少女が神に至るまで ─ウマ娘プリティーダービー─   作:嵐牛

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第16話

 「ヤマニンスーパー!? 8番人気の娘か!?」

 

 「凄い走りだ、これはもしかするぞ!」

 

 「だけど見ろ、シンザンだ! それでも────先頭に立ったのはシンザンだ!!」

 

 登り坂に入ると同時に、ハナを進んでいたブルタカチホをシンザンが交わす。

 歩幅を狭めて足の回転を速く。登り坂で速度を落とさないために誰もが使うピッチ走のテクニックだが、この急坂で速度を落とさないどころか加速していく彼女の走りにブルタカチホは目を剥いた。

 本当に最初の坂を越えた後なのかと疑うような足の回転数。

 戦略通りに脚を残せたのかそれとも元々のスタミナが潤沢なのか、どちらにせよ他の者から見れば絶望のスパートだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 同じようにブルタカチホを交わしてシンザンの背中を追う。

 そしてブルタカチホに迫る危機はまだ終わらない。彼女の背中のすぐ後ろには、ウメノチカラとアスカが肉薄しているからだ。

 

 「くうう・・・・・・ッッ」

 

 殆ど肩を並べて走っている2人がとうとうブルタカチホを追い抜かす。彼女も懸命に差し返そうとするが、その脚は骨が鉛に差し代わったかのように重い。

 もっと早く、もっと速く。焦げ付くような焦燥にも鍛えてきたはずの脚は応えてくれなかった。

 ───東京レース場の最後の関門、心臓破りの坂。

 大概のウマ娘はここで一杯になる。

 1番人気にまで推されたブルタカチホも、それは例外では無かった。

 

 「くっそぉぉぉおおぉぉおおおお!!!!」

 

 もう自分が先頭に追いつけない事を理解した彼女の口から、気位の全てを捨て去った咬牙切歯の叫びが飛び出す。

 実力が足りなかった訳ではないだろう。

 作戦の穴か分析ミスか、想定外の小さなほつれで結果が狂う。それがレースというものなのだ。

 それでも今の最良を目指して走るブルタカチホの横を、7番人気のツキホマレが追い抜いていった。

 

 そして残り200メートル手前で登り坂が終わる。

 ゴール板に向けての僅かな直線、先頭はシンザン。

 平坦な道に足を付けた彼女は身体を低く沈め、2着以下を引き離すために更に加速した。

 ウメノチカラとアスカは交わした。

 ブルタカチホも引き離した。

 だけど足音が1つ、意地でも遠ざかっていかない。

 全員食ってやると言い放った彼女の執念が本物であったことを、シンザンはハッキリと理解した。

 

 『さあ残り200メートル抜け出したのはシンザン! そしてヤマニンスーパーが先頭のシンザンを追いかける!! ヤマニンスーパー差し切れるのか、シンザンとの差は1バ身!!!』

 

 「ぅぁぁぁあああああああッッッ!!!」

 

 吼えたのはヤマニンスーパー。

 必死の形相で身体に鞭打って先頭の背中を追う。

 ちらりと後ろを見たシンザンは、追いかけてくるヤマニンスーパーの様子をハッキリと認識した。

 フォームは疲労に崩れる寸前、口を割って走る様は2度の坂道に彼女の体力が底を尽きかけているのを如実に示している。

 それでも火はまだ消えていない。

 細胞の一粒まで燃やし尽くすような執念がシンザンの背中を炙っていた。

 

 「いけるか!? 差せるかヤマニンスーパー!?」

 

 「いや駄目だ!! シンザンが全然バテてない!!」

 

 『ゴールまで残り僅か、先頭は依然としてシンザン! 3番手争いはウメノチカラとアスカがほとんど横並び!! ヤマニンスーパー根性を見せるがどうだ!? 先頭には届かないか!?』

 

 (・・・・・・これ程か)

 

 遠い。

 先頭までの、宿敵までの距離が絶望的に遠い。

 1番前を走っているシンザンの背中に、ウメノチカラは必死の思いで手を伸ばす。

 晴らせなかった怒りが腹の底で地団駄を踏んだ。

 気合いや決意ではどうにもならないゴール前、自分と彼女の間に3バ身という絶対の距離が冷酷な真実として横たわっている。

 

 (これ程の差が、今の私とあいつの間にはここまでの差があるというのか・・・・・・!!!)

