「ダーハルーネの空⋯⋯何だかすごいことになってるね」
「うむ⋯⋯勇者の星が落ちて来ているようだが、これが魔王が誕生した事による異変なのか⋯⋯」
「⋯⋯そこのガタイのいい兄さんよ、アンタにピッタリな鎧あるんだがどうだい?」
あらくれ男の店員に声を掛けられるグレイグ。
「む? 俺にピッタリな鎧⋯⋯?」
「こんなご時世だからよ、英雄になったつもりでこの鎧装備して悦に入るのもアリだぜ?」
「えっ、その鎧って元々グレイグの⋯⋯」
ジュイネはハッとして鎧を凝視する。
「そうそう、デルカダールの将軍ってのが着てた鎧だぜ。今なら安くしとくんだがなぁ」
「(安いと言いつつ提示されてる値段がものすごく高い⋯⋯)」
「⋯⋯買う必要は無い、路銀は節約せねばな⋯⋯行くぞジュイネ」
「う、うん⋯⋯」
後ろ髪ひかれる思いで防具屋から離れるジュイネ。
「───でもどうしてグレイグの鎧がダーハルーネに売られてるんだろう⋯⋯。そういえば最後の砦で再会した時から鎧は装備してなかったもんね」
「あぁ⋯⋯まぁ、この格好は一応私服だからな」
「鎧、どうしちゃったの?」
「うむ、何と言うかな⋯⋯売ったのだよ、行商人に」
「え、何で⋯⋯大事な鎧なんじゃないの?」
「少しでも最後の砦の資金にして人々の足しになればと思ったまでだ。とはいえ⋯⋯先程のはよく出来たレプリカだったな」
「そう、だったの?」
「あぁ、傷一つ無い新品同様だったからな⋯⋯。打ち直されたというなら話は別だが、どちらにせよもう俺の鎧ではない」
「うーん、何とか値切って買い取ろうかと思ったけど⋯⋯」
「やめておけ、路銀は節約せねばならんと言っただろう」
「そこの、御二方⋯⋯デルカダールの将軍の鎧を御所望でしたら、うちにあるのが本物ですよ」
今度は目付きの鋭い青年の店員に声を掛けられる。
「⋯⋯何?」
「それ、本当ですかっ?」
「えぇ、防具屋の兄が本物を仕入れた弟の私に嫉妬してレプリカを造ったようですが⋯⋯見て下さい、この使い込まれた鎧を。デルカダールの将軍が実際に装備して数々の闘いを制して来たのが手に取るように分かるでしょう?」
「た、確かに⋯⋯細かい傷には見覚えがある」
「じゃあ本物だね、買い取ります! ⋯⋯幾らですか?」
「入手するのが大変だったので高くつきますよ⋯⋯これくらいですね」
「さ、さっきの防具屋より高い⋯⋯」
「それはそうですよ、兄の方はレプリカですからね」
「もう少し⋯⋯安く出来ませんか?」
ジュイネは何とかして値切ろうとする。
「ジュイネ⋯⋯諦めろ。それでは路銀が尽きてしまう」
「あ、諦めないよ⋯⋯僕はもう一度、黒鎧姿のグレイグを見たいから」
「いや⋯⋯寧ろお前にとってはトラウマなのではないか? 俺はそれを装備してお前を地下牢にぶち込んだり、執拗に追いかけ回したり崖に追い込んだりしたのだぞ」
「そんなことない、密かに格好いいなって思ってたもの」
「そ、そうだったのか⋯⋯?」
「⋯⋯よし、ちょっと待ってて下さい。今目の前で不思議な鍛冶をして出来の良い防具を幾つか造りますから、それを納品するのとプラス現金で手を打たせて下さい!」
──────────
───────
「───ほぉ、凄いですね。これなら文句はありませんよ、どうぞデルカダールの将軍の鎧をお持ち帰り下さい」
「あ、ありがとうございます! やったよ、グレイグ⋯⋯!」
「う、うむ⋯⋯素晴らしい働きだジュイネ」
「特典として、デルカダールの猛将ステテコパンツもお付けしますか?」
「え⋯⋯、ステテコパンツ??」
「⋯⋯⋯⋯」
「ついこの間掘り出し物を整理していたら、出てきたんですよね。何年か前ダーハルーネを視察しに来られた将軍が町の宿屋に忘れていった貴重な品なんですが⋯⋯中々売れなくてお蔵入りになっていたんですよ。要らないのであればそれで構いませんが、どうします?」
「(確かこの町で新しくステテコパンツを買ったものだから、古い方を忘れたんだったな⋯⋯。要らんだろ、流石にそんなもの───)」
「欲しいです下さい特典のステテコパンツ」
「──────(何故即答なのだ)」
「はい、ではどうぞ」
「お、おいジュイネ、そんな使用済みの古い下着をどうするつもりだ? まさか穿く訳あるまいし⋯そもそもサイズが大き過ぎて合わないだろう」
