DQ11短編集   作:風亜

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 世界ごと時が巻き戻されるのではなく、魔王が誕生した元々の世界が過去から切り離され、勇者の存在しなくなった世界に取り残された仲間達のその後。


弾かれし者

 ジュイネがとこしえの神殿から過去へ遡って姿を消し、残された仲間は暫く茫然自失に陥っていたが、セーニャが仲間達をルーラでカミュをクレイモランで待つ妹の元へ、シルビアをナカマの待つソルティコへと送り届け、グレイグは復興中のイシの村に戻る前に聖地ラムダに向かいたいと述べ、マルティナとロウはそれに付き合う形になりセーニャのルーラで神語りの里に降り立つとグレイグは、失意の中ふと思い立ってラムダの聖堂へ向かう。

 

マルティナ

「伝説の勇者、ローシュの軌跡の壁画を見に行くの⋯⋯?」

 

グレイグ

「えぇ⋯⋯最後の砦に戻る前に、見ておきたいのです。宜しいでしょうか、姫様」

 

マルティナ

「それは、構わないけれど⋯⋯」

 

セーニャ

「私も、聖堂の壁画を見て心を落ち着かせたいと思います⋯⋯」

 

ロウ

「(時のオーブが壊れ、切り離されたこの世界はやはりどうしたって続いてゆくのじゃな⋯⋯。勇者ジュイネを失おうとも)」

 

 

 聖堂の扉を開けると、その中央部に倒れ伏す者の姿が───

 

グレイグ

「なッ⋯⋯、ジュイネ!?」

 

 真っ先に駆け寄るグレイグ。

 

 

マルティナ

「どういう、事⋯⋯?! ジュイネは、ほんの少し前に過去へ遡ったんじゃ───」

 

ロウ

「まさか、失敗したのじゃろうか⋯⋯!? じゃがその場合、時の番人によればねじ曲がった時の渦に呑まれてしまうと聴いておったが⋯⋯」

 

セーニャ

「時のオーブが暴走したのだとしても、この世界も無事では済まないはず⋯⋯ジュイネ様に、何が」

 

グレイグ

「おい、⋯⋯おいジュイネ、目を開けてくれ! 一体、何があったのだッ⋯⋯?!」

 

 仰向けにして揺すぶる。

 

 

ジュイネ

「ぅ、ん⋯⋯? えっ、グレイグ将軍⋯⋯?! 聖地ラムダまで僕を追って来たの⋯⋯!?」

 

グレイグ

「な、何を言って⋯⋯そんな恐れをなした目で見ないでくれないか。それでは、まるで敵対していた頃のような───」

 

ジュイネ

「は、離してよ! やっとここまで来て、捕まるわけにはいかないんだ⋯⋯っ!」

 

グレイグ

「お、おい、暴れるな⋯⋯! 落ち着け、ジュイネッ!」

 

 両肩をガッと掴む。

 

 

ジュイネ

「落ち着いていられるもんか⋯⋯! あっ、マルティナ、グレイグ将軍が僕を捕まえに───」

 

マルティナ

「だ、大丈夫なのよジュイネ、グレイグは貴方の⋯⋯私達の味方で、仲間なんだから!」

 

ジュイネ

「えっ? どうしてそんな、いつの間に⋯⋯」

 

セーニャ

「もしや、“この”ジュイネ様は───」

 

ロウ

「なるほどのう⋯⋯そういう事じゃな」

 

グレイグ

「お前⋯⋯まさか、俺が最後の砦で仲間になる前のジュイネ、なのか⋯⋯?」

 

ジュイネ

「最後の、砦⋯⋯? 何の、こと? 僕は⋯⋯僕達は、聖地ラムダから命の大樹に向かう途中で」

 

セーニャ

「やはり、そうなのですね⋯⋯。今私達の目の前に居るジュイネ様は、魔王誕生と世界崩壊前の過去のジュイネ様なのですわ」

 

ロウ

「時のオーブを壊した現在のジュイネが過去へ遡った事によって、過去に存在したジュイネがこちらに飛ばされて来た、という事になるのかのう⋯⋯」

 

マルティナ

「それなら、グレイグが仲間になっているのを知らないのも頷けるわ⋯⋯」

 

ジュイネ

「何を、言ってるの⋯⋯? 魔王誕生とか、世界崩壊とか⋯⋯時の、オーブって」

 

グレイグ

「そう、か⋯⋯現在のジュイネが居なくなった代わりに、過去のジュイネがこちら側に来たのか⋯⋯」

 

ジュイネ

「意味が、分からないよ⋯⋯。分かるように、説明してよ⋯⋯!」

 