 

 少しだけ振り向いた背後には様々な顔が見えた。

 必死の形相で追ってくるヤマニンスーパーに悔しさに叫び出しそうなウメノチカラ、その隣で彼女だけでも抜かそうと歯を食いしばるアスカ。

 どれだけ皆が勝とうとしていたかが分かる。

 どれだけ悔しいのかは分からない。

 勝利に向ける彼女らの想いは、あるいは自分より強かったのかもしれない。

 そしてシンザンは自分の後ろから目線を切った。

 自分は今から、自分の理由に基づいて彼女らの想いを踏み潰す。

 ただ目の前にあるラインだけを見据えて、シンザンは彼女らの執念を振り切った。

 

 

 「あたし、まだあいつを笑わせてないからさ」

 

 

 『シンザン先頭で今───ゴールイン!!

 およそ2分の1バ身差でヤマニンスーパー2着、3バ身離れて3着はウメノチカラ!!! ほとんど並んでいたアスカはアタマ差で4着!!

 1着はシンザン!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 着差以上の実力を遺憾なく見せつけました!!!』

 

 

 番狂わせであった。

 観客席から大歓声が上がる。

 正に下評が覆された賞賛の嵐はどよめきにも似ていた。

 先頭でゴール板を踏んだシンザンは力を抜いて速度を緩め、後続とぶつからないようにメインスタンド側に退く。息も絶え絶えなヤマニンスーパーが力尽きるように芝に転がった。

 1バ身にも満たない着差。

 あるいは届いていたかもしれない距離。

 しかし届かなかった───全身全霊を以てしても。

 悔しさに食い縛った歯の隙間から喘鳴を漏らす彼女の耳に、しかしその声は届いていた。

 

 「凄かったぞヤマニンスーパー!!」

 

 「ウメノチカラにもアスカにも勝っちまったぞ! 2着でも大金星だ大金星!!」

 

 「頑張った頑張った! また次がある!!」

 

 自分の名前を呼んでいる。

 さっきまで自分を見てもいなかった奴らが、口々に自分を称えている。

 ヤマニンスーパーは燃料切れの身体を動かしてノロノロと立ち上がった。

 そして酸素の足りない肺腑で叫ぶ。

 勝利には力及ばずとも、確かに自分が見返してやった者たちへ。

 

 「ゲホッ、あんた達! 次こそ、見てなよ! ────次の、『皐月賞』!! はぁ、絶対、あたしが! 1着獲るんだから!!」

 

 

 「覚えてなさいよ。次は絶対、アタシがアンタをブチ抜くからね!」

 

 「・・・・・・ああ。受けて立とう」

 

 アタマ差で負かしたアスカからの宣戦布告に応えつつ、ウメノチカラは拳を握り締める。

 あの時のシンザンが本気では無かったのは分かっていた。分かっていたが、しかし────これ程とは。

 勝ちを獲りに来たシンザンがこれ程のものだとは!

 ウメノチカラは歯を食い縛り、煮湯のような敗北を胃袋に飲み下す。

 人気の序列は必ずしも実力と一致しない。

 シンザンは今の自分より強く、ヤマニンスーパーにも自分を負かすだけの力があった。それが事実だ。

 ウメノチカラは観客席の最前列にいた古賀(トレーナー)に苦い顔で結果を報告する。

 

 「申し訳ありません。1着を逃しました」

 

 「謝るな、お前は良く走ったじゃねえか。それに言っちまえばよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。文句無しの結果だろ?」

 

 「・・・・・・・・・・・・、」

 

 「ま、納得いかねえよな。()()()

 

