DQ11短編集   作:風亜

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 異変後のプチャラオでの一件後のキャンプにて。
グレ主


間違いの中の真実

「⋯⋯グレイグの、一番大切なものって何?」

 

 

「どうしたのだ、急に」

 

 

「あの魔物⋯⋯フールフールは、人々の大切なものを欲してたから⋯⋯グレイグは、どうなのかなって」

 

 

「⋯⋯今の俺にとっては、やはり勇者であるお前の事だろうか。勇者を守る事で世界が救われるのなら、俺はいくらでも盾としての役割を成そう」

 

 

「今ってことは⋯⋯以前は?」

 

 

「それは無論、俺にとって第二の故郷のデルカダール王国だ。⋯⋯世界崩壊の影響で瓦礫と化してしまったが、いずれ必ず復興させてみせる」

 

 

「最後の砦もイシの村として復興を始めてるし、デルカダール王国の復興は僕も手伝うからね」

 

 

「あぁ⋯⋯宜しく頼む。魔王を倒す旅を終えたら、俺もイシの村の復興に力を尽くそう。──それで、お前はどうなのだ?」

 

 

「え?」

 

 

「お前にとって、一番大切なものの事だ。⋯あの魔物が村人の解放の代わりにお前の大切なものを要求した時、お前は迷わず自身を捧げようとしたな」

 

 

「だって、魔王が探してる勇者の自分をあげれば⋯⋯あの魔物にとっては価値があるんじゃないかと思って」

 

 

「勇者としての自分が一番大切だったのではなく、あの場は村人達の命が大切だったのだろう。⋯⋯そうでなければ、お前にとって本当に一番大切なものは何なのかと聴いているのだ」

 

 

「うーん⋯⋯何だろう、そう言われるとよく分からないかも。大切だなって思うものは一杯あるし、一つには決められないかな」

 

 

「そうか⋯⋯それはそれで良いのかもしれんな」

 

 

「───グレイグって、結婚してるんだっけ?」

 

 

「いや、してないが⋯⋯それがどうした?」

 

 

「チェロンへの接し方を見てたら、結婚して子供がいてもおかしくないなぁって」

 

 

「まぁ、年齢的に言えばそうなるが⋯⋯」

 

 

「目線を合わせた話し方とか言い聞かせる感じが優しいというか、子煩悩なんだろうなって思ったよ」

 

 

「そうだろうか⋯⋯? 他人の子供相手だから厳しく見えなかっただけでは」

 

 

「自分の子供がほしいとか⋯⋯思わないの?」

 

 

「縁があるならば欲しいと思わなくもないが⋯⋯俺の親代わりでもあるデルカダール王のように、孤児を引き取るという手もあるだろう。結婚を前提にする必要もあるまい」

 

 

「なるほど⋯⋯」

 

 

「⋯⋯辛い話だが、この世の中親を失った子供のなんと多い事か。孤児を引き取るというのは言葉では簡単なようだが、心に傷を負った子供は中々心を開いてはくれないものだ。───かつての俺が、そうだったように」

 

 

「⋯⋯グレイグの生まれ故郷の、バンデルフォン王国が魔物の大群に襲われた時、グレイグは6歳だったんだっけ」

 

 

「そうだ⋯⋯幼児期のショックのせいか所々記憶は抜け落ちているが、覚えている事と言えば⋯⋯父は王国の騎士に属していて数多くの魔物の襲来時に先陣を切ったらしく、その後どうなったかは不明だ。母は魔物から俺を守りながら逃げたが、遂には魔物の凶刃にやられ幼い俺に覆い被さるようにして倒れ俺の意識も飛んだ」

 

 

「───────」

 

 

「⋯⋯次に気が付いた時には、全てが終わっていた。母は既に絶命しており、起き上がろうにも死後硬直の母を自力で退ける事は出来なかった。───暫くして誰かが覗き込んで来た。生きているかと聞かれた時、目だけ動かすしかなかった」

 