ロウ

「───ここはお主が居た世界より先の未来、と言った所かの。大樹の魂のある場所で不意を突かれ、魔王ウルノーガを誕生させてしまい、命の大樹は落下し⋯⋯多くの命が犠牲になった」

 

セーニャ

「その犠牲の中の一人に、ベロニカお姉様が含まれています」

 

ジュイネ

「え⋯⋯?」

 

セーニャ

「お辛いでしょうが⋯⋯こちらに来てしまったからには受け入れて下さいませ、ジュイネ様。───ベロニカお姉様は、崩壊する命の大樹から命懸けで⋯⋯私達を守り助けてくれたのです」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯!!」

 

グレイグ

「その後⋯⋯、イシの村跡地が最後の砦となり、俺とお前は共闘する事となった。魔物の巣窟と化したデルカダール城に二人で潜入し、常闇の魔物を倒して太陽を取り戻し、晴れて俺はお前の盾として仲間になったのだ。それからお前のはぐれた仲間達を探して回った、魔王を倒す為に」

 

ジュイネ

「───⋯⋯」

 

マルティナ

「命の大樹が内包していた勇者の剣はウルノーガによって魔王の剣にされてしまったから⋯⋯先代勇者の記録を辿りみんなで協力して、勇者の剣を一から創り上げたの。その剣と神の乗り物ケトスの力で天空魔城に乗り込み、私達は魔王ウルノーガを倒す事に成功した⋯⋯」

 

セーニャ

「魔王討伐後にある文献を見つけ、それに沿ってとこしえの塔という場所に降り立ったわけですが⋯⋯そこで、勇者の力を持つ者だけが世界崩壊前の過去に戻り、ベロニカお姉様⋯⋯果ては多くの人々の命を救えると知り、苦渋の決断と共にこちらに元々居られたジュイネ様は過去へ遡られたのです」

 

ジュイネ

「その結果⋯⋯命の大樹の元に向かう前の聖地ラムダの聖堂に居た僕が、こっちに飛ばされて来たってこと⋯⋯?」

 

ロウ

「そうなるのじゃろうなぁ⋯⋯。わしらはてっきり、もう二度とジュイネと会えなくなると思っとったが⋯⋯こうして再び過去のお主に会えた事は、喜ばしい限りじゃよ」

 

ジュイネ

「本当に、そうなの⋯⋯? だって、こっちの勇者はあくまで“彼”じゃないか。その彼と二度と会えないのは、同じことじゃないの。それに僕は⋯⋯あくまで過去の僕でしかないよ。こっちに居た本当の勇者なんかじゃ、ない」

 

グレイグ

「それは、そうかもしれん⋯⋯だが俺達にとってお前はやはり、ジュイネなのだ。過去からやって来たお前だろうと、それは変わらんよ」

 

ジュイネ

「グレイグ、将軍って⋯⋯そんな優しそうな顔や声が出来るんだね。けどそれって僕に対してじゃなくて、ここに元居た勇者に向けてるんでしょ。やっぱり相手が、違うよ⋯⋯」

 

グレイグ

「将軍と付けて呼ばなくていい。グレイグ、と呼んでくれ」

 

ジュイネ

「ほら⋯⋯前に居た勇者を求めてるじゃないか。グレイグって呼んでいたのはここに元々居た勇者なんだろうけど、僕にとってはまだ仲間になってない⋯⋯それこそ敵対したままの“グレイグ将軍”でしか、ないんだよ」

 

マルティナ

「そんな、言い方はないんじゃないかしら⋯⋯貴方にとってはこれから仲間になるはずだったのだし」

 

ジュイネ

「⋯⋯それを無かったことにしたのは他でもない、僕にとって未来の“僕”じゃないか。大体、どうやって過去に戻ったのさ」

 

セーニャ

「とこしえの神殿と呼ばれる場所に、いにしえよりロトゼタシアの時を紡ぎ続ける時のオーブと呼ばれる宝玉が祀られていて、それを勇者の力を持つジュイネ様が勇者の剣を持ってして壊し、ジュイネ様だけが時を遡ったのですわ。勇者であるジュイネ様しか、過去へは行けなかったのです。勇者の剣もその際に壊れてしまいましたが⋯⋯」

 

ジュイネ

「あれ⋯⋯? 確かさっきマルティナは、みんなで協力して勇者の剣を一から創り上げたって言ったよね。それを⋯⋯未来の僕は、過去に行く為に簡単に壊しちゃったの?」

 

マルティナ

「苦渋の決断だったって⋯⋯少し前にセーニャも言っていたでしょう。ジュイネだって、壊したくてそうした訳じゃ⋯⋯」

 

