今日も帰ってきた妻が玄関で死んだように倒れています   作:朝霞リョウマ

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今日の妻は帰ってくるなりボロボロと泣き出しました

 

 

 

 ガチャ バタン

 

「……ん?」

 

 リビングのソファーに座って『月刊トゥインクル』を捲っていると、玄関の方からそんな音が聞こえてきた。多分理子が帰って来たのだろうが……。

 

「あれ、連絡あったか?」

 

 普段の理子ならば帰宅前に連絡をしてくれるのだが、机の上に置きっぱなしになっているスマホにメッセージが届いた様子はなかった。俺が見逃したわけじゃないらしい。ということは理子が送り忘れたのだろうか。

 

(いや、送ったつもりで実は送信ボタン押せてないだけっていう可能性もありけり)

 

 今年入ってから五回ぐらいあるなぁ、なんてことを考えつつ、今日も一日お仕事を頑張った奥様のお出迎えをするために玄関へと向かう。

 

「お帰り~……って、おっ、今日は起きてる」

 

 いつも体力を使い果たして帰宅するなり玄関に倒れ伏している理子が立っていた。

 

 しかし何やら様子がおかしい。

 

「……理子?」

 

 立って寝ているわけではないだろうが、玄関のドアに背中を預けたまま動かない。俯いているのでその表情も分からない。

 

「理子? 何かあったのか?」

 

 声をかけながら近づく。パタパタとスリッパが音を立てると、理子はビクリと肩を震わせた。そしてゆっくりと顔を上げると――。

 

 

 

「ふえええぇぇぇ~ん……!」

 

 

 

 ――いきなり声を上げて泣き出した。

 

 

 

「理子っ!?」

 

 ボロボロと涙を流す理子は、まるで子どものように泣きじゃくっていた。

 

「どうした理子!? 何があった理子!? お腹が痛いのか理子!? 眠すぎて訳わからなくなったか理子!?」

 

 感動モノのドラマや映画を観るとすぐに泣いちゃう系お姉さんの理子ちゃんだが、流石にこの泣き方は未経験なので俺も混乱する。

 

「リトルココンがぁ~……! ビターグラッセがぁ~!」

 

「リトルココンとビターグラッセがどうした!?」

 

 エグエグと泣きじゃくる理子の口から出てきたのは、現在彼女がトレーナーとして担当しているウマ娘二人の名前だった。こんなに大泣きしながらその名前を出したことに、まさかと嫌な予感が俺の頭を過る。

 

「二人が怪我でもしたのか!?」

 

「怪我……!」

 

「事故か!? 事件か!?」

 

 

 

「私 の せ い だ ぁ ~ !」

 

 

 

「理子ぉぉぉ!?」

 

 

 

 

 

 

「……そうか、そんなことがあったのか」

 

「………………」

 

 ソファーに座る俺の腕の中にスッポリと収まるように丸まりながら、理子は小さくコクリと頷いた。

 

 大泣きする理子を徹底的に甘やかし尽くして宥めて落ち着かせると、ゆっくりと何があったのか事情を聞いた。なんでも理子が監督を務めるチーム『ファースト』のメンバーが、理子に隠れて自主練をしているのを目撃してしまったらしい。

 

 ……以前、理子の担当ウマ娘が自主的なトレーニングによる故障で選手生命が絶たれてしまうという事件があった。そのことから、理子はウマ娘たちが自分の管理外のトレーニングをすることに対してトラウマを抱えてしまっている。

 

「……このままじゃ……また、あの子たちが……」

 

 腕の中で震える理子の身体をギュッと抱きしめる。

 

「なぁ、理子。少しぐらいウマ娘たちを信じてもいいんじゃないか?」

 

「………………」

 

 理子は何も答えなかった。しかし俺の言葉に少なからずのショックを受けていることは分かった。

 

「理子は優しいからウマ娘たちに怪我して欲しくないんだよな。故障のリスクに脅えることなく、ただ走ることに集中してもらいたいんだよな」

 

 小さい子をあやすようにポンポンと優しく背中を叩く。

 

「理子の管理体制のおかげで速くなれた子たちがいるのも事実だ。全部が間違っているとは言わない。でも、実際に走るのは彼女たちなんだ。彼女たちの『心』が勝利を掴むんだ」

 

「心……」

 

「そう、心。彼女たちにあって、俺にもあって、理子にもある、身体の真ん中にある大切なモノ。そんなものを縛り付けなくても大丈夫だって、本当は理子も分かってるだろ?」

 

 だってホラ、と理子の頬に手を当てて顔を上げさせて、泣きすぎて真っ赤になってしまった彼女の瞳をじっと見つめる。

 

「縛り付けなくても大丈夫だって分かってるから、理子も俺もお互いを愛し合ってるから心を縛り付けようとしない。……俺と同じぐらい、彼女たちも愛して信じてやってくれ」

 

「……うん」

 

 小さく頷いた理子の頬にキスをする。

 

「で、でも」

 

「ん?」

 

「トレーナーとしての愛は、あの子たちに捧げます。でも樫本理子としての愛は……勿論、貴方だけに捧げます」

 

 最後に頑張ってカッコつけたかったのだろう。少しだけ体を離すと、それまでふにゃふにゃと泣いていた表情をキリッと引き締めて、顔を赤くしながらもそう言い切ってくれた。

 

「……ありがとう、理子」

 

 それじゃあ。

 

「俺の愛も、ちゃんと理子に捧げようかな」

 

「えっ」

 

 ひょいっと理子の体を抱きかかえながら立ち上がる。相変わらず軽いなぁ。

 

「い、いきなり何を!?」

 

「言っただろ? 『愛を捧げる』って」

 

「っ!?」

 

 俺の言葉の意味を理解した理子は顔を真っ赤にしてジタバタと暴れ始めた。危ない危ない落ちるぞ。

 

「放してください! 今日はこのまま彼女たちの自主性を考慮した新しいトレーニングメニューを考えるんです! そんなことしてる暇はありません!」

 

「ダーメ。学園ならまだしも、ウチでは俺の愛が優先」

 

 というかいつも疲れ果ててすぐ寝ちゃうんだから、こうやって()()()()()()()機会は少ないのだ。

 

「本当にイヤならやめるけど?」

 

 

 

「……イヤじゃないです」

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、本日ウチの理子は酷い筋肉痛で寝込んでいるためお休みさせていただきます、駿川さん」

 

『バカじゃないですか!?』

 

 

 




ライスを完凸するために二回天井したら合計七枚の理子ちゃん引いたから書いた。
今度こそ二度と続きは書かない。
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