ー生徒会室ー
コンコンコン!とノック音が響く。
「失礼するよ。会長」
「来てくれてありがとう、アグネスタキオン」
「会長が私を呼ぶとは…珍しい」
「今日は君に赤ん坊の面倒を頼みたいんだ、いいかな?」
「ふぅん、私なんかに頼んで大丈夫なのかい?」
「ふふ、私は信頼している子にしか頼んでいないぞ?だから頼んでいるんだ。引き受けてくれるかい?」
「ふぅん、まあいいだろう。丁度、暇をもて余していたところだからな、引き受けようじゃないか」
「頼んだよ」
アグネスタキオンが顔に笑みを浮かべて、生徒会室を出る。
「本当に大丈夫でしょうか」
隣で静かに聞いていた、エアグルーヴが言う。
「心配か?エアグルーヴ」
「もちろんです!実験に利用されたりしたら…」
「心配はいらないさ、ママグルーヴ。アグネスタキオンはそこまではしない。絶対に」
「そこまで言うなら…ん?会長、今なんと?」
ー廊下ー
アグネスタキオンはトレーナーの部屋から赤ん坊を抱いて、出てきた。廊下を歩いているとマンハッタンカフェと鉢合わせる。
「やぁ~カフェ。ここで会うなんて、奇遇だね」
「なんですか、タキオンさん…と赤ん坊?」
「そうさ、赤ん坊だ。お守りは私のしょうに合わないような気もするが…」
「もしかして…」
「いやいや!決して、誰かを赤ん坊に変えたとかじゃないよ?前に噂になってたろう?」
「それは知ってます。赤ん坊を実験に利用するのかと」
「おい!私がそこまでする奴だと思ったのかね!?」
「はい…」
「えぇ~!君から見たら、私はそう見えるのかい?」
「はい…マッドサイエンティストに見えます」
「(ちょっと傷ついた…)まあ、安心したまえ。私でも、赤ん坊がいる時に実験などしないよ」
「…」
マンハッタンカフェが「信じられない」みたいな顔でアグネスタキオンを見つめる。
「なんだい!その顔は!…そうだ、カフェ?一緒にお世話をしないか?心配なんだろう?」
「別にいいですけど…」
「おや、意外とやる気だね?よし、決まりだな。早速ですまないんだが、この子にミルクをお願いできるかい?」
「わかりました…」
「てっきり断ると思ったのだが…」
「タキオンさんだと心配なので…」
「うぅ…流石にそこまで信じてもらえないとは…たとえ、私でも傷つく」
「着いてきて下さい…トレーナーさんの部屋に行きましょう」
「待ってくれ。何故、トレーナー君の部屋に戻るんだ?私がさっき出てきたばっかなのだが」
「トレーナーさんの部屋に鍋と粉ミルクが置いてあります…それで作れるはずです」
「そうだったのかい?知らなかったよ!」
マンハッタンカフェに着いていくアグネスタキオンと赤ん坊。
ートレーナーの部屋ー
着いた後は鍋や粉ミルクを準備して、マンハッタンカフェが作っていく。
「私も手伝おうかい?」
「いいえ…私だけで大丈夫です。タキオンさんは赤ん坊を頼みます」
「分かったよ」
アグネスタキオンは赤ん坊の世話などはしたことはない。どうすればいいか、よくわからない。とりあえず、近くにあるソファーに腰を掛ける。
「(ふぅん…どうしたものか。赤ん坊のお世話などは初めてだからな。どうすればいいかわからない。とりあえず…)」
アグネスタキオンが赤ん坊をくすぐる。
「キャッキャッ」
赤ん坊が喜ぶ。
「ほう!これが面白いのかい?こちょこちょ!」
マンハッタンカフェが見つめる。
「なんだい、カフェ?君もやってみたいのかい?」
「いいえ」
「まったく、素直じゃないな~カフェも」
「…どういう意味ですか?」
「こういうことだよ」
アグネスタキオンが立ち上がって、マンハッタンカフェに赤ん坊を渡す。
「えっ?…ちょっと、タキオンさん」
「私もミルクくらい作れるさ。カフェ、赤ん坊を頼んだよ?」
「はぁ…わかりました」