ジュイネ

「僕なら、出来ないよ。みんなで力を合わせて創った剣なら尚さら。創ってない僕ですら分かるけど⋯⋯それは、みんなの絆の結晶とも言えるんじゃないの? それを壊してまで、過去に戻る必要あったの? おかしいなぁ⋯⋯未来の自分がしたことなのに、否定的にしかなれないや」

 

グレイグ

「ジュイネ、お前⋯⋯」

 

ジュイネ

「まぁでも、そりゃそうか⋯⋯みんなとの絆の結晶を壊したってことは、ここでのみんなとの絆を無かったことにして過去に戻って、後ろめたいことを何もかも修復して、犠牲も出さずにみんなを幸せにする⋯⋯正に、真の勇者だね未来の僕は」

 

 自嘲気味に述べるジュイネ。

 

 

セーニャ

「(ベロニカ、お姉様⋯⋯本当にそれで、良かったのでしょうか。過去に戻ったジュイネ様と、幸せに笑い合えているでしょうか。ジュイネ、様は⋯⋯心の底から過去に戻った事を、良かったと思えているのでしょうか───)」

 

ジュイネ

「悔しい、なぁ⋯⋯僕はそんなこと出来ないし、真の勇者にもなれない。分断された未来に飛ばされて来たって⋯⋯もう、勇者として出来ることなんて、何もないじゃないか⋯⋯ベロニカに、申し訳ないよ」

 

 俯き涙を零す。

 

 

ロウ

「出来る事なら、あるぞい。わしと一緒に、ユグノア王国を復興して欲しいのじゃ。あぁ、いや待て、その前に⋯⋯お主の育った故郷、イシの村の復興が先かの」

 

マルティナ

「それに、デルカダール王国の復興も控えているの。ジュイネには⋯⋯復興の架け橋になってもらいたいわ」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯⋯」

 

グレイグ

「ジュイネ⋯⋯お前にとって置き去りにされてきた俺達との絆は、これから先いくらでも紡いでゆける。だから⋯⋯俺達とこの世界で生きてくれないか」

 

ジュイネ

「───勇者の使命というものに、今まで流されてきたようなものだから、勇者じゃなくなっても別にそれはいいんだ。一人の人間として生きられるなら⋯⋯みんなと、新しく絆を紡いで行けるなら⋯⋯切り離されてしまった未来で生きるのも悪くないかな⋯⋯ベロニカとは、もう会えないけど」

 

セーニャ

「そんな事はありませんわジュイネ様、ベロニカお姉様は⋯⋯私の命とひとつになったのです。───ご覧下さいませ」

 

 セーニャは人差し指から勢いよく炎を一瞬上げて見せる。

 

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯! 荒野の地下迷宮で、ベロニカが魔力を取り戻した時に見せてくれたのと一緒だ」

 

セーニャ

「えぇ⋯⋯お姉様の魔力は完全に私に受け継がれ、あまり私には扱えなかった攻撃呪文もお手の物なんですよ」

 

ジュイネ

「そっか⋯⋯ベロニカは、セーニャの中に居るんだね。そう思ったら⋯⋯何だか寂しくないかも」

 

セーニャ

「『そうよジュイネ、あたしの事でメソメソしてるヒマがあったら、あんたが今出来る事をしなさいよねっ!』」

 

ジュイネ

「⋯⋯⋯! はは⋯⋯分かったよベロニカ、僕⋯⋯がんばってみるね。⋯⋯ありがとう、セーニャ」

 

セーニャ

「⋯⋯はい」

 

ジュイネ

「色々混乱して気づくのが遅れたけど、セーニャ⋯⋯髪を短くしたんだね」

 

セーニャ

「ベロニカお姉様が亡くなって、私の長い髪を亡きお姉様に捧げたのです」

 

ジュイネ

「そうなんだ⋯⋯見違えるほど、

しっかりしたセーニャになったね」

 

セーニャ

「ふふ⋯⋯そうでしょうね。自分でもぼんやりしてばかりだったのは分かっていましたから⋯⋯お姉様のようにしっかりしなきゃって、思ってます」

 

ジュイネ

「そういえば、最後の砦になったっていうイシの村のことだけど⋯⋯」

 

グレイグ

「そうか⋯⋯過去から来たジュイネが知らないのも当然だな。───安心してくれ、村人は全員無事だからな」

 

ジュイネ

「えっ、本当⋯⋯!? みんな、てっきり⋯⋯」

 

グレイグ

「確かに、ホメロスによって皆殺しにされてしまう所ではあったが⋯⋯何とかその場に間に合って俺が止めたのだ。その後は、城の地下に閉じ込めて置く事になったのだが⋯⋯決して悪いようにはしなかった。世界崩壊時には、皆を脱出させイシの村を最後の砦として皆と持ち堪えていたんだ」

