少女が神に至るまで ─ウマ娘プリティーダービー─   作:嵐牛

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第20話

 一斉に走り出した。

 どのウマ娘も出遅れの無い綺麗なスタートだ。それだけで桜花賞のレベルの高さが窺い知れるが、同時にこのレースが求めてくるレベルの高さを全員が知ることにもなる。

 出遅れがないという事はバ群が固まるという事。

 23人立ての大レース、熾烈なポジション争いを繰り広げつつウマ娘たちは最初のカーブへと殺到する。

 

 『各ウマ娘一斉に第2コーナーに向かう! 激しい先行争い、まず真ん中からプリマドンナ! その内と外にフラワーウッドとブランドライトが続いております! 大外を回りましてマスワカ、6番手にはカネケヤキ!!』

 

 「先頭はプリマドンナか。流石にスタートも上手いな。いち早くハナに立ってポジションを奪った」

 

 「だけどケヤキさんも負けていません。先行策の位置取りとしては理想的なポジションです。あの場所なら先頭を狙いつつ様子を窺える」

 

 「がんばれー」

 

 『第2コーナーを回って向こう正面に向かいます! 早いペースのレース展開でプリマドンナが2番手以降を引き連れて第3コーナーへと───』

 

 「やあああっ!」

 

 歓声と分析、呑気な応援が渾然となった阪神レース場、実況を遮るように1人のウマ娘が加速した。

 先頭争いをしていたプリマドンナとブランドライト、そしてフラワーウッド。

 レースはまだ序盤。しかしそこでフラワーウッドがプリマドンナからハナを奪った。

 仕掛けるには早いかというタイミングだが、比較的距離の短いマイル戦ならばそうおかしな判断ではない。相手のルートを塞ぐかペースを乱すか、距離が短く体力が温存しやすいぶん駆け引きの密度が跳ね上がるからだ。

 

 (なるほど、私を先頭に置くことを危険視しましたか・・・・・・、!?)

 

 2番手に下がったプリマドンナがフラワーウッドの意図を考える。

 まだ順位は悪くない。ここで焦ってくれるなら後半で差し返すのは容易だろう。そう考えていたがしかしその時、プリマドンナの後ろからさらに複数の足音が急速に迫り、そして追い抜いていったのだ。

 

 『内からオーヒメ、外からはマスワカ! インコースからフラミンゴが良い位置に上がって参りました! その後テルクインにカネケヤキ、外にはヤマニンルビーであります!!』

 

 フラワーウッドに釣られてかそれとも他の理由があるのか、予想外の動きに目を丸くしているプリマドンナが一斉に速度を上げてきた出走者たちに交わされていく。

 そして上がってきたのは実況に名前を呼ばれた彼女達だけではない。呼応するようにミスミー、アムビジョン達が前に出て、プリマドンナは一気に中団以下まで呑み込まれてしまった。

 

 「流れが変わった! フラワーウッドさんに触発されたんでしょうか、あそこまで呑まれると抜けるのは難しいですよ」

 

 「プリマドンナは反応が遅れたように見えるな。あそこまで一気に動かれたら無理もないが、しかし随分と動きが同期していたような・・・・・・」

 

 「そうだね。釣られたっていうか揃ったって感じに見えた」

 

 ここまでがんばれーとしか口に出していなかったシンザンが唐突にはっきりと意味のある事を言った。

 思わず注目するウメノチカラとバリモスニセイ。

 柵に寄りかかって前髪を弄りつつ、シンザンは気の抜けた声で駆け抜けていく同朋達に目を細めていた。

 

 「なーんだろうね。最初に抜けたフラワーウッドも加速してきたその他の子も、みんなプリマドンナを見てた気がするんだよねえ」

 

 

 「行かせないから・・・・・・っ!」

 

 「前には出してあげないよ!」

 

 「「 ひーん・・・・・・! 」」

 