 眉根を寄せたウメノチカラに、古賀は思い切り歯を剥き出して威嚇するように笑ってみせる。

 ウメノチカラと同じ悔しさを感じているのだ。

 観客席の柵越しに彼女の両肩に叩くように手を置いた古賀は、胸を殴るように強い語気で彼女に言った。

 

 「獲るぞ『皐月賞』。俺達を負かした奴らに纏めてリベンジしてやろうじゃねえか」

 

 息が詰まるようだった。

 この大切な舞台で理解する。負けん気の強さで自分に売り込んできた彼は、本当に実際に走る自分と何ら変わらぬ覚悟と熱量を持っているのだ。

 ─────獲れる。この人となら。

 悔しさと確信を決意に変えて、ウメノチカラは力強く首を縦に振った。

 

 

 「やりました、やってくれましたな!! あんたの目と手腕は確かだった、この走りの強さは並大抵じゃあない!!早速インタビューさせてもらいましょうか、このレースで発揮された彼女の強みとはズバリ何でしょう!?」

 

 「ぜ、前面に出ていたのはやはり彼女自身のフィジカルで・・・・・・いや待って下さいこれは・・・・・・!!」

 

 腹を揺らしてはしゃぐ沢樫の横で、トレーナーはいつもの冷静さを失っていた。

 スプリングステークスとは5着以内に入ったウマ娘に『皐月賞』の優先出走権が与えられるトライアルレース。つまりこれでシンザンの三冠に向けた挑戦は盤石になった。

 だがトレーナーが昂っている理由はそれではない。

 心底からその走りに震えたのだ。

 2着との着差は2分の1バ身、数字で見れば差し切られていてもおかしくない距離。

 だがこのレースでそうなる事は有り得なかっただろうと確信がある。

 何故なら精魂尽き果てたヤマニンスーパーに対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 強い。思った通りに、思った以上に。

 

 ──────()()()()()()()()

 

 未だ彼女を測り間違えていたという事実に、トレーナーの脳裏にある種大それた予感が浮かぶ。

 

 「トレーナーさん」

 

 シンザンが近寄ってきた。

 観客席の柵に腕と顎を乗せて、やはり最前列にいるトレーナーに薄く笑いながら問いかける。

 

 「勝ったよ。見てくれてたかい?」

 

 「・・・・・・ああ。見てたよ」

 

 「あたしが負けると思ってたかい?」

 

 「緊張はしてた。けど勝つと信じてたよ」

 

 「安心したかい?」

 

 「ああ。座り込んでしまいそうだ」

 

 「トレーナーさん」

 

 もう1度シンザンは彼を呼んだ。

 自分の後方斜め上を指差した彼女に少しだけ首を傾げた彼だが、直後に彼女が示しているものが何かを理解する。

 彼女が指しているのはモノではない。指差す方向に渦巻いている空気。

 分かりきった事をその口から言わせようとする彼女は、悪戯っぽさを含ませてトレーナーに問いかける。

 

 

 「あたしは強いだろ?」

 

 

 歓声はまだ止んでいなかった。

 興奮の叫びと口々にシンザンを褒め称える声が渦を巻き、奔流となって思わず振り向いたトレーナーの身体を叩いて飲み込む。

 凡百の言葉を圧し潰す問答無用の説得力に1つの答えしか許さぬと胸倉を掴まれる感覚に、トレーナーは思わず口角を緩めていた。

 

 「──────ああ。強いとも」

 

 彼は笑った。

 自分の走りで確かに笑わせた。

 自分の往く道を守り抜き、気に入らない奴の鼻っ柱を叩き折って、そして掲げた決意を叶えた。

 自分は全てを()()()()()

 全てを思うようにしたシンザンは、胸を満たす満足感ににんまりと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 『それにしても波乱の展開となりました第13回スプリングステークス!

 シンザンにヤマニンスーパーにツキホマレ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という荒れ具合!! どうなる今年のクラシック戦線!?

