DQ11短編集   作:風亜

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 最後の砦からグレイグと二人旅時、勇者ゆかりの地を目指す途中のドゥーランダ山の麓にて。


灯火を絶やさずに

「ドゥーランダ山の麓に着いたようだな⋯⋯。女神像とキャンプ跡がある、日も傾いて来た事だしここらで一旦休み、明日改めて中腹のドゥルダ郷を目指すとしよう、ジュイネ」

 

 

「⋯⋯このまま中腹を目指そうよ、グレイグ。勇者ゆかりの地を訪ねるのもそうだけど、はぐれた仲間のみんなを早く見つけたいし」

 

 

「焦る気も判るが、休むのも必要な事だ。特にこの先は雪原地帯になっているだろうし、休まず進み体力を奪われ行き倒れては、仲間を探す所ではなくなるだろう」

 

 

「⋯⋯⋯分かった、ここのキャンプ跡で一晩休もう」

 

 

「うむ⋯⋯」

 

 

「最後の砦から出発する時に、母さんが持たせてくれた材料でシチューを作るね」

 

 

「俺も、手伝うぞ」

 

 

「じゃあ野菜の皮剥いてくれるかな」

 

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「⋯⋯味、どうかな?」

 

 

「美味いな、とても。⋯⋯実は、お前が砦に来る前に何度かペルラ殿のシチューを頂いたのだが、やはりお前のシチューは母君譲りの優しい味がする」

 

 

「そっか、よかった⋯⋯僕の好物だからね。他の仲間のみんなにも僕の作るシチューは好評なんだよ」

 

 

「そうだろうな⋯⋯」

 

 

 食す手が止まらないグレイグ見て、ジュイネは笑みを零す。

 

「ふふ、気に入ってもらえてよかったよ。他のみんなも⋯⋯無事だといいけど」

 

 

「⋯⋯⋯⋯。あの場に居た俺と王も無事だったのだから、お前の仲間達もきっと無事だろう。それを信じて、共に探して行こう」

 

 

「⋯⋯うん」

 

 

「お代わりを⋯⋯頼めるか?」

 

 

 椀を向けられ、笑顔で受け取る。

 

「ふふ⋯⋯もちろんだよ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「シチューで温まったはずだが、麓の晩は流石に冷えるな⋯⋯」

 

 持参した防寒用の毛皮に包まるグレイグ。

 

 

「そうだね⋯⋯」

 

 毛皮に包まりながらジュイネは焚き火見つめる。

 

 

「先に、寝ていいのだぞジュイネ。女神像が傍にあるから、魔物は寄って来ないだろうが⋯⋯万が一というのもあるし俺はもう少し起きているつもりだ」

 

 

「うん⋯⋯」

 

 と応じつつも横にならずにいるジュイネをグレイグは案じる眼差しを向ける。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「───くしゅんっ」

 

 

「大丈夫か、ジュイネ。寒くて、眠れないのでは⋯⋯」

 

 

「ん、大丈夫⋯⋯へくちっ」

 

 

「大丈夫ではないだろう⋯⋯風邪を引かれては困る、俺の防寒用の毛皮をやるから二枚重ねで包まるといい」

 

 言いながらジュイネに寄り自分の毛皮を掛けてやる。

 

 

「だ、ダメだよ⋯⋯それだとグレイグの方が風邪引いちゃうよ」

 

 

「お前とは筋肉量が違うのだから平気だ⋯⋯ヘプシッ」

 

 

「⋯⋯どこが平気なのさ」

 

 くしゃみをして鼻を赤らめるグレイグにジュイネは苦笑する。

 

 

「むぅ⋯⋯筋肉量が違うとは言ったが、これでも寒いのは苦手なのだ⋯⋯」

 

 

「へぇ、意外だなぁ。虫が苦手っていうのもそうだけど、うーん⋯⋯ならこうしない? 防寒用の毛皮を二枚重ねて二人で寄り添えば、寒くないんじゃないかな」

 

 

「それも、そうだが⋯⋯」

 

 

「グレイグから来ないんだったら、僕から行くよ?」

 

 躊躇するグレイグにも毛皮二枚分を掛けて寄り添うジュイネ。

 