 そんな台詞を吐くミスミーとフラミンゴ。

 大差で最後方をぽつんと2人走っているミンドクインとニホンピローの悲鳴がか細く響いている。

 シンザンの読みは当たっていた。

 9戦7勝、阪神ジュニア級(ステークス)レコードホルダー『プリマドンナ』。

 1番人気まで推されるに相応しいウマ娘。そんな彼女が他の出走者にマークされない訳がない。

 軽快に先頭を行く彼女に危機感を抱いて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがプリマドンナを背後から襲った大顎の正体だった。

 レースに絶対はない。

 例えそれが偶然であろうと、幾重にも重なった意図に絡まってしまえば勝利は手堅いと思われている者ですら容易に窮地に追い込まれる。

 その()()()や結び目に絡まりたくなければ冷静な思考と戦況を俯瞰する視点、その2つを常に働かせ続ける他ないのだ。

 そう、例えば彼女のように。

 皆がプリマドンナに注意を偏らせて動いている中で、彼女だけが自分の勝利に向けた最善を積み重ねていた。

 

 『第3コーナーに入りました先頭は7番人気フラワーウッド! 内側に2番手オーヒメ、3番手はマスワカであります!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()!! 先頭集団が一塊になって第4コーナーに差し掛かる!!』

 

 再びスタンド前に現れたウマ娘を歓声が出迎える。

 名前を呼ばれたフラワーウッドにオーヒメ、マスワカにカネケヤキがほぼ一団となってカーブを曲がる。

 ゴールまで残り400メートルを切った。

 脚に力を込めて姿勢を低く。

 一斉にスパートを始めたウマ娘の中で、先団の真ん中から飛び出してきた1人の鹿毛のウマ娘。

 紫色のドレスを翻し、白い長手袋を煌めかせて彼女は誰よりも先頭に躍り出る。

 

 『()()()()()()()()()()()()()()()!! じわりじわりと後続を引き離していく! 他のウマ娘は差し返せるか、残り300メートル正念場!!』

 

 (抜け出せない! このままでは!!)

 

 焦燥するプリマドンナ。

 しかし前方への道は一向に開けない。

 息切れで速度が上がらず、かつ自分よりトップスピードに劣る者たちに囲まれて彼女は下げられた順位を上げられずにいる。

 厄介なライバルが縛り付けられているその間に先頭のカネケヤキを追い抜きにかかるフラミンゴとヤマニンルビー。

 だが届かない。

 レース開始前にプリマドンナが言っていた事は皮肉にも正しかった。

 皆がプリマドンナという大きな敵に釘付けになっている間に、彼女だけが己の走りを最良の形で完遂したからだ。

 

 (どうして今まで見えていなかった? 私は、私達は! 決して気を抜いてはいけない相手から目を離してしまった!!)

 

 

 ─────You may want to get her back(彼女を捕まえたいんでしょう?).

 

 

 『ゴールまで残り200メートル! 2番手争いはフラミンゴとオーヒメ! 外から突っ込んできたヤマニンルビー必死に追うが届かないッ!』

 

 

 ─────That's why you cannot have it all(だからこそそんな事はさせない).

 

 

 「勝つのは前提。その上で汗と泥に塗れるレースに理想たる『華やかさ』を体現するものがあるならば」

 

 

 ─────Have it all(ぜんぶ叶えてやる). Have it all(全て手に入れてやる).

 

 Have it all all all.....(全部、全部、全部を)──────

 

 

 「それは────『勝ち方』に他ならない!!」

 

 

 『ゴーーーールイン!! 先頭はカネケヤキ!()()()()()()()()()()()()()!! ライバル達を退けて、見事桜の道を駆け抜けた─────っっ!!』

 

 紫と黄のドレスが躍り、大歓声が上がる。

 誰よりも速くゴール板を駆け抜けたウマ娘の名を実況が高らかに謳い上げた。

 第24回桜花賞。

 勝利を飾った鹿毛の彼女は観客席に向けて優雅に一礼をする。

 弥生に咲いた桜の頭飾り(ティアラ)は、カネケヤキの頭上に戴かれる事となった。

 

 『2バ身離れて2着はフラミンゴ、僅差でヤマニンルビー3着! 美しい走りでしたカネケヤキ! クラシック最初の八大競走「桜花賞」、今年の桜の女王の玉座は彼女が勝ち取りました!!』

