「ジュイネ⋯⋯“それ”は何だ?」
「え? 鍛冶台とハンマーだよ」
「言われてみれば確かにそうだが⋯⋯それ程の大きさの物を今まで持ち歩いていたとは思えないのだが」
「これね、不思議な鍛冶って呼ばれてるだけあって普段は鞄に収納出来るほど手の平サイズで小さいんだけど、特定の箇所に指で触れると元の大きさになるんだ。小さくする時もその原理かな」
「ほう⋯⋯不思議な鍛冶か。噂は聞いた事はあるが、実際目にするのは初めてだ。何でも、素材を投入し地金に変えて打ち付けると金属製は勿論布製の物まで作れるという優れ物だとか」
「へぇ、詳しいんだね」
「うむ⋯⋯鍛冶関係は学んだ事があってな、これでも鉱石やハンマーには詳しい方なのだ。しかし、不思議な鍛冶を使いこなせる者は少なく鍛冶台やハンマーが貴重な物というだけあって、話にしか聞いた事がないのだが⋯⋯何処で手に入れたのだ?」
「実はこれカミュから譲り受けた物で、どこで手に入れたかは詳しく聞いてないんだ」
「カミュと言えば⋯⋯お前と城の地下牢から脱出した盗賊か。宝目当てで盗んだのだろうが⋯⋯まぁそれはいい、お前ならば悪いように使ってはいないだろうからな」
「実際不思議な鍛冶には助けられてるよ。レシピや素材さえ揃えば武器や防具、アクセサリーをお店で買わなくて済むし路銀が浮くからね」
「うむ、真っ当な使い方だ」
「打ち直して性能を良くする事も可能だし、出来がいいとお店で高く買い取ってもくれるし⋯⋯いいことずくめだよ」
「そう言うとまるで、お前は鍛冶屋も兼任しているようだな。使いこなせているのは何よりだ」
「鍛冶を学んだ経験があるなら、グレイグもやってみる?」
「鍛冶台やハンマーはその者の相性に比例するというもの。⋯⋯それはもうお前にしかまともに扱えないだろう、おいそれと他者が扱っていい物ではない」
「そんなことないと思うけど⋯⋯。じゃあ、作ってほしい物があったら言ってね。レシピにある物なら素材が揃ってれば作れるから。あと打ち直しも」
「打ち直し、か⋯⋯。そうだな───」
グレイグはおもむろに、鎖部分の千切れた盾を象ったペンダントを取り出す。
「それって⋯⋯」
「ミルレアンの森で、氷の魔女に引き千切られてからそのままだったんだ。⋯⋯いい機会かもしれん」
「グレイグとホメロスがデルカダール王から賜った、誓いのペンダント⋯⋯だよね」
「あぁ、そうだ。⋯⋯魔物の巣窟と化した城で、大樹の根を通じた過去の記憶をお前も見ていたのだったな。このペンダントを胸に、デルカダール王国をホメロスと二人でずっと守ってゆくものだと信じて疑わなかったあの頃を───」
「⋯⋯⋯⋯。そんなに大切なペンダントなら、やっぱりグレイグ自身が打ち直した方がいいんじゃないかな」
「いや⋯⋯、お前に打ち直してほしいのだ」
「本当に⋯⋯いいの?」
「あのような事にならなければ⋯⋯俺が打ち直していた所だが、最早あぁなってしまったからには、お前に打ち直してもらった方がいいのではないかと思って、な」
「⋯⋯分かった、じゃあ僕が打ち直すね。ペンダント、渡して」
「あぁ⋯⋯。その、見ていてもいいだろうか」
「え? うーん⋯⋯」
「いや、すまん⋯⋯集中出来んだろうな。大人しく待っているよ」
「見てて構わないけど⋯⋯一度地金に戻すんだよ。そこから元の形に戻していって、今まで以上の出来になったりするから⋯⋯グレイグは見てて大丈夫、なのかなって」
「そういう事、か⋯⋯。いや、そうなのだろうな。⋯⋯構わんよ、見届けさせてもらいたい」