「覆い被さっていた母を退けられ、身体を起こして周囲に目を向けると⋯言葉では言い表せぬ程の惨状が広がっていた。花の都と言われた王国が、見るも無残に破壊尽くされた死屍累々の光景だった」

 

「その後、いつの間にかやたらと大きく広い建物の中に連れられ、怖そうなおじさん⋯⋯という当時の印象なのだが、デルカダール王と名乗るその方に、城で暮らす事を許された」

 

 

「(怖そうなおじさん⋯⋯確かに僕も初めて会った時そう思っちゃったけどね)」

 

 

「まだ放心状態の俺は、言われるまま何不自由なくさせてもらったが、兵舎に暮らすある少年によく話し掛けられるようになってな⋯⋯。始めは何も言葉を返す気力も無かったが、その者が語る国を守る思想に感化され、俺も騎士になる事を目指すようになっていたのだ」

 

 

「(それって、あのホメロス⋯⋯?)」

 

 

「祖国を失った俺は無力だったが、新たな故郷を守る為に強くなり、何者をも守れるようになりたい───その一心で俺は修行を重ね、早々に将軍の地位を得た。⋯⋯だが俺は、幼少期の俺を救ってくれた友を、蔑ろにしていたのだ。異変には気付いていたはずなのに⋯⋯王が気にするなという言葉に従ってしまった」

 

 

「⋯⋯───」

 

 

「何もかも、気付くのが遅れてしまった⋯⋯挙句、命の大樹の魂のある場所で何も出来ずに魔王が誕生し世界崩壊を招き、第二の故郷までも───」

 

 

「(⋯⋯グレイグ)」

 

 

「思えば、お前と俺の境遇は似ているな。祖国は魔物に滅ぼされ実の両親を亡くし、第二の故郷すらも破壊されたも同然⋯⋯。育ての親には互いに恵まれたようだが、俺の場合育ててもらった14年間よりもユグノアの悲劇後の16年もの間、王に取り憑いていた者の正体に気付かないとは⋯⋯恩を仇で返すとはこの事か」

 

 

「グレイグが祖国を失った時6歳で、その時の惨状を部分的ながら覚えてる。僕は⋯⋯生まれたばかりの赤ん坊だったから、悲劇も何も知らずに拾われた場所でぬくぬくと16年間育った。比べることじゃないのかもしれないけど、グレイグの方がずっとつらいはずだよ」

 

「僕なんか⋯⋯急に勇者の生まれ変わりだなんて言われて、流されてばかりで⋯⋯その結果魔王なんて誕生させてしまう失敗した勇者だもの」

 

 

「互いに身の丈に合わん称号だな、勇者も英雄も⋯⋯」

 

 

「そうだね⋯⋯だからこそ、その責任は果たさないと」

 

 

「うむ⋯⋯」

 

 

「グレイグには⋯⋯恐れていることってある?」

 

 

「⋯⋯無いと思うか?」

 

 

「虫とか寒さが苦手なのは知ってるけど、それは“恐れ”とは違うだろうし⋯⋯」

 

 

「まぁ、そうだな⋯⋯。俺が恐れているとすればやはり、守るべきものを守れず失う事だろうか。重大な事に気付くのが遅れ、手遅れになってしまうのも含めて、な⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「お前はどうなのだ。何を⋯⋯恐れている」

 

 

「───僕は先代の勇者ローシュと違って、勇者の力を奪われ魔王を誕生させてしまった失敗した勇者なのに⋯⋯海底王国でも最後の砦の人々にも責められなくて、それが不思議でならないんだ」

 

 

「それは⋯⋯実際お前のせいではないからだろう」

 

 