 

 『迷いの無いレース運びでしたね。常に状況を俯瞰してベストの選択をし続けた結果だと思います』

 

 「いや強かったなカネケヤキは! それにこう何というか、華やかというか!」

 

 「ああ。次のレースが楽しみだ」

 

 「・・・・・・今のレースはどう見る?」

 

 「そうだな。徹頭徹尾()()()()()()に荒らされた展開だったんじゃないか」

 

 ライバルのレースは当然見に来ている。

 観客達が口々にカネケヤキを褒め称える中、古賀に聞かれたトレーナーはそう答えた。

 

 「プリマドンナは間違いなく優勝候補の筆頭だった。カネケヤキが劣っている訳じゃないが、プリマドンナが勝つ可能性はかなり高かっただろうな。

 だが、それだけに彼女を警戒するウマ娘は多かった・・・・・・いや、()()()()()()

 彼女に対する警戒と牽制の数がこういった展開を生み出したんだろう」

 

 「ウマ娘達の心が作り上げた、まさに姿無き魔物だな。その点カネケヤキは本当に見事だった。あの動きの迷いの無さ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あるいは桐生院さんが立てた作戦という事もあり得るが、いずれにせよそれを実行できたのはあの子自身の強さだな」

 

 「この大人数でのスタートから難敵をマークできる位置に着く巧さと、そのマークを切ってタイミング良く仕掛ける果断さ。そして他のウマ娘を引き離す走り。・・・・・・頭の痛いライバルだよ、本当に」

 

 逆にプリマドンナの敗因を考えるなら、恐らくは出走者の多さが1番に挙げられるだろう。

 もしかすると彼女は未知の人数が出走しているこのレースを、普段のオープン戦と同じように走ってしまったのかもしれない。

 人数が増えればマークしてくる敵も増える。1番人気まで推される実力があるなら尚更だ。そこにいつものように振り切る感覚で走っているところに想像を大きく超える人数からのマークが入ってしまい対応が遅れたのではないか?

 それが真実であるかどうかは、本人に聞かねば分からないが。

 

 「カネケヤキ!」

 

 控え室に戻る地下道、トレーナーである桐生院翠が駆け寄ってくる。

 

 「よくやったわ。非の打ち所がないレースだった。『桜花賞』1着、素晴らしい結果よ」

 

 「ありがとうございます。だけど私の目標には、私の理想にはまだ足りません。もっと、もっと走りを突き詰めなければ」

 

 「流石ね。だけど焦っては駄目よ」

 

 一歩ずつ確実に進んでいきましょう、と。

 焦るなという言葉が自分の何を指しているかを理解しているカネケヤキはその言葉には答えない。

 隠していたつもりの焦燥を見抜かれて思わず息を詰まらせた彼女の肩に、桐生院は優しく手を置いた。

 

 「まずはインタビューとウイニングライブからね。・・・・・・お疲れ様。おめでとう」

 

 その言葉でようやく力が抜けたらしい。

 強張っていた肩の力を抜いてようやく込み上げてきた勝利の実感と喜びに、はい、とカネケヤキは花が綻ぶように笑った。

 

 写真撮影にインタビュー。

 八大競走の勝者に対して行われるそれらの規模はオープン戦の比ではない。

 トロフィーを手に笑うカネケヤキを囲む大勢のカメラマンがシャッターを切り続け、記者達は何本ものマイクを向ける。

 見事な走りを見せてくれた今年度の桜の女王を前に、彼らも興奮を隠しきれないようであった。

 

 「おめでとうございますカネケヤキさん! 今のお気持ちは!?」

 

 「はい、とても嬉しいです。強力なライバル達を相手に抜け出す事ができたのは、トレーナーさんとのトレーニングが実を結んだお陰です」

 

 「今回のレースで危機感を覚えた所は!?」

 

 「そうですね、やはりプリマドンナさんが先頭を走っていた時でしょうか。彼女をどう捕らえるかは大きな問題でしたが、冷静に周囲を見れた事が勝因に大きく関わっていると思います」

