今回もちょっと史実馬を引用した創作ウマ娘がおり、また死亡する場面がございます、ご注意ください。
普段千文字前後の超短文メインに書いてるのでちまちま書いてますがご了承くださいませ(´・ω・`)
タイタニアは天王星の衛星のひとつです、天王星の衛星にはオーベロンもあります。
あなたは、日本ダービーを逃げ切りで勝ったウマ娘が何人いるか知っているだろうか?
八十を越える開催数の中で、逃げ切りで勝ったウマ娘はたったの十二人である。その上、最後の逃げ切り勝者から二十四年に渡って逃げ切り勝ちは出ない……というのは未来の話。
そんな中に、彼女はいた。淀の超特急と讃えられた鹿毛の魔弾、オーシャンアロー。注目されなかったデビュー前、生涯のパートナー、己の射手となるトレーナーを得ると彼女の才能は一気に開花し、特急の名に恥じぬ快速で飛ばす逃げウマとして成長していった。弥生賞で自身を下したダイコクテンと鍔迫り合いを演じ、前述の通り彼女はダービーにおいて史上六番目の逃げ切り勝ちウマ娘となった。
――そんな彼女は、もう既にこの世に居ない。
シニア級にあがり、レース生活を送っていたある年の冬。有馬を回避し、阪神大賞典へ向かった彼女はいつものように逃げを打つ。いつもと同じはずだった、しかしターフには魔物が住む。最終直線に入った彼女は脱臼を発症し前のめりに転倒……ウマ娘のトップスピードは時速六十キロとも言われる。逃げウマだった彼女、最終直線だったのもありラストスパートを掛けていた状態での転倒、そうなればどうなるかなど想像に容易い。
彼女は思いっきり頭を強打してしまう。トレーナーだった松山が駆けつけた時には既に手の施しようがない状態になっていた。
「松山さん……松山さん……」
それでも彼女は、自分が最も信頼したその人の名を呼び続けていた。泣きながらその手を松山が握ると、心底安心したように彼女は微笑み。
「オーシャンアロー!!」
その短い生涯に、幕を閉じた。
松山がトレーナーを辞め、中央を去ったのはそれからすぐのことである。
それでも彼は十年ほどの後、師匠や先代の中央トレセン理事長の呼び掛けに応じ、トレーナーとして復帰を果たした。師から引き継いだチームの主任トレーナーとして、彼女の悲劇を繰り返さぬために「安全第一」をモットーにチームを牽引してきた。
定年を機に正式に引退、率いていた「チームタイタニア」はそれを持って解散となった。イナセビャクヨウが中央に戻ってくる二ヶ月ほど前の話である。
――和泉の提案を聞いて、イナセビャクヨウはすっかり忘れていたことを思い出した。最近は個人で育成を行い、レースに出走させるトレーナーもいるが基本的には学園内にあるチームに所属するのが一般的だ。サブトレーナーとして経験を積む場にもなる。
「その顔だとすっかり忘れてたな?」
「うぅ、はい……いえ、本当は松山先生のタイタニアに戻ろうかと思ったんですけど……」
「ああ、おやっさんが辞めたの知らなかったのか」
「はい……よくよく考えたらそりゃあ引退してる歳ですよねぇ……」
和泉は、イナセビャクヨウのトレーナーだった十数年前にはタイタニアにサブトレーナーとして所属していた。そのため、勝手知ったるかつてのチームに自分もサブトレーナーとして所属しようかと考えていたのだが、当のタイタニアは既に解散していたのだった。
「……立ち上げるって、そう言えば推薦状とか必要なんじゃ……」
「推薦状はな、ある」
「え?」
ぽかんとするイナセビャクヨウを他所に、和泉は懐から封筒を取り出すと彼女の方に放った。慌ててそれを受け取り、その裏を見ると「松山正太郎」の字がある。
「松山先生が……」
「中見てみ」
促されるままに封筒を開き、中の推薦状を開く。それに目を走らせる途中で、イナセビャクヨウは目を丸くする。
「え、あの、私ですか? 主任トレーナー? 先生じゃなく?」
「おう、お前だ」
「で、でも、私まだ新人も新人ですよ?」
「未熟なとこは俺がフォローする」
「そ、それは心強いですけど……マイトリートさんはいいんですか?」
視線をマイトリートの方に向けると、こくこくと小さく頷いている。ふむ、と考える途中、自分の担当ウマ娘抜きではいけないのでは? と思い、イナセビャクヨウは断りを入れてデュオスクトゥムに電話を掛けると呼び出す。
「おまたせしました! ……あれ?」
「急に呼び出してごめんね? こっちとりあえず座ってくれる?」
「はい……」
思いがけない人が先にいた事で、デュオスクトゥムは少し面食らったようだった。イナセビャクヨウに促されて彼女の隣に座る。
「こちら、トレーナーの和泉星路さん、私の現役時代に、私のトレーナーだった人で今はマイトリートさんの担当、マイトリートさんはこの間レースで顔を合わせてるからわかるわね?」
「はい」
「……和泉さんから、一緒に新しいチームを組んでみないかって提案を頂いたの。私が主任トレーナーなのは正直私の方が少し心配なのだけど、ベテランである和泉さんがサポートしてくれると言ってくれているから前向きに検討したいと思っているのだけど、スクはどう?」
「えっと……」
「わ、わたしはむしろ、くんでみたいです!」
デュオスクトゥムの視線を感じたのか、マイトリートは小さいながらしっかりとした声で自身の考えを告げる。それを引き継ぐ形で和泉が口を開いた。
「あのレースのあと、ずっとデュオスクトゥムのことを話してたんだよ、それがいい刺激になったのか昨日の未勝利戦で無事勝ってきた。こいつはこの間言ったように、まだ精神的な部分が未熟だ。だが、他の同期と切磋琢磨したほうがこいつの心の成長にはいいのかもしれん。チームで組んで一緒にトレーニングすると、個別でするよりいい効果があるって言われてるのはイナセも知ってるな?」
「はい、実際私もタイタニアではいい経験をさせてもらったと思ってます」
「それと、ウマ娘であるお前だから人間の俺とは違った視点で選手を見てやれるだろう。さっきも言った通り、経験不足で判断が付かないところは俺がカバーする」
そんな二人の会話を聞いていたデュオスクトゥムは、しばらく考えると顔を上げて口を開いた。
「私も、興味あります!」
「そうか、んじゃあ……」
和泉はにかっと笑って、言葉を続ける。
「あと三人、メンバー集めするか……何人か声はかけちゃいるけどな」
四人は新チーム発足のために動き出した。