勇者の星の件(ファーリス王子いわく救世主による星の破壊)がひとまず落ち着き、続いてガイアのハンマーの件について話し終え国宝を受け取りサマディー城を出ようとしたジュイネ達をファーリス王子が呼び止めた。
ファーリス王子
「ジュイネさん達、お疲れサマディー! 色々忙しいみたいだけど今日はこの城に泊まって行かないかい? 勇者の星の件があった時は久しぶりに会ったのにそんなに話せなかったからさ⋯⋯どうかなっ?」
ジュイネ
「え、うーんと⋯⋯どうしよう?」
グレイグ
「随分お前と話したがっているようだし⋯⋯応えてやってはどうだ、ジュイネ」
ファーリス王子
「グレイグさん! あなたとももっとお話したいんだよね、何たってボクの憧れだからっ!」
グレイグ
「そ、そうか⋯⋯。どうする、ジュイネ?」
ジュイネ
「じゃあ⋯⋯お言葉に甘えて今日はサマディー城に泊めてもらおうか」
ファーリス王子
「そうこなくっちゃ! ジュイネさんはボクの部屋に泊まるんだぞ! 他のみなさんは城の貴賓室へご案内するね!」
ジュイネ
「え、そうなの?」
ファーリス王子
「はっはは! ジュイネさんとボクは同い年の友達なんだし、当然じゃないかっ!」
グレイグ
「俺はジュイネの盾であるからして⋯⋯付添人として共に居させてもらうぞ」
ファーリス王子
「もちろんだよ! 友達と憧れの将軍を自分の部屋にお招き出来るなんて嬉しいなぁ⋯⋯!」
皆で夕食をとった後、他の仲間はそれぞれ宛てがわれた貴賓室へ、ジュイネとグレイグはファーリス王子の部屋に招かれる。
ファーリス王子
「⋯⋯前に虹色の枝の件でジュイネさん達がサマディー城を訪れた時は知らなかったんだけど、後で父上から聞いた話だとジュイネさんは、亡国のユグノア王国の王子だったんだってね?」
ジュイネ
「うん⋯⋯まぁ、ね」
ファーリス王子
「なるほどなぁ⋯⋯通りでボク達は似てると思ったんだ! 同じ王子なら尚さらだなっ!」
ジュイネ
「そ、そうだね⋯⋯」
グレイグ
「同い年で王子という意味でなら、確かに同じだな。背丈も似通っているし⋯⋯」
ファーリス王子
「そうだろうグレイグさん、運命感じちゃうよね!」
グレイグ
「運命かどうかは知らんが⋯⋯友達ならジュイネを敬称で呼ばなくともいいのではないか?」
ファーリス王子
「ジュイネさんにはそれはもう色々と世話になったものだから⋯⋯、呼び捨てにするのはどうかと思ってね。それに同い年と言ってもジュイネさんの方が先に生まれてるみたいだし、ボクにとっては友達と同時に兄さんのような存在でもあるかな!」
ジュイネ
「ファーリス王子が、僕の弟⋯⋯」
グレイグ
「少しばかりお調子者の弟が出来たと思えばどうだ?」
ファーリス王子
「お調子者だなんて失礼しちゃうなぁ⋯⋯まぁ自分でも分かってるさ。だからこそ騎士の誇りを思い出させてくれたジュイネさんには感謝してるんだ」
ジュイネ
「僕は別に何も」
ファーリス王子
「ジュイネさんは勇者でもあるのに、本当に謙虚だなぁ!」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
グレイグ
「ほう、騎士の誇りを思い出させてくれたとは、どんな出来事だったのだ?」
ファーリス王子
「そうかぁ、グレイグさんはその時まだ仲間になってなかったんだな。⋯⋯実は、この地方特有の魔物であるデスコピオン討伐の際に、ジュイネさんに大怪我をさせてしまってさ」
グレイグ
「何、ジュイネが大怪我だと⋯⋯ッ」
ジュイネ
「お、落ち着いてよグレイグ。その時から大分経ってるんだから⋯⋯」
ファーリス王子
「討伐を命じられたのは他でもないボクなんだけど、ろくに訓練もしてこなかったボクじゃ到底倒せるわけがなくてね⋯⋯虹色の枝を求めてサマディー王国を訪れていたジュイネさん達に、代わりに倒してもらおうとしたんだ」