「そんなわけないよ。勇者の生まれ変わりのくせに⋯⋯命の大樹に愛され選ばれたとか言われてるのに、魔王誕生を防げずに大樹を落下させて多くの人が犠牲になったんだよ。非難されてもおかしくないのに、ほとんど誰も僕を責めたりしない⋯⋯それ所か勇者として立ち続けることを望まれてる⋯⋯逆にそれが、恐いんだ」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「大切な家族や帰る場所を失った人々が寄り集まった最後の砦に着くまで、正直とても恐かったよ。勇者は本当に悪魔の子で災厄をもたらした、全部お前のせいでこうなったんだって⋯⋯責められる覚悟はしてた。勇者として僕を送り出したイシの村のみんなは生還を喜んでくれて、デルカダールの兵士さん達なんて悪魔の子呼ばわりして悪かったと謝ってくるくらいだし⋯⋯変な感じだったよ」

 

「憑き物が取れたデルカダール王は何の疑いもなく勇者の助力を望み、英雄グレイグと共に常闇の魔物を討つことを要請した。⋯⋯それを達成するとみんな喜んで勇者と英雄を讃え祝宴まであげてくれる。こんなんでいいのかなって、拍子抜けしたよ。ドゥルダでもそうだ、誰も僕を責めないし優しく迎えてくれた⋯⋯変なくらいにみんな優しい」

 

 

「そう思うのはお前が⋯⋯責任を感じ過ぎているからではないか? 魔王誕生と世界の異変は、勇者であるお前の責任ではないと皆判っているから責めはしないのだろう」

 

 

「⋯⋯本当にそうかな。あの場の情けない状況を知りもしないのに? そっか、魔王が誕生した経緯をよく知らないから責めようがないんだ。最後の砦の桟橋にいつも一人で居た家族を失ったセーシェルちゃんは、僕が勇者であることすら知らないみたいだったし、僕のせいだってはっきり分かってないから⋯⋯私どうしたらいいのかなって、聞いてきたんだ」

 

 

「あの子は、最終的にお前が紹介したメダル女学園に引き取られたではないか。今は勉学に励んでいるようだし⋯⋯」

 

 

「身寄りのない女の子が居たらここを紹介して下さいって、女学園の先生に言われてたからそうしただけだよ。僕の意思でそうしたわけじゃない。可哀想だと思ってたから⋯⋯少しでも償いになればいいなって。けど、本当のこと知ったら⋯⋯僕の言うことなんて聞いてくれなかっただろうな」

 

 

「───⋯⋯」

 

 

「結局僕も、本当のことを打ち明けるのが恐いんだ。魔王が誕生したのも、大樹が落下したのも、多くの人々が犠牲になったのも⋯⋯全部、勇者として失敗した僕の責任だって」

 

 

「お前の責任ではない、それを言うならば俺にも責任が」

 

 

「ほら⋯⋯グレイグも優しい。きっと他の仲間もみんなそう言うよ。でもそれじゃ駄目なんだ。魔王を倒して責任を果たしたとしても、失ったものが全て元に戻るわけじゃない。そこから本当の償いが、始まるんだ。一生、失敗した勇者の自分が付き纏うんだから」

 

 

「(ジュイネ⋯⋯)」

 

 

「一種の、呪いかな⋯⋯真の勇者になんて、やっぱり生半可じゃなれないもんだね。真の勇者ってきっと、全てを間違いなく救ってこそ意味があるんだろうから」

 

 

「───間違いが全て悪いはずはない」

 

 

「⋯⋯?」

 

 

「間違いを経て、俺とお前は今ここに居る。俺はそれを否定する気はない」

 

 

「─────。間違ってこそ⋯⋯意味があるってこと?」

 

 

「出来れば間違いたくないと思うのが人間というもの。⋯⋯だが間違ったからこそ見えてくるものもあり、得られたものもある。今の俺が、そうであるように」

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

「全てを間違いなく救う事が真の勇者ではないと俺は思う。間違って尚諦めなかった先にこそ、本当の自分が存在するのかもしれん」

 

 

「(真の勇者ではなく、本当の自分⋯⋯)」

 

 

「俺はそんなお前を見てみたい。⋯⋯世界に償うというなら、幾らでも付き合わせてもらうぞ。お前だけに背負わせる気など毛頭ないからな」

 

 

「うん⋯⋯ありがとう。グレイグが居てくれて、本当によかった」

 

 

 

end

 

 

 

 

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