 

ジュイネ

「グレイグ、将軍⋯⋯。ううん、───グレイグ。イシの村のみんなを守ってくれて、ありがとう⋯⋯本当に、ありがとう」

 

 胸が一杯になり嬉し涙を流す。

 

 

グレイグ

「当初は、同情的な意味合いだったのだが⋯⋯俺に出来る、せめてもの償いだ。最後の砦⋯⋯復興途中のイシの村に帰って、母君のペルラ殿や幼馴染みのエマ殿、村人皆に会ってやってくれ。いつだってお前を暖かく迎えてくれる」

 

ジュイネ

「そうなの、かな⋯⋯。ここに元居た僕は過去に戻ってしまったし、その過去から来た僕じゃ、何か違うって思われるんじゃないかな」

 

グレイグ

「何も違わんさ、ジュイネはジュイネだ。お前にとってもイシの村は、かけがえのない故郷だろう」

 

ジュイネ

「⋯⋯うん」

 

グレイグ

「そういえば⋯⋯過去のお前にはまだ詫びを入れてなかったな。───紋章を携えた勇者であるお前を悪魔の子などと思い込み、追い掛け回した事⋯⋯本当に申し訳なかった」

 

 深く頭を下げるグレイグ。

 

 

ジュイネ

「さっきの話を聴いた直後じゃ⋯⋯許す他ないじゃない。それに、僕は実のところグレイグは、本当は悪い人じゃないんだろうなって思ってたし」

 

グレイグ

「そうなのか⋯⋯?」

 

ジュイネ

「最初に会った時とか、牢屋に押し込まれた時は流石にこの人怖いなって思ったけど⋯⋯その後何度か鉢会う内に、この人はどこか迷いを抱えつつも、自分のすべきことに実直な人なんだろうなって思ってたから」

 

グレイグ

「まぁその、何と言うかな⋯⋯融通が利かず、本当に気付くべき事に気付くのが遅過ぎるという致命的な性格だからな俺は⋯⋯。ただ、俺から言わせてもらえればお前を初めて目にした時の印象は⋯⋯悪魔の子にしては随分と清らかで優しい瞳をしていると感じた。それに騙されてはならぬと思いお前に非情な態度を取ってきたが⋯⋯今では後悔しかないな、済まなかった」

 

 再び頭を下げる。

 

 

ジュイネ

「も、もう謝らないでってば。グレイグの気持ちは、分かったから⋯⋯」

 

グレイグ

「過去に戻って行ったジュイネに誓っていた、勇者に命を預け盾となる事を⋯⋯過去からこちらにやって来たお前にも俺は誓おう。ジュイネが望む限り、俺はお前の盾となると」

 

 ジュイネの前に跪く。

 

 

ジュイネ

「はは⋯⋯思ってた通り、生真面目な人だなぁグレイグは。大体もう勇者とは言えない僕の、盾になってもいいの本当に」

 

グレイグ

「ジュイネ自身の盾でありたいのだ⋯⋯勇者としてだけではないお前の身も、心も、全て護りたい」

 

ジュイネ

「大袈裟だなぁ⋯⋯僕はグレイグと仲間としてこれから絆を紡いで行きたいと思ってるよ。ここに元居た僕と同じようにはいかないだろうけど⋯⋯それでも、ううん、この際それ以上の絆を紡いで過去に戻ったことを後悔させてやりたいくらいだよ」

 

グレイグ

「フフ⋯⋯その意気だ。───正直行かせたくなかったさ、あいつだって本当は⋯⋯だが、失われし時を求める宿命にあったのなら行かざるを得なかったのだろう。流石に過去の自分が分断された未来に飛ばされるとは思ってもいなかったろうが」

 

ジュイネ

「⋯⋯ほらグレイグ、もう立ってよ。グレイグの命を預かって僕の盾にはなってもらうけど⋯⋯僕らは対等なんだ、同じ歩幅で⋯⋯肩を並べて一緒に歩いて行こうよ」

 

 微笑みと共に手を差し伸べる。

 

 

グレイグ

「(───! あの時と、同じだ⋯⋯。太陽を取り戻し、最後の砦にてジュイネの盾となる事を誓い、手を差し伸べられ、対等な仲間となれたあの時と⋯⋯やはり元々居たジュイネだろうと過去のジュイネだろうと、根は同じなのだな⋯⋯)」

 

 グレイグはしっかりと、ジュイネから差し伸べられた手を笑顔と共にとって立ち上がった。

 

 

 

end

 

 

 

 

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