グレイグ
「ろくに訓練をしてこなかったとは⋯⋯国の王子として情けないにも程がある」
ジュイネ
「ファーリス王子は実力以上の期待を民や王と王妃から受けていて、いつの間にかそれが大きくなり過ぎて上辺を取り繕うしか出来なくなっていたんだ。一概にファーリス王子だけ悪いわけじゃないよ」
ファーリス王子
「ジュイネさん⋯⋯キミ優しすぎない? 虹色の枝の為でもあったとはいえ、馬レースではボクの影武者になって出場して見事な走りを見せてくれたり⋯⋯。勇敢なキミに比べたらグレイグさんの言う通りボクはほんとに情けない王子だぞ」
ジュイネ
「勇敢なわけじゃないよ。僕は、僕の出来ることをしているだけだし」
ファーリス王子
「キミってやつは⋯⋯⋯」
グレイグ
「それで、ジュイネに大怪我をさせたとはどういう事だ?」
ファーリス王子
「一度は出現場所で危険なデスコピオンをジュイネさん達が討ってくれたんだけど、死んだふりをしていたのか討伐の証の骸を兵士達と共に城下町へ運んでお披露目した矢先、息を吹き返したように暴れだしたんだ⋯⋯アレには肝を冷やしたな」
ジュイネ
「倒しきれてなかったのを確認しなかった僕達にも非はあるよ」
グレイグ
「魔物にもずる賢い奴はいるからな⋯⋯」
ファーリス王子
「城下町でのお披露目には多くの民と父上や母上も見ている中、みんなはボクがデスコピオンにトドメのを刺すのを信じて疑わずにファーリスコールがわき起こったわけだけど⋯⋯当然ボクは武者震いならぬ恐怖の震えで立ち向かえるわけもなく立ち竦んでいたら───」
ファーリス王子
「素早く薙ぎ払われたデスコピオンの鋭い鎌が間違いなくボクを狙って振り下ろして来た瞬間⋯⋯ジュイネさんがボクを身体ごと庇って真横に避けてくれたんだ。だけどその際に、ジュイネさんの背中がザックリと大きく裂けてしまって⋯⋯」
グレイグ
「なんと⋯⋯ッ」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
ファーリス王子
「鮮血がどんどん滲んでいくのを見てボクは頭が真っ白になって⋯⋯だけど、ジュイネさんは苦痛に歪んだ顔を上げてボクに、息も絶え絶え言ってくれたんだよ⋯⋯『どんな、逆境にあっても⋯⋯正々堂々と立ち向かう⋯⋯それが、騎士たる者なんじゃないの』って」
グレイグ
「─────」
ファーリス王子
「その言葉を胸に、騎士たる者の誇りを思い出したボクは剣を手に、デスコピオンと闘った⋯⋯。ろくに訓練もしてないカッコ悪い闘いしか出来なかったけど、それでもデスコピオンに一矢報いることが出来たんだ!」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
グレイグ
「(成程な⋯⋯ファーリス王子の騎士の誇りを焚き付ける為に自分の身を顧みずにデスコピオンの鋭い鎌を受けたのか)」
ファーリス王子
「それからボクは心を入れ替えて、毎日きちんと訓練をしてるんだ。ジュイネさんのように弱きを助け、強きを挫く為にねっ!」
グレイグ
「⋯⋯所で、その大怪我をした背中はその後どうしたのだジュイネ」
ジュイネ
「もちろん、仲間のセーニャに治してもらったよ」
ファーリス王子
「いや、それだけじゃすぐ治らなかったろう? 何たってデスコピオンは、特殊な猛毒を持ってたんだから⋯⋯。手負いの魔物って侮れないね、セーニャさんの回復呪文や調合した薬を持ってしても三日三晩は苦しんでたからジュイネさんは⋯⋯」
グレイグ
「クッ、その場にいられなかったのが悔やまれるが⋯⋯ジュイネでなければ、ファーリス王子を改心させられなかったのだろうな⋯⋯」
ジュイネ
「そんなことないんじゃないかな、グレイグなら叱責が凄そうだけど⋯⋯でもファーリスには効くと思う」