 只事ではない何かを予感させるレースに期待が今から高まってまいりました──────!!』

 

 

     ◆

 

 

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」」

 

 ところ変わってトレセン学園。

 テレビの前でそのレースを見ていた秋川さつきはあんぐりと口を開けていた。

 日頃の冷たく静まった様子からは想像もつかない愉快な表情だが、口に手を当て目を見開いている日聖ミツヱも大概レアな表情をしている。

 やがて頭の整理をつけた秋川さつきは、考え込むように視線を落としてブツブツと口の中で呟き始めた。

 

 「(周りの娘が弱かったというのは有り得ない。これはシンザンにとって確かに休み明けのレースだったはず。調子を維持する運動もせずどうやって身体やレース勘の鈍りを・・・・・・、いや完全に休息を取ったのがむしろ良かったのか・・・・・・? 身体的問題とやらがそれで解決されて・・・・・・)」

 

 しばし頭を回していた彼女だが、やがて思考を打ち切るようにソファの背もたれに身体を預けた。

 難しい顔をして唸った後、斜め後ろに控えている自分の秘書に独り言のように口を開く。

 

 「僕が予想したウメノチカラは3着。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。共にいい線は行ったが、勝ったのはシンザンだった。

 しかし何故あなたはヤマニンスーパーが1着だと?」

 

 「目です。感覚的な話になりますが、全員を食らってやろうという執念が画面越しでも彼女の目から伝わりました。ああなった者は恐ろしく強いのです。・・・・・・シンザンはそれを上回りましたが」

 

 「成る程、正に僕とは別種の物差しだ。・・・・・・そして僕もあなたも、彼女を自分の物差しで測ることは出来なかったという事か」

 

 はぁ、と秋川さつきは溜息を吐く。

 

 「彼の目は正しかった。理屈の捏ねようもなく彼女は強かった。才能を発掘する為にも彼にはチームを組んで欲しかったが・・・・・・認めざるを得ない。彼との賭けは、僕の負けだ」

 

 「正式な書面に起こしていない以上、立場を使って反故にする事も可能ですが」

 

 「鹿にしないでくれ、僕にも美徳というものがあるんだ。分かって言っているだろう」

 

 信頼する右腕から意地悪を言われた秋川さつきが日聖ミツヱを半目で睨む。

 それはそれとして()()()()()

 秋川さつきは口元に扇を当てて考える。

 『シンザンとのコンビを解消させて彼に新たなチームを発足させる』。その目論見が失敗に終わった以上、次善の施策をせねばならない。

 チームの発足はどうしても必要な事だ。

 しかしチームの発足を許可できる程に実力のあるトレーナーはそう多くないし、そのトレーナー達もチームを持つ事を望むとは限らない。1人に集中した方が良い結果を残してやれると考える者は多いのだ。

 1番の()()がシンザンとのコンビを継続する事になった以上、他の人材をどう『その気』にさせるべきか─────・・・・・・

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 ぱちり、と目を開く秋川さつき。

 しばし脳内で浮かんだプランを反芻した後、彼女はソファから(おもむろ)に立ち上がった。

 何かのアクションを感じ取り命令を待つ日聖ミツヱに、秋川さつきは端的に指示を飛ばした。

 

 「府中に向かう。車を回してくれ」

 

 

     ◆

 

 

 「いや、大盛況だったね。重賞に勝つってこんなに持ち上げられるもんなんだ」

 

 「持ち上げられるとも。特に無敗の5連勝でスプリングステークスを勝つなんて凄まじい事だぞ」

 

 ウイニングライブでこぶしを唸らせ、沢樫が騒ぎまくっていたインタビューも大盛況。

 全てが上手く幕を下ろして上機嫌なシンザンとトレーナーは、楽しそうな声を車内に弾ませながら一泊するホテルへと向かっていた。

 トレーナーもいつになく饒舌にシンザンを褒めているが、彼としては最も胃の痛かった問題が最良の形で解決したのだ。気が大きくなるのは当然と言える。

 

 「でもシンザン。ウィナーズサークルのインタビュー、何であんなに蹄鉄の話をしてたんだ? 俺のイチオシというのはともかく会社の名前まで出して、あれじゃまるで営業だぞ」

 