 

 「知ってる? ケヤキの使ってる蹄鉄ね、あたしが使ってるのと同じやつなんだよ。いいかい、ヒンドスタン重工だよ。ヒンドスタン重工製のやつだよ。あたしのトレーナーさんもイチオシの品質だよ」

 

 近場にいた記者を捕まえて絡んでいたシンザンをウメノチカラとバリモスニセイがヘッドロックで連行していった。

 んええええ、と悲鳴が遠ざかっていくのを何人かのカメラマンがパシャパシャと撮影している様子にカネケヤキはころころと笑う。

 

 「・・・・・・え、ええと、いま連れ去られていったシンザンさん達は皆クラシック路線という事で。カネケヤキさんとは違う路線ですが、彼女らに対して何か考える事はありますか?」

 

 「うふふ、そうですね。シンちゃんもチカちゃんもリセイちゃんも、同期の中ではトップクラスの実力者だと私は思っています。

 なので3つ目を獲るレースは、とても熾烈な戦いになるでしょうね」

 

 「! 3つ目、という事は・・・・・・!!」

 

 「はい」

 

 期待に満ちた記者達に、カネケヤキは真剣な眼差しを返す。

 白い長手袋を纏った手のひらを胸に当て、撤回の利かない目と耳の群れを相手に彼女は力強く宣言した。

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()。1つ目は今日獲りました。残るは『オークス』、そしてその次はクラシック路線と激突する『菊花賞』。

 この宣言の証明として次の舞台(オークス)では────必ずや今日以上の走りをしてみせましょう」

 

 その場の全員が湧き上がった。

 一斉に切られたカメラのシャッター音が爆発的なボリュームとなって炸裂し、会見の席は加熱した空気の中で幕を閉じた。

 ─────そして今度は、勝者の舞台が始まる。

 汗を落として化粧を直し、勝負服姿で開始を待つカネケヤキの背後から、バックダンサー用の舞台衣装を纏ったウマ娘が声を掛けてきた。

 

 「おめでとうございます、カネケヤキさん。7着という結果に終わってしまっては、賞賛の言葉も格好が付きませんわね」

 

 「いいえ。このレースは誰が勝っても、それこそあなたの・・・・・・プリマドンナさんの完勝に終わってもおかしくありませんでした。

 しかし私はこれから更に強くなる。次にまた戦う時は、今日とは別物になった私を見せる事ができるでしょう」

 

 「次に戦う時、ですか。残念ながら、それは随分と先の話になりそうですのよ」

 

 それはどういう・・・・・・、と問いかけようとした時に気がついた。

 プリマドンナの舞台衣装、その太腿の部分に普通では身に付けない装飾があった。その装飾は何かゴツゴツとしたものの上に巻かれているようで、彼女の脚線とは合わない歪な押し上げられ方をしていた。

 あの装飾の下には何があるのだろう? まるで何かの器具が取り付けられているような─────

 

 「ッッッ!? あなた脚が─────」

 

 「医師とトレーナーさんには止められました。ですがライブから抜ける気は絶対にございませんわ」

 

 血相を変えたカネケヤキをプリマドンナは確たる強さで抑え込んだ。

 まだライトに照らされる前の暗闇の舞台を見つめ、プリマドンナは狼狽えるカネケヤキに静かに語る。

 

 「ウイニングライブとは応援して下さった皆様に感謝を伝える場。そして敗れた者達が勝者を讃え、悔しさを力に変える為の儀式ですわ。

 (わたくし)は皆様の期待に応える事が出来なかった。そして脚が治った後、これまでのような強い走りが出来る保証もない。

 だから私はこの舞台に立たなければならないのです。それが競走ウマ娘としての私の意地」

 

 カネケヤキの息が詰まる。

 今の彼女とレース前に相対していたら、カネケヤキは気圧されたまま敗北を喫していたかもしれない。

 大きなものを失ってなお胸の底に鈍く輝くプリマドンナの黒鉄のような覚悟は、それ程までに堅く、重たいものだった。

 