ファーリス王子
「グレイグさんの容赦ない叱責なら受けたいなぁ⋯⋯! それだけで強くなれる気がするぞ!」
ジュイネ
「それはちょっと違う気がするけどね⋯⋯」
グレイグ
「まぁファーリス王子が本当に我が隊に入るような事になれば、それはそれは厳しく鍛え直してやろうとは思うが」
ファーリス王子
「グレイグ将軍はボクの憧れだからなぁ、どんな厳しい訓練も耐えて見せますよっ!」
グレイグ
「全く、調子のいい王子様だ⋯⋯」
ジュイネ
「⋯⋯僕だって、グレイグに憧れてるんだからね。強くてかっこよくて、僕を全身全霊で守ってくれるヒーローなんだよ」
グレイグ
「む? 急にどうした、ジュイネ⋯⋯そこまで言われると、寧ろ恥ずかしいのだが」
ファーリス王子
「何だい、もしかして嫉妬かいジュイネさん? よっぽどグレイグ将軍が好きなんだなぁ!」
ジュイネ
「それはそうだよ、大好きだもの」
グレイグ
「そ、そこまではっきり言わずとも───」
ファーリス王子
「グレイグ将軍はどうなんですっ?」
グレイグ
「な、何がだ⋯⋯?」
ファーリス王子
「ジュイネさんの事、どう思ってるんですかって聞いてるんですよっ」
ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」
グレイグ
「───俺にとってジュイネは、命を預け盾となり護るべき存在だが⋯⋯勇者として随分強くなってきているからな。俺に護られる必要もいずれ無くなるだろう、問題はない」
ジュイネ
「何それ、大問題なんだけど」
グレイグ
「ど、どういう意味だ⋯⋯??」
ジュイネ
「僕はグレイグから預かった命、返す気無いからね。だから、魔王を倒した後もずっと傍に居て護ってくれなきゃ嫌だし困るよ」
ファーリス王子
「わー、さすがジュイネさん、言う事が違うなぁ⋯⋯!」
グレイグ
「そうか⋯⋯。魔王を倒した後イシの村とデルカダール王国の復興、そして今度こそ王と姫を護ってゆくものだと思っていたが⋯⋯そうだな、ジュイネが望んでくれるならばこの命、生涯捧げるに値するだろう」
ファーリス王子
「な、なんて情熱的なんだ⋯⋯!」
ジュイネ
「⋯⋯はは、ごめん。本気にしなくていいよ、今のは冗談だから」
グレイグ
「何⋯⋯?」
ジュイネ
「僕がグレイグを束縛するような真似、出来るわけないでしょう。魔王を倒したら、グレイグの思う通りにするといいよ」
グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」
ジュイネ
「グレイグを僕から自由にするのは簡単だよ、僕が⋯⋯望まなくなればいいんだ、盾としてのグレイグを。グレイグはよく、“お前が望む限り”って言葉を使うから、僕がそれ以上望まなければそれまでなんだよ」
グレイグ
「───ならば俺の意思で、お前と⋯⋯ジュイネと共に在り続けたいと俺が望んだならば、どうする」
ジュイネ
「嫌だ、と言ったら?」
グレイグ
「手放す気はない、と言ったら?」
ジュイネ
「質問を質問で返さないでよ、ずるいよ」
ファーリス王子
「(ハラハラドキドキ)」
ジュイネ
「⋯⋯僕は逃げも隠れもしないから、グレイグの好きにするといいよ」
グレイグ
「うむ、そうしよう」
ファーリス王子
「っはー、何だよもう! ソーシソーアイってやつかな!? 羨ましいぞっ」
ジュイネ
「わっ、ちょ⋯⋯ファーリスってば、苦しいよ」
グレイグ
「⋯⋯ファーリスよ、ジュイネの首に片腕を回すな。戯れにしても加減を考えろ」
ファーリス王子
「あはは、ごめんよージュイネさんっ」
ジュイネ
「というか⋯⋯ファーリスって出会いたての頃から思ってたけど、騎乗とか剣の訓練をほとんどしてないとか言ってた割に、結構筋肉質だよね⋯⋯?」
ファーリス王子