「せっかくの特典だから、記念に持っておこうと思って⋯⋯」
きちんと畳んで大切に鞄に仕舞うジュイネに戸惑うグレイグ。
「き、記念⋯⋯とな」
「それはともかく、早速黒鎧を装備してくれないかな⋯⋯?」
「せめて宿屋の室内で装備させてくれないか⋯⋯町の中では人の目もあるからな」
ダーハルーネ宿屋の一室にて。
「⋯⋯はい、どうぞ着替えて下さい」
「お前の目の前で、か⋯⋯?」
「今さら恥ずかしい仲じゃないでしょ? 僕のことは気にしないで着替えてよ」
「それもそうだが⋯⋯まぁとにかく、久しぶりにデルカダールメイルを装備するか⋯⋯」
「へぇ⋯⋯そうやって順に装備していくんだねぇ」
まじまじとグレイグを見つめるジュイネ。
「(やはりジュイネに見られながらだと装備しづらい⋯⋯だがまぁ、いいとするか)」
「───わぁ、久しぶりの黒鎧姿のグレイグだ⋯⋯!」
ジュイネは目をキラキラさせて眺め回す。
「そんなに⋯⋯良く見えるのか?」
「うん、すごくかっこいい」
「では余程、私服は良くなかったのだな⋯⋯」
若干気にして俯くグレイグ。
「そ、そんなことないけど⋯⋯インナーの色がちょっとグレイグにしては明るすぎるというか、上着にしてもチェック柄っていうのが何か⋯⋯ダサいとか言ってるわけじゃないんだけど」
「(⋯⋯言っているではないか)」
「マントかっこいいな⋯⋯風に靡いてる姿とか素敵なんだよね」
「余り持ち上げないでくれ⋯⋯照れくさいだろう。そういえば、お前のその格好は私服ではないのだろう?」
「うん、テオおじいちゃんから譲り受けた旅の服だけどこれ、あとから知ったけど貰い物のユグノア兵士の服だったんだって。グレイグは知ってた?」
「うーむ⋯⋯俺が知っているユグノアの兵服とは色味が違う気がするが、大分前の兵服だとすると変わっていてもおかしくはないな」
「そっかぁ⋯⋯村を旅立ってからずっと着慣れすぎて結構気に入ってるんだよね」
「うむ、お前といえばその格好だな。俺が初めてお前を目にした時、その格好だったからな。⋯⋯私服はどのような感じなのだ?」
「インナーは違うけど、グレイグの私服と色味は似てる感じかな。チェック柄ではないけどね」
「ほう⋯⋯」
「それにしても防具屋の店員さんの兄弟、グレイグ本人だって気づいてなかったみたいだね」
「うむ⋯⋯私服では気付かれなかったのかもしれんな」
「あ、そういえばグレイグの古いステテコパンツ⋯⋯」
「それが⋯⋯どうしたと言うのだ?」
「───穿いてみようかな」
「⋯⋯⋯⋯お前、本気で言っているのか??」
「グレイグ、向こう向いててくれる? ⋯⋯興味本位で振り返らないでね?」
「う、うむ⋯⋯(穿いて、どうするというのだ⋯⋯。あたっていた箇所があたるのだぞ、つまりそれは───)」
そこで突如外からガタンッという何かが倒れ落ちる音がした為、二人はギョッとして窓辺に素早く目を向ける。
「⋯⋯にゃお~ん」
「何だ猫か⋯⋯、外で何か猫が倒したのだろう。何も案ずる事は───ぁ」
無意識の内にジュイネへ目を向けたグレイグはそのまま固まってしまう。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ステテコパンツを穿いていたというよりも、外からの物音に驚いてブカブカのステテコパンツを引き上げていた両手を離してしまい、何も穿いていない状態⋯⋯ではなく上着の長い裾が腰から膝下までガードしているとはいえ、分け目から微かに下方を垣間見てしまうグレイグ。
「───────」
「やっぱりブカブカすぎるね、紐で締めればいけそうだけど⋯⋯」
見られたのを気にしないようにステテコパンツを再び腰周りに引き上げるジュイネ。
「む、無理して穿かずとも⋯⋯」
「今日はこのまま宿に泊まろうか、僕はこれ穿いたまま寝ることにするから⋯⋯おやすみなさい、グレイグ」
「(ほッ、本当に俺の穿き古したステテコパンツを穿いたままベッドに入って寝てしまった⋯⋯!? お、俺は⋯⋯鎧を着たままどうしろと)」
「───ねぇ、グレイグ」
「な⋯⋯?! ね、寝たんじゃなかったのかジュイネ」
「今までその鎧を装備してて色々あったけど、これからは仲間として⋯⋯新しく思い入れを作って行こうね」
「⋯⋯! あぁ⋯⋯そうだな」
end