 「カネケヤキさん、貴女は前を向いて歌いなさい。(わたくし)はその後ろで貴女を讃えます。叶わなかった私の願いを、勝手ながら背負って頂きましょう。

 ────次は『オークス』。トリプルティアラの2つ目を、必ずや獲得して下さいませ」

 

 

 そして歓声が上がる。

 幾人ものバックダンサーの前で色とりどりのライトに照らされたヤマニンルビーとフラミンゴ、そしてカネケヤキが踊っていた。

 勝負服を来て歌い踊る栄誉を勝ち取った上位3人。

 彼女らの前には自分達を讃える者達が、後ろには悔しさを噛み締めた者達がいる。

 そして、襲う苦痛を押して笑顔で躍る彼女が。

 

 自分は背負った。

 彼らの声援を。彼女の想いを。

 次も頑張れ、勝ってくれと自分に願いをかける者達に、任せてくれと答える為に。

 八大競走『桜花賞』の勝者、選ばれた者しか歌えない曲を、カネケヤキは強く、高らかに歌い上げた。

 

 

 「そうか。これが八大競走の舞台か」

 

 躍るライトに響く歌声。

 大喝采を浴びるステージを見据えながら、ウメノチカラは腕組みした手に力を込める。

 

 「ケヤキの応援に来て本当に良かった。この空気を肌で感じられた事には値千金の価値がある」

 

 「応援していた者が最前列の真ん中で歌う姿は昂りますね。何千ものこれに囲まれて歌うケヤキさんは本当に栄誉でしょう」

 

 「全くだね、あの気の入った歌い様を見なよ。今までのウイニングライブの比じゃあない。あれが勝者だ。あれが勝ち取った奴の晴れ姿って訳なんだ」

 

 眩しいものを見るように目を細めてしみじみと感じ入るシンザン。

 しかしそこにある想いは遠く眺める憧れではなく、いずれ手に入るものに対する待望。

 まるで注文した極上の料理がテーブルに出されるのを待つような心持ちで、彼女は酷くゆったりと(うそぶ)いた。

 

 「(たぎ)るじゃないか。考えてもみてごらんよ。今日の2週間後には、あたしがあそこに立ってるんだ」

 

 他2人が目線を研いで沈黙する。

 同じ競技者、同じ路線に進んだ者としては全霊を以て否定せねばならない物言いなのだ。心に反抗心が生まれるのは当然だろう。

 しかしシンザンがこういう物言いをした時に真っ先に嗜めるか噛みつき返すのはウメノチカラなのだが、今回はそうではなかった。

 

 「シンザンさん。その物言いは少々・・・・・・、驕りと過信が過ぎるのでは?」

 

 バリモスニセイだった。

 てっきりウメノチカラが差し返してくると思っていたシンザンが僅かに目を丸くするが、そのすぐ後にはいつもの不敵な表情に戻っている。

 

 「驕り? 過信? いいじゃないか。自分が勝つ事を自分で確信しないでどうするんだい」

 

 「はい、それも正しい考えだと思います。地に着いていないその足を(すく)おうという者がいない限りは」

 

 「どうかね。そもそも掬える奴がいるのかい? 浮いてるらしいあたしの足を」

 

 「少なくともここに─────」

 

 「2人とも落ち着け」

 

 間に割って入ったウメノチカラが2人の肩を叩いて嗜める。

 バリモスニセイよりも割と強めに叩かれて文句ありげなシンザンの視線を華麗にスルーしつつ、彼女は友人の歌う舞台を見つめていた。

 

 「火花を散らすのはここじゃなくていいだろう。私も言いたい事はあるが、今は祝わないか。最初の大舞台を見事に先駆けた、私達の友達を」

 

 そう言ってウメノチカラは2人の視線を前へと促す。

 堂々と舞い、高らかに歌う。己の象徴たる服を纏い、何万という憧れと賞賛を一身に受けるその姿。

 誰より華やかなカネケヤキのその在り様に彼女達は目を奪われた。

 主役の位置で光り輝く彼女に、自分の姿を重ね合わせながら。

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