マンハッタンカフェがソファーに座って、赤ん坊と見つめ合う。
「…こんにちは、マンハッタンカフェです…」
「あう」
「ぷっ!」
まるで返事をするような光景に思わず吹き出してしまった、アグネスタキオン。マンハッタンカフェが無言でアグネスタキオンを見る。
「(まずい…カフェがちょっと怒ってる。あの目に影ができたのが何よりの証拠だ)」
「…ふふ」
赤ん坊の方に目をやって、お世話をする。
「タキオンさん…ミルクはできましたか?」
「今、温めているところだよ。もう少し、待ちたまえ」
しばらくして
「さぁ!できたぞ!ミルクだ!」
「そんなに大げさに…赤ん坊が泣いてしまいます」
「おっと、すまないね」
マンハッタンカフェがミルクをあげる。
「…はい、ミルクです」
「ふぅん…」
アグネスタキオンが静かに見守る。
「タキオンさんも…やりますか?」
「いいのかい?なら、お言葉に甘えて」
マンハッタンカフェがミルクと赤ん坊をアグネスタキオンに渡す。
「ほら、ミルク」
赤ん坊がミルクを飲む。
「美味しいかい?」
「飲んだ後は背中なんかを叩いてあげたほうがいいですよ…ゲップをさせてあげられるように…」
アグネスタキオンが赤ん坊の背中をトントンと優しく叩く。赤ん坊がゲップをする。
「ふわぁ」
「おや?どうやら眠いらしい」
「赤ん坊は寝るのが仕事と聞きました…寝かせてあげましょう」
アグネスタキオンが赤ん坊をベビーベッドに寝かせる。
「ふふ…可愛いですね…」
マンハッタンカフェがベビーベッドを覗き込んで、眠る赤ん坊を見つめる。
「モビールが無いじゃないか!まったく、トレーナー君はモビールの大切さを知らないようだな」
「どうしたんですか急に」
「モビールだよ。私が赤ん坊の時はあったんだよ。モビールは赤ん坊の知的好奇心を刺激し、視力や手や足の機能の向上が望めるオモチャなんだ。それが無いとは…トレーナー君も駄目だな」
「でも、どうしますか?トレーナーさんがいないので…買えないですよ」
「なら、私達で作ろうじゃないか」
「作るんですか?材料はどうするんですか?」
「材料なら貰ってこようじゃないか。ちょっと待っていたまえ」
アグネスタキオンが部屋を出る。しばらくして、戻ってきた。
「貰ってきたよ」
「こんなに…一体、どこから?」
「スカーレット君に頼んだんだ。彼女はもの作りが好きだと前に聞いたんでね!頼んだら、いっぱいくれたよ…まったく、優しい子だね」
「材料があるのはいいことなのですが…何を作るんですか?」
「お互いに好きなのを作ろうじゃないか!そうだな…例えば、私はフラスコやモルモットの形をした物を作ろうじゃないか」
「じゃあ…私はコーヒーカップなんかの好きな物を作ればよいと?」
「まあ、そんな感じで大丈夫だろう」
2人はお互いに好きな物を作りあって、赤ん坊の為にモビールを作っていく。
「どうだい、カフェ!上手く出来ただろう!」
アグネスタキオンがニコニコでマンハッタンカフェに見せる。
「私も今できました」
マンハッタンカフェもアグネスタキオンとお互いに見せあう。
「ほう!黒猫にコーヒーカップ、後は音符とかか!」
「タキオンさんはフラスコにモルモット、後はお弁当…ですか?」
「そうだよ!」
2人は楽しみながらどんどん作っていく。しばらくして…
「出来た!モビール!」
「赤ん坊が喜んでくれたら…嬉しいですね…」
アグネスタキオンがベビーベッドにモビールを飾ってあげる。時間は夕方になっていた。
「ずいぶん時間がかかってしまったな」
「でも…楽しかったです…」
「本当かい?なら、よかった」
「後はトレーナーさんにおまかせしましょう」
「そうだな。我々は寮に戻るとするか」
2人は静かにトレーナーの部屋から出て、自分達の寮に帰って行った。
(続く)
ここからはpixivと同時進行です。