「まぁ王子として見た目には気を使ってるからな! ストレッチくらいは欠かさずしてたぞ。なるべくタンパク質の多い食べ物を摂るとか!」
グレイグ
「ほう⋯⋯そういう所だけはストイックだな」
ファーリス王子
「今じゃ騎乗も剣の試練も欠かさないから、ジュイネさんと出会いたての頃より強くなったはずだぞ! ⋯⋯ただ筋肉付け過ぎるのは正直王子として嫌だから、細マッチョを維持したいんだけどな!」
ジュイネ
「細マッチョ⋯⋯」
グレイグ
「⋯⋯ファーリス王子が細マッチョならば、俺は何マッチョなのだ??」
ファーリス王子
「それはやっぱり、ゴリマッチョでしょ!!」
グレイグ
「ゴリマッチョ、とな⋯⋯」
ファーリス王子
「ジュイネさんは細マッチョとゴリマッチョ、どっちが好みだいっ?」
ジュイネ
「グレイグみたいなゴリマッチョ」
ファーリス王子
「即答だな⋯⋯流石だよゴリマッチョ将軍」
グレイグ
「⋯⋯馬鹿にしているのか?」
ファーリス王子
「してませんって!?」
ジュイネ
「ゴリマッチョにはなれる気がしないけど、細マッチョなら⋯⋯僕もなってみたいかな」
ファーリス王子
「無理じゃないかい? だってジュイネさん、ボクと出会いたての頃から結構経ってるけどほとんど変わってない細身だし」
ジュイネ
「そう⋯⋯? これでも激戦をくぐり抜けて来たのに」
ファーリス王子
「ちょっと腕を捲って触らせてみなよジュイネさん⋯⋯」
グレイグ
「ファーリス、貴様⋯⋯邪な気持ちが入ってはいまいな?」
ファーリス王子
「そんなわけないじゃないですかっ! 全く、信用ないなボク」
ジュイネ
「⋯⋯⋯、はい」
片腕の袖を捲り二の腕を露出させる。
ファーリス王子
「───なんて言うか、見た目からして滑らかな肌質というか、靱やかだなジュイネさん⋯⋯」
グレイグ
「おいファーリス⋯⋯⋯」
ファーリス王子
「だから邪な気持ちはありませんって!! ⋯⋯力こぶ、出せるかい?」
ジュイネ
「ん⋯⋯っ」
ファーリス王子
「⋯⋯そんなに盛り上がらないな。よくそれで激戦をくぐり抜けて来たものだよ」
グレイグ
「ジュイネは肉類を苦手としていて、野菜や果物ばかり口にしているからな⋯⋯だから筋肉が付きにくいのだろう」
ファーリス王子
「え⋯⋯グレイグ将軍、今のダジャレですか?」
グレイグ
「⋯⋯何がだ」
ファーリス王子
「いや、だから⋯⋯筋肉が付き肉いって」
ジュイネ
「ぷふ⋯⋯っ」
グレイグ
「そんなつもりはない⋯⋯!?」
ジュイネ
「⋯⋯僕自身軟弱なままでも、勇者の紋章のお陰で闘えているのかもね」
グレイグ
「ふむ⋯⋯⋯」
ジュイネの露出した二の腕を至極優しめに、にぎにぎするグレイグ。
ジュイネ
「ぐ、グレイグってば⋯⋯ファーリスが見てる前でその触れ方は───」
グレイグ
「⋯⋯俺がお前に初めて直に触れた時と変わらず滑らかで、程よく柔いな。お前はこのままでいい」
ジュイネ
「グレイグが、そう言うなら⋯⋯⋯」
ファーリス王子
「初めて触れた時って、どんな状況⋯⋯? その後も何度も触れ合ってる感じ⋯⋯?」
グレイグ
「お前に話す事ではない」
ファーリス王子
「グレイグ将軍なんてどこもかしこもカッチカチしてそうだけど、ジュイネさんからしたらどんなもんなんだい?」
ジュイネ
「それがいいんだよグレイグは。⋯⋯特に、大胸筋に顔埋めるの好き」
グレイグ
「ジュイネ、そういう事は例え友だろうと明かすべきでは⋯⋯」
ファーリス王子
「ボクがどちらかに触れたらどちらにも反感買いそうだから、ボクの上腕二頭筋に二人共触れてみるかいっ?」
ジュイネ
「やめておくよ、もうグレイグしか直に触れられないし」
グレイグ
「俺もジュイネしか直に触れんぞ」
ファーリス王子
「二人共、冷たいな!? そこがまたいいけどね!?」
end