 

「⋯⋯⋯!」

 

 

「ほら⋯⋯やっぱりこうした方があったかいや」

 

 

「あぁ⋯⋯確かに、な」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 暫く寄り添ったまま焚き火を見つめる二人。

 

 

「ねぇ⋯⋯グレイグから見て、僕って本当に勇者に見える?」

 

 

「何を、言い出すのだ」

 

 

「災いを呼ぶ、悪魔の子って⋯⋯ずっと呼んで来たよね。今さら、本当に勇者に見えるのかなって」

 

 

「悪魔の子呼ばわりは⋯⋯本当にすまなかったと思っている。ウルノーガに取り憑かれていた王にまんまと騙されてしまい、命令されるがままお前を追い回した事は一生の不覚だ」

 

 

「別に謝ってほしくて言ってるんじゃないんだ、グレイグから見て正直に⋯⋯僕は勇者として見えるのかって聞いてるんだよ」

 

 

「⋯⋯⋯⋯。正直に言えば、まだ頼りなさはあるかと思う」

 

 

「そう、だろうね⋯⋯。デルカダール城に二人で潜入して常闇の魔物を倒す前に、グレイグにお前は太陽のようだと言われてもピンとこなかったし」

 

 

「あれは、自然と言葉に出てきたのだ。俺自身も⋯⋯実際不安な面はあったからな。だがお前と居ると、不思議と勇気の灯火が宿ったかのような感覚を覚えたのだよ」

 

 

「そうなの? 勇者の力は、失ってるはずなのに⋯⋯」

 

 

「勇者の力というより⋯⋯元々お前が持ち合わせている気質のようなものではないだろうか」

 

 

「勇気の、灯火⋯⋯太陽? 自分じゃそんな感じ全然しないんだけどな」

 

 

「先程頼りなさがあると言ったが、ホメロスの攻撃から俺を守ろうと前に出てくれた事があったろう。あの時はっきりと傷付けさせるわけにはいかない⋯⋯失いたくない⋯⋯護らなければと感じたのだ」

 

 

「僕が頼りない勇者、だから⋯⋯?」

 

 

「しがない俺を護ろうとしてくれたその姿勢が、俺にとっては眩しかったのだ。だからこそ、命を預けてでもお前を護りたいと心から思えた」

 

 

「⋯⋯⋯⋯。その時だって結局、グレイグを守ったつもりで僕が守られてたじゃないか。グレイグが仲間になる前から、仲間のみんなに守られてばかりだったんだよ僕は。勇者なら⋯⋯普通は守る側の立場のはずなのに」

 

 

「まだ勇者の力を扱いきれていないのならば、仕方ないのではないか? 勇者として旅立ったのも、16になったばかりなのだろう」

 

 

「その勇者の力というのを扱いきれずに奪われ、魔王を誕生させてしまって⋯⋯挙句に力を失ったのに?」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「僕は命の大樹に選ばれて、命の大樹に愛されてるらしいんだけど⋯⋯どうしてこんな弱くて頼りない僕なんかを選んじゃったのかな。そのせいで命の大樹自体も枯れ果てて落ちちゃったのに。⋯⋯多くの人々も、亡くなってしまったのに」

 

 

「命の大樹に信仰深い、ユグノア王国の王子となる存在だったからかもしれんが⋯⋯」

 

 

「そんなの、気休めにしかならないよ。強いっていう意味でなら、グレイグでも良かったはずなのに」

 

 

「俺に勇者は務まらん⋯⋯何せ、16年間も王に成り代わったウルノーガに仕えてしまっていたのだからな。強いだけで頭が回らなければ、同じ事だ」

 

 

「⋯⋯強くもなく頭も回らず、闇の衣を纏ったホメロスの尾行にも気づかないで簡単に勇者の力を奪われた、無力な勇者である僕の罪の方が重いよ」

 

 

「それは違う⋯⋯ウルノーガに魂を売ったホメロスが、魔王誕生と大樹落下の一端を担ったのだ。お前が罪を背負う必要は───」

 

 