「うん、それじゃあ⋯⋯始めるね」
鍛冶台の鍋のような上部に千切れたペンダントと打ち直しの宝珠を投入し地金に戻し、鍛冶台の中央部でグレイグの誓いのペンダントを打ち直しに掛かるジュイネ。
「(⋯⋯元の形を失った地金になって出て来た時は流石に心が痛んだが、ジュイネがハンマーで打ち付けてゆく内に元のペンダントの形状を成してゆく。何と不思議な⋯⋯だからこそ不思議な鍛冶なのか)」
「えっと⋯⋯、ここをもう少し───あっ」
「ど、どうしたのだ⋯⋯?!」
「だ、大丈夫⋯⋯今ぎりぎりの感じだったけど枠内に収めて───わっ!」
「今度は何だ⋯⋯!?」
「会心の手応えだ! こっち側も⋯⋯こっちもいい感じだし、これならとてもいい出来になるかも」
「そう、か⋯⋯とてもいい出来か」
「───やった、上手くいった! 一発で大成功だよ⋯⋯って、ごめん⋯⋯一人ではしゃいじゃって」
「良いのだ、それだけ丁寧に打ち直してくれた証拠だ。⋯⋯会心の出来のペンダントを、渡してくれるか?」
「うん⋯⋯、はい」
打ち直されたペンダントをジュイネから渡されたグレイグは、千切れた箇所すら分からない新品同様に煌めく誓いのペンダントを暫く片手の上に乗せたまま、じっと見つめている。
「──────」
「⋯⋯⋯⋯」
もどかしかったが、ジュイネはグレイグの言葉を待つ。
「よく、仕上げてくれた⋯⋯。感謝するよ、ジュイネ」
「⋯⋯うん」
グレイグのどこか寂しげな微笑を見て、複雑な心境になるジュイネ。
「済まないがジュイネ、もう一つだけ頼みがある」
「え、何かな」
「このペンダントを⋯⋯お前が俺の首元に着けてくれないか」
「どうして⋯⋯自分でつけないの?」
「妙な言い方をするようで済まんが⋯⋯上手く自分で着けられる自信がないのだ」
「そう⋯⋯。だけどグレイグが立ったままだと背の高さの関係でつけづらいから、出来れば座ってくれるかな」
「あぁ⋯⋯判った」
「うーんと、前からつける⋯⋯? 違う、やっぱり後ろからだよね」
「俺はどちらからでも構わないが⋯⋯」
「後ろからつけるにしても、髪がちょっと⋯⋯」
「邪魔だろうな、上げるか」
座った姿勢のグレイグは、ジュイネが後ろからペンダントをつけ易いように片手で後ろ髪をサッと上げた所に、ジュイネはまずペンダントの鎖を持った片手を後ろの片側の首元に差し入れ、もう一方の手で鎖を引き首の後ろに持ってきて留め具でしっかり留める。
「後ろの髪、下ろしてもいいよ。⋯⋯どう、かな」
「うむ⋯⋯、首元にしっくり馴染む。ありがとう、ジュイネ」
そう言ってグレイグは暫くの間、胸元に煌めく盾を象ったペンダントを見つめ、再び沈黙した。
「⋯⋯───」
「⋯⋯⋯! どうした、ジュイネ」
気づくとジュイネの両腕は後ろからグレイグの首元を優しく包み込むように抱いていて、ジュイネの頭部はグレイグの片側の肩上に乗る形になり耳元で囁くように言う。
「グレイグは⋯⋯、僕に命を預け盾になると言ってくれた。なら僕は、グレイグの心を守りたいんだ」
「⋯⋯⋯⋯」
「この先、きっとホメロスと決着をつけなきゃならない時が来ると思う。その時⋯⋯守ってあげたいんだ、グレイグの心を」
「はは⋯⋯参ったな。守る立場の俺が、お前に守ってもらうとは。ジュイネ⋯⋯お前の存在が、俺にとっての救いだ。守って守られて⋯⋯そうして俺達は、この先何が待ち受けていようと共に乗り越えてゆこう」
「⋯⋯うん」
end