 「んー? ちょっとね。しかしワクワクするね。次は無敗の6連勝で皐月賞を獲るんだよ? 今日以上の拍手喝采を浴びるんだ。トレーナーさんも楽しみだろ」

 

 「ああ、もうビッグマウスとは言えないな。そんな記録はコダマ以外に見たこと痛って何で蹴ったお前」

 

 「自分で考えなよ」

 

 そして駐車場に辿り着いた彼らが車から降りてホテルに入ろうとした時、自分達の前に現れた2つの人影にトレーナーは思わず硬直した。

 秋川さつきに日聖ミツヱ。

 学園にいるはずのツートップがそこにいた。

 思わずシンザンに被さるように前に出たトレーナーは硬い声で彼女らに問う。

 

 「・・・・・・わざわざここまで何の御用でしょうか」

 

 「そう警戒しないでくれ、悪い知らせを持ってきた訳じゃない。ただ私達は言動に対する筋を通しに来ただけだよ」

 

 そう言って秋川さつきと日聖ミツヱは頭を下げた。

 ただ首を前に倒すのではない。腰を直角に曲げる、謝罪としては最大限の謝意を示す所作だ。

 思わず仰け反ったトレーナーに対して、秋川さつきは静かな声で廉頗負荊(れんぱふけい)を口にした。

 

 「申し訳ない。私は目が見えていなかった。彼女が、シンザンがこれ程の大物だと・・・・・・私は全く考えていなかった」

 

 「あれえ? 頭が随分と低い位置にあるね。目が見えなくて足元が覚束無いのかい? もっと下げた方がよく見えるんじゃないのかい」

 

 「お前は事情も知らないのに何でそう煽れるんだ」

 

 顎を上げて台本でも用意していたのかというような舌鋒を振りかざすシンザンを逆に諌めるトレーナー。

 何も言い返せず黙るしかない立場ではあるが2人の手の指がピクリと震えるのを、彼は背筋が凍る思いで見ていた。

 「帽子も脱げよつむじが見えないだろ」とすら言いかけたシンザンの口をトレーナーが大慌てで塞いだ時、頭を上げた秋川さつきが気を取り直すように咳払いする。

 

 「それともう1つ。君は僕との賭けに勝利した訳だが、ここで僕から1つ提案があるんだ」

 

 「提案、ですか?」

 

 「うん」

 

 トレーナーのオウム返しを端的に肯定した秋川さつきは広げた扇で口元を隠す。そしてトレーナーを流し目で窺いつつ、彼女は飄々と言ってのけた。

 

 「新入生を交えたチームを組んでみる気はないかい? 加入の合格ラインの設定は君に一任するよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ」

 

 ・・・・・・図太い。あのやり取りの後でこの台詞。

 向こうも本気で引き受けてもらえるとは考えていないだろうが、取れる選択肢は全て拾おうという行動力を感じる。

 この女性が若くして学園のトップに立てている理由をトレーナーはまた1つ垣間見た気がした。

 返事は変わらない。

 言った通りに辞退させて頂く。

 チームは組まず今後もシンザンとのマンツーマンを続けていく意思を伝えようとしたその口は、しかしシンザンによって遮られた。

 

 「悪いね。そいつは無理ってもんだ」

 

 横からトレーナーの襟首を掴んだシンザンが、ぐいっと服を引っ張ってトレーナーを自分に近付ける。

 いきなり身長より低い位置に引っ張られてよろめくトレーナー。

 くっつくような近さまで彼を隣に引き寄せた彼女は、勝ち誇るような顔で学園の理事長とその秘書に言い放った。

 

 

 「他が割って入る隙間は無いよ。何せこいつ、あたしにゾッコンなもんで」

 

 

 

 

 

 前哨戦は斯くして終わる。

 勝利を掲げた唯一人と煮湯を飲んだ他全て。

 感じた全てを胸に秘め、見据える先は4月の舞台。

 『桜花賞』と『皐月賞』。

 全ての競走ウマ娘が焦がれる八つのレース─────まずはその2つが、闘志を燃やす彼女らを迎え入れようとしていた。

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