「きっかけを作ったのは他でもない僕の存在だよ。そのせいで多くの人が傷付いて亡くなってる。ユグノア王国が滅んだのも⋯⋯紋章を携えた勇者の生まれ変わりである僕が生まれたからでしょう」

 

 

「勇者が生まれた時点でその力を我が物にしようとしたウルノーガが多くの魔物を用いユグノアを滅ぼしたのだ。数多くの罪はウルノーガにある⋯⋯決して、勇者として生まれたお前の罪ではない」

 

 

「───勇者と魔王は表裏一体、災いを呼ぶ悪魔の子⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯ッ!」

 

 

「守られてばかりで、仲間を守れず傷つけて⋯⋯仲間の内の誰かが、死んでしまっているかもしれない⋯⋯もしかしたら、みんな⋯⋯⋯?」

 

 

「考え過ぎだ、ジュイネ⋯⋯もうやめろ」

 

 

「諦めちゃいけないのは分かってる⋯⋯それが、勇者だから。だけど僕は、勇者になりたくてなったわけじゃない⋯⋯16になっていきなり、お前は勇者の生まれ変わりなんだって言われたって⋯⋯意味が分からなかったよ。今でも、よく分からないし」

 

 

「──────」

 

 

「けどこうなってしまった以上、向き合うしかなくて⋯⋯亡くなってしまったり傷付いた人達に償う為にも、魔王になったウルノーガを勇者として倒さなきゃって⋯⋯だけど」

 

 

「(このような痩躯に、抱えきれぬほどの痛みを───)」

 

 ぽろぽろと涙を零すジュイネに寄り添った身体の震えを感じながら、グレイグはふとジュイネの頭に片手を置き、自身の胸元に引き寄せる。

 

 

「⋯⋯⋯!」

 

 

「俺はお前に命を預けている⋯⋯この意味が、判るか」

 

 

「⋯⋯⋯、勇者を守る盾になることを決めたから、じゃないの」

 

 

「それだけではない。⋯⋯お前が諦め、死ぬような事になれば、お前に預けた俺の命も自ずと死ぬ。最早、一蓮托生なのだ」

 

 

「そこまで、考えなくたって⋯⋯僕のせいで死ぬなんてダメだよ。そんなことになるくらいなら⋯⋯グレイグの命は、返すよ。盾にもならなくていい」

 

 

「お前を剣たる主とし、お前の盾となると決めた時から、一度預けた命を返してもらう気は無い」

 

 

「グレイグや最後の砦のみんなにとって僕は、希望の勇者⋯⋯世界を救う勇者なのかもしれない。僕にとっては⋯⋯呪いでしかないのに」

 

 

「その呪いは、お前だけのものではない。⋯⋯俺も引き受けよう、お前に命を預けた者として」

 

 

「無理だよ⋯⋯勇者としての僕の呪いと罪は根深いんだ。下手をしたら⋯⋯一緒に堕ちてしまう」

 

 

「望む所だ、お前と共に堕ちるくらいどうという事はない」

 

 ジュイネの指通り滑らかな髪を優しく撫ぜるグレイグ。

 

 

「何それ、グレイグはずるいな⋯⋯」

 

 

「例えお前が仲間と再会出来なかったとしても、俺一人だろうとお前を守り抜いてみせる。仲間になったばかりの俺では色々と心許ないだろうが⋯⋯」

 

 

「そんなこと、ない⋯⋯心強いよ、とても」

 

 

「⋯⋯そうか」

 

 

「勇者に課せられた呪いを解く為にも、グレイグを僕の盾から解放する為にも前に進まなきゃ⋯⋯。勇者とは、決して諦めない者のこと、なんだから」

 

 

「(俺からの呪縛も、いずれ解くつもりなのか⋯⋯。それがジュイネの望みならば、従う他ないのだが俺の意思は───)」

 

 

「⋯⋯⋯すぅ」

 

 グレイグの逞しい大胸筋にぴったり寄り添いジュイネは安心しきった様子で眠りに落ちる。

 

 

「(眠ったか⋯⋯。今はもう何も考えず、ゆっくり休むといい。勇者ではなく、一人の人間として⋯⋯ジュイネとして、な)」

 

 

 

end

 

 

 

 

 

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