、魔王と呼ばれたセイホウニセイの再来、アケボシアリア。
ダートにおいて、中央ウマ娘は添え物でしかないとまで言われるほどの強さを誇った二人だが、歴史を動かしたのはアケボシアリアの方であった。
年明け最初のGⅠレースであるフェブラリーステークス。アリアはそこに殴り込みをかけ、中央所属のウマ娘たちを蹴散らすと、地方トレセン所属のまま中央GⅠを制するという快挙を成し遂げたのである。……この記録に、その後二十年以上経っても続く者が居ないのはまた未来の話である。
そんな波乱の幕開けで始まったGⅠ戦線、クラシックは既に三冠のうち、皐月賞をテイエムオペラオーが、日本ダービーをアドマイヤベガが制している。
そんな年にデビューしたデュオスクトゥムの練習メニューを練りながら、イナセビャクヨウは思考をめぐらせる。
……イナセビャクヨウの母は三冠のうち、菊花賞を制したウイルムーン。母は五人の娘を産み、そのうちイナセビャクヨウの姉であるイナセシャンハイは皐月賞を、妹であるイナセタツタは宝塚記念を勝っている。
GⅠバが引退後、確実にGⅠバの母になれる訳では無い。そういう意味で、ウイルムーンは選手としても母としても成功した部類である。
デュオスクトゥムの母はGⅢを二勝ほどした程度の、言ってしまえば凡百のウマ娘だった。が、レースは決して血統だけで結果が出るものでは無いのもイナセビャクヨウは知っている。何しろ自分がそうだったからだ。母も姉妹も平地競走で結果を出しているが、彼女の脚が最も力を発揮したのは障害競走、あの事件さえなければスパークルシリーズで名の知れた名バとなっていただろう。
……次立てた目標はホープフル、もちろん今のままでは出走資格も取得出来ないだろう。そのためにはまず九月末のオープン戦芙蓉ステークスか、十月前半のプレオープン戦紫菊ステークスで脚を距離に慣らしつつ、十一月末のGⅢ京都ジュニアステークスで重賞初勝利を目指す……のが今のところ、イナセビャクヨウの中での一番の目標となる。
それでも、GⅠのホープフルを目指すと告げたのは目標は高い方がいいという和泉からの教えと、彼女の心に発破を掛ける意味合いもあった。今のジュニア級にいるウマ娘の中には、来年のクラシック級で確実に台風の目になるだろう人物がいる。
エアシャカールである。数字と計算を絶対とする彼女は、明らかに他のウマ娘たちとはひと味もふた味も違う人物なのが見ただけで分かる。クラシックで冠を戴くウマ娘というのはやはりジュニア級の時点から他とは違う凄みがあるのだ。
(だからこそ、出来るならホープフルで一度GⅠの空気を吸って欲しいんだよね)
GⅠの舞台の空気は、GⅡ以下の重賞やオープン戦のそれとは当然ながら全く違うのである。来年クラシック戦線でいきなりGⅠに参戦するとなると、デュオスクトゥムクラスのウマ娘では確実に空気に飲まれて凡走する。現役時代にクラシックを走ったことがあるからこそそれが分かる。特別な場であり、魔境なのである。
不意に聞こえたノックの音に、イナセビャクヨウは思考を一旦辞めて「どうぞ」と声をかける。入ってきたのは和泉とマイトリートだった。
「先生、どうしましたか?」
「ああ、折り入って話があってな」
和泉は、先にマイトリートを座らせるとその隣の椅子に座る。そしてそのまま思いがけないことを口にした。
「イナセ、チームが決まってないなら俺と組んでチーム立ち上げないか?」